怪盗──セーラ様のくれた錫
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月15日〜12月20日
リプレイ公開日:2004年12月23日
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●オープニング
また、ルノルマン氏の依頼がシフール郵便によりパリの冒険者ギルドにもたらされた。
内容はある富豪の別荘に入って『主天使の権』と呼ばれる聖遺物を奪取する事。
権威の証である『主天使の権』はアメジストで飾られた30センチ程の装飾品であり、以前に怪盗が盗もうとしたが、明日の結婚式にどうしても必要なんです、と懇願され、一旦は盗みを諦めた品である。
しかし、その元の所有者は結婚するや否や、裏マーケットに錫を転売し、行方がしれなくなっていたという。
そして、ルノルマン氏が在処を突き止めた時にはノルマンにあったという。
城塞の様な、別荘の入り口は2カ所。裏口にはスケルトンを中心としたモンスター十数体が入り口付近には臨戦態勢を整えた上で、別荘内部はトラップだらけの、おそらくは専門家の罠師がしかけたルート。表口は精鋭の衛兵(少なくともリーダーは十二形意拳を習得した者らしいが、どの流派までかは判らない)と残りはコナン流の達人か、それに近い者が3人いるという事だ。
全員がスマッシュとバーストアタックを習得している事は確認されている。こちらには人間がいる為か、罠を仕掛けたという資料にはない。
これらの難関を突破して、錫を持ってきてほしいとの事。。
後、冒険者ギルドから今まで集めた品を全て持ち出し、ルノルマン氏の下に持ち帰る。
おそらくは以前と同じようにホーリライトの魔法で何らかのメッセージは浮かび出る可能性があると想われる。
おそらく三位一体を連想させる三種一括りで何らかのメッセージが浮かび出るものと推測される。
受付嬢はため息をついた。
「また、難解そうな依頼ですね。報酬が高めなのが何ですけど。良かったねノエル君。これで借金を返す日が近づいたわね。ほら、真実を明かすためのホーリーライトの使用者には金貨5枚のボーナスがつくって、これで借金は返せるわよ。冒険者の皆も信頼してくれると思うから、食料調達要員や怪我の治療だけでなくて、色々出来るのだから、もっと欲張ってもいいかな、と思うんだけどね」
おっとりとした表情で返すノエル。
「欲張るのは良くありません。でも、僕も冒険者街で家を借りて、独り立ちして、みんなに心配をかけない様になりたいと思ってます」
「そう言えば、ノエル君って、その服洗っていないのに汚れてないわ。確か、その僧衣、みんなが連れ帰ってから、着替えたの見た事ないし清貧に反するんじゃないの?」
「そうですね──」
「新しい服に変えるのをお勧めするな」
「そうですね。でも、僕は天使の位階を冠された全ての品を見つけた後、どうすればいいんだろうって、時々悩みます。戦う力は振るいたくありませんし、でも推薦してくれたみんなにも悪いし。教会には注意しろ、って皆さんは言いますから」
「冒険していけば判るわよ。私だって受付やっている内に、なんで受付やっているのか判ってきたような気がするし──婚期を考えなければね」
●リプレイ本文
カレン・シュタット(ea4426)が蠢くアンデッドの集団を見て、呟いた。
「警備厳重ですね、ここまでして守られるなんて‥‥」
「ノエル‥‥かの迷えし者たちに安らかな眠りを与えられますか?」
「やってみせます。魂の安からん事を‥‥」
とジィ・ジ(ea3484)に促されたノエルのピュリファイを受けて、アンデッドは消えていく。
カレンは先手必勝と魔法を放とうとするが、残念ながら、ライトニングサンダーボルトの音がかなり大きい為、表口の護衛を招き寄せる結果になりかねないと自制する。
その分、仲間にライトニングアーマーを付与するなどフォロー。しかし、ライトニングトラップなどを敷設する暇と打ち合わせ期間はなかった。
だが、防御、士気、攻撃の全てオーラで固めたマリウス・ドゥースウィント(ea1681)は、スカルウォリアー程度は歯牙にもかけない、その剣裁きは特筆に値する者であった。
「俺は殿で行く。みんなの退路を確保する為にな」
クオン・レイウイング(ea0714)は弓矢という得物がスカルウォリアーにはダメージを与えづらく、かといって、矢にそれぞれ魔法を出来るほどの余裕もなく、無聊を囲っていた。
そこでクオンは予てからの思案、退路の確保という消極的に見えるが、皆の命を預かる選んだのだ。
「いこう、皆。幸運を」
「私が先陣を切りましょう。オーラも操れますし、早々、倒れたりはしないでしょう」
セシリア・カータ(ea1643)がたおやかな物腰で先頭に立とうとするが、慌てて止めるブルー・フォーレス(ea3233)の声。。
「私としては反対します。あなたひとりだけに及ぶ罠ならいざ知らず、罠の規模が確認できない以上、確実に解除ないしは迂回していった方がいいのでは?」
「そうですね。先走りすぎましたね──」
「機会を見つけられなくて、挨拶できなったけど。僕、リーン・クラドス。戦いの後はよろしくね」
わずかな休息の間にノエルに自己紹介するリーン・クラトス(ea7602)。こうは言ったものの、アンデッドとの戦いの時は、戦いの前も後もノエルは役に立ってくれそうだと実感したのであった。
「今回は‥‥まぁなんか大変そうだけど、やるだけかな」
一方、我羅 斑鮫(ea4266)が別荘に入る前に一同に語りかける。
「そういう事だ。ところで、当人を前にして言うのは少々心苦しいが、どうも、ノエルを見つけたときのアイテムに比べて今回は作為的なものを感じるな。アイテムに関する情報がどこかから流れているのか? それとも怪盗が俺達に事前に何らかの状況に対処できるように予行練習させているのか? 奴はノエルの真実に関してやはり予想か文献を握っていると考えるべきだろう」
「僕に関する真実‥‥ですか?」
同調するノア・キャラット(ea4340)も話し出す。
「今回一連の依頼では『物を届けろ』『物を取って来る』など、何故か物騒な依頼ばかり、特に今回は奪取すること、一体ルノルマン氏は何を考えているのかしら‥‥しかも警備が次第に強固なものになっています。何処からか情報が漏れているのでしょうか?」
その話の流れをぶった切る様に音無 藤丸(ea7755)が斑鮫に畳み掛ける様にしゃべり出す。
「若様、烽火様から話を聞いていますよ、あれ程言っているのに冒険に参加してましたね。体術を習得してくださいよ。最近闘いに苦労しているのでしょう?」
「いや、それは‥‥ともかく、皆、先を急ごう」
世話好きで、後見役の藤丸に、昔の(斑鮫的には)恥ずかしい事まで暴露されそうになると危惧した斑鮫は場をごまかそうとする。
「この作戦の鍵は隠密関係の技能に長けたわしらじゃ。一つ気合を入れて皆の期待に答えよう」
黒兵衛の合図の下、一同は心を切り替える。
ノエルとリーンの魔法によって、思考力、肉体能力を高められ先陣に立つ割波戸 黒兵衛(ea4778)と藤丸。ふたりとも隠密行動を増幅され、罠を大過なく外していく。
ただ、呪文の性質の関係上、リーンの持つ魔力が先に尽きてしまった。これは強い魔法を使う者の定めであろう。。
「しかし、達人クラスがしかけた罠でなくて良かった。そうでなかったら、ピンチに2,3度は陥っただろう」
とは、黒兵衛の弁。
残念ながら五十嵐 ふう(ea6128)は毒物などの臭いを発見しようとしたが、肝心の毒に関する知識が無い為、一番最初に仕掛けられていた、トラップからの死臭を発見する以上に活躍は出来なかった。
「あー、鼻が曲がる」
かたや、斑鮫も罠解除に対応しようとしていたが、アイディアがあっても、肝心の罠などを見抜く技量はなく、結局、藤丸に頼らざるを得なくなった。
「見る事も修行です。武術でも熟練者の腕を見続ける稽古もあるでしょう」
城戸 烽火(ea5601)が力づける。
「うむ、これからは心せねばな」
その言葉を肝に銘じる斑鮫であった。
「最後は坂道を転がり落ちてくる石玉か、ベタだな」
罠作りの相手との心理駆け引きから、最後のトラップと見抜いた黒兵衛が発動条件になる石畳の絡繰りを殺していく。
そして、別荘内部に入ると、うち捨てられて、数年経ったのが目に見えて判る埃の積もり具合であった。
錫が安置されているのは、ラテン語の巻物が大量に置かれた書斎とおぼしき部屋である。
別に誰かが置いていった様な足跡はない。
「という事は、最近、怪盗が置いていった線は薄いな」
誰にともなくクオンが呟いた。
「だが、所在を知らなかったという確証にはならないでしょうね」
ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)の言葉に一同は頷く。
一旦、パリに戻り、エルフのムーンリーズとジィがギルドの受付嬢に、今回の依頼の合法性に関して、確認を取る。
「元々、依頼人の所有地を勝手に封鎖されたから、中の重要物件を取ってくれというのが要旨らしいわ。細かい事は依頼人に聞くしかないけれど」
「‥‥そう言うことでしたら致し方有りませんよね」
「納得して頂けましたか?」
「‥‥貴女が美しいから私もやる気が出るのです、今度ご一緒にお食事でも」
と言いながら手を取って、その甲に口付けをする
「約束ですよ」
と受付嬢にウィンクを向ける。
「後十年若ければ、わたくしも参加したのですが、ですがわたくしにも細君がおりまして──」
「ところで久しぶりだなぁ、ノエル! 元気してたかっ!?」
しぱーん、とノエル君の尻をひっぱたいて挨拶する、ふう。
「くんくん」
「な、何です?」
ふうは、服を洗っていないのに汚れてないというの奇妙さに、挨拶と同時に衛生状態チェックとしてノエル君の匂いをかいでみる。
(日なたの様な、安らぐ匂いがするなぁ)
「どうしたんですか? 匂いますか?」
「いんや」
「じゃあ、これから浴場行きますから」
とノエル君が風呂に入っている間に、アルル・ベルティーノ(ea4470)が僧衣を洗濯にだす。
災難だったのはノエルで、風呂から出て、服を着ようとしたら、何もない。下着をつける習慣が無い為、当然全裸である。
仕方なくタオルを腰に巻いたままで、周囲に聞いて回る。僧衣が乾燥する頃には普通なら、体もすっかり冷え切るような時間が経っていた。
「ごめんなさいノエル君。でも、洗った方がいいと思って」
と、アルルは僧衣をノエルに手渡すが、不思議な事に少年の身には冷たさを帯びていなかった。
「ありがとうございます。でも、前もって言って下さいね」
そして怪盗の下に、冒険者達は位階アイテムを持って向かう。
そこで彼らが目にした者は一刀のもとに斬り捨てられている使用人達と、瀕死の──、命が後いくばくもない怪盗であった。
ノエルが必死に癒やそうとするが、彼の力ではその力量までは及ばない。
「私の魂はたぶん、神も受け入れてくれないだろう。享楽が過ぎたのでな」
そして瀕死の怪盗とホーリーライトを浴びた位階アイテムからの情報を総合すると、百合十字と呼ばれる、上級デビル──嫉妬を司る『魔王』を信奉する、小貴族達の間で隠然と活動しているらしい秘密結社がある事と、その召還の為の神聖なる生け贄──魔王の糧こそがノエルだという事を。
怪盗は魔王の糧がノエルとは知らなかった。故に破壊しようとしていていたが、彼もこんな少年とは、と困惑していたのだ。
周囲に映し出される古代魔法語をカレンが必死になって、ゲルマン語に翻訳していく。
そして、ノエルが実は天使であり、九つの位階アイテムをそろえる事で、自然と封じられた記憶と翼は取り戻せるだろうという事だった。
これをかねてから予期していたジィであったが、衝撃は隠せない。
「これが真実なのか──」
マリウスは立ちつくした。
一方、怪盗が告げたのは百合十字の武闘派は、ジャパンからの浪人達が中心となった剣客集団『夜鳴き鳥』だという。
残る天使アイテムは『力天使の調べ』という竪琴と『能天使の狭間』という剣の鞘であり、百合十字が共に所持しているという。
「私ではここまでが限度だ。百合十字は私がノルマンに帰ってきたのを知り、天使アイテムを入手した所をまとめて奪取するつもりだったのだろう。
だが、目論見ははずれた。最後にジョーカーを引かせてやったよ。君たちに出会えて本当に良かった。ひ孫を見られなかったのは残念だが、いい人生だったよ‥‥‥‥リーデ」
こうして怪盗は息絶えた。
しかし、ノエルが魔法で調べた怪盗の強い意志である最後の遺言を聞き、この館の祭壇の下に熾天使の翼と呼ばれる、白く塗られたソードを発見。魔力もないが、柄頭に紫水晶はついている品であった。
これが怪盗を巡る冒険の最終章の始まりである。