●リプレイ本文
コメート号を降りた所で、イルダーナフ・ビューコック(ea3579)は、新たな思索の材料を得るため、聖なる母に加護を願う。
白く淡い光が彼を包む。
それを見たコトセット・メヌーマ(ea4473)も彼の頭脳をフルに働かせるべく、イルダーナフに炎の精霊力の助力を与える。赤く淡い光が彼を包んだ。続けてキャプテン・ファーブルことシャルル・ファーブルにも施す。
神と精霊のチカラで脳みそフル回転状態の3人は見守る冒険者一同に頭を下げる。
「こーちゃんです」
イルダーナフは腰を折る。
「いーちゃんです」
キャプテン・ファーブルは胸を張る。
「ウィリアム3世でございま‥‥」
「いい加減になさい」
コトセット&イルダーナフでぺとちーん×2。
「何を言う。せめて、ヨシュアス・レインと言いたかった所だったりするのだが」
と、自己主張するキャプテン・ファーブル。
「‥‥気合注入終了。
まあ、島の食材のバリエーションはあらかた食ったということだが、オレとしては食材の分類だけでなく餌を与える時間と組み合わせを考えてみたいと思う」
とイルダーナフ。
「糞の排出がこの時間帯に大量に見られることからみて、食べてからの体内で分解は夜間におこなわれていると思われる。その直前にマンドラゴラなどの解毒に関わる餌を与えることで体への影響は大きくなると考えられる」
イルダーナフは一同を見渡し──。
「観察記録では、朝昼夜、どのような食材でどれだけ食べ、どれくらいの排出をおこなったか細かに全員の提供したものを確認。著しい反応があればファーブル卿に報告。またミーティングをおこなう」
「いや、卿という身分ではないんだがね? キャプテン・ファーブルで結構」
「これは失礼、キャプテン」
一方、井伊貴政(ea8384)は、挙手し、自分の実験主旨を確認。
「キャピー君はどーゆーものが得手不得手なんでしょーかねー?
今回、僕は調理をしたものもキャピー君が食べるか、色々作ってみようかと思いますー。
大まかに、味付けの変化と温度の変化で様子を見てみよーかと。
甘い、辛い、しょっぱい、苦い、酸っぱい、暖かい、冷たい‥‥。
甘いとかしょっぱいとゆーのは大丈夫そーですけど、苦いとか酸っぱいとゆーのは本来『キケンな味』だし、そーゆー意味では苦手そーな気がしますねー。冷たいのも‥‥輸送時の事件で、トラウマになってるかな?」
苦笑いを浮かべる貴政。
「あと、液体ならどーかも確認したらいーかな」
「それはちょっと難しいのではないかな?」
と、キャプテン・ファーブル。
「そうですかじゃあ、もちろん『人間が食べられる』程度の味付けですー‥‥とゆーか、皆さんのも分も作るつもりでいますし、まあ、現地調達で賄えるものがあるなら、それに越した事は無いですけどね〜。
キャピーも皆さんもたくさん食べそーだから、材料集めと作り甲斐はありそー」
貴政はひとり頷く。
真面目なプレブリーフィングの後──。
「さぁ〜て、皆さんお待ちかね! 悪食のキャピーが食べられないものを用意する。そこらの料理勝負とは正反対のこの依頼! 大昆虫の胃袋と人間の知恵、勝利するのははたしてどちらか!!」
ロヴァニオン・ティリス(ea1563)が、青い極彩色の大芋虫、愛称キャピーの檻の前で、ここ、絶海という程ではないが、孤島、ファーブル島に集った猛者どもを相手に宣告する。
「さて、キャピーの嫌いな物選手権でございますか。
興奮して暴れ出さねばよいですなぁ‥‥。
いや、他人事ではないのは承知しておりますが」
と苦笑いを浮かべるジィ・ジ(ea3484)。
貴政の作った様々な島の珍味を食したキャピー。それでも足りないのか──それとも、多数の人間にエキサイトしているのか、檻の中をうろうろし始める。
「俺の決め手は、この変な虫を入れるのさっ!」
まず、ロヴァニオンは出だし、木箱から芋虫を取り出す。種類不祥。
「やっぱ共食いは、いやがるんじゃないだろーか」
散々騒いでる人の声に反応したのか、キャピーが檻の間際で、威嚇している。
取り敢えず、檻の隙間から放り込んでみる。
ぱく、ごっくん。
空中で見事キャッチして芋虫を一飲みするキャピー。
「ならば、次は──」
次々と立て続けに蝶、蛾を──。
「親を食うのは躊躇するかも」
──蜂を放り込んでみるロヴァニオン。
「天敵っぽいのは食う気になれんだろ」
しかし、虚空を舞い、逃げていく昆虫たち。
「う〜ん、アイスコフィンか何かで動きを封じておくべきだったか? しかし、ならば酒屋の名に賭けて!」
コメート号から連れ出した愛馬から、どどんと酒を並べ出す。
「名酒『うわばみ殺し』うわばみは殺せても、キャピーには通じるか!? 名酒の意地を見せてみろ!!」
エキサイトするロヴァニオンに、まあ、待てと肩を叩く、ルカ・レッドロウ(ea0127)。
「キャピー、お酒は好きかい? スイートなベルモットをご馳走するぜェ」
「まあ、待ち給え」
とコトセットは準備して貰った雑穀の粥を出し、それをキャピーがあまり、興味なさそうに食べるのを確認すると、ルカを促す。
言って、取り出した粥に半分ばかりかけて『ザ・プリッグ』漬けを作る。
「あ〜勿体ない?」
ロヴァオニオンが指を咥えるのに対し、がっつくな、とルカ。
「な〜に、まだ半分は残っている、半分だけだけどな? キャプテン、後で一杯やらないか?」
「恋人達の仲立ちをする精霊──『月の滴』の名が冠された酒とは乙なものだね、喜んでご相伴に預かったりなんかして」
キャプテン・ファーブルは笑って言葉を返す。
そして、ルカは不敵な笑みを浮かべ。
「さて、うわばみ殺し漬けと、ザ・プリッグ漬けのどちらを先に食べるか? 勝負だな」
「いや、無理に勝負にしなくて良いって?」
突っ込むキャプテン・ファーブル。
保存食に『うわばみ殺し』を急いでかけ、キャピー仕様にするロヴァニオンを尻目に檻をガチガチと咥えて、エキサイトしだすキャピー。
『ザ・プリッグ』漬けを慌てて放り込んで退去するルカに対し、貪る様に食べ始めるキャピー。
「良く食うな」
ルカが檻の外から感心したように声をかける。
「まあ、サイズが人間の3倍、つまり縦、幅、高さがそれぞれ3倍在るという事で体重は人間のおおよそ27倍あるからね。相応の量を与えないと、いけないという事になったりするから」
と、解説するキャプテン・ファーブル。
「──酒場店主を嘗めるな。来い、キャピー、俺はロヴァニオン・ティリス、これからお前に地獄を見せる男だ」
片や、ロヴァニオンは両手一杯に『うわばみ殺し漬け』『日本酒漬け』『オーズレリール漬け』『どぶろく漬け』『化け猫冥利漬け』『発泡酒漬け』『甘酒漬け』の粥入り椀を抱え、一度に放り込む。
「オーズレリール漬けでキャピーに詩の才能は芽生えるか? つーか何語でしゃべるんだこいつは。誰かオーラテレパスかなんかで話聞いてやってくれ」
すっかり酒の匂い漬けになったロヴァニオンに対し、キャプテン・ファーブルは無情にも──。
「ああ、確か前の依頼でも言ったと思うが、インセクトは精神に作用する魔法がデス以外利かないんだ。もし、そうでなければ無駄な修行としりつつ、スクロールの勉強をして、強引にでもテレパシーを使って、インセクトに突っ込んだ質問をするんだ。それがかなうなら──」
と宣告する。
「それだったら海亀を捕まえてくるべきだった──海亀ってサメに食われても、腹を突き破って出てくるって話を聞いたことあるんだけど‥‥ほんとにキャピーの腹を突き破られても困るからやめといて正解か」
『〜漬けシリーズ』を一通り食べ終わったキャピーは、更にねだるかの様にガジガジと檻を囓り出す。
フォン・クレイドル(ea0504)と、ミレーヌ・ルミナール(ea1646)、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)は、3人で島の近海を回って採ってきた、海産物を放り出す。
フォン曰く。
「本当はパリで買ってきた魚でも餌にしようかと思ったけど、この暑気じゃ、腐るからな──」
真夏で3日間も持つ魚などそうそうはない。それはむしろ保存食である。
「大して珍しくもないですけど、こういう物でもデータにできるでしょうか?」
と、ミレーヌはキャプテン・ファーブルに断りを入れる。
「まあ、新鮮そうだし、大丈夫じゃないの? うん、全然オッケー」
ゴーサインを出すキャプテン・ファーブル。
ばりばり、ぐわがき、ごっくん。
フォンとミレーヌが殺気に気をつけ放り込んだ海鮮物はものの見事に食われた。
「これなら山の木を食べつくしても何とかなりそうね。
多分そこまでは行かないでしょうけど」
ミレーヌは語るが、唯一の例外があった。
床にへばりついた、海草である。
単にキャピーが床にへばりついているのを剥がす程、飢えていないのか、それとも嫌いだから食べないのかは余人の推し量れる事ではなかった。
「うーん、明日。みんなで海草採りに行ってみよう」
と結論づけるキャプテン・ファーブル。その結論に対し、ミレーヌは更に粘ってみる。
干した薬草──毒草とも言う、の葉っぱを先程の『海鮮づくし』の付近にばらまいて、不思議そうに残存物の上をチェックするキャピーが食べるのを確認する。
しかし、食べやすい場所にあるのを除いて、積極的に食べようとはしない。
「マンドラゴラを使うって言ってるくらいだから‥‥他の動物の毒でも駄目かもね」
そこで、マミ・キスリング(ea7468)は──。
「ええと‥‥、毒の好き嫌い‥‥ですか?‥‥何だか何でも食べているようにも見えるのですが‥‥」
焦燥しつつ彼女は提案。
「で、では‥‥私たちには解毒剤となっているものを食べさせてみたら如何でしょうか? キャピーが持っている毒が、どうやって作られているのかという興味もありますし」
そこで微笑を浮かべるマミ。
「この毒は普通の草等を食べて体内で作っているのですから、解毒剤を食べたら案外、体内の毒も中和されたりするかもしれませんし。
‥‥もしかしたら、解毒剤と本能的に分かって、食べないなどということになれば、ファーブル殿の目的を達成することが出来ますしね」
彼女のウォーホース貯金から、泣く泣く取り崩した資金で、購入した解毒剤を並べ、反応を見る。
粥の入っていた椀に注ぎ込むと、呑む呑む。
「ああ、私の毒消しが‥‥」
ミレーヌは気の遠くなるのを感じる。
一方、ロックフェラーが近寄ると、キャピーが興奮し出す。
「やはり、この『強烈な匂いの保存食』でも試してみようかな。前回も『離れろ』って言われたほどキャピーも激しい反応を示してたし。
あれが『嫌いな匂いを発しているから』だとしたらこれは食べられないんじゃないかな」
形容し難き匂いが周囲を席巻すると、キャピーはエキサイトして、鉄の檻に体当たりをする。
「嫌い──って訳じゃなさそうだな」
鼻先でふらつかせると、麻痺毒を垂れ流しながら、ロックフェラーの手に噛みついてくる。
一瞬、反応が遅れたら指毎もっていかれそうな勢いであった。
ハグハグともの凄い勢いで食べる。
ジィはそこで、隠しより香り袋を取り出し、放り込むが、そこでキャピーが檻の反対側に突進する。揺れる鉄檻。
「大丈夫だ。この鉄檻ならば破壊される事はないっ!」
ロックフェラーが以前のテスト結果を踏まえ、そう叫ぶが、やはりキャピーの体当たりの迫力は凄い。
慌てず騒がずジィは香り袋に油瓶から油を振りかけ、匂いを分解させ、狂騒を止めさせる。
「ど、どうやら、この食い合わせは危険だったようですな。いや、どれと‥‥とはおこがましくて、到底口にのぼせられません」
後にコトセットが行った実験。通常の粥と、ベルモット漬けの粥の両方を同時に出して、どちらに先に行くか? では、ベルモット漬けの方に先に飛び出していった。どうやら、キャピーは酒好きらしい。
また、朝一で若干名を残して、海草採りに出かけ、大量の海草を採取する。
キャピーはそれを放り込まれても、見向きもしなかった。
結論──。
「どうやら、キャピー殿がお嫌いなのは海草と、条件次第では香り袋という事になりそうですな」
ジィが結論づけるのを、イルダーナフがラテン語で正式にレポートにしていく。
「さて、皆さんには、取れたての海の幸を使ったジャパン料理を堪能してもらいましょう」
貴政が、まかないさんならではの腕前を振るって、新鮮な旬の素材を美食へと変換していく。
こうして腹がくちた後、一同は次の冒険を求めてファーブル島を後にするのであった。
「次辺り、マンドラゴラが手に入るかどうかの確認が取れると思うから、刮目して待っていてくれたまえよ」
キャプテン・ファーブルがパリからファーブル島へ、論文を書くため逆戻りするのを一同は見送りつつ、キャピーの意外な弱点に。そして、まだ弱点があるのかを、論議し合うのであった。
これが冒険の顛末である。