●リプレイ本文
「クライフさん、ここはひとつ、ギブアンドテイクという事で」
育ちの良ささげなジャイアントの三笠明信(ea1628)は、白髪のウィザード、クライフ・デニーロ(ea2606)にサイコキネシスとファイヤーボムのスクロールを貸し出す。
「では、ボクは代わりにこれを。魔法の使い手は軽装でなければいけませんからね。金物は禁物です」
スクロールの代わりに、クライフは明信にGパニッシャーを貸し出す。
レアなアイテムを適材適所で使うことで、より一層の戦力増強を図る。
特に対インセクト戦に特化しているこのGパニッシャーという武具は、武人の手にあってこそ、真価を発揮する。
裏を返せばスクロールはそれを使用できる者によってのみ、その価値を発揮する。
「ドクトル、今回は貴方の魔法が前回以上に大事です。保存食を準備しましたから突入前日と当日のクリエイトハンドはお控え願えませんか?」
クライフロは依頼人であるドクトル・ウィッグルズワースこと、ズワースを敬称のドクトルと呼び、負傷者が続出するであろう、今回のラージアントの巣穴内での戦いを睨んで、負傷者へのリカバー重視を依頼した。ズワースが冒険者の経費削減の為に行っている、クリエイトハンドによる飲食物の供給を控える旨を確認する。
「判りました。確かに保存食ひとつよりリカバーポーション1本の方が遙かに高価ですからね」
「ズワースさんって、いいの? その呼び方。本人が気に入っているならいいんだけどね」
ロサ・アルバラード(eb1174)がエキゾチックな風体で言い放つ。
肌の露出を極力避け、手袋、襟巻き、マスク、長袖服、髪もまとめて頭の上で結い、その上からほっかむり。
そんな彼女にズワース応えて曰く。
「鬘や影薄に比べればマシだと思っております。まあ、クライフ殿のドクトルというのが最上かと思いますが。旅の最中も思ったのですが、やはり異性との接触は怖いのですか? 一歩間違えられれば悪魔崇拝者とも見られかねない風体で怪しいのですが──」
「え? 怪しい? そうねー私もそう思うわ。髪の毛触って狂化するのかわかんないけど。
服越しは? 先に試した方が良さそうね。
他の殿方に、抱きついて試すわけには、いかないわよねぇ。
というわけで、ズワちゃん、実験台はアナタよ!」
とロサは問答無用でズワースをハグする。
赤面するズワース。
微妙な感じはするが、毒を吐き、この世の全てを虐げたいという衝動にロサは打ち勝った。
「厚着越しなら大丈夫ね!」
「そ、それは結構でした」
ちなみにロサはライディングホース、ウォーホース共にパリに預けてきている。
「そんな事していないでお願いします、ズワースさん。治療の切れ目が金の切れ目でもあるのですから」
言いながらも、本来高価な魔法のスクロールの白紙を、事も無げに巣穴のマッピングの材料に使おうというクリシュナ・パラハ(ea1850)。彼女は今回の依頼で、癒やし手がズワースしかいない事を殊更に確認する。
「しかし、いいよねェ‥‥重装備できる方は‥‥はァ〜」
そのクリシュナの羨望の視線の先には武闘家らしからぬ重甲冑に身を包んだ鉄劉生(ea3993)の姿があった。
前回の戦訓だろう、ジャイアントならではの体力に物を言わせ、ついでに口で言うには──。
「ひっとぉつ! 光るメイスを握り締め」
林檎を一口で囓り取りつつ。
「ふたぁぁつ! 再びやってきたぜ、この大地」
韋駄天の草鞋が大地を踏みしめる。
「みぃぃぃつ! 皆まとめて鉄拳制裁!! フルアーマー鋼鉄番長、鉄劉生。クロガネの名前は伊達じゃない!!」
ここでカシャンとメイスを握りしめる。
「カンの林檎は旨かった。特に焼いてクリームをかけた物は絶品だった、林檎酒も、パリじゃマイナーだけど、楽しめたぜ。思わずオーダーに2人前ばかり追加してしまった。腹が減っては戦ができないからな」
体力を維持するのも大変である。
重装甲と引き替えに、彼は最大の奥義である龍飛翔を捨てざるを得なかった。乱戦が予期される、この戦いでは、1体のラージアントを確実に仕留めても、次が続かない。それを体に刻み込んだのだろう。
同じくヘビーアーマーにヘビーヘルム。さらにはレザーマントと劉生に輪をかけて重武装したレナン・ハルヴァード(ea2789)は汗を流しながらぼやく。
「狭そうだなぁ。蟻の道。避けようにも、避けるためのスペースも無さそ」
それもひとつの真実である。ぼやきはまだ続く。
「重武装したけど‥‥重っ! ついでに、鎧とか高っ! すっかり金欠だ。とほ〜」
重武装して体が重くなったので、財布が軽くなったのであろう。
そんな彼を励ますように──。
「いよいよ大蟻の巣穴へ突入ですわね、大蟻の本拠地と言う事から、大群との戦闘ですわね、腕が鳴りますわ」
九紋竜桃化(ea8553)が艶麗に──そして、自分をすら挑発するかのように言い放つ。
やはり、手に握りしめるはGパニッシャー。
モンゴル・ドワーフのファットマン・グレート(ea3587)はその得物を己のメイスと見比べる。
「やはり、確実に打撃を倍与えられる武器というのは──羨ましいな。エチゴヤも店頭販売してくれればいいものを」
言いながらもロープの確認を忘れない。ラージアントの巣穴はおそらく一番下に女王ラージアントがいるのだろう。
だとすれば、掃討作業も下へ、下へと降りていく事になるはず。 無論、帰りは上に昇らなければならない。その時、上に戻る糸口を準備していなければ喜劇以外の何物でもない。
ファットマンはそう確信していた。
岬芳紀(ea2022)は腕を組んで沈思黙考する。
(『戦は数だ』とは誰の言葉だったか‥‥)
乱戦が予想される中、敢えて芳紀はズワースに尋ねた。
「ズワース殿、蛹を全滅させるか、一部をファーブル島に送り羽化後に巣作りをさせるか? 存念を伺いたい」
パニックから立ち直り、神妙に聞くズワース。その意味は芳紀の言葉に続きがありそうだからだ。果たして、その言葉の矢は放たれた。
「ただ、羽化したラージアントが女王蟻を主として認識するか疑問ではあるが」
「────そうでしょうな。それに輸送中に羽化されると、その処理が大変ですから、蛹は全滅させましょう。成る程考えもしなかった。キャプテンも厄介事を押しつけてくれた物です」
悩めるズワースにファイゼル・ヴァッファー(ea2554)はバックパックを開きつつ──。
「ところで、巣穴の要所要所でクライフがフリーズフィールドで相手の動きを阻害するようだ。俺は防寒着を準備しているが、ズワース、持ち合わせはあるか? 無ければこれがあるが」
──と、言って着ぐるみ、まるごとオーガを取り出す。
「そ、それは────背に腹は代えられませぬな。お借りします」
カインとアベルがどうのこうのと神学的な事を言いながらも、受け取るズワースに対して、一言呟いた。
「多分、似合うぞ」
そして、経費落ちで手に入れた余剰食材がラージアントの巣近くにぶちまけられ、ラージアントの食欲の秋に関する思いを募らせる作戦に出る。
だが、投棄予定地点には、匂いを嗅ぎつけたのか、ラージアントが集結しつつある。
明信がクライフに対し魔法の詠唱要請をする。
「ファイヤーボムで一撃を──」
「いや、威力が見込めないし、何より内側での魔力の浪費を考えるとスクロールは避けたい」
「ええい、ままよ!」
と明信はGパニッシャーを振りかざしつつ先頭に立って突撃する。ロサが動きが鈍ったにも関わらず、俊敏にロングボウを取ってラージアントに対し一矢を放つ。
風を切る矢がラージアントに突き刺さる。
後方から重装甲に振り回されながらも、ロングスピアを腰だめにファイゼルも前方に殺到しようとするが、如何せん動きが遅すぎてしばらく、前方に達するのは難しいようだ。
「昇竜!」
叫びながらも桃化はラージアントの攻撃を余裕で受け止め、Gパニッシャーで殴り返す。もちろん、その全重量を込めて。
無論同等の相手同士ならば、骨身を削る戦いになり、激しい消耗戦になるが、格闘の力量が天地程もあり、Gパニッシャーの魔力が威力を倍加させると、ラージアントの動きが見る見る内に鈍っていく。
ファットマンは赤い髭を振り乱しながら、盾でラージアントの攻撃を捌いて、返し技にメイスの重みを加える──ここまでは桃化の昇竜と変わる所はないが、根性でそのメイスの威力を円錐状に飛ばして、3体のラージアントに痛撃を加える。
これを可能としたのも前に劉生が立ち、自分の所に殺到してくるラージアントを最小限に食い止めたからである。
「方円の陣を組め! 重甲冑の連中が戦線を作るんだ!」
ファットマンの獅子吼にようやくファイゼルが前に立つ。
「すまん、遅れた」
「なーに、その分持ちこたえればいいさ」
劉生が軽口を叩きながら、練り上げた闘気の盾でラージアントの攻撃をいなす。
しかし、僅かな防御力の差がファイゼルと劉生の明暗を分けた。
ファイゼルが体重を乗せた突きで1匹を傷つけ、襲いかかる1匹を盾で捌き、残りの攻撃を全て甲冑で引き留めても、全てかすり傷で止めているというレベルなのに対し、劉生は1匹を集中攻撃で戦闘不能にし、1匹を闘気の盾で対処し、残りの集中攻撃を体を張って止めると、甲冑の量の違いで、すぐに重傷になってしまうのだ。後方に下がって、ズワースのリカバーを受け、あるいはポーション類を煽り、前線に立ち直す。
「こんなに自分が脆いとは思わなかったぜ──すまないみんな」
「それはお互い様です」
明信も後方に下がりポーションを飲み干して、戦闘の緊張の中、一瞬の緩んだ時間を劉生と言葉を交わす。
18才の若さながら、膂力重視の二天一流の武芸者として、剣技相談役と呼ばれ、“武者甲冑、赤糸威”に身を包んでも、明信の体力は限度がある。
とにかく、相手に集中させない事。それが攻略の最大のポイントとなりそうであった。
「フレイムフォース、イグニッション! ファイアーウィィングッ!!」
そこへ一羽の火の鳥が舞う。淡い赤い光に包まれてクリシュナのファイヤーバードの術が発動したのであった。一呼吸で4回の攻撃を可能とする最速の魔法である。
とはいえ、いかんせん魔法自体の根本的な威力が弱すぎる。
ファイヤーバードの魔法は、魔法と回避に難点のあるラージアント相手のよけも耐えも許さないものの、根本的な所で相手を消耗させる事が出来なかった。
そして、クリシュナは後方と前線で人の入れ替わりが激しい様を眼下に見つつ、魔法の持続時間が切れるのであった。
もちろん、空中で魔法が解けるような無様な真似はしない。次の詠唱も睨んで、地上に降り立つ。
庇うように芳紀が小太刀を両手にそれぞれ持ち、双刀の見事な連携からラージアントの節々を攻め立てて、小太刀の重量の無さを補う。野太刀の様な大振りな得物と、小太刀の様な小振りな得物の両方をフルに活用するのが中条流のスタイルである。
芳紀の小太刀戦術は攻勢的なそれを万全に活かしていた。
「これなら、わざわざ懐に飛び込まなくても──否、双刀を以て、翻弄しなくても、十二分に戦える。しかし、数が多すぎる」
逆に守勢に弱く。ラージアントの攻撃を避けられるかどうかは、芳紀の実力なら平常で五分五分。しかし、一度でも打撃を受けると、ジリ貧になり下がらざるを得ない。
五分が四分、四分が三分へと、回避しきれる可能性は減っていくのだ。
分が悪くなる一方の博奕へ芳紀は手を出す気はなかった。
劉生や、明信達の後方で方円になる様、ディフェンスラインを張り、いつでもズワースの治療を受けられる様に、あるいはポーションを呷れるようにしておくのが芳紀の限度であった。
ファイゼルも同じようなジレンマに陥っていた。いや、最初から避けきれる率が5割を割っていたので、霞刀は受け一方であった。
「参ったね、こりゃ。全体の3分の1どころか、これ以上蟻が増えないようにジーザスに祈るしかないじゃないか? ズワース、こりゃ、働かせすぎだろう」
「すいません、こちらも魔力が尽きました‥‥」
ズワースのすまなさそうな声が響く。
「不信心っぽいけど、こういう時に言うもんだよな?──ジーザス!」
そこへスクロールを広げたクライフが叫ぶ。今までアイスチャクラムで攻撃していたが、さすがに限界を感じたのだ。
「とりあえず、潰せるだけ潰します。僕の目の前から退いてください」
念じると、クライフは緑色の淡い光に包まれて、一条の雷光が迸る。
執拗にクリシュナがファイヤーバードで掃討していたラージアント達がこの一打でようやく倒れ伏す。
冒険者達はひとりも命を落とす事無く、そして、巣穴からのラージアントの攻勢は終わっていた。
巣穴を見て、クリシュナが毛糸玉を取り出すと、ファットマンはロープの準備をする。
「どれくらい必要かも判らん。とにかく、ロープの準備をしておけ」
そして、ランタンに明かりが点され、地下へと一同は降りていく。
巣穴は1メートルばかり垂直に降りた後、緩やかな下りになり、ランタンを持ち『左手の法則』で踏破しようとしたクライフを打ちのめすほどに、複雑かつ立体的にに分岐を始めていた。
一方、クリシュナは長いばかりのスクロール用紙を持てあまし、同時に“多分”等間隔だろうと思う位置に記しを付けていった。更に毛糸玉は次々と解けていく。
ジャイアント陣は次々と天井に頭をぶつけ、その狭さを実感させる。前衛もふたり立つのが精々で、ファットマンなどは良かったが、後ふたりを前衛に立たせようとすると、レナンなどは窮屈さを感じざるを得なかった。すぐ後ろに芳紀が直衛で入る。
このツートップの前には散発的に出てくるラージアントは瞬殺され、幾つかあった下ぶくれのウジ虫の様な白い幼虫や、繭に包まれた蛹がいる育児室を破壊して回った。
「ところで今どの辺だ──?」
ファットマンがクリシュナに尋ねる。
「聞かない方がラクかも、毛糸玉、後1個しかないし──」
「戻りましょう‥‥女王ラージアントがいない場所は確認出来たのですし、今度は地図がある分、ラクに調査出来るでしょう」
ズワースも決断した。
油が許す限り放浪した後、一同は後退を決定した。
そして、帰り道でも計画的な反撃が行われる事はなかった。
帰路に倒す度、丁寧にファットマンが除けていった死体を数えると、地上部分に居た者と合わせると、倒したラージアントは総計29体である事が確認された。
「やれやれ、太陽は‥‥もう沈んでいるぜ」
劉生が見上げた空には秋の星座が輝いていた。
そこから夜の大地を歩きながら、一同は予め馬などを置いておいた宿営地にたどり着いた。
水利の便などを考慮に入れて選択されており、一同はラージアントの巣の探索の際、煤に塗れた武具や、己の身を存分に洗い流した。
ファイゼルは、芳紀から借りた“ラーンの投げ網”で水場から、新鮮な魚を捕まえ、一同に調理して振る舞った。そこで疑問を投げかける。
「しかし、女王蟻の大きさを確認出来なかったのが痛い」
本当に女王蟻が巣穴を抜ける事が出来るのか、もし出来なければどうすればいいのか?
「いや、シロアリの類ならともかく、一般のインセクト同様、ラージアントの生態が通常の蟻に準じているなら、巨大な腹部を持っているという事はないでしょう」
クライフはそのズワースの言葉に少々疑問を持った。
「現物を見ても居ないのに断定するのはどうでしょう?」
「そう。見てから実は運び出せない。というのを巣穴の奥で再確認するのは勘弁して欲しい」
続けるファイゼルに、夜空の星を見上げるズワース。
「今日は満月が美しいですな」
「そんなに目がお悪いですか?」
突っ込みを入れるレナン。
「それより、具体的にどうやって、女王ラージアントを運び出すのか考えていなかったですけれど、やっぱり次回までに考える?」
「そうして頂けると幸いです」
「ファーブルさんに聞いておけば良かったですね」
レナンの疑問に、ズワース答えて曰く。
「多分、現物を見ていないと──」
「いないと?」
「『智恵と勇気』という返答が返ってくるような‥‥」
「いや、冒険者ですから『智恵と勇気』は最大の武器ですけれど──最後の武器でもあるような気が‥‥‥‥」
「否定しません」
レナンの言葉に同調するズワース。
「多分、『智恵と勇気』の、正式な言葉が行き当たりばったりというのも否定はしませんし。キャプテンはそれでやっていけても、自分のスタイルではないというのも否定はしません」
破天荒なキャプテン・ファーブルに対し、どちらかと言えば穏やかなズワース。格好良く言えば陰と陽か、太陽と月等々そういう関係なのだろうが、そこまでシンプルな間柄という訳でもないようだ。
「まあ、そこまでクヨクヨしないでよね」
ロサが励ますように、ズワースに声をかける。
「多分、キャプテン・ファーブルだったら、重装甲とか回避が得意な人、なんていうオーダーはギルドではしなかったと思うのよね。ラージアントとの戦いでも、皆のケガも少なくとも乱戦の段階では、皆、多分重傷を抱えたまま巣穴を放浪するか、ポーションが底を突いていたりして、安心して冒険は出来なかったと思うのよね」
そこでロサは一呼吸置いて。
「多分、ウィッグルズワースさんは自分にしか出来ない事をやっていない、何て言う人は誰もいない筈よ」
「すみません、そこまで言って頂けると恐縮です」
「ほら、そこで謝るのが、ズワースさんらしいっていうのよ。だから、“多分”なんて付けなくちゃならないのだし。気にしても始まらないわよね」
「そうですか?」
「そうよ」
ロサは断言した。
「じゃあ、話を戻しましょう。現物を見ていない段階ですが、女王ラージアントは、特殊な生態を持っていなければ、極端に肥大したりはしないはずです。インセクトは成虫になればそこで成長は頭打ちですから。よって、女王ラージアントは巣穴からロープで縛る、あるいは魔法、毒などの手段によって無力化して連れ出す事が可能なはずです。護衛の特殊なラージアントがいる可能性はありますが、キャプテン・ファーブルのオーダーはあくまで女王ラージアントの確保ですので、生死を問わず、標本として持っていけばボーナスが手に入るかもしれない程度に考えておいてください。
繰言になりますが、インセクトへ精神系に干渉するひとつを除いて魔法は利きません。スリープなどは有効な手段ではありません。唯一の手段としてデスの魔法をかけて、即死させた後、メンタルリカバーの魔法を使って安全に確保するという選択肢がありますが、これも使い手がいないという根本的な問題があります。
アイスコフィン、ストーン、コアギュレイト、シャドウバインド等の魔法が、魔法に抵抗力の低いラージアントを相手にした際の無力化手段になるでしょう」
「叩きのめしても構わないですか?」
桃化が自信ありげに尋ねる。
「死ななければヒーリングポーションも効くでしょう。あまりに大きい相手ですと、1本では効かないかもしれませんが。自分の今している具体的な確保手段は今までのラージアントとそれほど、変わらない体格のものを相手にしたのを想定していますので、おそらくジャイアント程の体格はないでしょう。傷ついても私が傷跡を修復し、体力を回復させてコメート号まで持っていきます。皆さんにはコメート号が停泊する河まで1日、いかにして女王ラージアントを逃がさないかを中心に考えてください」
ズワースはそう言い切った所で、自分が未だに“まるごとオーガ”を着込んでいる事に気がついた。
今回はラージアント多数を殺傷した事で、ズワースを介して払われる、キャプテン・ファーブルからの報酬も弾む事だろう。
「さて、今度はどうやって生き延びるか──だ」
ファットマンはキャプテン・ファーブルから差し向けられたコメート号の帰りの便に足を踏み入れながら呟いた。
そして、最後の冒険の幕が上がる。
これが冒険の顛末である。