●リプレイ本文
井伊貴政(ea8384)はコメート号船内にて笑いながら語る──。
暗雲立ちこめるファーブル島へ、一刻を惜しんで急ぐコメート号。
「いや〜蛙になった時はどうなる事かと思いましたー。
命あるもの大切にしなくちゃなーと変な所で心新たにしつつ──で、キャプテン、何ですかあれは?」
コメート号の船倉にいる何頭かの老牛を指さす彼に、キャプテン・ファーブルことシャルル・ファーブルは一言。
「キャピーの餌だよ、うん」
慌てたノア・キャラット(ea4340)が尋ねる。
「あ、あの? キャピーって肉を食うんですか?」
貴政も、あのだから、キャピー用の甘味の経費下りなかったんですか? と慌てる。
「まあ、落ち着きたまえ、ふたりとも」
キャプテン・ファーブルは掌をふたりに突き出して、説明を始める。
「キャピーの餌は牛肉ではない。牛の生き血だ──もっとも死んでる血を飲ませる実験は貴重なキャピーに対して出来ないので、やっていないがね。ジャイアントモスというインセクトは元来、文字通りの血を好むのだよ。もっとも、成長したキャピーがジャイアントモスという既知のインセクトでなかったら、相当、試行錯誤しただろうがね」
コトセット・メヌーマ(ea4473)も頷く。
「おそらく、3日に1頭程度の“食事”で生きながらえる事が出来るだろう」
キャピーという全く“未知の生物”と違い、今まで研究の蓄積がある“ジャイアントモス”ともなれば、コトセットの知識も生きてくる。
「それとこれは推測だが、モンスターといえど自然界の生物と考えると、ジャイアントモスにとっての不倶戴天の相手がいても不思議ではない。
観察対象であるキャピーを守る方向で動く予定だが、守りきれるかどうかは微妙だ。
予想される相手は体長20m以上の鳥型モンスターだと考える」
キャプテン・ファーブルの返答は──。
「まあ、確かにそういうモンスターはいるが、ノルマンにいたとしても、わざわざドレスタットから連れ込んできたのだ。長い月日も経った、追いかけてくる事もないだろう」
「ともあれ、捕食者に食われるならばともかく、キャピーを悪魔崇拝者のものになどはさせぬ。“破魔の炎”の名に掛けて」
その言葉に対し、マリウス・ゲイル(ea1553)はため息をつきつつ──。
「そうですね。それでも、見張り台を制作できるだけの木材をすぐに調達できないのが残念無念。船で運ぶ以上、とりあえず船でチャーターできるものが、収穫祭と開港祭で動き回っているので、カンまでこないとなりますと‥‥それに──」
マリウスは告げる。
「相手の力を利用して、キャピーの将来を守る方法があるかもしれませんと思っていたのです。
トランスフォームと言うデビルの魔法があるようですが、それでキャピーを変身させてサイズの縮小及び麻痺毒をなくさせるのです」
それを聞いてキャプテン・ファーブル、嗚呼、と天井を仰ぎ。
「トランスフォームを使うには、デビルと様々な契約の必要があるのだよ。魂の一欠片と引き替えにね。確かに一時的にキャピーはその驚異を失うだろうが‥‥時間の問題だ」
そこにカン伯爵領の神聖騎士である、少年ジャイアント、シクル・ザーン(ea2350)は更にそのデビルの恐怖に彩りをつける質問をする。
「皆さん、カン騎士団に所属しています、神聖騎士のシクル・ザーンと申します。
魔王崇拝者が暗躍していると聞き、遅ればせながらひとりの冒険者として参上しました。よろしくお願いします。
所で今の質問ですが、もっと詳しくお聞きしたいのです──具体的には、悪魔や魔王崇拝者の使う、そのマリウス殿の言及したトランフォームという、私も使えるミミクリーに似て非なった変身魔法は、変身した生物の能力をどこまで真似る事ができるのでしょうか?
もし、ジャイアントモスの巨体や毒鱗粉まで真似る事ができたら‥‥と考えるとゾッとしますので」
「安心してくれたまえ騎士殿。トランスフォームという魔法は自分と同じ大きさか、さもなければ蠅程度の大きさのものまでしか、変身は敵わないよ。
でなければデビルは、崇拝者の群れをドラゴンの群れにでも変身させて、今頃一国くらい乗っ取っているだろうからね。
安心したかね? デビルの変身能力も同じだよ。自分より大きなものには変身できない、鳥になっても飛べない者も時にいるくらいだからね」
貴政は皆に尋ねる。
「じゃあ、僕がカエルに変身させられたのは?」
「人質にして捕まえておくのに、丁度良かったからでは?」
ジィ・ジ(ea3484)が頭を捻りつつ、丁寧に答える。
「蠅などに変身させられては、逃げ出すチャンスがありますが、カエルならば鷲掴みにできますからな‥‥もっとも、悪魔崇拝者の事ですから、貴政様がカエルに化けたと言っても、予備知識を持たぬ我々では、攻撃してしまう可能性を考えていないのでしょう。全く、自己中心的な相手でございます」
胸中でラックス・キール(ea4944)は──。
(確かにキャピーを思うように動かせたら、相当な脅威になるだろうな。でも調教は難しいだろう。
やれるとしたら、好物を襲撃目標にばら撒いて腹をすかせたキャピーを放つ・‥‥という感じかな。
大きさを変えられるなら、小さい状態で攻撃場所に飛ばせて置いて、効果時間が過ぎたら元の大きさに戻って大惨事‥‥もありえるか。
どちらにしても使い捨てだな。ありえない惨事を引き起こして恐怖を撒き散らすための)
「キャピーをそんな奴等の武器にさせる訳にはいかない!」
ラックスの一声に一同は振り向き。
一応は前と話が繋がっていたので、頷き出す。
「前回、痛い思いをしたにも関わらず、再度キャピーを狙うとは、懲りない人たちですね!」
ノアも憤慨するが、我羅斑鮫(ea4266)は達観した口調で──。
「そもそも他人の痛みが判る人間は魔王など崇拝しようという事はないだろう。自分の身に降りかからなければ、一生懲りん」
と一席ぶつが──。
ミレーヌ・ルミナール(ea1646)は呟く。
「キャピーはただ普通に生きてるだけなのに、こんな事になるなんて」
蛾と分かった時はショックだった彼女だが、想像していたほど不気味な外見でなかったので少し安堵していた。
とはいえ、巨体と強力な毒を目の当たりにしているため、じっと押し黙った様子で一同の中に埋没している。
「あんなに毒が撒かれてる‥‥。
これじゃ魔王の乗り物だっていう言い伝えがあっても不思議じゃないわ‥‥でも、もし──キャピーが街を襲ったりしたら‥‥ううん、そんな事は絶対にさせない」
彼女の決意の言葉と時を同じくして、コメート号はファーブル島に帰還する。
下船するキャプテン・ファーブルに全くさり気なく、クリオ・スパリュダース(ea5678)はキャプテン・ファーブルに船備え付けの羊皮紙で書いた手紙を渡し、素っ気なく呟く。
「夜までに読んでおいて──」
そして、何事も無かったかの様子で、島に足を踏み入れる。
上陸したカレン・シュタット(ea4426)はチョークで描かれたキャピーの青い毒鱗粉の飛散する限界地点まで足を進め、自慢の視力を活かして、キャピーの観察に入る。
ケヴィン・グレイヴ(ea8773)は彼女をダシにしている訳ではないが、近くの茂みに潜り込み、そのまま気配を殺していた。
「では、諸君。魔王崇拝者の燻しだし作戦に出るとしよう」
ファーブル島についてしばらくして、荷ほどきのタイミングを見計らい、キャプテン・ファーブルが一同を応接室に集めて、島の調査の話を進める。
この行動の裏にはクリオの手紙があったのだが、その子細は後々明かされる事になるであろう。
いざとなれば3人の魔王崇拝者が襲ってきても対抗できるように、ノア、ミレーヌと、シクル、カレン、そしてケヴィン。キャピー関係の檻の近くに防衛に置いて、一同は以前マッピング済みである島の探索に乗り出していった事になる。
ラックスは出たと見せかけて、遠方からキャピーを見張る事とした。
もちろん、貴政は皆のまかないの為、居残りである。
島を探索して、以前と変わった所と言えば、何名かの人間が野宿した痕跡が散見される事である。
何かを地面に書いて消した痕跡もあった。
キャプテン・ファーブルとコトセットはこれを下位のデビルを──本当に下っ端レベルである、おそらくインプの類だろう──召喚した魔法陣の跡だろうと意見が一致。ただし数までは分からない。
他のモンスター知識を触りだけしか知らない人間には到底見当もつかなかった。
しかし、肝心の魔王崇拝者は見当たらない。
その探索の最中、クリオは船着き場に行き、魔王崇拝者達がファーブル島に乗って、やってきたボートを、上陸した場所に戻す。
(おたくらの様な、悪魔を崇めれば、世の中をどうにか出来るだろうなんて考えの、単純莫迦にはこれくらいのお膳立てがお似合い──)
その頃、マリウスはファーブルがバイブレーションセンサーで周囲を探っている中、気を逸らさない程度に話しかける。
「この間言っていた二つ名についてですが、おかげさまでノルマンの実力者とまで噂される様になりまして、身に覚えのない汚名も取れた事ですし、命名していただくのはまた今度、本当に私がふさわしいかどうか判断されてからでお願いします」
「いやぁ、ノルマンの実力者たる教師とは大した物だよ、単純に『騎士』だなんて称号じゃ収まらないからね」
「しかし『キャプテン』は『船長』という意味の称号ですよね?
気になっていたのですが、いつ頃からそう名乗るようになったんですか?」
「うん、これはノルマン復興戦争にまで遡るが‥‥。
神聖ローマとの激戦で、まだ、ジャパンとの月道が発見されていない頃、このコメート号に乗っていた年長者達たちが自分達若い層を庇って次々と倒れていった中、最後に残った自分より年長者の船長が、自分に若者の後事を託して、散っていった時から名乗っているんだ、後を導くという自戒も含めてね。
フランク生まれのマリウス君にはあまり縁が浅い話だろうけど‥‥。まあ、そういう事でキャプテンと名乗りだしたのは12年前からだね。広まったのはもう少しかかったけど」
「私が10才の頃ですか‥‥? やはり国毎に色々な歴史があるものですね。私の国も6分国制で色々ややこしくて──それより、島内部でははぐれ虫はいませんか?」
マリウスの問いかけにキャプテン・ファーブルは返答する。
「いや、とりあえずは地図通りにいる様だ。私の魔法の範囲内では新しい反応はないようだね」
キャプテン・ファーブルと冒険者の手塩にかけて捕獲してきたインセクト達は魔王崇拝者の手にかかれば、あっという間に剣呑なモンスター軍団に変わる。だが、それにトランスフォームを使うには自分の魂を契約の代価として支払い、尚かつ呪文そのものの成功失敗、インセクトの(ささやかながら)抵抗の可能性を考えると、迂闊に乱発は出来ないのだろう。
この場合、魂は生命力とも置き換えられる。
文字通り、悪魔と契約するのは命がけなのだ。
「悪魔崇拝者を私はタダの狂的信仰者レベルの存在だと思っていた。まさか既に悪魔と契約していた者だとは。
デビル魔法を使う者を見つける事はもちろん戦うことも難しい。既に通常の武器では傷つかない体に成っている可能性が高いからだ」
コトセットは語るが。いやいやと、ファーブルは打ち消す。
「そこまで強力な契約をできる者はそうはいない。よほどの妄執か、高潔さを持っているものかのどちらかだろうね」
生命力を捧げて、下位の魔王崇拝者は魔法を行使する。先日の戦いで呆気なく、剣の露と魔王崇拝者が落ちたのはそういう事だと、ファーブルは語った。
そうでなければ、ファーブル島に戻ってきた冒険者を待っていたのは、トランスフォームにより解放された、恐怖のインセクト軍団総進撃であった筈である。
名前が悪魔崇拝者であろうが、魔王崇拝者であろうが、根本的な違いはない。
先日のクリオの言う様にレッテルを変えたからと言って、中身が変わる訳ではないのだ。
ただ、背後の陰謀が複雑化する可能性はあるが。
中級デビルとされるアンドラスですら、名うての冒険者の前に数度姿を現し、尚かつ生き残り、意図を不明にしているのだ。
今だ姿を現さない“自称”魔王がどれだけの力と技を持っているかは推察は出来ない。
デビルの手は長く、息も長い。
ジィはキャプテンに、キャピーを別の檻に移すことを主張する。
「いや、替えの檻を用意するような、時間的余裕も経済的余裕も残ってはいないよ そもそもあそこまで巨大になると出し入れできる出入り口ないし」
「いえ、そこでトランスフォームを魔王崇拝者の輩にかけさせるのでございます。まあ、そもそも現物が無ければ、机上の空論でございますな‥‥逃げたら逃げたで、それもキャピーの選択。
いつかキャピーの子孫に会えるやも知れませんしね。
街を襲うようでしたら、『ファーブル様を筆頭に』わたくしたちが責任を持って対処いたしましょう」
「そんな無責任な事をしていたら、あっという間にカンはおろか、良識を持つあらゆる国家から閉め出されてしまうよ」
「はっはっはっは『策士、策に溺れる』でございました」
「呼吸とタイミングを合わせて羽根を上下させる度に、青い細かい粉が周囲にばらまかれていきます‥‥」
ミレーヌは鳴子など、発見型のトラップを仕掛け終わった後、キャピーの観察に入る。
クリオを除いた一同が黄昏時に捜索から戻る時、上空を6匹の羽虫が飛んでいたが、落日に紛れた『それ』は、視力に自信がある程度のものでは発見できなかった。
いや、唯一ミレーヌだけが発見できた。
「何か、空に虫が妙に多くない? カレン」
「逆光で見えません──厄介ですね」
「じゃあ、ラックスさーん」
言われるまでもなくしばし淡い桃色の光に包まれると、オーラを込めた矢を番えるべく、鉄の弦を引き絞る音がして、ラックスの巨大なヘビーボウから一矢が放たれた。
しかし、針の穴をも射抜く様な一撃は、何かを直撃したような動きの後、乾いた音を立てて、キャピーの檻の中に落ちていったらしい。
それでも、風上から近づいた個体がいた。不意に現れたのは、過日取り逃がした内の一人と思われる男。
男が緑色の淡い光に包まれると、突風が吹き上がり、キャプテンファーブル達の方に毒鱗粉を撒き散らす。
そして、予め呼吸する対象を発見していた、その魔王崇拝者はターゲットを選定する。不幸な事にそれは斑鮫だった。
頭上を覆う黒雲から雷が降ってくる。
「ぬぅっ!」
辛うじて耐えきる斑鮫。
ミレーヌが飛び出し、斑鮫の手当をしようとする。
「薬なら、懐の隠しにある。すまんが動けん。出してくれ」
「大丈夫、傷は浅いし」
「そうだな、こう見えても死神には結構借りを作っている身でな‥‥う」
リカバーとヒーリング、二本のポーションを一気に飲ませ、来るべき時に備えるミレーヌ。しかし、遅かった。
その間に別の虫がキャピーに接触する。そしてインプに姿を戻し、黒い霧の様なものに包まれると、キャピーは見る見る内に縮んでいき、小さな虫へと変じた。
そのまま檻の外へ、続いてキャピーの毒にやられた男も変化させ、飛び上がる。
「ライトニング‥‥撃てない」
詠唱と結印によって、カレンの周囲に収束しかかった淡い碧い光が四散する。目標を特定しようとしても、逆光で見えない為、呪文の対象を見失ったのだ。インプも姿を変えてしまっては、目印がない。
ライトニングサンダーボルトの直線的な攻撃であるが故の弱点であった。
「前回、痛い思いをしたにも関わらず、再度キャピーを狙うとは、懲りない人たちですね! 大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて我に力を与えよ! 爆炎となりキャピーの敵を退けろ! ファイヤーボ──‥‥駄目──どう撃ってもキャピーを巻き込む」
ノアも淡い赤い光の集中を途中で断念する。
そこへ尋常ならざる雰囲気を感じて、様々なあり合わせの道具で作った、巨大ハエタタキモドキにバーニングソードを帯びさせたコトセットが戻ってくるが、いかんせん巨大な檻の天辺まで届くほどリーチの長いものではない。
「悪魔崇拝者が空中からくるとは不覚‥‥空から来る者が捕獲者とは限らなかったか‥‥」
膝を折るが、状況は好転するわけではない。
「いや、クリオくんが状況を好転させる起死回生の一打を準備してくれている」
そこで明かされる、クリオの書いた手紙の内容。
『一日目に探索してから、通り一遍の捜索では埒があかないと判断したふりをして、キャプテンと懇談し──
『魔法、技能、装備の各方面で探索能力に秀でた冒険者の参加をギルドに依頼しよう』という話にもっていく。
そしてたとえば‥‥
「4日後に応援がくるから、それまでは我々だけでがんばろう」
というような話を関係者間で互い打ち合わせる。
以上。
これはすべて、悪魔崇拝者が機会を窺うために(トランスフォームなどを使って)情報収集しているのが前提なので、前提がハズレたらそれまでだが、害はないんじゃないかな。
うまくいけば、相手は増援が来る前にキャピーを誘拐するか‥‥あるいは島を逃げ出そうとして動くはず。こっちから探さなくてもね。
私は悪魔崇拝者が島に来るときに使った舟を、島の船着き場に動かしておいて、その周辺を警備する。誘拐するにしろただ逃げるにしろ、舟で脱出するためにこっちにくるんじゃないか』
「──という事だ」
船着き場に走りながらキャプテンは一同に今度の陽動作戦を明かす。結果としてやぶ蛇となった訳だが、最後の一手で逆転すれば、カン伯爵領に対して事態は有耶無耶に出来る。
タイムリミットはトランスフォームの魔法が切れると予想される1時間後。
──そして、船着き場に見えるはクリオの足下に倒れ伏す3つの影。
「遅かったな。ひとりは当て身で倒しておいた。後は突き殺したが、こればかりは向こうが一方的に死んだのだ、文句を言われても困る」
魔王崇拝者たちは悪魔に生命力を売り払った為、弱体化していたのだ。オーラを纏ったレイピアの前には、薄紙も同じ。
それでもコトセットは思わず叫ぶ。
「インプは? インプは一体どうなった?」
「キャピーに何があったのだ? インプとどっこいの知能レベルのこいつらなら見たが、インプは見ていない」
「こいつらはインプを召喚したらしいのだ。おそらく時間に限りのあるデビル魔法ではなく、無限に姿を変えられるデビルの力を以て‥‥」
その時、カンの方向の水平線近くに瑠璃色の巨大な翼が見えた。
キャピーである。
「しまった、あれはカンの方角です!」
貴政が叫ぶ。
そこへ、倒れたフリをしていた魔王崇拝者がむっくり起きあがろうとするが、それを示現流の基本技で押し倒す貴政。
「何を考えているんです。キャピーに一体?」
「キャピーは魔王の乗り物でも何でもない! ただ大きいだけの蛾よ!」
ミレーヌは絶叫する。
「ふっふっふっふ。貴様らが如何に可愛がろうが、魔王の乗り物となるべき星の下にあのジャイアントモスは生まれたのだ。
その星の下にドレスタットから、ここまで運ばれたのだ。泣け、喚け! そして刮目せよ! 魔の時代来たれり!! 破滅の──」
「五月蠅い、黙れ!」
クリオがアイアンナックルを外してひと叩きしようとする。しかし、魔王崇拝者は一瞬で結印と詠唱を済ませ、暴風を発生させる。何人かが海に放り込まれたが、クリオは耐えきりパンチ一発。しかし、その魔王崇拝者は何も言わなくなった。
「軟弱者──!」
「いいや、かなり、魂──生命力を売り払っていたようだな。生命力の売り払いで厄介なのは、幾ら売り払っても、普通の傷の様に人目には見えないという事だ。魔王崇拝者の死亡はクリオくんの責任ではない」
体力で暴風を耐えきったキャプテン・ファーブルはクリオを弁護するかの様に言葉を繋げる。
しかし──そこへ‥‥。
「差し渡し12メートル以上の巨大昆虫、しかも周囲に毒を撒く‥‥こうなると、一介の冒険者としてではなく、カンの騎士として動かざるを得ません。カンの、ひいてはノルマンの為、ご協力よろしくお願いします。シャルル・ファーブル様」
海の飛沫か、自身のそれか、塩辛いものが少年の頬を伝う。
それでも、カンの騎士として、シクルはキャプテン・ファーブルに向き直った。
尚、ラックスに撃ち殺された存在は、変身していたインプだという事が判明した。魔王崇拝者は最低2匹のインプをつれていたことになる。
とはいえ、現状では些細な事と言わざるを得まい。
これが冒険の顛末、そして悲劇の幕開けである。