【封印司洞、六道辻】転ずる畜生道
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月23日〜11月28日
リプレイ公開日:2007年12月02日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「おや、アルトさん。巻物持参ということは、六道辻ですか?」
「‥‥そうよ。錬術が忙しいから、今日は私が来たってわけ」
「‥‥ん? アルトさん、もしかして元の性格に戻りました‥‥? おどおどした感がなくなってるんですが‥‥」
「‥‥誰がいつおどおどしたっていうの? ふざけたこと言ってると殺すわよ」
「うぐっ。こ、この台詞回しは間違いなく元のアルトさん‥‥」
ある日の冒険者ギルド。
久々に冒険者ギルドに顔を出した京都の情報屋、アルトノワール・ブランシュタッドは、懐から縄金票などをちらつかせて職員の西山一海を威嚇する。
付き合いの長い友人といえど容赦が無いのが本来のアルトノワールであり、今までの普通の女の子っぽかったりおどおどしていたりする彼女の方がおかしいのだ。
噂では六道辻を作った古の陰陽師、立町という人物の残した術を用いて性格矯正をするということだったが、この様子を見る限り成功したということか。
「‥‥どうでもいいから話を進めるわよ。巻物見なさい」
「あー、やっぱりアルトさんはこうでないと調子がでませんよね。どれどれ‥‥」
前回までの部分をすっ飛ばし、新たに浮かび上がった場所を読み進める一海。
そこには‥‥。
何とか天道を突破するも、二十二人いた調査団のうち十名の意識が戻らず。
どうやら天道に意識を囚われ、その崩壊と共に精神が道連れになった模様。
今回の調査で各六道の突破条件が一定ではないことが判明。
それに伴い、調査団の増員・補充を進言。
次の六道は畜生道であるとのことだが、詳細は不明。
今までの傾向から鑑みるに、獣が徘徊する世界ではとの推察があるも確証はなし。
一先ず、戦闘能力に長けた者を召集しておくべきか―――
「‥‥そういえば、六道珍皇寺で聞いたって言う『黄泉路に挑んだ陰陽師』の話、錬術が調べてたわよ」
「ほう。何か収穫ありました?」
「‥‥あの話、あの寺の住職にだけ口伝で伝えられているみたいね。他の寺にはそんな話残ってないし、陰陽寮でも資料が見つからなかったとか言ってたわ。ただ、例の『立町』って陰陽師、六道珍皇寺によく通ってたみたい。菩提寺にするつもりだったのか、生前に墓も作ってたって言ってた」
「立町さんが黄泉路に挑んだ陰陽師である可能性は高そうですね‥‥。しっかし、黄泉路に挑むって、具体的にはどんな感じなんですかね? 人を生き返らせる研究とか?」
「‥‥さぁ。どんな研究かは寺の坊主も知らないみたいよ。どうせロクでもないことでしょ」
「ひどっ! けどらしい」
「‥‥どこが酷いのよ。その研究で行方不明になったんだから頭悪すぎでしょ」
「‥‥行方不明? 死んだんじゃなくてですか?」
「‥‥話ではそうなってるらしいわよ。ともかく、依頼を出しておきなさい。今日はもう面倒くさい」
「へーい、やっておきまーす」
三度姿を現した六道辻‥‥次なるは『畜生道』であるという。
果たして、今回の展開は。そして、現れる武器は。
知恵と力が試される六道辻は、まだまだ続く―――
「あぁ、アルトさん」
「‥‥何よ」
依頼の手続きを終え、さっさと出て行こうと身を翻したアルトに、一海が声をかける。
無感情でぶっきらぼうに応えたアルトに、一海は笑顔で一言。
「‥‥おかえりなさい」
「‥‥ふん。おかえりも何もないって言ってるでしょ」
「おや、『殺すわよ』は無しですか?」
「‥‥‥‥まぁ一応‥‥ただいまって言っておいてあげるわ。じゃあね」
美しい黒髪をなびかせ、今度こそアルトは立ち去った。
それを笑顔で見送る一海は、やはり性格矯正の顛末が気になるのであった―――
●リプレイ本文
●英気を養え
「ということで、やって来ました第三弾。畜生道、ね‥‥聞くだけで色気がなさそうだ」
「畜生道‥‥本能のみの、牛馬の世界、とか。果たして、いかなる試練が待つのでしょうか‥‥」
「『三欲』に囚われ、理性を失う恐れがあるでござるな。これまでの教訓どおり、己を強く保つことが重要でござろう」
丹波藩南東部、封印を司る洞窟の前。
三度目とあってここまでの道のりは順調そのもので、全員そろって到着した。
これまで続けて参加しているパウル・ウォグリウス(ea8802)や御神楽澄華(ea6526)たちの案内や注意点の講釈を受け、久方歳三(ea6381)たち初参加の面々も準備は万端である。
「けど、いいのかしらね。目の前に目的地‥‥というか危険地帯があるのにこんなにのんびりしてて」
「仕方ないよ。逆に考えれば、よく食べ、よく休んだ万全の状態で挑めるっていうのは貴重じゃないかな?」
シオン・アークライト(eb0882)と雨宮零(ea9527)は、恋人同士での参加である。
お互い強い想いで結ばれているこの二人だが、歴戦の冒険者であるが故に今回の依頼に違和を覚える。
普通、戦場やダンジョンなどに赴いた場合、こんなにのんびりと談笑などできはしない。
洞窟を前に焚き火を囲み、保存食ではない美味い飯を自炊するなど、ピクニックのようではないか。
ちなみに、材料は雨宮の手伝いをしていた河童さんが運んでくれたらしい。
「この辺りには妖怪の気配もありませんしね。健やかな身体にこそ健やかな心は宿るのです」
「畜生道、飼い馴らされた牛馬のように従属、あるいは本能の赴くまま生きる獣ごとし世界。生きる、というのは何事にも換えがたい本能だ。当然俺の中にもその本能はある‥‥」
「‥‥しかし、人と畜生は違う。人間には『信念』というものが各々あるからな―――」
琉瑞香(ec3981)の言うことについて、皆異論は無い。
異論は無いが、何か釈然としないものを感じるのは何故なのだろうか?
それを振り払うように、シグマリル(eb5073)は推察を再開。
紅闇幻朧(ea6415)の言葉に皆が頷くことで、議論に幕が下りたのだった。
突入は、明日。全員が目を覚まし、身支度を整えた後。
三つ目の道は、畜生道。鬼が出るか邪が出るか‥‥果たして―――
●畜生道
洞窟に突入し、例の行き止まりの空間で意識を失った冒険者一行。
次に目を覚ました時に彼等が居たのは、見渡す限りの木、また木。
この森の密度は非常に濃く、日光さえ木々の葉に遮られて届かず辺りは薄暗い。
しかし、雰囲気的には悪くない。
天道ほどではないが空気は綺麗だし、餓鬼道のような悪意も付近に感じない。
ただ、動物の気配が些か多いような気もするが。
しかし、そんなことより一行には由々しき事態が起こっていた。
畜生道に来た瞬間‥‥『全員口が利けなくなった』。
仲間に注意を促そうにも、何かを報告しようにも、愛を語ろうにも言葉が出ない。
今までに無い即効性のあるマイナス効果に、一行は困惑していたが‥‥。
『やれやれ、用意してきて正解だったな』
『‥‥筆記用具か‥‥用意のいいことだ。助かった』
『どうやら今のところ、口が利けなくなる以外の負の条件は感じられませんが‥‥』
順に、パウル、紅闇、御神楽。
こんなこともあろうかと、と人数分の筆記用具を持参していたパウルのおかげで、一行はコミュニケーションを取れる。
実際陥ってみると、口が利けない状況というのはかなりしんどい。
例えば、後ろから肩を叩かれたりすると過敏に反応せざるを得ないのだ。
『し、シオンか‥‥脅かさないでよ。気配だけじゃ誰に呼ばれたのか分からない‥‥』
『ご、ごめんなさい。けど、全員視界内にいるなんて無理よ?』
『どうしましょうか。決め付けは尚早ですが、畜生道も何かを倒せばいいという手合いではなさそうです』
雨宮、シオン、琉。
筆談なので会話に時間がかかるが、無いよりはよほどマシ。
畜生道での負の効果が言葉の喪失だけならいいが‥‥なるべく時間はかけたくない。
『森の気配が変わった‥‥? 気をつけろ、何か近づいてくるぞ!』
『血の臭い‥‥! 何やつでござる!?』
シグマリルと久方がいの一番に察知したのだが‥‥森の彼方から、獣の気配が大量に近づいてくる。
妖気のようなものは感じないが、血の臭いのようなものが嗅ぎ取れる。
どうやら言葉を失った分、感覚や嗅覚が鋭くなったらしい。
ガサガサと無造作に近づいてくる獣の集団‥‥その数、三十ほどか?
一行は一先ず筆記用具をしまい、各々武器を手に迎撃体勢を取る。
御神楽は洞窟突入前にフレイムエリベイションを使用していたが、すでに効果が切れている。
口が利けないということは魔法の再詠唱もできないわけで‥‥地力が物を言うということだ。
やがて一行の前に現れたのは、激しくいきり立ち、口からよだれをたらす狼の集団。
よほど飢えているのか、唸るのもそこそこに冒険者たちに飛び掛ってくる!
(「ちっ、鋭い上に見境が無いな。動きが読み辛いが‥‥ま、やってみせるさ」)
(「連携も何も無い! 全員で無策に飛び掛って来るとは‥‥さ、捌ききれるか!?」)
パウルやシグマリルの心中は、正直穏やかではなかった。
相手はただの獣とはいえ、獰猛な狼。しかも集団で飢えている。
格闘や回避に自信のある面々であれば問題はないが、全員が全員そうではないし、例えそうだったとしても、森という地形で密集せざるを得ない状況において、言葉を掛け合えないというのは非常に痛い。
大方の予想通り、野性の本能全開で襲ってくる猛獣相手に、一行は苦戦していた。
(「まずいでござるよ、指揮系統が! 各々、ぶつからないようにするでござ‥‥うわっ!?」)
(「‥‥邪魔だ、とも言えんとはな。ちっ、敵と味方両方を気にしながらなど戦えるか‥‥!」)
筆談などしていられない以上、目視だけでフォーメーションなど取りようも無い。
久方や紅闇といった回避に通じた面々も、お互いぶつかったりして生傷が増えていく。
刀を振りかぶったら後ろにいた味方を傷つけましたなどという事態も起こってくるのだから始末に終えない。
そんな中‥‥!
(「シオン‥‥僕の背中は君に任せる。そして、例えどんな状況でも、僕は愛する人を支えてみせる‥‥!」)
(「零‥‥やっぱりあなたが居てくれると安心だわ。後ろを気にせずに戦える‥‥!」)
背中合わせになり、自分から見て180度から襲ってくる狼だけを相手にする二人。
二人合わせれば360度全てをカバーできるこの戦法は非常に有効的だが、一朝一夕で出来るものでもない。
言葉がなくとも抜群のシンパシー。まさに息の合ったこの二人だからこそできる芸当であると言えよう。
しかし、逆にこの場において命の危険に晒されているメンバーもいた。
(「ぐっ! だ、誰か‥‥あぐっ、き、救援を‥‥がはっ‥‥!」)
(「琉様!? くっ、敵の手数が多くて助けに向えない‥‥! 誰か、琉様の援護を‥‥!」)
およそ直接戦闘というものに通じていない琉は、狼二匹に取り付かれてどんどん傷を深くしていく。
六角棒『餓鬼道・解』を振り回して応戦するが、飢えた狼は巧みにそれを避けて噛み付いてくる。
他の面々はまだ何とかできるかもしれないが、彼女だけは無理だ。断言してもいいが、助けなければ死ぬ。
それこそ御仏の教えと共にその御前に送られてしまう‥‥!
仲間の危機を察知しても、助けに行けなければ意味が無い。
他の誰かに任せようにも、御神楽がそうであるように言葉が出ない。
こんな、畜生道を突破する鍵なのかどうかも分からない戦闘で仲間を失ってしまうというのか‥‥!?
が、そうはいかない。そうはさせない。
(「こういう時、格好いい台詞の一つも言いたいもんだがね‥‥仕方ない」)
(「誰も‥‥誰も死なせはしません! 焔の闘志は我が胸に‥‥!」)
偶然にも目が合ったパウルと御神楽は、強引に自分の周りの狼を突破して琉の救出へ向う。
それに気付いた久方と紅闇は、二人の援護を行い、狼を引きずり倒す!
(「ごほっ! す、すい、ません‥‥た、助かり、ました‥‥!」)
感謝の言葉も出ないが、琉が何を言いたいのかは分かる。
パウルと御神楽は一瞬笑みを浮かべた後、再び狼の迎撃へ!
どれくらいの間戦っていたのかは分からないが、やがて森から狼の唸りが消える。
後には、思った以上の手傷を負った冒険者一行の姿があった―――
●突破方法は?
一行は各々、携帯していたポーション類で傷を回復したが、かなり傷の深かった琉だけは怪我を治しきれなかった。
怪我人を抱え、言葉も発せず、折角倒した狼たちも畜生道の突破とはなんら関係がないようであった。
未だ畜生道に捉われたままの一行‥‥時間だけが無駄に過ぎていく。
『いかがいたしましょう。よくよく考えれば、途中帰還の方法も不明なわけですが‥‥』
『皆さんお気づきだとは思いますが、だんだん手の感覚が鈍ってきています。このままでは、武器も手に取れなくなる可能性がありますね‥‥』
『あくまで仮想世界の中の出来事なので、実際には薬は減らないのでござるが‥‥現在の手持ちポーションはもうないでござるよ。またあんな集団と出くわしたらそれこそ致命傷でござる』
『不謹慎なことを書くようだが、守護者らしき強力な妖怪が現れてくれた方がまだ気が楽だ。正直、焦れる』
『確かに、どーんと倒して終わりっていう方が楽よね‥‥』
『も、申し訳、ありません‥‥足手まとい、に、なる‥‥ばかりで‥‥』
『無理なさんな。相談は俺たちに任せて、ゆっくりしてるんだな』
『‥‥精神状態に異常が出ないのは救いだな。まぁ、火に対して多少免疫が下がったようだが』
焚き火跡を囲んで息をついた一行は、筆談を再開。
何故か火が恐くなった一行は、一度焚き火をしたのだがすぐに消火してしまった。
雨宮が書いたとおり、全員手がかじかんだ様に痺れ始め、武器を握るのに支障をきたしてきた現状、一刻も早い畜生道突破に臨むしかないのである。
天道よりは長居を許容できるとはいえ、次に猛獣に襲われたらと思うとうかうかはしていられないのだが‥‥如何せん突破条件の想像がつかない。
餓鬼道の時の様に、辺りにいる動物を手当たり次第に倒していけばどうかという意見も出たが、大概は害の無いイタチやらタヌキやらキツネやらで、それを無慈悲に殺戮するというのも憚られると却下された。
では、どうしろと言うのか。
意思でどうにかなるものでもなく、倒すべき守護者も居ない。これでは埒が明かないではないか。
人と畜生の違い。それは何だ?
姿形。言葉。信念。並べ立てるのは簡単だが、それがどう突破に結びつくか‥‥。
(「あ」)
その時、全員がふっと頭に浮かべた言葉。
昨日、久方や紅闇が焚き火の前でさらっと口にした言葉‥‥『三大欲』。
もし、突破条件がそれを断つことであったとすれば‥‥?
『‥‥果たしてそうか? それを断つことが突破条件なら、それを促すような精神状態や事象があって然るべきだろう』
『なら逆に、それを最大限満たすのが条件だとしたらどうだ? 喰う・寝る・遊ぶを人として謳歌するっていうのは』
『却下。その流れだと私と零くらいしか『遊ぶ』を満たせないじゃない。晒し者にされるのは御免よ』
『し、シオンに同感です。全員の命がかかってると言われても、こればっかりは‥‥』
『また破廉恥な提案をするな、パウル殿は』
『可能性の話だ。ケセラセラ‥‥ってな』
と、そんな時である。
筆談に参加できずに寝ていた琉にあるひらめきが起き、字を書くことも困難になってきた手で必死に伝える。
差し出した紙には、『もしかしたら、このまま何もしなければ突破できるかも知れません』と書かれていた。
それを見て、他の面々は首を捻らざるを得ない。
何もしなければ? そんな馬鹿な話があるか。
誰もがそう思った瞬間‥‥世界が歪んだ―――
●条件
「つまり、『支配する側から脱却すること』が条件だったというわけですか。人間は動物を飼い、捕り、支配する生物。その当たり前になっている観念を捨て、畜生の世界で共に在ろうとすることが必要だった、と‥‥」
「立ち向かおうとすればするほど、突破しようと焦れば焦るほど深みに嵌るっていうわけね。分かってみれば単純だけど、傾向を読んで対策を立ててると間違いなく詰むわね‥‥上手いこと考えるものだわ」
現実世界に戻ってきた御神楽たちは、封印の解かれた長槍『畜生道・解』を回収して外に出た。
実際問題、動物が山ほど居る森の中で一定時間殺生をするなというのも難しい話だ。
狼のように襲い掛かってきたら? 食料がなかったら? 歩いた地面に蟻が居たら?
普段何気なくしている行動が、小さな生物の命を奪っていないと何故言い切れるのだろう?
「悪意で物品を封印している術のわりに、随分道徳的な話でござるな‥‥」
「違うね。立町ってやつは人の道徳観‥‥支配観を信じていないからこそ突破条件に選んだのさ」
どうしようもなくなって落胆したり、不貞寝でもすればすぐにでも突破できただろう。
しかし、巻き込まれたのでもない限り、六道辻に挑んだ人間がこういう思考に至る事は少ないはずだ。
兎にも角にも、一行は重傷者を一名出しながらも(傷だけは身体にも反映されているため)畜生道を突破。
琉を治療するためにも、京への道を往くのであった―――