●リプレイ本文
●問い
「カミーユさんは丹波藩の食客、封印を解かせて掠め取りを狙っている可能性は十分に。それに、何も知らされないでは冒険者に造反が起こる危惧もございます。万が一、失敗した時に今の私達には対処の方法がありません。以上三点を御考慮いただいて、隠していることがあれば全てお話いただきたいのです」
フィーネ・オレアリス(eb3529)たちは、出雲へ出発する前にある屋敷を訪ねた。
藤原満定の予定を調べ、丹波へ出立する前に直談判に赴いたのだ。
手討ちにされる可能性を危惧して、保険もかけてある。
同行するのは琉瑞香(ec3981)、島津影虎(ea3210)、山王牙(ea1774)、南雲紫(eb2483)の四人。
「『行動しない賢者より行動する愚者であれ』という格言がありますが、今回はどうなんでしょうね」
「余計な詮索は不要と申されましてもねぇ‥‥。依頼を遂行するに足る根拠が得られねば、此方としても二の足を踏んでしまうのは人情というものでしょう(苦笑)。まして、何やら物騒な物が絡んできそうともなれば尚更です」
琉と島津の二人は聞こえない程度に愚痴をこぼしている。暗に教えてくれないなら働きませんよと牽制だ。
「物騒と言えば、出雲では水神と言われるヤマタノオロチ。陰陽寮では地精霊の一種と言われていますね。大地深くに眠り、支配下とすれば大地の豊穣を得ますが無暗に起こせば大地震を起こすとか」
山王牙は志士のツテで陰陽寮の資料を調べていた。だが復活の伝承や鏡との関連が分からない。
出立の準備に忙しい藤原満定は直訴に来た冒険者達の顔を見て、溜息を吐きつつも、こう断じた。
「カミーユと言う女は放っておけと言ったじゃろう。造反? 神皇様の御為にならんことをしたいのなら勝手にするがいい。暴走は貴様らが対応を間違えなければせんはずよ。話せばわかる相手‥‥神皇様の御為とあれば否が応にも協力するわ。下らん論議はここまで。異議は認めん。さっさと行け、たわけどもが」
そう言って、満定は戦場に向かい、馬を進めた。
振り返ることもなく、丹波藩へと。
「なっ‥‥なんだあの態度は?」
「妄信している様子ですが、騙されている匂いがぷんぷんしますね」
推論だけで依頼拒否は躊躇われるが。影虎は人を頼りに文献を調べたが空振りだった。こんな時は、もう少し自分が知識に強ければと詮無い後悔をしてしまう。
「石の蝶に変化は無し‥‥藤原は人間ね」
南雲紫はデビルの存在を疑っていたが、どうやら満定は人間のようだ。
「モノは考えようよ。他の誰かの手によって復活させられるよりかはマシなのかも‥‥この目で直に確認して、対処できるのんだから自分たちでやった方がいいと云えなくもないかな‥‥」
「そういう連中が最初の犠牲者になるって知ってます?」
「やな事云うのね、察しなさいよ‥‥」
●変化
一足速く出雲入りしたのは四名。
依頼を遂行する気はあるが、乗り気ではないのが正直なところである。
宿を取ったはいいが、祠に向うのは後発組みが合流した後にしたいようだ。
「戦争をやっていたかと思えば、こんな鏡一枚に大の大人が右往左往。それはそれでなかなかに面白いことじゃないか」
ウィルマ・ハートマン(ea8545)は、大事な(?)鏡を凄まじくぞんざいに扱いながら、愛犬と戯れていた。
宿に到着した一行は、祠に向うのを躊躇しつつ、カミーユが現れないか探っていた。
カミーユは色んな意味で怪しい人物。
神出鬼没で、動向も真意も不明瞭。しかも言動も歪んでいるときたわけだから、疑わしく思われても仕方が無い。
「ウィ、ウィルマ様! 鏡をそのように粗末に扱わないでください!?」
「いいじゃねぇか、別によぉ。壊れたら壊れたで、こんな仕事しなくて済むんだぜ?」
「随分荒れているな。‥‥まぁ、気持ちは分からんでもないが」
慌てて鏡を回収する御神楽澄華(ea6526)。やると決めた以上、キーアイテムを手荒に扱われては困る。
上三位たる藤原氏と依頼に反するは、『許さぬ』と断じた丹波の振る舞いに同じと、自らの心を殺して‥‥。
伊東登志樹(ea4301)は気だるそうに宿の壁に寄りかかり、ぱたぱたと手を振っている。
とはいえ、琥龍蒼羅(ea1442)も伊東も御神楽もただ依頼を行うつもりは無い。
京都の何でも屋、藁木屋錬術に連絡を取り、丹波の五行龍に情報を流していた。
即ち‥‥出雲で何かとんでもないものが復活し、丹波が危機に晒されるという旨の話。
それに対抗する手段を講じられるか‥‥それとも、この話自体を信じてもらえないか。
「しかし、異人の私に何をしろと? 詳細を知っていそうな相手の強迫でもするのなら喜んで手を貸す所だが、現地人がよくよく調べて分からんことを探れと言われてもな。例の女も現れんしな」
「ああいう手合いは、自分が面白いと思ったことの本番に出てこないはずがない。どこかで監視していると考えるのが自然だ」
「そろそろ調査や直訴をしていた方々も合流なさるころ‥‥時がありません」
「あー、畜生! 一応今回もやるぜ!? やるけどよ! いい加減、意にそぐわねぇ流れは何とかなんねぇのかよ! そろそろ降りるぜ、俺ぁよぅ! 西山のやつも『依頼書には出雲での秘密任務としか‥‥』とか言いやがるし!」
やがて、日が経ち‥‥冒険者が9人まで合流。
依頼期間も残り少なくなり‥‥ある晴れた日に、依頼は遂行されることとなった―――
●復活
『魔を照らし門を封じる聖なる鏡』。
そういう伝説があるというこの鏡‥‥琉が周囲をデティクトアンデットで警戒するも反応はなし。
いよいよとなり、日光を反射させて、言われた行程を実行する。
「ケッ、鬼が出るか邪が出るか。もしヤバそうなもんなら即ブッ潰してやらぁ!」
「まぁ、場合によってはそれもありでしょうね。後のものをどうしろとは言われてないし、私達を襲ってきたとでも言えば正当防衛にもなるでしょう」
そう、復活させてからその存在を闇に返してしまうと言う選択肢もアリだ。
犠牲者になる人間は皆同じ事を思っているのだが。
山王が持っていたレミエラで鏡の魔力を失わせてあるが‥‥効果はあるか?
そして‥‥いざ、燦々と輝く陽光が鏡に反射し‥‥祠に当たる!
ドクンッ‥‥。
その場に居た9人の背中に冷たいものが走る。
心臓の鼓動のような音が聞こえたかと思うと、それはドクン、ドクンと断続的に聞こえてくる。
いや、聞こえているのではない。魂が感じるのだ。その恐ろしさを、鼓動のような波長で。
鏡自体の魔力を封じても無駄なのか?『この鏡』であることが重要なのか?
今はそう考えるしかなかった。
「‥‥正気の沙汰とは思えません。光を当てた段階でこれでは‥‥!」
「いやはや、今からでも取りやめることをお勧めします。えぇ、是が非でも‥‥!」
「もう、そういう段階ではありません。ホーリーフィールドの効果が切れる前に成し遂げてください」
「得体の知れない、さらに強大な力を持つ者‥‥。そのような者を安易に復活させるのは良いこととは思えんが、ここでやらなくとも誰か別の者がやるだけか‥‥!」
「カミーユさんの姿はなし。魔法にも反応無し。よいのでしょうか‥‥このままで‥‥」
「誰もやらんなら俺がやろう。依頼はしっかりと果たすのが俺の流儀。異存が無いならそれを通すまで」
「‥‥父様‥‥母様‥‥。私は‥‥」
ウィルマの手で鏡が祠に収められた。その、次の瞬間。
ゴゥッ、という凄まじい音と共に黒い光の柱が天を貫いた。
同時にあふれ出るのは、辺りを飲み込まんばかりの憎悪。
憎い、憎い、憎い。
許すまじ、許すまじ、許すまじ。
滅ぼしてやる、滅ぼしてやる、滅ぼしてやる‥‥!
どす黒い衝動を撒き散らしながら‥‥それは神話の時代から蘇った―――
●黄泉の扉
黒い光の柱が立つと同時に、出雲は激しい地震に襲われていた。
震源地は出雲東部。俗に言う、黄泉比良坂と呼ばれる場所がある付近。
今までの調査では異常はまるで感じられなかったのだが、そこでとんでもない事態が起こっていた。
無論、冒険者が居る出雲大社付近のこの街の異変も、充分すぎるほどにヤバイものだが。
地震と黒い光の柱が収まったその場所には、すでに祠はなく‥‥『祠だったものの残骸』が転がっていた。
そしてその場所に在る存在。かさかさに乾いた、ミイラの‥‥女?
全身から迸る憎悪。これが本当に話して分かる相手か!?
「我‥‥復活せり」
突然の地震と光の柱に、付近の住民も大パニックである。
その上、ミイラの化物まで現れたのだから恐慌状態も已むなしだ。
「黄泉人‥‥!? おいおい、どんなのが出てくるかと思えば‥‥立派なバケモンじゃねぇか! しかもどう考えても敵だぜ!?」
「化物、じゃと‥‥? 無礼者めが! 人間風情が我を敵などと‥‥同じ次元とのたまうか!」
ミイラの女の周囲は、地の底から吹きあがる瘴気が渦を巻くようだ。それは巨大な怨念の塊。それはまるで‥。威圧され、迂闊に動けない冒険者達を無視して黄泉の女は逃げ遅れた村人へ近寄る。
村人が殺される。そう思った南雲、島津、山王、伊東が阻止に走るが‥‥!
「邪魔をするな。しもべの相手でもしておれ」
ミイラがくん、と指を天に向けたかと思うと、地面から全長8メートルほどの巨大な人骨が二体出現、冒険者達の前に立ちふさがる。
「これは‥‥がしゃ髑髏!?」
「何てものを呼ぶのか、これ以上無体な後始末を増やさないで欲しいもので‥‥!」
「‥‥っ!? まだ増える!? 新手ですか!」
「おいおいおいおい、なんだよあの骨でできた牛車みてぇなのは!? あれもあの女の仲間かぁっ!?」
足止めを喰らっている間に、哀れ村人は根こそぎ精気を吸収され、息絶えた。
そしてミイラであったはずの女の肌は水気を取り戻し、絶世の美女とも言える風貌へと変化する。
もう彼女が黄泉人関連の存在であることは疑う余地も無い。
「さて‥‥それでは滅ぼしてやろうかの。この国の全てを‥‥大和の王達を!」
「なっ‥‥!? 満定氏のお話では、神皇様のためなら力を貸してくれるはずでは‥‥」
「元々当てにはならんと思っていたがな‥‥。そこの黄泉人。名くらい名乗ったらどうだ」
「我の名を所望するか、人間よ。よかろう‥‥名を聞かれるは久し振りじゃ。我の名は‥‥イザナミ‥‥!」
「うわぁ‥‥すっごく帰りたい」
「イザ‥‥!? ‥‥この国を作り出したと言われる、あのイザナミでしょうか‥‥」
琥龍の質問に対する返答は、フィーネも、琉もにわかには信じられない。イザナミに黄泉に置いてかれたイザナギが神皇に協力すると、満定がどうして思ったのかも理解に苦しむが。
「‥‥。御神楽。どうした、御神楽。しゃきっとしないと死ぬぞ」
「街が‥‥人が‥‥! これが‥‥私たちが選んだ、道‥‥!?」
ウィルマの溜息混じりの台詞も、今の御神楽には聞こえない。死の痛みに苦しむ亡者は生者を道連れにしようと、少しでも生の温もりに触れようと襲いかかる。黄泉の神たるイザナミは次々に亡者を呼び出し、町は阿鼻叫喚に満たされた。
愕然とした表情で、それでも矛をぎゅっと握る御神楽。
そこに。
「あぁ‥‥たまりませんわぁ。あなたのそういう表情が見たかったんですの♪ これなら、骨を折った甲斐があったというものですわね」
『っ!?』
いつから居たのか、どこに居たのか。
話をややこしくする人物‥‥カミーユ・ギンサが心底嬉しそうな顔で微笑んでいた。
イザナミと共に蘇った小型のがしゃ髑髏や骨車などが街を破壊していく阿鼻叫喚の中で‥‥!
「石の中の蝶が‥‥! この羽ばたき、間違いない! 貴様、悪魔か!」
「こちらの魔法にも反応がありました。間違いありません、そこにいるカミーユさんは人間ではありません」
南雲と琉の言葉にも、カミーユは動じない。
優雅な微笑のまま、視線をイザナミに向け、冒険者を見渡し‥‥一言だけ呟く。
「ゴクロウサマデシタ―――」
そして、ふっとその姿が掻き消える。
成果に満足したようにカミーユは、屈辱的な言葉だけを残してこの場を去っていた。
残されたのは、冒険者たちとイザナミ‥‥!
「感じるぞ。黄泉比良坂に封じられた我が同朋も蘇ったか。さて、お主達にはどのように礼を致そうか」
「うるせえ! 頭が高ぇぞ、この干物ババアが! 誰に口聞いてるか分からせてやんよ」
伊東が飛ぶように一直線でイザナミに迫る。ヤバいのが出たら即全殺し。それが彼の選択。
仲間が止める間もない怒り心頭の突撃を、脇から猛スピードで突っ込んできた骨車二機が壁となって止める。急制動で押し潰されるのは避けた伊東の頭上に小型がしゃ髑髏の骨刀が振り下ろされた。
「ちぃぃっ。数が頼りとは卑怯だぜ!」
少しきついか!? 半分は死ぬ覚悟で行かねば止めるのも難しい。
そんな時である。
「間に合いませんでしたか‥‥。本当に、人生とは上手く行かないものですなぁ」
『登志樹ぃぃぃっ! 助けに来てやったぞぉぉぉっ!』
『全員生きとるね!? 掴まり! 逃げるよ!』
なんと、一人伊勢に向かい、アマテラス大御神に話を聞きに行ったデルスウ・コユコン(eb1758)が、五行龍の森忌と刃鋼を連れてやってきたのである。
この胡散臭い依頼で冒険者が頼りとしたのは丹波の五行龍。連絡を取ろうと何人も苦労した。詳しい説明は省くが、伊勢から出雲へ向う際、藁木屋錬術が刃鋼に例の話を伝えている場面に出くわしたのだという。
デルスウは藁木屋の仲介で刃鋼に乗せてもらい、途中で森忌と合流、急いでこちらに来たのである。
「貴様らは‥‥」
あらわれた二体の精霊龍、なおかつ人間の味方をしていることにイザナミは表情を一瞬歪めた。
「森忌の旦那ぁっ! 来て下さったんですかい!?」
「やれやれ‥‥今日は目まぐるしく状況が変わるな。森忌、いいのか。俺たちは‥‥」
『細かいことは言いっこなしじゃ蒼羅ッ! お前たちとの絆‥‥そんなに簡単に崩れんわぁぁぁッ!』
「相手が本物なら準備無しで戦うのは自殺行為でしょうしな。さぁ、さっさと逃げましょうか」
事態を報告するが肝心と一行は一目散にその場を脱出。徐々に小さくなる街から聞こえる悲鳴に耐えて、京都へと―――
●判明
『いくら奇麗事を並べた所で、結果人が死ねばそれはそういう事でしかないものです。これで汚いこともやってきた身ですし、だからそれがどういう事か承知もしているが‥‥物には限度と言うものがありますからな』
冒険者たちがそれぞれの班に別れる前、デルスウはそんなことを言っていた。
五行龍の背中で空を舞う間、一行は押し黙ったままである。
後で分かる事だが、イザナミの復活に呼応するように各地で黄泉人が発生、出雲中で大変な混乱が起きていた。
考えることは多い。
まずは、復活したイザナミを名乗る黄泉人。
石の中の蝶に反応したカミーユ。
藤原満定の真実。
「天照様はそれは本物のイザナミかもしれぬと云われました」
デルスウは十分なつてが無く、伊勢神宮で話を聞くのに時間がかかった。
「イザナミなら、人間に復讐するであろうとも」
慌てて依頼阻止に戻ったが、間に合わず。
‥‥これからどうなるのか。
藤原満定の言ではないが、出雲に近い丹波も危険だろう。
いや、丹波だけの話に収まるのだろうか―――