●リプレイ本文
●援軍と
「さーてと、待ちに待ってたリターンマッチだねー。今度は不覚を取らないよー」
「突ーいて突ーいて突きまくる〜でござるよ。‥‥ちょっと危険でござろうか(何)」
丹波藩南部、多田銅銀山内部。
三度目の来訪とあって、鉱山部分〜遺跡までの行程も大分時間短縮が出来るようになった冒険者一行。
一対のヌンチャクで埴輪を叩き壊す鳳蓮華(ec0154)と、野太刀で突き攻撃を主体にして埴輪を貫く久方歳三(ea6381)を筆頭に、赤銅埴輪へのリベンジを誓って毒霧の中を進んでいく。
シンプルながらも効果の高い解毒剤を染みこませたマスクのおかげで、完璧とはいえないまでも毒の影響は少ない。
「うん、楽ちん楽ちん。私は前回いなかったんだけれど、随分埴輪減ったのね」
「はい‥‥残念ながら。あぁ‥‥これ以上足手まといになっては一条院家の名折れとはいえ‥‥。あっ、これは前回壊してしまった猫さん型の埴輪さんの残骸‥‥。くすん‥‥」
「‥‥それでその盾ですか。自分をすっぽり隠せてしまう巨大な盾など何に使うのかと思えば‥‥」
ステラ・デュナミス(eb2099)が魔法を使う必要もないくらい、現在位置の埴輪密度は少ない。
前回ストームの魔法で端においやった連中の生き残りくらいしか残っていないからである。
本当は埴輪を壊したくない一条院壬紗姫(eb2018)は、前回有効だった『面制圧』を強化したような盾をわざわざ届けてもらい、不殺(不壊?)を貫きたかったようだが‥‥。
溜息を吐きつつ、埴輪をたたっ斬る山王牙(ea1774)。
彼の目的は、『埴輪大魔神の撃破』から『埴輪大魔神の制御』に変わったそうだが、やはり出雲で復活したと噂の黄泉女神の軍勢にぶつけたいからであろうか?
「すぅー‥‥はぁー‥‥。ありがとうございます。やはり新鮮な空気をいただけると、体力の減りも軽減される気が致します」
「戦闘中は厳しいと分かりましたので、戦闘前のコンディション調整に使えればと思いました。幸い、道すがらはストームを連射しなくてもよくなったようですので」
「ただ失敗しましたでは話しにならないからな。しっかりと次に繋がるなら後退もまた戦術だろう」
ジークリンデ・ケリン(eb3225)やステラは、優れた魔法使いではあるが元々の体力がない。
ただでさえ毒霧で消耗しやすくなっているので、ベアータ・レジーネス(eb1422)が使うクリエイトエアーの魔法で新鮮な空気を吸いつつ休憩すれば、ここまでの行程での疲労を回復することもできる。
巨大なハンマーを装備しつつも余裕を見せる真幌葉京士郎(ea3190)だが、内心はリベンジする気まんまんである。
と、今回は8人だけではなく、お手伝いが一人来ていた。
丹波藩から派遣された凄腕魔法戦士の一人‥‥その名は。
「オウ、ザッツゲリラタクティクス! 少しずつ数を減らす‥‥メニーエネミーを相手にする時は有効ネ!」
八卦衆、山の岩鉄。
怪しいイギリス語交じりの、純日本人である―――
●リベンジに向けて
岩鉄の使える魔法は、今のところローリンググラビティとグラビティキャノンの二つだけ。
そのうち後者は遺跡自体に悪影響が出る可能性があるので封印しておけとの厳命であった。
「OKOK! それじゃあミーはRグラビティで援護に回るヨ!」
そんなこんなで、一行は例の赤銅埴輪がいる空間へと接近。
中を覗くと、中央にどんと構えた赤銅埴輪と、相変わらずわらわらいる青銅埴輪が見て取れた。
そこで一行は‥‥。
「鬼さんこちらー、手の鳴る方へーだよー!」
「鬼さんじゃありません、埴輪さんです」
「いや、そこはツッコむべきところではないでござるよ‥‥(汗)」
回避に優れた面々が一旦中に入り、青銅埴輪の注意を引いて通路まで引っ張って、各個撃破するという作戦に出た。
出て来すぎるようなら一条院が例の巨大な盾で入口を封鎖したり、真幌葉がハンマーでつっかえ棒したりする。
「ストーム完了です。ステラさん、ジークリンデさん、お願いします」
「了解。マグナブローも地味に範囲魔法なのよね」
「確か、ファイヤーボムは洞窟・遺跡内では危険ですものね」
「Rグラビティじゃ届かないヨ‥‥(汗)」
加えて魔法使い組みが空間内に魔法を叩き込み(岩鉄以外)、青銅埴輪をガンガン減らしていく。
ストームで密集させてどーん、というこのコンボは中々である。
巨大な火柱が空間内に出現し、部屋を、地面を、天井を焼いた。
「‥‥これで、三。中にはもう殆ど残っていないはずです」
「よし‥‥では仕上げといこうか。燃え上がれ、俺のオーラよ!」
オーラマックスなどで準備は万端。中の取り巻き埴輪も、当初に比べれば僅か。
一行は今度こそ決着をつけるべく、赤銅埴輪の間へと侵入した―――のだが。
●副作用
「‥‥っ‥‥! あ、暑い‥‥!? なんですか、これは‥‥!」
「はぁっ、はぁっ、す、凄く‥‥息苦しい、の、ですが‥‥!」
「いけない、防毒マスクが乾いちゃう‥‥くぅっ‥‥!」
山王、一条院、ステラだけでなく、全員が空間内の異常にすぐ気付く。
マグナブローを何発も撃ったせいか、空間内に熱が篭り、尋常ではない室温になっていた。
しかも空気が乾燥しているので、解毒剤を染みこませたマスクが乾いて効果がなくなってしまう!
見れば、敵は赤銅埴輪が一体と青銅埴輪が二体だけ。
毒霧の影響が濃く出ようと、今が絶好のチャンスなのだ‥‥!
「や、やるしかないよー! レンは残りの青銅をやるから、赤銅はお願いするねー!」
「拙者も突いて突いて突きまくるでござるよ! ここでケリをつけないと、また奥から埴輪が出てきても困る出ござる!」
鳳と久方が、痺れる身体に鞭打って駆け出す。
前回は大きく構えて動かなかった赤銅埴輪も、危険なものを感じたのか今回はすぐに動き出した!
「ストー‥‥」
「それはいけません。空気がかき回されて肌を焼きます」
「ついでに言うと、埴輪に素手で触らないで! かなり熱くなってるはずよ!」
鎧兜で武装しているように見えるが、結局は金属でできている埴輪たち。
熱量の影響が出やすいのは自明の理ではある。
身体を麻痺させる毒霧の影響もあってか、動きが固い冒険者たち。
その隙を逃さず、赤銅埴輪は、飛び上がるように鋭利な軌跡を描いて真幌葉に突撃する!
「ハッハー、今度こそミーの出番ネ! リバース!」
「この鎧(金色の事らしい)を纏った物には、同じ技は2度通じない‥‥真幌葉京士郎、参る!」
岩鉄の高速詠唱でRグラビティが発動、空中で妙な軌道を描いた赤銅埴輪は、タイミングと着地点をずらされたことで真幌葉に突撃を回避されてしまう。
続いて!
「ここからは一歩も近づけさせん。くらえっ、烈風のゴルディオンブレイカー!」
『‥‥っ! っ!(訳:うわぁぁぁっ! ぐっ!)』
真幌葉がレミエラの効果で範囲を調節したソードボンバーを発動。
打ち上げるように攻撃を喰らった赤銅埴輪は、天井にぶつかった後、頭から『ドシャアッ!』と地面に落ちた。
「赤銅埴輪さんの兜が脱げた‥‥かぁいいです‥‥(キュンキュン)」
「‥‥あれ、取れるんですね。何気に凄い技術力のような‥‥っと、今はそんな場合ではありませんか!」
山王が野太刀でスマッシュ+バーストアタックで倒れた赤銅に攻撃。
卑怯などと言っていられない。時間をかければ身体が更に痺れるのだから。
しかし、それでも赤銅は中傷クラス。次いで埴輪とは思えない機敏な動作で立ち上がる‥‥!
「あまーい! 双牙・破砕撃ー!(ストライク+ダブルアタック+バーストアタック)」
「漢・一直線突きでござる!」
青銅埴輪を撃破した鳳と久方が、起き上がった赤銅の脚部を攻撃、文字通り足止めする。
「アグラベイションのスクロールです。‥‥燃えたりしませんよね?」
「ウォーターボール! 金属疲労でも起きたら儲けものよ‥‥!」
八対一となってしまっては、さしもの赤銅も分が悪い。
いや、この時点でまだ動ける時点で大したものではあるのだが、如何せん手数が足りなすぎる。
そして、最後を飾るのは‥‥。
「これ以上部屋の温度を上げたくはありませんが‥‥仕方ありません」
「‥‥赤銅埴輪さん、おさらばで御座います。(ちょっと泣く)」
一行が部屋を退避し、ジークリンデが超越マグナブローを発動する直前、一条院と赤銅の目が初めて合った。
一条院には、その瞳が『ハスタ・ラ・ビスタ・ベイベー』と言っている様に見えたという。
炎の柱の中に消えていく赤銅埴輪の姿は、実に印象的であったという。
「オウ、それは『地獄で会おうぜベイビー』っていう意味だヨ! あの埴輪‥‥見かけによらずポエマーだネ!」
いや、まぁそんな風に見えたというだけなのだが、岩鉄が訳してくれたので彼の遺言の意味も判明した。
だからなんだと言われるとちょっと困るが。
が、そこで一行をまたしても予想外のことが起きた。
マグナブローの火柱が収まり、赤銅埴輪のいた空間の熱が収まりかけていたと思っていた時‥‥ゴゴゴゴゴ、という地響きを伴って、部屋が天井から崩れてしまった!
「嘘ーっ!? なんでー!?」
「いや、そりゃあ冷静に考えればそうだろう。散々魔法で天井を焼いた挙句、俺のソードボンバーで振動を与えたり、極め付き人外威力の火柱だぞ。崩れないほうがどうかしている」
「クレバスセンサーで確認しました。瓦礫を撤去すれば、一応通れなくはないと思います」
「つまり、今回はこれ以上奥には進めないってことね。防毒マスクも乾いちゃったし‥‥完璧に埋まっちゃったわけじゃないけど崩落させちゃうし。『貴様らの頑張りすぎだ』って感じかしら。反省‥‥」
「いいところを見せられたと思ったでござるが‥‥ままならんものでござるなぁ‥‥」
何はともあれ、赤銅埴輪は撃破された。
次は、どんな埴輪が立ちふさがると言うのだろうか―――