【黄泉の国、丹波】支配された町
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月17日〜11月22日
リプレイ公開日:2008年11月23日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海は、自分の作業スペースにいながらも、ぼーっと頬杖などをついていた。
それこそ、知り合いが目の前にやってきているのにも気づいていない。
「えいっ」
「はぶぁっ!? い、いきなり何するんですかっ! ‥‥って、なんだ‥‥アルフさんですか」
「何だとは何よ、ご挨拶ね!」
支柱にしていた肘をすぱーんと払われ、危うく机に顔を打ち付けるところだった一海。
顔を上げて犯人を見やると、それは一海の友人で京都の何でも屋の居候、アルフォンス・ブランシュタッドであった。
流れるような長い金髪と美しい容姿に似合わず、破天荒で活動的なハーフエルフである。
「で? 何をぼーっとしてるわけ? 暇なら遊びにでも行かない?」
「いや、一応仕事中なんですけどね(汗)。ちょっと丹波のことを考えてたんですよ。ままならないなー、って」
「あぁ、悪魔だの黄泉人だのって騒がしいお隣さんね」
「乱暴な言い方ですねぇ(汗)。何の力も無い私が言うのもなんですけど‥‥打開策が思いつかないんです。カミーユさんもイザナミに対する有効手段は持ってないみたいですし、交渉も決裂しちゃったみたいですし‥‥これからどうなっていくんだろう、と」
「放っておく!」
「そのうち京都も危険に晒されますよ!?」
「馬っ鹿ねぇ、その時は日本捨てて、アタシたちの故郷のイギリスに逃げればいいじゃない。イザナミとかいうのだって外国までは追いかけてこないでしょ」
「日本人全員が逃げられるわけじゃないでしょーが! それに‥‥やっぱり、故郷がなくなっちゃうのは困ります‥‥」
「面倒くさいわねぇ。じゃあ丹波の北西の町みたいに、イザナミの支配下で生きてけばぁ?」
「‥‥へ? 丹波の町や村って、自分たちの力で抵抗してるんじゃ‥‥」
「全部が全部そんな頭の悪いことしてるわけないじゃない。藩が負けたのよ? 抵抗したって滅ぼされるだけじゃないの。それより支配を受け入れて少しでも生き残ろうって考えるわ。丹波の西側は、もう殆どイザナミの支配下と聞くわねー」
「そんな馬鹿な!? だって、イザナミに襲われた町や村は壊滅させられて、十万の黄泉軍団の一部にされてるんじゃないんですか!? 豪斬様だってまだ生きていらっしゃるのに‥‥!」
「うーん。あのトンデモ藩主の考え方に藩民の全員が全員賛成してた訳じゃないしね。それにほら、藩がなくなったら年貢納めなくていいじゃない? 生贄を差し出せーとか言われても、とりあえずは年は越せるかどうかの方が切実でしょ」
「あなたはぁっ! 人の命をなんだと‥‥!」
「‥‥何よ。抵抗した方が人は死ぬのよ? 実際に襲われて、選択を迫られたのはあんたじゃないでしょ? 都で頼りになる冒険者に囲まれるあんたが彼らの選択に文句を言えるの? ‥‥アタシだって、それがいいなんて思っちゃいないわよ‥‥」
「‥‥す、すいません‥‥。つい熱くなって、勝手なこと言っちゃいました‥‥」
「別にいいわよ。‥‥じゃあ、その町の解放依頼でも出してあげよっか?」
「えっ、いいんですか!?」
「個人的には余計なお世話なんじゃないかと思うけどね。ま、有効手段が見つからないなら、解放運動でもしながらタイミングを待てば? 何か動きが出るかもしれないし」
アルフが出した、丹波北西の町の解放依頼。
イザナミに支配されて生き延びることを選んだ彼らを責めることなど、誰にも出来はしない。
ならせめて、一時でもその支配から解放してやりたいと言う想いは‥‥ありがた迷惑なのだろうか―――
●リプレイ本文
●配慮
「はぁぁぁっ!」
ざぐん、と鈍くも確実な手ごたえを残し、死人憑きは倒れて動かなくなる。
斬った当人である志士は、油断することなく次の目標を選定する。
「‥‥この程度で俺たちは倒せません。一気に叩き潰しましょう」
呟いたのは、山王牙(ea1774)。彼らが戦っている野原には、『闘破、八雷神』と書かれた旗が立っていた。
「これこれ、こういうのを待ってたぜ! チンピラ冥利に尽きる暴れ祭りだぜぇっ!」
「あのー、本来の目的と違いませんかー?(汗)まぁ、結果的には一緒なんですがー」
伊東登志樹(ea4301)は槍を片手に、久々の圧倒的な大立ち回りに血湧き肉躍らせている。
井伊貴政(ea8384)が軽くツッコむも聞いてはいない。井伊も駄目元で言ったのであまり気にせず、自分の目の前に突っ込んでくる食屍鬼を切り伏せた。
「な‥‥なんでごわすか、あいつらは! つ、強すぎるでごわす!」
件の町に常駐しているという黄泉人は、不審な連中が街中に潜入し、何やら企んでいるようだという報告を聞いてその排除に当たった。これは町を任されている身なのだから当たり前だ。
しかし、手勢として連れて行った不死者たちがにべもなく駆逐されていく様を目の当たりにし、驚きを禁じえない。
「残念だが、私たちはもっともっとヤバい修羅場を潜って来たんだ。今更こんな程度でやられるものか!」
「驕りは禁物だ。まだ敵戦力は村に残っている。増援も視野に入れておかねばな」
鷹村裕美(eb3936)もアンリ・フィルス(eb4667)も、敵戦力を圧倒しながら敵指揮官を狙う。
そう‥‥ここにいるメンバーは、殆どが数百、数千の不死者との戦を経験した猛者。
町一つの常駐戦力の、それもその一部程度ではお話にもならない実力と経験を培ってきたのだ。
しかし、ここで黄泉人の指揮官に一つの疑問が生じる。
こんな手練の戦士たちが、どうしてこんなところをうろついているのか。
町に潜入していたというが、何を目的に?
まさか‥‥。
「まさかおはんら、町の開放を目論んでいるでごわすか!」
「否。是は我ら無頼の者が勝手に致した事故。不明があれば直接我らに兵を向けられると良い」
「理屈が通らんでごわす!」
「細かい理屈なんて要るか! お前たちが人間を気に入らないように、私たちもお前たち黄泉人が気に入らない! それだけだ!」
「ぬぅぅぅ‥‥!」
アンリや鷹村だけではない。今ここで戦っている冒険者たちは、無理に町を開放しようとは思っていないのだ。
確かに依頼の主旨は町の開放だが、仮に開放できたとして、再びイザナミ軍に支配されては意味がない。
それどころか、イザナミの不興を買って町そのものが滅ぼされてしまうかもしれない。
その可能性を危惧した冒険者たちは、一度町に潜入し、町人たちの意思を確認し‥‥やはり、開放はありがた迷惑であると言われ、この配慮を実行したのである。
隠れ里の提案もなされたが、地理的にも建設場所的にも無理がある、とのことだった。
「けっ、あとは氷雨たちに任せるっきゃねぇってかよ!」
「それでも、僕たちのやってることは無駄じゃありませんよー。だから‥‥この場でー!」
伊東が道を開き、井伊が走りこんで黄泉人に肉薄する。
井伊の腕力と、アンデッドスレイヤーである姫切でのスマッシュEX。黄泉人でなくとも即死しかねない。
黄泉人は避けることも叶わず、地面に転がる‥‥かと思われたが!
ぎぃん! と甲高い音が響き、井伊の一閃が弾かれる。
井伊の眼前には、骨だけとなった馬と‥‥それに跨る、白骨の鎧武者の姿が‥‥!
「‥‥あれは‥‥只者ではありませんね‥‥!」
遠くから見ていた山王にも感じられるくらい、その鎧武者の存在感は他と一線を画していた。
井伊も伊東もすぐにそれを察知し、距離をとる。
「ほう‥‥巡回中に面白いものに出会えた。この西地区でまだ我々と事を構えようという人間が居たとはな」
「喋った!? それに、この威圧感‥‥おまえまさか、八雷神の一人か!?」
「愚問だな。この人数で我々に戦いを挑み、勝利しかける人間‥‥お前たちは冒険者か。‥‥ふっ‥‥好意を抱くよ」
「はぁ!? 何言ってやがんだ!?」
「興味以上の対象ということさ」
「太母様の腹心、八雷神‥‥是非もなし。我が名はアンリ! 貴殿の名を伺いたい!」
「あえて言わせていただこう! 八雷神、火雷であると!」
「‥‥その名‥‥すぐに戒名に変えて差し上げます‥‥!」
怪骨を叩き伏せた山王は、勢いを利用して方向転換、火雷に突っ込んでいく。
確か火雷は、あの骨馬に乗って地を駆けてきた。
飛ばないとも限らないが、地面にいる間に叩いてしまいたい。
しかし、それを察知した火雷は、左手を上げて黄泉人に合図。すぐに援護の魔法が飛ぶ‥‥!
「私を忘れるな!」
「俺っちもいるぜぇぇぇっ!」
「ふっ‥‥その意気を良しとする!」
火雷は刀と十手を両手で器用に使い、鷹村と伊東の攻撃を捌く。
刀で弾かれた伊東には、何故か電撃がお見舞いされる!
「悪いが我が愛刀は常に雷を帯びているのだよ。迂闊な攻撃は死を早めるぞ」
「本当はあの雷獣と戦いたかったんですがー‥‥あなたも充分お強いようでー!」
「なんとっ!?」
井伊が死角に回り込んで放った一撃。
火雷も反応はしたのだが、COを使わなかった一撃を防ぐことができず、その左脇腹に傷を負った!
「八雷神‥‥一人でも数を減らしたいところ!」
絶好の機会と判断したアンリが、オーラエイベイション専門などの魔法やスクロールでの完全武装状態で切り込む。
その規格を超えたパワーと、鬼神の如き戦闘力を以って、地を蹴ろうとし‥‥急停止した。
「‥‥増援か。無念‥‥!」
予め高台などから町の常駐戦力を把握していたアンリだけに、その登場の危険をすぐに理解する。
火雷がいる状態で、黄泉人も健在。そこに町から戦力が追加されるのでは、流石に厳しい。
合図とともに素早く撤退する冒険者たちに深追いをかけることなく、火雷は苦々しげに呟いた。
「私に傷をつけるとは‥‥侮れん。イザナミ様が気になさるだけのことはあるということか―――」
●神(?)頼み
「まさか神々も冷凍もこんな事になるとは思うまい。‥‥追い詰められてるのかなぁ、俺‥‥」
ちょっと遠い目をしながら、京都のとある鍛冶場前に立つのは、鷲尾天斗(ea2445)。
他の冒険者と別行動をとってまで、京都内である人物に会いたかったのだという。
その人物とは、アリサ・シュヴェールトという鍛冶屋の女性。腕は‥‥ある意味神がかってはいるが‥‥。
「と言う訳でな。アリサに武具の注文をしに来た訳なんだが。」
丹波の状況をかいつまんで話し、今回来た理由を説明する。
アリサも注文とあれば邪険にする理由はないので、真剣に聞いていた。
「んで、肝心の注文内容なんだが‥‥イザナミとか神様あたりが泣いて笑って欲しがるような面白属性の武器を作って欲しい」
こけっ。
「どーゆーことですかぁっ!? ご注文いただけるのは嬉しいんですけど‥‥そんな珍妙なもの、作れませんんん!」
「どの口が言うんだ(笑)。いいか、俺は真面目だ。相手は神代の世の女神、生半可な事では倒せない。ただ、どんな奴でも目の前に意外な物が出てくれば隙が出来る。その一瞬がイザナミのような次元の敵には命取りになるし、俺達にはそれで十分。これは一種の駆け引きだがな。俺は大真面目。これは並大抵の鍛冶屋には出来ない。前に六道の武器を見事(?)に直したお前だからこそ頼める注文だ。頼む! やってくれないか。お代は俺が払うし、おまけに何でも言う事を聞いてやるから! 頼む!」
泣きそうな声で抗議したアリサだったが、鷲尾の真剣な様子に気圧されていく。
途中の『見事(?)に直した』という疑問系が引っかかったが、そうでなくともアリサは自信なさ気だ。
「む、無理ですよぅ‥‥。面白属性の武器なんて言われても、そんなの意識して作ったことありませんし‥‥」
「いいんだよ。おまえさんも自分が斑の多い鍛冶屋だってことは自覚してるだろ? 駄目元でもやってみればいい結果が生まれるかもしれない。やってみなけりゃ始まらんのさ」
「それは‥‥そうですが‥‥」
「別にできなかったからって責めたりしない。一緒に神に挑戦してみてくれないか?」
「‥‥わかりました。新撰組一番隊組長さんがわざわざ来てくれたんです。私も、できる限りやってみます‥‥!」
「代理だけどな(笑)じゃあ、手伝えることがあったらなんでも言ってくれ」
思いもしない行動で打開策を見つけようとする鷲尾。
その結果がわかるのは、どうやらまだ先。この依頼中には無理なようである―――
●『出雲』
「‥‥どうするの、あれ。一応調べてみる?」
「無茶を言うな。出雲大神宮にいったい何があったというんだ‥‥」
丹波藩南部に位置する出雲大神宮。
冒険者の一部‥‥ヴェニー・ブリッド(eb5868)や琥龍蒼羅(ea1442)を始めとする四名は、別行動をとりつつこの場所に向かい、イザナミへの対抗策を模索するつもりであった。
ヴェニーのテレスコープで周辺警戒し、八雷神・黒雷との接触さえ回避して進んだというのに‥‥。
「そんな‥‥肝心の出雲大神宮が、完膚なきまでに破壊されてしまっているとは‥‥!」
「聞けばここには、イザナミを封じていた鏡が偽物と本物の両方あったというではないか。それがイザナミの耳に入り、不興を買って破壊されたか‥‥もしくは、最初から破壊するつもりであったのか‥‥」
そう‥‥出雲大神宮はもはや原形を留めておらず、黒焦げの木材などだけが哀れに転がる焦土と化していた。
がっくりと膝をつく御神楽澄華(ea6526)。アンドリー・フィルス(ec0129)は御神楽に手を貸しながら、この場所が破壊されてしまった理由を思案する。
この様子では文献などが残っていても燃えてしまっただろうし、話を聞ける人も残っては居まい。
焼け跡に転がる焼死体や、すでに何度も雨に濡れたのであろう炭の状態がそれを物語っている。
ここがかなり前の段階で破壊されていることは、誰の目にも明らかであった。
「イザナミが封印されていたのが出雲。そして出雲大神宮の目の敵にされたような破壊状況。これをどう捉えるか‥‥」
「ここにイザナミを再び封じることのできる何かがあったのではないか?」
「違うと思うわ。それならカミーユさん辺りがもっと早くに動いてると思うし。一応、エックスレイビジョンで辺りを探しては見るけれど‥‥成果があるかどうか」
「そのカミーユ嬢は、出てくる気配なし‥‥ですか。そう積極的にこちらへちょっかいはかけないは思いましたが‥‥」
ヴェニーが魔法で探索し、地下への入り口を発見するも、それは以前にも冒険者たちが進んだことのあるものだった。
念のため調べてみても、結局以前と変わりなし。更なる隠し通路なども見つけられなかったという。
イザナミが過去に出雲で立派な社に神として祀られていたという話を四人が耳にしたのは、京都に戻ってからのこと。
とある不思議な洞窟に住むという月の精霊。その話をギルド職員の西山一海に聞くまでは思いもしなかったことだろう。
「どうしましょ。妙なのに出くわす前に帰る?」
「‥‥そうですね‥‥八雷神は勿論、カミーユ嬢も、今となっては騒動の種になる確率が高い気もいたします」
「カミーユが聞いたら怒るぞ。とにかく、鍵となるのは『出雲』という言葉か」
「現地に行くのは厳しいだろう。イザナミの勢力圏をひたすら進むなど、自殺行為以外の何物でもない」
新たに姿を現した八雷神。一か八かの奇策。そして、無残に破壊されつくした出雲大神宮。
そして冒険者たちをあざ笑うかのように、イザナミの計画は水面下で進行していく―――