【激動の刻】地獄から舞い戻る悪魔

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月25日〜03月02日

リプレイ公開日:2009年03月07日

●オープニング

 イザナミが復活し、丹波藩を壊滅させ掌握してから、それなりの時が流れた。
 人類はイザナミ軍と平良坂冷凍という商人一味との戦いの隙を突き、丹波南東部の城を占拠。
 なんとか反撃の糸口らしきものを手に入れた人類であったが、丹波にはあまりに強敵が多い。
 イザナミ軍には、イザナミ本人と八雷神という強大な親衛隊。
 冷凍軍には、不死城、骸甲巨兵、十七夜という元陰陽師の黄泉将軍。
 そして、時には敵、時には味方(?)の不死者を操る悪魔、ガミュギン。
 これらは互いに争いあっているものの、潰しあいを待っていては先に人類が滅んでしまう気がする。
 十七夜の五行龍複製に始まり、イザナミ軍の埴輪大魔神接触を聞きつけた人類は、それの妨害に当たった。
 なんとか埴輪大魔神への接触は阻止したものの、麻痺性の毒霧が漂う遺跡の中では持久戦が出来ず、勝てそうな戦いを惜しくも引き分けとしてしまったのは悔やまれるところだ。
 しかし、そこでまたしても事態をややこしくしそうなことが判明する。
 かつて京都を目指して驀進した埴輪大魔神であったが、テレパシーのようなもので交信を試みた結果、会話こそ成立しなかったものの『護る』とか『王』とか『主』といったワードが読み取れたのである。
 埴輪大魔神が多田銅銀山の奥の遺跡を護るために存在しているのなら、何故京都まで行こうとしたのか?
 そもそも埴輪大魔神クラスの筆舌に尽くしがたい埴輪は、いつ、どこで製造されたのか‥‥?
 イザナミと人類の関係、埴輪大魔神の出自。そして、明かされた平織虎長の正体と悪魔たち。
 今の日本に考えることは多いが、考えている暇もない。
 そして今回動くのは、故郷である地獄に里帰りすると言い残して一時姿を消していた悪魔、ガミュギン。
 当然彼女の耳にも平織の一件は届いているであろうから、それで地獄に戻ったのだろう。
 地獄で何をしてきたのかは不明だが、どうやら多田銅銀山に向かうつもりらしい。
 悪魔までもが埴輪大魔神を狙うのか。はたまた他の目的があるのか。
 多くの謎に答えを見出せぬまま、時の川は流れ行く―――

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3936 鷹村 裕美(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

鷲羽 誠(ea7173)/ 右印 広(ea9674)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451

●リプレイ本文

●あなたの真意は?
「ちゃお。そろそろだと思っていましたけれど、やっぱり来ましたわね」
 丹波藩南部、多田銅銀山内。
 かつて赤銅埴輪がいたとされる、道半ばの中間地点の空間に彼女はいた。
 即ち‥‥悪魔でお嬢様、カミーユことガミュギンである。
「カミーユ嬢‥‥何故、とは聞きません。しかし、一つだけ教えてほしい」
「あら、答える義理は無いですわよね。それに、悪魔に頼みごとをしても良いのですか、正義の冒険者なのでしょう?」
 山登りや鉱山見物をするようには見えないゴスロリドレスを優雅に着こなし、無邪気に笑ってみせる。
 毒霧対策に自作の防毒マスクを着用する冒険者とは、対照的だ。
 今回、冒険者たちは二班に分かれた。
 丹波に調査に行く者と、京都で調査する者と。
 そしてこちらの班でカミーユと一番の接点があるのは、やはり御神楽澄華(ea6526)である。
「実は、わたくしも迷っていますの。どうしたものかなー、と」
「‥‥またはぐらかすのですか?」
「心外ですわね。本当ですのに」
「普段から信用ならない行動を取ってるからいけないんだ。どこかの新撰組一番隊組長代理みたいにな」
「‥‥随分具体的じゃありません?」
「迷っているって、何を? わざわざこんなところまで来たんだから、埴輪大魔神絡みなんでしょ?」
「一応は。でもわたくし個人としては、あんなガラクタには興味ありませんの」
 鷹村裕美(eb3936)や南雲紫(eb2483)も会話に参加する。
 冒険者達は、悪魔と知りながら、カミーユとの破局を避けているようにも見える。カミーユの方も、そう思っているのではと考えるのは幻想か。
「歯痒いな。単刀直入に頼みたいものだ。奥に行きたいのだろう?」
「うわわ、あんまり挑発するようなこと言ったら駄目ですよ!」
 月詠葵(ea0020)に注意され、アンリ・フィルス(eb4667)は肩をすくめる。アンリは一応矛を収めたが、所詮悪魔は悪魔なのだと、その眼が告げているように思えた。
「まぁ、奥に行かないと話は始まりませんけれど‥‥」
「分かるわ、聖徳太子の秘宝なのでしょう? 奥に行くなら、あたし達と協力しましょうよ」
 ヴェニー・ブリッド(eb5868)が気軽な口調でそう持ちかけると、カミーユは乗ってきた。
「あらあら、よくご存知で。まったく、悪魔使いの荒いことですわよね。里帰りしたと思ったら即お使いですもの」
「なんだ、上司の命令で宝探しか?」
 茶化すアンリに、カミーユは微笑で答える。
「ええ、皆様ご存じ無いでしょうか。わたくし、冠を探しているのですけれど?」
 アンリとヴェニーは必死で表情を隠した。笑顔のカミーユがじっと彼らの顔を観察している気がする。
「冠?」
 澄華が頭上の月桂冠に手をやる。
「大丈夫ですわ、わたくしが探しているのは、粗末な草の冠ではありませんもの」
「それなら、金の冠か?」
「その七つの冠候補の入手と、何を天秤に掛けておられるのですか?」
「いいえ。少なくともブランでなければ、冠候補とはならないようですの。この国流に言えばヒヒイロカネですわ。‥‥それで、埴輪大魔神は、核にブランを使っていると聞きましたの。大魔神を破壊してそれを手に入れれば充分冠候補になりえるでしょう」
 冒険者達には、今一つ話が見えない。煙に巻こうとしているのか。
「ほう、そうなのか。だったら迷う事は無かろう」
「いいえ。埴輪大魔神を丹後の為に使えれば、豪斬様は喜ぶでしょう。わたくし、これでも契約履行には拘りますのよ。あんなダサくて目立つ物に頼りたくはありませんが、一応強いんですもの」
 それまで話を聞きに回っていた月詠が口を出した。
「‥‥それなら、ボクたちと協力すればいいのですよ」
「うーん‥‥でもですねぇ‥‥。いくら直属の上司の命令でないとはいえ‥‥」
「なら私たちを敵に回してでも埴輪大魔神を壊してみる?」
「それもねぇ‥‥結構骨の折れる作業になりそうですし‥‥」
「だぁぁっ、どっちなんだよ! お前自身はどうしたいんだ!」
「この場の女の子全員とイチャイチャしたいですわっ♪」
「OK、分かり申した。そこになおれ」
「アンリさん待ってー! カミーユさん本気で言ってるから! 多分!」
「えぇい、なお悪いわっ!」
 大剣を抜きそうになったアンリをヴェニーが必死に止める。
 御神楽の調べによるとガミュギンという悪魔は忠実な悪魔だとか。悪魔相手に、事前情報が役に立つかは分からない。何千年も伏線を張るぐらいは、やりかねない連中だが。
「実は、今日ここに来たのは、下見と皆さんにお会いするためだったんです。先ほどから申し上げていますように、わたくしは今迷っています。なので、みなさんから何かいい条件をいただければ埴輪は壊しません。いかがでしょう?」
「条件って言われてもなぁ‥‥。私たちに人身御供になれっていうのか?」
「大丈夫。痛いのは最初だけですわ♪」
「女の子同士でどうするっていうのよ。ちょっと興味あるのでインタビュゥ」
「あらあら、わたくし悪魔ですもの。生やすくらい朝飯前でしてよ?」
「生やすって‥‥何をなのですか?」
「ナニを♪」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! ←空気の重みが増した音
「‥‥こほん。冗談はともかく、この場で即答しろとは申しません。答えは次の機会でいいですわ」
 そう言うと、何やらスクロールを取り出すカミーユ。
 アースダイブで逃げるつもりだ。
「最後に聞かせて! あなたには、埴輪大魔神を操る術があるの!?」
「ご想像にお任せします♪ でもこれだけは覚えていてくださいまし。悪魔を利用しようなどとは考えないことですわ。悪魔の力を借りたいなら、自分の意思で、自分のために請いなさい。どんな犠牲を払ったとしても、無慈悲なまでに」
 南雲の答えをはぐらかし、意味深な言葉を残して姿を消すカミーユ。
「‥‥いつまでもここで呆けているわけにも行くまい。外に出て山の調査でもした方が有意義ぞ」
「う、うん‥‥。折角だから何か見つけないと、新撰組の名折れなの!」
 アンリの音頭に従い、一行は遺跡を後にする。
 地獄から舞い戻った悪魔は、確実に何かを握っている。
 それが何かは分からないが、今すぐ切り札を切られなかったのは良かったのか悪かったのか。


●歴史の闇
「‥元々、京都ギルドは、陰陽寮から分派した様な組織だろ?
 陰陽寮でも取り扱ってない‥‥ってか、無かったことにされてる様な情報とか、あんた位の重鎮とかが知ってる情報とかあんじゃねぇのかぃ?」
 伊東登志樹(ea4301)の問いに、京都冒険者ギルド元締、弓削是雄は苦笑をこぼした。弓削家は代々続く陰陽師の名門である。是雄も以前は陰陽寮の重職に就いていた。
「ありそうな話だが、明け透けな質問だなぁ」
「余裕がねえのよ」
 伊東は世間の仕組みが分からないほど小僧でもないが。
「山ほどある、としよう。知る必要のない者には知らされない話だ。伊東さんは、それで何か資格をお持ちかな?」
「埴輪大魔神のことだ。あれの作られた年代とか関係情報が欲しい」
「困ったな。どうも」
 秘密には何らかの利害がある。例えば、複数の人物が秘密を共有する場合、漏洩は破滅に繋がる事も多い。金を貰って情報を売る情報屋でも、売る人と売る情報は選ぶ。多くの場合、知りたいから教えてくれでは通らない。
「私が埴輪大魔神の事を知っていたとしよう。知ってどうする?」
「知ってるなら、早く教えてくれよ」
「仮の話だ。私は伊東さんの為に質問していると思ってくれ」
 なるほど秘密を明かせというのだから、品定めは当然だ。元締めは自分を試しているのだなと伊東は察した。
「‥‥で、何を言やあいいんだ?」
「駄目だな全く。うん、まあ情報提供者を安心させ、喜ぶ事を言えばいい。それだけ核心に近づいている必要はあるな」
「そいつが分かってりゃあ、聞きに来たりはしねえよ」
 是雄は溜息をついた。
「どうも最近の冒険者は‥‥伊東さん、まさか話さなければ刀にかけるとか、そんな事はしていまいね?」
「とんでもねえ。俺はこうみえて紳士で通ってる。脅迫なんて一切してませんよ?」

 琥龍蒼羅(ea1442)は文献を調べようと陰陽寮を訪ねた。
「聖徳太子の頃の文献を調べたいのだが‥」
「随分古いですな。えーと、500年頃ですね」
 担当の陰陽師が書類をめくる。推古神皇に仕えた厩戸皇子は504年に十七条憲法制定し、今日のジャパンの皇藩制度はそこから始まる。平安京遷都の計画者でもある神皇家中興の偉人。余談だが天界人に言わせると、少し変らしい。
「陰陽寮が作られる前なので、詳しい書物は殆どありませんねぇ」
「陰陽寮はいつ出来たんだ?」
 記録によれば676年、天武神皇の頃らしい。が、前身となる組織はそれ以前から存在したようだ。
「ははぁ。陰陽寮の成り立ちを調べておられるのですか?」
 書類をめくっていた陰陽師がそう言って顔をあげる。
 520年頃に日英月道が発見され、当時、大陸から仏教と共に入ってきたばかりの五行思想と融合し、ジャパン固有の精霊魔術研究が始まる。摂政だった聖徳太子も関係していた筈だ。
「いや知りたいのは、イザナミの事だ」
「?」
 若い陰陽師は首を傾げる。
 イザナミと厩戸皇子の関係とは?
 パズルのピースは揃っている。後は、並べ方で絵が見えてくる。そうすれば、喪われた欠片もおのずと浮かびあがる‥‥。

「何でヒヒイロカネを丹波に送ったのかね」
 琥龍と入れ違いに、鷲尾天斗(ea2445)が陰陽寮現れた。単に順番待ちをしていただけだが。世の中が荒れると陰陽師を頼る者が増えると、陰陽師は皮肉げに呟いた。
「俺達もちょくちょく利用しているしな。で、丹波の件だが」
「分かりません」
「‥身も蓋もねえな」
 十年やそこらの話ならともかく、数百年以上前の事まで一々記録していたら蔵が幾つあっても足りないと陰陽師はぼやいた。
「ヒヒイロカネは貴重ですから、本当なら何か凄い物が造られた筈です。そちらから調べた方が良いのでは?」
 草薙の剣や天叢雲剣などの神宝はヒヒイロカネ製と言われる。最高級の魔法品の素材である事は確かだ。
「それが埴輪大魔神てのはどうよ? それで製造者は聖徳太子だ」
「また聖徳太子ですか‥‥うーん、摂政だったらヒヒイロカネも使えただろうし、月道を神皇家独占にした張本人ですから、無くは無い推理だと思いますが」
「そうだろう」
「しかし‥‥」
 そんな陰陽寮も無い時代に、巨大ゴーレムを作る技術がジャパンにあったとは、陰陽師には信じられない。
「それに、そんな凄いものを聖徳太子が作ったなら、何故記録が残ってないんです?」
 巨大ゴーレム作りには莫大な費用がかかったはずだ。それは陰陽師として断言できる。摂政が巨費を投じた物が、記録されないなど有り得ない。
「そこはおめぇ、何か訳があったのさ」

「結局、『王・主・護る』の意味は分かりませんでしたか」
 仲間達と京都での調査結果を話し合い、島津影虎(ea3210)は禿頭をつるりと撫でた。冒険者達は陰陽寮や冒険者ギルドを調べ、神皇家や聖徳太子廟まであたってみた。
「五行鎮禍陣でイザナミを封じたのは多分、時代的に太子がいた頃かその後の話だと思う。太子は月道を発見して精霊魔法技術をジャパンに取り入れた。あの埴輪大魔神は太子の作で『主』は聖徳太子、『王』は神皇、『護る』はイザナミじゃないかなぁ」
 鷲尾が己の推理を語る。歴史は答えを教えてはくれない。断片的な情報から、事実を推し量るしかないが。
「陰陽師の方も仰られていましたが、問題は現代より遥か昔に、どうやってあのような巨大な埴輪を作ったかでしょう」
 推古神皇の摂政だった聖徳太子ならば、確かに国家予算を投じ、貴重なヒヒイロカネを使って埴輪大魔神を作り出せるかもしれない。
 しかし、そんな超技術が何百年もあったなら、何故今は無いのか。
「神皇家が出し惜しみしてんじゃねーの? 実は御所の地下に埴輪大魔神の弐号機、参号機が隠されてると言われても俺は驚かねぇよ」
「初号機を丹波の山奥に捨ててですか?」
 埴輪大魔神は、どこかで存在が忘れられた。尋常でない財力を投じて作られたものが、何故失伝したのかは分からない。
 最後に冒険者達は錬術の紹介で京都在住の歴史家を尋ねた。
「おう、貴様らか。錬術めが言っておったのは」
「京都は神皇様守護の元、至る所に術式が巡らせているのは周知の事。何が隠されていようとも知らなければならない。この地を護る為にも、覚悟は出来ている」
 天斗は相当な覚悟で臨んだ。
 どんな新事実が聞かされるかと生唾を飲み込む。
 しかし場所は、学者と言う言葉と不釣合いな貧乏長屋。
「ここまで何も出てこないと藁にでもすがりたくなるというものだ。あまり期待はしていないがな」
「かっ、小僧がほざきよる! お前らはろくに頭も使わんと、答えを教えてもらう事しか考えとらん! 無駄じゃ無駄じゃ、一昨日出直せ!」
 総白髪の、熟年の研究者と言う風体だが、ガラが悪く言葉遣いも荒い。
「無駄とは何だ!」
「イザナミと話したというじゃないか、何と勿体ない。神から見れば、貴様らなど三歳の童子じゃ。縦のものを横にも出来ぬこのトウヘンボクめ!」
 自称歴史家はボロクソに冒険者をけなした。
「生き証人が現れたのでは歴史ほど無駄な学問は無い! 事実がなんぼのもんじゃい! お前らは記紀から何も学んで居らんのか! それなら、イザナミに土下座でもして真実とやらを教えて貰え! わしは‥‥寝る!!」
 ぴしゃりと戸を閉め、自称歴史家は本当に不貞寝した。イザナミの存在が研究者に与えた衝撃はあまりある。本当にイザナミに古代の話を聞きにいった歴史家もいるとか居ないとか。
「歴史の深み‥‥ねぇ」
 冒険者達は途方にくれた。