【激動の刻】その不死城、復讐
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月12日〜03月17日
リプレイ公開日:2009年03月21日
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●オープニング
イザナミが復活し、丹波藩を壊滅させ掌握してから、それなりの時が流れた。
人類はイザナミ軍と平良坂冷凍という商人一味との戦いの隙を突き、丹波南東部の城を占拠。
なんとか反撃の糸口らしきものを手に入れた人類であったが、丹波にはあまりに強敵が多い。
イザナミ軍には、イザナミ本人と八雷神という強大な親衛隊。
冷凍軍には、不死城、骸甲巨兵、十七夜という元陰陽師の黄泉将軍。
そして、時には敵、時には味方(?)の不死者を操る悪魔、ガミュギン。
これらは互いに争いあっているものの、潰しあいを待っていては先に人類が滅んでしまう気がする。
十七夜の五行龍複製に始まり、イザナミ軍の埴輪大魔神接触を聞きつけた人類は、それの妨害に当たった。
なんとか埴輪大魔神への接触は阻止したものの、麻痺性の毒霧が漂う遺跡の中では持久戦が出来ず、勝てそうな戦いを惜しくも引き分けとしてしまったのは悔やまれるところだ。
しかし、そこでまたしても事態をややこしくしそうなことが判明する。
かつて京都を目指して驀進した埴輪大魔神であったが、テレパシーのようなもので交信を試みた結果、会話こそ成立しなかったものの『護る』とか『王』とか『主』といったワードが読み取れたのである。
埴輪大魔神が多田銅銀山の奥の遺跡を護るために存在しているのなら、何故京都まで行こうとしたのか?
そもそも埴輪大魔神クラスの筆舌に尽くしがたい埴輪は、いつ、どこで製造されたのか‥‥?
イザナミと人類の関係、埴輪大魔神の出自。そして尾張で明かされた平織虎長の正体と悪魔たち。
今の日本に考えることは多いが、考えている暇もない。
故郷である地獄に里帰りし、帰ってきた悪魔・ガミュギンは、悪魔としての使命より自分の契約や気分を優先させたいようだが、果たして味方と信用していいものか。
カミーユの言う『いい条件』というのを提示しなければ本腰を上げて敵に回ってしまうと言うことなのか。
と、そんな時である。
頭を抱える人類の下に、『不死城、動く』との報がもたらされた。
冒頭でも触れたように、不死城を有する平良坂冷凍とその一味が、丹波南東部の城を奪取すべく再び不死城を動かしてきたようなのである。
掠め取られた城を今度こそ我が物にという意図なのだろうが、人類とイザナミ軍では戦いの勝手も違うであろう。
折角手に入れた、京都や人類の反抗の拠点。
不死城と骸甲巨兵が相手だからといって、はいそうですかと渡すわけには行かない―――
●リプレイ本文
●決断
「お待ちしていましたわ。答えは出ましたか?」
丹波最南東部。つまりは京都と丹波の国境付近。
丹波藩の領域に入った途端、冒険者たちは聞きなれた女性の声を聞くこととなった。
優雅に笑う悪魔‥‥カミーユことガミュギン。
「‥‥はい。しかと、答えは用意してあります」
すっ、と前に歩み出たのは御神楽澄華(ea6526)。カミーユはそれを聞き、
「何よりですわ。『もうちょっと待って』なんて言い出したら、2〜3人くびり殺して差し上げようと思ってましたの。わたくしも結構危ない橋を渡りますもので」
冒険者達の内情も複雑だ。口出しを控えている者、様子を伺っている者、半ば諦めている者もいる。
利用しようなどと思うな、と悪魔は語った。
ならば、未来のために‥‥悪魔にも力を請うのは責められる行動なのだろうか‥‥?
「まずはボクから。ボク達が提示できる条件は『今後何があっても丹波に協力』、『神剣の材料を提供』、『カミーユお姉ちゃんを祭神にした神社の建立』になりますです」
「一つ目はありがたいのですけれど、二つ目は時間がかかりそうで微妙ですわね。三つ目は却下で」
「何故にー!?」
「悪魔が祀られて嬉しいわけないじゃありませんの」
月詠葵(ea0020)の提案は微妙なラインだったようだ。
半契約してもいいと食い下がるが『男は嫌ですの♪』とスルーされる。
「なら私は、あなたの契約履行の為の刃となる。武士である私があなたに刀を預ける。刀は武士の魂。つまりは、私の心身、力をあなたに預ける。丹波の安息の為ならばその程度の代償、安いものよ。私は人間。人間で沢山だから、人間としてあなたを信じる。目的を共にする仲間として、ね。それが私の決意よ」
「おまえを味方にするためなら、私も契約をしてもいいかなと思ってる。その場合はおまえと私との契約。丹波もイザナミも関係ない。私が思う私の戦う理由のためだけに力になってもらおう。対価は‥‥元々渡せれる物がないのだし、おまえのために働くとか、戦うとか位かな。憑依はしたいなら勝手にしろ。憑依するのなら転ばないように注意するんだな」
南雲紫(eb2483)と鷹村裕美(eb3936)は、より具体的に、協力関係への意見を述べる。
その意思はカミーユにも伝わったようだが、
「うーん‥‥素敵な御意見と申し出なのですけれど、一線を超えるほどでは無いと申しますか、上からの命令を蹴るだけの魅力に欠けますわね」
くん、と交渉している面々の後ろから鯉口を切るような音がする。
どうやらカミーユの言い様が許せないメンバーがいるようだ。
「今は共通の敵が居るから手を組む。だが、お前達が人の世に災いをもたらすのならそれを防ぐ。それが俺の義だ。義を掲げその信念で人を斬るが傍から見ればただの人斬り。そういった意味では俺も壊れかけかも‥‥どぉぉぉっ!?」
鷲尾天斗(ea2445)が自分に注意が行くよう、あえてキツい物言いをする。
月詠がその足を踏んで中断させようとするが、もう殆ど言ってしまった後である。
「まあまあ、そんな事は百も承知ですのよ。だけど、面白くはありませんわね」
まずい、と思ったのか、御神楽がゆっくりとカミーユに近づき‥‥目と鼻の先に立つ。深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。
「これは、神皇家への背信。それでも、イザナミを討ち、丹波を豪斬様の元へ取り戻すことが贖罪となるなら。新たな罪を負い、この身破滅へ進むとも、私は‥‥カミーユ嬢、貴女の力を欲します」
「‥‥あら嬉しい。なら、証明してくださる?」
御神楽は頷き‥‥自らカミーユにキスをした。
それは、御神楽が初めて本気でカミーユを求めた証。深く濃厚な、恋人同士が交わすような熱い口付け。
「ん‥‥ふぅ、あ‥‥」
「くちゅ‥‥ん、んん‥‥」
淫靡な音が辺りに響く。
可憐な女性二人が舌を絡めあう様は、冒険者一行をも釘付けにするほど美しい。
しばしの後、どちらからともなく口を離した。
「くすくす‥‥御神楽さん、不慣れなのですね。初々しくて素敵ですわ」
「‥‥我が身と魂も、貴女に捧げます。この先は、助力の確約後に‥‥。カミーユ嬢、今度はあなたがご決断を」
「決まっていますわ。さして義理も無い上の命令より、あなた方の行動のほうがわたくしにはよほど価値がありました。特に、御神楽さんの壊れかけの心は、またひびが増えたみたいですしね‥‥♪」
くすくすと笑う悪魔に、御神楽はもう動揺することもない。
「悪魔、ガミュギンの名において誓いましょう。御神楽さん、あなたと契約し‥‥その力となることを」
それは、味方になるという宣言。
どこまで信用できるか不明だが‥‥賽は投げられた。悪魔の楔は打ち込まれたのだから。
「あ、でも、南雲さんと鷹村さんとも仮契約しておきたいですわね。女の子に変身できるなら、月詠さんとも♪」
「いちゃいちゃしろってか!?」
「いいじゃありませんの、減るもんじゃなし」
「あなたのイチャイチャは減るでしょうに‥‥」
「い、痛くしないで欲しいのです(?)」
兎にも角にも、カミーユが敵となることを避け、味方とすることに成功したようである。
一先ずの懸案事項を乗り切り‥‥あとは、迫り来る冷凍軍にどう立ち向かうか。
「‥‥たに、さま‥‥」
涙と共に紡がれた、誰にも届かない呟きは‥‥時の濁流に、哀れにも飲み込まれた―――
●巨大なる者
「ぬおぉぉぉっ!? くっ、なんというパワーだ!」
「ヘブンリィライトニングが大したダメージにならないだと‥‥!?」
骸甲巨兵が振り上げた巨大な骨刀をオーラシールドで受け止めたアンリ・フィルス(eb4667)は、魔法をフル動員しているにも関わらず数メートル弾き飛ばされた。
いや、逆か。超人的な腕力を持つアンリだからこそ、弾き飛ばされるだけで済んだのだ。生半可な人間では、盾を持つ腕ごと潰されている。
ペガサスに騎乗した琥龍蒼羅(ea1442)は攻撃魔法の中でも高威力を誇るヘブンリィライトニングを撃ち込む。
冷凍は不死城を前進させず、骸甲巨兵だけ出撃させて来た。様子見か。
敵は一体と聞けば楽そうだが、骸甲巨兵の名と姿を見た在留京都軍の面々は、膝が震えている。
それもその筈、以前イザナミ軍をたった一体で抑え、八雷神を相手に優位に立ったのだ。ただでさえ、巨体と恐ろしげな姿は足軽達を竦ませるに十分。
まともに迎撃に出られたのは冒険者たちだけだった。
「こいつっ!? アンデッドスレイヤーを無効化しているだと‥‥!?」
「十七夜もレミエラを研究しているのでしょうか‥‥って、うわわっ!?」
骨刀を回避して懐に入る南雲を、月詠が援護した。強敵を前にして、熟練の冒険者ならではの呼吸の合わせ方は、見つめる兵達に勇気を伝えた。
「やるな、魔法の抵抗力を上げてきたか」
ライトニングの効きの悪さに琥龍の感嘆の息を漏らす。前衛の戦士を強化するは戦闘のイロハ。魔物相手と考えていれば足元をすくわれかねない。
「ならば、拙者が砕いてくれよう」
アンリは石の王を強く握り締めて攻め込む機を待った。
「葵‥‥私たちで何とかするぞ」
「はいなのです! 一人では駄目でも‥‥!」
動きを止めた月詠に、骸甲巨兵が骨刀を振りかぶった。頭上から月詠に降り注ぐ必死の一撃!
仲間に迫り来る刃を、少しでも外そうと、南雲が魑魅魍魎刀を合わせる。
「ぐぁぁっ!?」
激しい音がして、刀を取り落とす南雲。更に上空の琥龍がストームを巨骸兵に浴びせかけた。
「化物め‥‥! アンリ、この機を活かせ!」
勢いよく振り下ろされた骨刀は月詠の真横、地面にめり込んでいた。月詠が刀の背に乗り、咄嗟に骨刀を引けない骸甲巨兵にアンリが襲いかかる。
「委細承知! 砕け、石の王ッ!」
スマッシュEXで骸甲巨兵の右足めがけ、強烈な一撃を放つアンリ。
願いは‥‥通った! 鈍い大音響を上げ、骸甲巨兵の右足は足首辺りでボッキリと砕ける!
バランスを崩した骸甲巨兵は、後ろのめりに地面に倒れ付す!
「好機‥‥逃しはせんぞ!」
アンリは追撃を試みるが、倒れた拍子に引き抜けた骨刀に薙ぎ払われる。
「しまったっ!」
黒い霧となって霧散した骸甲巨兵は、南雲の中へと雪崩れ込む!
「ぐあぁぁぁぁっ!? こ、これ‥‥が‥‥、おん、ねん‥‥!?」
自分を見失いかねない程の黒い衝動と感情の津波。
心を焼く怨念の塊が抜け出た後は、立ち上がることすらできないくらい精神が疲弊していた。
しかも、再び実体化した骸甲巨兵は‥‥!
「あ、足が戻ってるのですよ!? インチキなのです!? 詐欺なのです!?」
「いや‥‥あれはくっついているだけだな。弱っていることに違いは無い」
復活した骸甲巨兵は地面を抉るような軌跡で骨刀を振りぬき‥‥!
「逃げる!? やつめ‥‥そんな知恵もあるのか。侮れん‥‥」
なんと一目散に退散した。
巨体の足には敵わない。琥龍も深追いは避けた。
ともかく、冷凍の第一陣は撃退した。そして―――
●贋作
ズガァァァァァンッ!
何度目かの雷光が不死城を捉え、その外壁を抉っていく。
雷神の槌とさえ形容できそうなライトニングサンダーボルトを放ったのはヴェニー・ブリッド(eb5868)。
確かに雷光に焼かれた箇所は黒こげとなるが、時間を置けば周辺の骨と死肉が盛り上がり、元に戻ってしまう。
「まったく、何よあれ。死体の流体肉幕とでも言うのかしら」
「何ですかそれは‥‥再生、でしょうか。いやはや、胸焼けしそうですよ」
島津影虎(ea3210)は顎に手をやりながら、不死城を見上げる。
遊撃部隊として不死城に近づいた面々は、近づくには近づいたが大質量を前にして決定打に欠けた。
最大火力を誇るヴェニーの極大魔法を以ってしても、ダメージは与えられるが落とせそうにない。城攻めには少々戦力不足といった所か。
「‥‥来るぞ。オーラセンサーに反応だ。数は1みたいだな」
鷲尾が見やった方向から、見慣れた精霊‥‥五行龍の森忌と氷雨が近づいてくる。
しかしそれは、十七夜によって作り出された贋作である。
そして‥‥
「くっくっく‥‥ようやっと姿を現しやがったかぁ! 今日こそケリぃつけちゃるぜぇぇぇ!」
「っていうかおまえ、べたべたなままだと迫力ないからな?」
伊東登志樹(ea4301)は、何故か全身べとべとになっていた。
五行龍の芭陸の『口の中』に隠れると言い出し、渋る芭陸をなんとか説き伏せたものの、ものの数分もしないうちに芭陸が息苦しさで吐き出してしまったのである。
ツッコミをいれた鷹村は、『飲み込まれなかっただけありがたいと思え』とも言っていたが。
「あいも変わらず邪魔な連中め‥‥! 芭陸と一緒とは‥‥!」
元陰陽師の黄泉将軍、十七夜。森忌の贋作の背に乗り、忌々しげに吐き捨てた。
その時、十七夜の指示もなくニセ氷雨が大口を開けて一行に攻撃を仕掛ける!
「おっと!? これはこれは、偽者の氷雨殿は随分野性味に溢れていますね」
「ふん‥‥知性までは写し取れなかったか。これでは獣と変わらんな」
「そのようだが、あれはあれで困る。こっちは傷つけまいと必死なんだぞ」
島津がニセ氷雨を撹乱してくれているが、こちら側から攻撃できないのでは圧倒的に不利である。
偽者を攻撃すれば本物にも同じ傷が与えられ、偽者が死ねば本物も死ぬ。
これは偽者と本物との間にどれだけの距離があっても同様らしい。
南雲と鷲尾は、最初から偽者を攻撃する気はない。狙うは十七夜のみ!
「ちぃっ、集中できん‥‥! 貴様ら、そうまでして邪魔したいか!?」
「あたりきしゃりきのこんこんちきよぉ! 例えテメーの術でイザナミを封印できるとしたってなぁ、また新しく脅威が出来ちまうんじゃ意味ねぇーだろーが! 森忌のダンナのことから、今までの諸々のオトシマエ込みで今度こそ逝っちまえやぁぁぁ!!」
「その森忌と繋がっている贋作に乗っていることを忘れるな! その手にした槍を投げつけてみるか? 私は喜んで贋作を盾にするが、構わんな?」
「相変わらずはどっちだよ。ヴェニー、十七夜だけ狙えないか?」
「うーん‥‥電撃系だとどうしてもニセ森忌さんのほうまで影響が行っちゃうわねぇ‥‥」
「だからと言って集中させては芭陸の複製を取られる! 澄華、そっちはどうなんだ!」
「準備は整っています。島津様!」
「ご随意に」
南雲はソニックブームでの牽制に忙しい。御神楽に策があるとかで、島津にニセ氷雨を誘導してもらったのだが‥‥!?
「六道武器‥‥畜生道・解。藁にもすがる想いですが‥‥!」
見た目はただの長槍。しかし、それがニセ氷雨にヒットした瞬間、十七夜に焦りが出る!
「馬鹿な‥‥傷写しが発動しない!? あの武器にそんな能力は無かったはずだ!」
「クスクス‥‥あなたの術で長年封印されていたから、あなたの術に対して耐性でもできちゃったんじゃありません?」
「貴様‥‥カミーユとか言う悪鬼だったな。おのれ、こいつまで味方に引き入れたのか!?」
流石に不利と判断したのか、十七夜は芭陸の複製を取ることを諦める。
逃がすまじ、としたものの‥‥!
『お戻りなさい、十七夜さん。どうやら骸甲巨兵も退けられてしまったようですからね‥‥!』
不死城の壁部分から巨大な白骨の手が伸び、叩きつけるように冒険者たちがいた辺りを平手打ちする。
不死城に近づきすぎてしまっただろうか? 幸いにも巻き込まれた者はいなかったが、その混乱の隙に十七夜と贋作たちは撤退してしまった。
遠ざかっていく不死城を、一行は見送ることしか出来なかったと言う。
しかしそれでも、不死城を初めとする冷凍軍の戦力に大勝したのは間違いなかった。
そのことと、カミーユを味方に引き込んだことが吉と出るか凶と出るかは‥‥また、別の話―――