【反転攻勢】死が通り過ぎた跡
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月23日〜06月28日
リプレイ公開日:2009年06月28日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「どうやら砦は占拠できたみたいですね。これで反撃は確実に出来ることがわかったわけで、大収穫ですね♪」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海と、その友人である何でも屋の藁木屋錬術は、ついに始まった丹波での反攻作戦について話していた。
精霊龍、埴輪大魔神、果ては悪魔の力まで借りて行った反撃の第一歩は、随行した京都軍に多数の死傷者を出しながらもなんとか目的の砦を奪取し、京都から送られた後続の駐留軍が占拠・掌握している。
しかし、この戦いで新たな八雷神と目される完璧なコピー能力を持つ敵が姿を現し、丹波に八雷神が集結するのではという危惧が現実味を帯びてきたのも確かである。
「ふむ‥‥今はまだ戦線が京都に近いから良いが、今後補給線が延びるとなると危ないな」
「兵力が足りない‥‥ってことですよね? 先の京都決戦の時みたいに、あちこちから集められないんですか?」
「‥‥死んだ人間は戻らない。怪我が癒えた者を集めたとしても、あの戦いで刻まれた心の傷と恐怖を残した者も多いだろう。またあれと戦えと言われたら逃げ出してしまうかもしれない」
「士気が低すぎる‥‥ってことですか‥‥」
とは言うものの、京都上層部はそんなことをお構い無しに次の一手を指示してくる。
砦を奪えたことに気を良くしたのか、ここは攻めあるのみと判断したようだ。
「それで、依頼の内容は?」
「それが‥‥」
藁木屋の問いに、一海はばつが悪そうに紙を差し出す。
そこには、『亀山城から三里西北西に向かった先にある村に拠点を構築せよ』と書かれている。
流石の藁木屋も、『‥‥何?』と呟いて眉をひそめた。
「確かこの地域は、京都決戦の時に五万のイザナミ軍が通過して焦土と化した場所だろう。村人は逃げ出したのかもしれないが、今では村とは名ばかりの廃墟になっているはずだが」
「だからこそじゃないですか? 廃墟のまま遊ばせておくより、拠点を作って少しでも勢力圏を広げたいのでは‥‥」
「簡単に言うが、拠点の構築というのはそう簡単ではない。ましてイザナミ軍の襲撃に堪えられるだけの拠点となると、二ヶ月は見積もりたいところだ。しかもその間、一切の邪魔が入らないと仮定して‥‥だぞ」
「そ、そんなにかかるんですか?」
「むしろもっと時間が欲しいくらいだよ。今回は構築場所の確認、よくて下準備といったところだろうね」
「周辺をうろついているであろう不死者の撃破も含めるってわけですね。そうなると‥‥」
大勢で動けば目立つし、敵に気取られやすくなる。それは今までで充分学んだ。
噂される新たな八雷神候補もまだいるだけに、それらの襲来も視野に入れたい。
まずは、目的地周辺の安全確保が最優先か―――
●リプレイ本文
●本音
「只今戻りました。このまま西へ直進すると不死者の一団がうろついていますので、少し南寄りに迂回した方が安全でしょう。例の村の跡にも小規模ながら居るようなので、我々の出番でしょうか」
「了解っと。しかし、すまんなぁ。道中ずっと行って帰ってだ‥‥流石にしんどかろーに」
「それはまぁ(苦笑)。しかし、偵察は私の得意分野ですからね。これで後始末が楽になると思えば」
丹波藩南東部。亀山城を出て更に西側へ進む一行は、島津影虎(ea3210)に偵察を一任し、なるべく不死者の居ないルートを通って件の村へ近づいていく。
何故かと問われれば、百名近い工兵をつれているからに他ならない。
島津しても彼に労いの言葉をかけた鷲尾天斗(ea2445)にしても、冒険者だけなら野良不死者に遅れをとることは無い。
しかし、普通の兵ならともかく工作道具を満載にした技術屋に近い工兵では戦闘力は望めない。
餅は餅屋、適材適所。戦闘では役に立たなくても、今回の主目的‥‥拠点構築の下準備には、冒険者の戦闘力以上に彼らの人数と技術力が必要とされているのは明らかなのだ。
「偉い者は安全な京都にいて、死んだら不死者の列に加わるような最前線に家族を残して行かねば為らぬであれば士気が上がるはずもないだろうに」
「イザナミの勢力下での拠点構築‥‥上も無茶を言う物だ。確かに拠点は今後の侵攻には必要だろうが、な」
「死ねば不死者の列に加わる凄惨な戦場にて酷使される兵士の心情は痛いほど分かります。しかし、其れを理解して尚、進まねばならぬので御座います」
アンリ・フィルス(eb4667)は、ほぼ例外なく暗い顔をしてとぼとぼと歩く工兵たちを見て思わず呟いた。
確かに人類は反撃を開始したのかもしれない。新たな砦の占拠にも成功したのかもしれない。
が、その作戦時に出た怪我人や殉職者のことを考えれば士気など上がろうはずも無い。
京都上層部が無茶を言うのは今に始まったことではないが、琥龍蒼羅(ea1442)にしても他に代案を出せるわけでもない。
ジークリンデ・ケリン(eb3225)が言うように、分かってはいるがやるしかないのが現状なのだ。
幸い、彼女には準備における秘策があるとのことだが‥‥?
「このまま何事もなく事が進めばいいけど‥‥まぁ、無理だろうな。囮のみんなは大丈夫だろうか‥‥」
工兵たちの心を映すかのようにどんよりと曇った空を見上げ‥‥鷹村裕美(eb3936)は呟く。
姿や能力を写し取る八雷神(?)の他にも、丹波には八雷神の大部分が集結しているとの情報もある。
神出鬼没な八雷神たち‥‥本体であるこちらも、決して安心は出来ない―――
●焦燥
「‥‥つまりませんわ。やっぱり元は男なのがいけないのかしら」
「うわっと!? はれ!? も、もういいのですか?」
「ええ。あなたには負の思念が少なすぎて居心地が悪いんですもの。ぬいぐるみのように外観だけ愛でて満足しておきます」
「う‥‥微妙に傷つくの‥‥」
『‥‥何をやっているんだか。まぁ、暇なのは確かですがね』
亀山城から西方面へ本体が進んでいるその時、囮組みは先日奪取した砦から更に北を目指していた。
こちらにはカミーユ・ギンサと埴輪大魔神、土角龍・芭陸が所属しており、遠目からでも良く目立つ。
戦闘を回避して隠密行動を旨としている本体とは対照的に、あえて存在を誇示するように進む。
その最中‥‥例によって仮契約者に憑依したいと言い出したカミーユに対し、予め予想していた月詠葵(ea0020)は禁断の指輪で女の身体となり、自ら志願した。
最初から微妙なリアクションではあったが、憑依してわずか五分足らずで月詠の身体から出てしまうカミーユ。
かつて無邪気美と言われた月詠では、悪魔との相性は悪そうではあるが‥‥。
「‥‥しっ。どうやら囮の役は果たせそうですね。‥‥命があれば、ですが」
「隠そうともしないこの禍々しき気配‥‥明らかに普通の不死者とは質が違います‥‥!」
芭陸が言っていたように、今までの道のりではさしたる敵と遭遇せずに来れた。
しかし、山王牙(ea1774)や御神楽澄華(ea6526)が察知した気配は、その発生源が只者でないことを誇示するかのように、周囲に邪悪な波動を撒き散らしている。
まだ目的地とした村までは距離がある。しかも、場所は足元の悪い下りの山道。
一行は身構え、道の先から近づいてくる気配を待ち構えた。
そして、そこに姿を現したのは‥‥
「ぁ〜‥‥。お前らか‥‥派手に祭りをやってるのは。俺にも戦わせろ?↑」
「その口調‥‥例の物真似八雷神か! 最悪の脚本だな‥‥!」
南雲紫(eb2483)が歯噛みをしたのも無理は無い。
その姿は十歳くらいの男の子なのだが、口調と仕草に癖がありすぎる上に子供のする表情ではない。
相手の姿、能力を完全にコピーするこいつにカミーユをコピーされたら、下手をすると埴輪大魔神のコントロールを奪われかねない。それでなくともアンデッドコントロール能力を使われるのは厄介だ。
想定しなかったわけではないので、一行は素早くカミーユの姿を隠すように壁状に立ちはだかって視線を遮る。
「きゃっ。お姫様気分ですわ♪」
「そんな場合ですかぁぁぁっ!?」
「カミーユ嬢、ここは誰かに憑依して姿を写し取られないようにしてください! カミーユ様の姿をあんなやつに好き勝手されるのは嫌でしょう!?」
「あら、流石御神楽さん。私のことをよく分かってくださっていますわね♪ でも、多分大丈夫ですわ」
月詠や御神楽が意味が分からないという顔をしている間にも、コピー雷神(と冒険者は呼んでいるらしい)は南雲へとその姿を変え、なおも近づいてくる!
「‥‥俺に任せてください。みなさんは念のためにカミーユさんの護衛を」
「要らないって言ってますのに!」
カミーユの講義をさらっと無視し、山王は物干し竿を手に攻撃を仕掛ける!
スマッシュ+ソードボンバーによる、防御不能な一撃。決まれば並みの不死者なら軽く撃破できるが‥‥!
「よせ、牙! 私を模倣したなら‥‥!」
「ほぉ‥‥この身体‥‥軽いな。楽しめそうだ‥‥!」
「何っ!?」
山王の一撃を突っ込みながら回避したコピー雷神は、そのまま山王に刃を突き立てる!
ポイントアタックを使ったその隙間狙いの一撃で、さしもの山王でも右肩が使い物にならなくなってしまう!
「牙お兄ちゃん! みんな、一斉にかかりましょう! いくら紫お姉ちゃんを真似しても、五体一じゃ無理があります!」
山王を下がらせ、月詠を筆頭に残りのメンバーが身構える。
そして、まずは芭陸が‥‥!
『小生の体躯を避け切れますかね?』
鋭い角を突き出し、山道を突撃する芭陸。
山道を大きく占有する芭陸の体積。流石に避けられまいと誰もが思ったが‥‥!
「ざぁんねん!」
『っ!?』
息を呑むような芭陸の思念が広がった後、その巨体が金縛りにあったかのように急停止する。
それは慣性の法則を全く無視した、ありえないブレーキ。
その巨体の先には‥‥彼の角を片手で掴み、笑顔を浮かべる銀髪の女がいつの間にか佇んでいた。
その足元は軽く陥没しており、激突の衝撃を物語っているが当の本人は涼しい顔だ。
『‥‥動かない‥‥!? どこにこんな力が‥‥!』
「こんなんじゃ満足できないわねぇ。鳴雷(なるいかずち)、ちょっとは楽しめそうなわけ?」
「そこそこな‥‥。とりあえず、その邪魔なのは捨てろ‥‥折雷(さくいかずち)」
「はいはいっと」
折雷と呼ばれた女は、なんと角を持ったまま芭陸を片手でこともなげに持ち上げ‥‥
「そうか‥‥あれが鎧を素手で引き裂くとかいう八雷神‥‥!」
『ぐっ‥‥小生のことは心配なく。みなさんは戦闘に集中を‥‥!』
「芭陸さん! 芭陸さぁぁぁんっ!」
ぶん、と無造作に山の斜面へと放り投げてしまう!
木々をなぎ倒して転がり落ちていく芭陸。その心配をするには、相対している敵はあまりに危険だ!
「埴輪大魔神!」
珍しく焦ったようにカミーユが指示を出し、最後尾に控えていた埴輪大魔神が折雷に殴りかかる!
それに対し、折雷は両手を突き出して受け止めに回った!
「おぉぉぉぉっ!? あっははははっ、いいわねぇ! 噂どおり結構やるじゃないさ、この埴輪!」
信じられないことに、5〜6メートル後退しただけで埴輪大魔神の拳を受けても無傷!
純粋に圧倒的なパワーを目の当たりにして、さしもの冒険者たちも開いた口が塞がらない。
「だ‥‥だからと言って! 素手で槍を受け止められるわけでなし‥‥!」
槍を手に、折雷に突撃する御神楽。
いざとなれば盾になり、他のメンバーが逃げる時間を稼ぐつもりだったが‥‥
「っ!?」
折雷の手に電撃のようなものが纏われていることに気付き、急ブレーキをかける。
バーニングソードを手に付与するようなものだろうと瞬時に判断したのだが、折雷の自信に満ちた薄ら笑いを見て更に直感したのだ。『あれは刃物でも受け止める。このまま突っ込めば芭陸の二の舞になる』と。
しかし、その隙を逃すほど鳴雷は甘くない。
「どうした‥‥戦わないのか!?」
「そんなに戦いたいなら、僕がお相手しますですよ!」
「生憎、私の真似をされたままでは沽券に関わるのでな‥‥!」
月詠と南雲がフォローに入り、その攻撃を弾く。
しかし、山王が負傷、芭陸が戦線離脱。埴輪大魔神(カミーユも)は折雷とにらみ合い。
退き際を間違えると、無尽蔵の体力を持つ相手が有利になるばかりだ。
「皆様、退きましょう! なんとしても時間を稼ぎますので!」
「焦りすぎですわよ、御神楽さん。その役なら私と埴輪大魔神でやりますわ」
「しかし、カミーユ嬢‥‥!」
「あの折雷とかいうのに腕でも掴まれてごらんなさい。人間では一瞬で肩口から引っこ抜かれますわよ」
想像に難くないとはいえ、怖いことをさらりと言って前に出るカミーユ。
八雷神の二体までもが引っかかってくれたのなら囮としては充分ではある。
「これで終わりってことはないでしょ? 満足させて頂戴よ!」
「苛々させるな‥‥戦えぇぇぇっ!」
「カミーユ嬢、無理はしないでください! あなたは‥‥!」
あなたは‥‥なんだろう。御神楽にとって、悪魔のカミーユとはどういう存在なのか‥‥御神楽にはまだ答えが出せない。
振り向かずに右手を上げるだけで答えとしたカミーユに任せ‥‥一行はその場を引き上げたのだった―――
●成果
「おーい、こんなものでいいのかー?」
「結構です。それでは、ストーンの魔法を御照覧あれ」
そのころ、本体では順調に工事の下準備が進んでいた。
イザナミ軍の進軍ルート上にあったこの村は、家屋もほぼ全壊状態でそのままでは拠点としてなど使いようが無い。
が、それもあってか明確な防衛隊が置かれていたわけでもなく、今は骨組みの手伝いをしていた鷹村たちの手によって付近の野良不死者は速やかに撃退され、周囲の制圧を完了。作業に専念していた。
長い竹竿を縦横に組みんで作った城壁の骨組みから作業員が離れると、ジークリンデの魔法でそれらが石化。
続けて‥‥
「我らも手伝い申す。この重さも、京を守るための力となると思えば幾分マシとなるものよ」
「こ、こんなのものを一人で運べるのはアンリ殿くらいのもので‥‥!」
「‥‥お、俺は、こういう仕事には‥‥向かんと思うが、な‥‥!」
藁束をこれまたストーンで石化して核とし、更にアイスコフィンで固めたブロックのようなものを骨組みに合わせて積み上げていく。その上で土をかけていき、またしてもストーンで仕上げる。
地道なように見えて、一から拠点を造るよりよほど速く壁を構築できる秀逸なアイディアなのだが‥‥お察しの通りジークリンデの魔力消費がえらいことになってしまう。
工兵たちと同じ目線で活動しようと自分たちもブロック運搬に従事し、泥にまみれるアンリたち。
まぁ、楽に作業ができるのはアンリだけで、島津と琥龍は二人がかりでブロックを一個運んでいるが。
「もう三途の川で釣りはしたくねぇし、この読みは外れて欲しいと思ったもんだが‥‥いざ何事も無いと物足りないなぁ。いや、作業がはかどるのは良いんだけどさ」
「言いたいことはわかるさ。こっちが手薄ってことは、囮組みが危険な目に遭ってるかもしれないってことだもんな‥‥。カミーユたちもいることだし、大丈夫だとは思うんだが‥‥」
「あぁ‥‥。ところで裕美」
「うん? なんだ」
「頼むから今転ぶなよ。流石の俺も一人じゃこれは持てん(笑)」
「わ ざ と お と し て や ろ う か?」
「アハハハハハハハハハハハハハ(顔文字略)」
特許などというものがあれば、ジークリンデは大金持ちになれるかもしれない。
一部面白おかしいやりとりをしつつ、急ピッチで三メートルほどの高さの壁がどんどん繋げられていく。
「さて‥‥これが明日の希望に繋がればいいが、な」
「奥歯に物が挟まったような物言いですね。何か心配事でも?」
「冷凍の動きが無いのが気になる。暗殺者を送り込まれたという話も聞くのに‥‥だ。もしかすると、五行龍の写し身を揃えてしまったのかも知れない。杞憂であれば良いが‥‥嫌な予感がするものだな」
丹波をめぐる情勢は、まだまだ混迷の様相を脱しない。
人は、小さな一歩を積み重ねて運命に抗う。
今日の作業一つ一つもまた‥‥その小さな足跡の一つ―――