【反転攻勢】与り知らない事
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月09日〜07月14日
リプレイ公開日:2009年07月16日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「確認したが、カミーユ嬢と埴輪大魔神は無事に撤退したそうだ。流石と言おうか‥‥」
「よかったですねぇ。折角味方になってくれたのに、すぐに戦闘不能になったとかは笑えません‥‥」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海と、その友人である何でも屋の藁木屋錬術は、例の丹波での反攻作戦について話をしていた。
かねてより噂されていたとはいえ、囮部隊の方に未見の八雷神が二体も喰いついて来たのは正直驚きであった。
そのおかげかどうかは分からないが、指示された拠点構築の下準備の方は想定以上に進み、安全さえ確保されればすぐにでも工事を再開し、砦なりを構築することができるだろう。
冒険者を逃がすために残った悪魔カミーユと埴輪大魔神も無事に脱出したとかで、まだまだ反攻作戦は続けられそうである。
「実際問題、神なんて名前が付くだけあって八雷神ってどれもヤバいですよねぇ‥‥。凄腕の骸骨武者、超生命力の骸骨武者、完璧コピー能力持ち、超馬鹿力、超スピードの獣‥‥あと何がいましたっけ?」
「噂だけなら電撃を辺りに撒き散らす龍がいるそうだが‥‥」
「うわ‥‥黒雷と合わせて竜虎が属してるわけですか‥‥」
「黒雷は虎に似ているだけであって虎というわけではあるまいに」
「こまけぇこたぁいいんですよ! しかし、何で今になって八雷神が丹波に集まり始めたんですかね? 例の京都決戦の時の後退がそんなに悔しかったんでしょうか」
「ふむ‥‥人類の反撃が始まったからでは理由として弱いな。今イザナミが再び大規模な軍を動かせば、京都はほぼ間違いなく落ちる。それをしない、あるいは出来ない理由があると思うのが普通だね」
その『しない、あるいはできない理由』を、京都上層部も、そして藁木屋も情報として掴んではいる。
確証は無いが、どうも丹波で未確認の勢力が暗躍しており、イザナミはそのせいで軍を大きく動かせないというのだ。
砦の奪還や拠点構築に大きな戦力が送られなかったのもこれに起因するのではと言われている。
平良坂冷凍とも別の謎の勢力。それは、『地獄から来た悪魔ではないか』とまことしやかに囁かれていた。
「悪魔ぁ? じゃあカミーユさんのお仲間なんじゃあ‥‥」
「どうだろうな。少なくともカミーユ嬢は今まで常に単独行動だっただろう? それを今になって手伝いが来たというのも妙な話だし、謎の勢力として暗躍というのもおかしいだろう。一応、カミーユ嬢は人類の味方として動いているのだから」
悪魔と噂される正体不明の勢力。それを警戒してイザナミは動けず、新たな八雷神を呼び寄せたのか。
ということは、謎の勢力はイザナミと明確に敵対している‥‥?
「あーもう、分からないことだらけです! ただでさえ頭が痛いのに、また新たな頭痛の種がっ!」
「そうとばかりも言えないな。その謎の勢力にイザナミを抑えるだけの力があるなら、それは利用させてもらうしかあるまい。協力とまではいかないまでも、それについて調べておくのもよさそうだ」
「とゆーかそういう主旨のお達しが来てます。『正体不明の勢力について丹波で調査し、詳細を報告せよ。方法は一任する』だそうですよ。また勝手言ってますよねぇ‥‥」
人類の反撃が始まってから初めて明らかになった謎の勢力の存在。
果たして、それは何者なのか。反撃の手に影響は?
混迷の丹波に、また新たな風が吹きすさぶ―――
●リプレイ本文
●立ち込める暗雲
『やっぱ来はったね。そろそろ来るんやないか思ぅとったんよ』
「流石に知恵が回るな。話が早くて助かる」
「途中でお会いした芭陸様にもお聞きしましたが‥‥一体、何者が跋扈しているのです?」
丹波藩南西部にある五行龍・刃鋼が住む岩山では、琥龍蒼羅(ea1442)と山王牙(ea1774)が刃鋼と会い、噂になっている丹波の謎の勢力について聞いていた。
刃鋼は基本的に誰にでも分け隔てなく接するが、二人は刃鋼に認められた実力者であり、友人である。
その友人が訪ねてきた理由が穏やかならざるものであるとはなんとも寂しいものだが。
山王の質問に、刃鋼は私情を押し殺して知りうる限りの言葉を紡ぐ。
『そいつらが現れるようになったんは、わりと最近のことや。イザナミ軍がちょっかいかけてくる頻度が少なくなっとぅなぁて思うとったら、うちの領域内にも空飛ぶ化もんが現れた』
「‥‥化物、な。お前が具体的な名を出さないということは、よく分からない相手だという解釈で‥‥いいのかな?」
『そう思ぅてもろて構わんよー。あれは絶対に日本の生モンとちゃう。ましてや昔の神様でもない』
「戦ったのですか!?」
『仕掛けて来よったから仕方なく。けど、うちがイザナミの手のもんやないて知ったらさっさと引き上げてったよ? あの様子やと、イザナミ以外のことには興味ないんとちゃうかなぁ』
「‥‥戦ってみてどう思った? イザナミを釘付けにするだけの力はありそうか?」
『ちっとしか戦っとらんから何とも言えんけど‥‥確かに、あれと同等のが何匹もおったら厄介や思うけどね。何せ、魔法無しで姿消したりするもんやから暗殺なんかには向いとるやろぅし』
話を聞いていた二人は、その特徴がますますデビルのものに近しくなっていくことに戦慄を覚えた。
途中で立ち寄った芭陸のところでも、ここ、刃鋼のところでも、丹波内を自由に動き回っている謎の一団がいるという話は事実としてあっさり情報提供された。
実際の目撃情報としては刃鋼が初めてだが、『空を飛ぶ』『姿を消す』『神出鬼没』といった話は誰に聞いても同じ。
山王が八卦衆・風の旋風から聞いた話では、八雷神とも幾度となく交戦しているらしいが‥‥。
「仮に悪魔として、何故悪魔がイザナミに固執するのでしょうか‥‥。例の『冠』が関わるとすれば、イザナミが冠を持っているのか‥‥それとも、冠とはまた違ったものを欲しているのか」
「‥‥悪魔だけに慈善事業ということもあるまい。分かったことは、謎の勢力が限りなく悪魔である可能性が高いことと、標的がイザナミ一本のように見受けられるということか。やはりまだ足りないな‥‥」
冠だけに着目するなら、埴輪大魔神の核も冠候補と言われていたが‥‥今のところそれが狙われたという話は聞かない。
丹波内で暗躍する、イザナミを付け狙うという影。
どれほどの力を持つのか。どれほどの規模なのか。
今はまだ、明確にはしきれていない―――
●欲
「えー、そんなこわいかたがたがいるんですのー? かみーゆ、ぜーんぜんしらなかったぁー」
「‥‥カミーユ嬢、死ぬほど棒読みです」
「あからさまにはぐらかしたってことは何か知ってるな。無理にとは言わないけど、教えてくれないか?」
さて、こちらはカミーユ・ギンサこと悪魔・ガミュギンに話を聞きにきた面子である。
御神楽澄華(ea6526)も鷹村裕美(eb3936)もカミーユとは契約(?)という名のつながりを持つ身なので、望むなら接触自体は難しくはなかった。
しかし、肝心の話を振ってみた結果はお聞きの通り。余りに芝居っ気のないぶりっこ言葉は、『自分、何か知ってます』と言っているようなものだ。
前回、殿を務めて激しい戦いをしたからと心配していた御神楽だったが、どうやら杞憂だったようである。
こんな怪しい受け答えをされて『はいそうですか』と帰るわけにはいかないし、カミーユにしても二人がこれで納得するとは思っていないだろう。
「‥‥ノーコメントとさせていただきたいところですけれど‥‥他ならぬ御神楽さんと鷹村さん相手ですものねぇ‥‥。まぁ、口止めされているわけで無し、教えて差し上げましょう」
「えっと‥‥ありがたいけど、いいのか? お前の立場が悪くなったりするんじゃ‥‥」
「ですから、口止めしておかないほうが悪いのですわ。というか、先に丹波にいるわたくしに何の挨拶も無しというのも気に入らなかったところですし」
「挨拶‥‥ということは、謎の勢力はカミーユ嬢にとって既知の存在。つまり‥‥」
「そう‥‥御神楽さん風に言うなら悪鬼、デビルですわ。江戸のマンモン様から送られてきたみたいですわね」
「‥‥おい? それはお前の上司がマンモンってやつだって言ってるようなものだぞ」
「わりと今更じゃありません? 当たりをつけている方も多いみたいですし」
さらっと恐ろしいことを連続してぶっちゃけるカミーユ。
だが、最近の彼女の行動は、明らかにカミーユの自由意志というか趣味でやっている。
そこで『自分の上司は江戸のマンモンです♪』などといきなり言われても、疑うより前に面食らうだけだ。
「マンモン様は欲望の化身と言われるだけあって強欲なんですの。ですが、あの方は『欲』そのものも愛していらっしゃいます。ですから、自らの欲求で勝手をしているわたくしにもわりと寛大ですのよ」
「しかし、それでは理屈が合いません。わりと寛大とは言っても、自らの欲のほうが大事なはず。それなのに埴輪大魔神の核に目もくれず、イザナミを付け狙う理由は何なのです?」
「質問したわけじゃありませんので、そこまでは知りませんわよ。ただ、マンモン様の『欲』をより満足させるものが、イザナミを打倒することで手に入る‥‥ということなのでしょうね」
「じゃあ、冠候補どころか、冠そのものをイザナミが持ってるとでも言うのか?」
「その可能性は高いですわね。とりあえず忠告しておきますが‥‥どうも厄介なのが送り込まれてきているようなので、真っ向から対立するのはお止しなさいな。フォローできるか微妙ですから」
「肝に命じておきます。‥‥ありがとうございます、カミーユ嬢。これも危ない橋なのでしょう?」
「私からも礼を言っておくよ。例え欲求からでもいい。今、私たちのそばにお前がいてくれてよかったよ」
本心からの礼と笑顔を残し、御神楽と鷹村はカミーユと別れた。
奇妙ながらも笑い合えるこの関係が、少しでも長く続くように祈りながら―――
●限界
「氷雨! 氷雨! しっかりして!」
「‥‥大丈夫、眠ってるだけだ。しっかし、蛟が湖から顔を出して居眠りとはなぁ。よっぽど疲れてたのか‥‥?」
南雲紫(eb2483)とクロウ・ブラックフェザー(ea2562)は、南から回った山王たちと逆に、北側から丹波の西を目指した。
木鱗龍・森忌と会い、情報を聞いてから水牙龍・氷雨のところにやってきた二人は、身体の三分の一ほどを住処の湖から投げ出してぐったりしている氷雨を発見し、慌てて駆け寄った。
付近には不死者であったものと思われる死体が散乱しており、絵面的にも穏やかとは言い難い。
「氷雨‥‥頑張ってるのね。こんなになるまで‥‥」
「八卦・八輝は町のほうか? ひーふーみー‥‥死体のパーツが足りないってことは、戦闘場所はまた違ったのかな」
「この付近はイザナミ軍の通り道だったこともあって、殆どの村や町がイザナミに服従しているわ。当然、目立つ反攻勢力である氷雨への当たりもきつくなるってわけね‥‥。遠すぎるから、私たちもおいそれと助けに来られないし‥‥」
「五行龍がこんな状態じゃ、人間の八卦衆とかはどうなってるんだよ? いっそ、五行龍や八卦なんかの戦力を全員南東部に集結させて、一気に攻勢に出る‥‥っていうのはどうだい?」
「服従してない村や町の人も同時に避難させられるならそれもいいけど‥‥氷雨たちが危険な地域に残ってるのは、そういう人たちを守るためだもの。彼らがいなくなった途端に村々が蹂躙されましたっていうんじゃ意味が無いわ‥‥」
「わざわざ言われなくたって分かってるとは思うけどさ、孤立させたまま戦わせてたんじゃいずれ怪我じゃ済まなくなるぜ? 森忌のところで聞いた『空中でドンパチやってた連中がいた』っていうのも気になる。イザナミ軍の中で満足に空中戦ができるのは黒雷くらいって話だろ。それと互角に戦えるのが暗躍してるってのはまずいって」
と、南雲とクロウが談義していた時、氷雨がゆっくりと目を開けた。
ダルそうに鎌首をもたげているので、南雲が声をかける。
しかし‥‥
「氷雨? 大丈夫なの? 私がわかる?」
『っ!? うわぁぁ、まだいたのかっ! 僕はまだやれるぞぉっ!!』
湖面を大きく波立たせ、氷雨は牙を尖らせる。
精神的にも疲れているのか、うろ覚えの南雲の声も顔もすっかり頭から抜け落ちている。
無論、縁のないクロウに至っては敵以外の何物にも見えないだろう。
「氷雨、落ち着いて! 私たちは不死者じゃない! それくらい分かるでしょ!?」
「駄目だ南雲さん、タイミングが悪かった! ここは一旦退こうぜ!」
「でも‥‥!」
「今は何言ったって聞きゃあしないっての! 余計に消耗させたくないだろ!?」
「くっ‥‥氷雨‥‥!」
歯噛みをしつつ、南雲とクロウはその場を立ち去った。
限界に達し始めている北西の事情。それは、予想以上に切迫しているのかもしれない―――
●大いなる雷
「おぉぉぉぉっ!? こ、これはまた無茶なっ!?」
疾走の術を発動し、ある者の周りを疾駆する島津影虎(ea3210)。
しかし、何週目かの背後を取った辺りで‥‥そいつが纏っていた電撃が、やつを中心に強力な半球状となって拡大する!
巻き込まれた島津の膝ががくんと折れ、スピードがついていた故に激しくその身体は地面を擦る。
流石にそういう事態に慣れているので、転がりながらも電撃の範囲からは抜け出したが。
「い、いやはや、噂には聞いていましたが‥‥。そちらは大丈夫ですか?」
「は、はい、何とか‥‥」
「このままじゃまずいのですよ! 亀山城に入られちゃうの!」
全長五メートルほどで、黄色い体色をした炎龍‥‥といった外見のそれは、無闇に吠えず静かに無機質に歩みを進める。
火爪龍・熱破とよく似ていることから炎龍の変異種なのだろうが、性格は熱破と逆でクールで無口なタイプのようだ。
亀山城から出てそれぞれの調査を開始しようとした島津と月詠葵(ea0020)だったが、シーナ・オレアリス(eb7143)、がテレスコープによって亀山城に接近するこの雷龍を発見。
未知の敵‥‥しかも八雷神と思わしきやつに城の兵士をぶつけても無駄に被害を拡大させるだけ。
そういう認識で一致した三人は、急遽自分たちの予定を変更して迎撃に当たったのだが‥‥。
「シーナさん、ミストフィールドとか駄目なのですか!?」
「駄目です。常時放電しているあれが相手では、霧の空間はそのまま電撃のフィールドになってしまいますから‥‥」
「それに、やつの目的は進むことです。目くらましでは足止めにもなりませんなぁ」
「うわぁぁぁん、手詰まりなのですかぁぁぁっ!?」
月詠をはじめ、接近戦で戦うタイプにはこの雷龍は死ぬほど厄介な相手だ。
盾も回避もクソもない広範囲の電撃は、現在確認されているだけでも20mは広げられるようだし、死角が無い。
シーナのアイスブリザードも、分厚い電撃の幕に遮られて効果が出ない。それほど密度が濃いということだろう。
『‥‥‥‥』
ずんずんと無言のまま進む雷龍。名乗りこそしていないが、これだけの雷を操るからには八雷神と見て間違いない。
どういう意図があって進んでくるのかは分からないが、このままでは亀山城内で電撃を撒き散らされてしまう!
と、その時である。
「遅くなった。拠点を攻撃してくるとは‥‥迂闊だったな。最前線は常に危険だと認識してはいたのだが」
丹波内をパラスプリントという瞬間移動魔法で駆け回って伝令役を務めていたアンドリー・フィルス(ec0129)が帰還、城の者に事情を聞いて合流してくれたのである。
「アンドリーさん! つかぬことをお伺いするのですが、その瞬間移動魔法でぱぱーっとあいつを連れて行ったりは‥‥」
「できん。悪いがこれは自分専用なんだ。他人は巻き込めない」
「うわーん、やっぱりそんなに都合よくはいかないですかぁっ!?」
月詠のアイデアはさくっと却下された。
しかし‥‥
「‥‥だが、パラスプリントに使い道がないわけでもない。失敗したら後は頼むぞ」
「‥‥まさか? 無謀です!」
シーナにはピンと来たようだが、アンドリーは無視してパラスプリントを使用、雷龍が纏う『電撃の中』を跳んだ。
本来エネルギーの中を跳ぶ魔法なので、電撃も充分その対象なのである。
雷龍の目の前に出現したアンドリーは、電撃に身を貫かれつつも雷龍の眉間に光の剣を突き立てる‥‥!
「ぐがっ‥‥! 倒れろ‥‥倒、れろ‥‥!」
しかし、先にアンドリーの身体の方が電撃に耐え切れず、全身から力が抜けてしまう。
刺された時こそ『ぎゃおぉぉん』と怪獣のように叫んだ雷龍だったが、血を流しつつもまた無言になる。
「いやはや、この後始末‥‥やり遂げられますかね‥‥?」
島津の頬に嫌な汗が流れた、その時である。
雷龍が突然足を止め、あさっての方向をじっと見つめた。
そしてちらりと島津たちに視線をやった後、くるりと反転してどこかに行ってしまったのである。
理由は分からないが、どうやらこの場は助かったようである。
「‥‥感じます‥‥正確な方向は分かりませんが、何か邪悪な気を。どうやらあの雷龍はそちらに向かったようですね」
シーナの言葉に、その場の四人は改めて謎の勢力の脅威を認識する。
あの雷龍や八雷神、ひいてはイザナミにも警戒させる存在。
それほどの力を持つ者の正体‥‥選択肢は、あまり多くない―――