【外法の村】惨劇の定義
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月15日〜08月20日
リプレイ公開日:2009年08月23日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「うーん‥‥庄屋さんは生き残ったみたいですけど、娘さんと借金男は死んでしまって繰り返し‥‥ですか。本当に全員生き残らせないと駄目ってことなんでしょうか‥‥」
「ふむ‥‥『誰かが居なくなる』ことが繰り返しの条件なのかもしれないな。これが他の村人にまで適用されないことを祈るのみだが‥‥果たして」
「怖いこと言わないでくださいよ!? 村人が何人居るのか知りませんけど、全員監視しろって言うんですか?」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海と、その友人である京都の何でも屋の藁木屋錬術は、丹波東部の村で起きた殺人事件について話していた。
冒険者のアイディアで、前回の依頼時には死ぬはずの庄屋を生き残らせることに成功した。
しかし、それもぬか喜び。術の範囲外に連れ出した庄屋の娘と犯人の男は、本来死ぬ時刻になると、突然血を吐いて倒れ、そのまま事切れてしまったのである。
当然のように繰り返しは起こり、たった今まで松明と人の声が飛び交っていた村は一瞬で静寂の闇と化した。
「術の媒介と思わしき魔力反応が、井戸全体にあったっていうのも困りものですねぇ。井戸の中に何かがあるんでしょうか?」
「井戸に何かが放り込んであるというより、井戸に術をかけただけではないのかな。動かせないし、倫理的な意味でも壊し難い。場所は偶然だろうが、確かに媒介にはもってこいか」
「あと少しって感じがするんですけどねぇ‥‥。みなさん、着眼点はいいと思うんですけど‥‥」
「誰かが相談卓で言っていたと思うが、どうすれば十七夜が『そこまでやるか!?』と思うような行動をとれるかというのは考えてみる余地はあると思うがね」
「逆に、『そんなの予定にない!』っていうのはどうですかね?」
「ほう。例えば?」
「昼のうちに村人全員を村から逃がす!」
「却下。それでは規定の時刻に死人が出て同じことになる」
「いっそ村人全員を殺‥‥げふんげふん」
「‥‥それでもし巻き戻りが起きなかったら依頼の参加者が大量殺人で手配されるぞ」
「村を捨てる覚悟で、辺り一帯を焦土にする!」
「却下だ! 何故『誰か居なくなった』はおろか『誰も居なくなった』を目指そうとする!?」
「『そこまでやるか!?』って感じでもあるじゃないですかー!?」
終わりなき七月八日への二度目の挑戦は、惜しくも失敗に終わった。
繰り返し続けるということは、止められるチャンスがその度にあるということでもある。
三度目の正直となるか‥‥それとも―――
●リプレイ本文
●祭
「さぁさぁ、村中こぞって見に来ておくれ〜。見物料なんてけちな事は言わないからさ!」
「はいは〜い、軽業演舞、魔法に民族舞踊、なーんでもありますですよ〜☆」
八月も終盤となったある日のこと。
とある村に、一行は冒険者と名乗らず旅芸人一座という名目で入った。
もう何度となく足を運んだ一行ではあるが、その顔ぶれを覚えている者は村人の中にはいない。
七月八日を繰り返すこの村では、一日経てばループが起きて記憶も何もかもがリセットされる。
それは何度も悲劇を止めるチャンスがあり、今回のように身分を偽って潜入するにも好都合ということでもあるが‥‥。
鷲尾天斗(ea2445)と春咲花音(ec2108)が率先して興行‥‥というか祭りの宣伝をしていると、庄屋の娘である千代という娘が村の広場を通りかかる。
「あ‥‥」
前回、術の外に連れ出したというのに目の前で死なせてしまった千代を見て、鷲尾は一瞬複雑な顔を見せたが‥‥。
「君も是非見に来てね!」
「あ、はい。是非見物させていただきますね」
笑顔を交わすその胸中では。お互いまるで逆のことを考えていたことだろう。
先日の千代の言葉を信じるならば、この村には冒険者は勿論旅人もよく立ち寄るという。
しかし旅芸人一座というのは珍しいのか、村の広場には十数人もの人が集まり、開始時刻などを聞いていた。
「‥‥不審な人物は見当たらない‥‥っと。今日は庄屋さんのところに私たち以外の冒険者とかいた?」
「ううん、いないみたいだよー。あとは井戸と、犯人の監視だねー」
「井戸、ねぇ。水を飲むのがいけないとか色々可能性はあるけど、今日は楽しいお祭りで惨劇の定義を吹き飛ばしましょ!」
笑顔を振りまきながらも周りを警戒しているセピア・オーレリィ(eb3797)。
村を歩きながら宣伝していた鳳蓮華(ec0154)やフェザー・ブリッド(ec6384)も戻ってきて全員集合となる。
さて、まだ日は高く、開演時間までは間がある。
やるべき事は多い。まずは、井戸の調査―――
●奈落
村の中央に位置し、村の水源を一手に担っている井戸。
これが十七夜の術の基点というか媒介になっているのは調査済みであるが、壊すことも移動させることも難しい物だけにどういう手を打てばいいのか一行は悩んでいた。
かと言って悩んでいるだけでは話は進まない。
春咲は意を決して井戸の中を調べてみることにした。
媒介そのものとしてだけではなく、中に何かあるのではと思ったからである。
用心のためにセピアにレジストデビルをかけてもらって、闇の底へと降りていく。
「おおおおお、結構深いですー!? というか、ひゃっこいです!?」
履物を脱ぎ、井戸の底に降りたまでは良かったが‥‥胸辺りまで浸かる意外な深さに驚く春咲。
飲み水にもなるだけあって水はとても綺麗で、底にもゴミや妙な物は沈んでいない。
足元から湧く清涼な水の感覚がくすぐったいくらいである。
「むーん‥‥何もありませんねぇ‥‥。というか、なんでこんなに深いんでしょう?」
上を見上げたものの、井戸の口はかなり小さく見える。
深い故に底の方は暗く、物を探すのは完全に手作業だ。
しかし‥‥
「‥‥風? 違う、空気の流れが‥‥」
春咲は、その白い肌に空気の対流を感じた。
深い井戸の底で風が通るはずがない。
暗闇に慣れた目でよくよく壁を観察すると、上方三メートルほどのところに全く光の反射しない部分があることに気づく。
畳一枚かそれより小さいが、人が一人くらいはなんとか通れそうな場所がある‥‥!
「井戸の中に通路なんて‥‥怪しさバリバリです!」
壁を登り、謎の通路に降り立つ春咲。
内部を手で探ると、土が露出した雑な工事であることが窺える。
漆黒の闇に通じる人工の横穴。春咲は、細心の注意を払って進んでいく。
ひんやりした空気だけが、漆黒の闇の中で自らの存在を教えてくれる。
どれだけ進んだだろうか? 十メートルか‥‥それとも五十メートルか。光が一切ないだけに感覚がおかしい。
そんな時。
「っ!?」
がしりと喉元を掴まれる感触。そして、急速な脱力感。
そして闇の中に、不気味な声が響き渡る‥‥!
「よくここを見つけたな‥‥褒めてやろう。媒介の中に潜んでいるとは思わないだろうと踏んだのだがな」
「ぐっ‥‥力が‥‥入らな‥‥」
「だが、一人で来たのは失敗だったな。その口‥‥封じさせてもらう!」
この敵には闇は関係ないのか、謎の声は正確に春咲の体勢を把握している。
じたばた動かす手を的確に避け、春咲の生気を吸い取り続ける‥‥!
「あ‥‥ぐっ、み、皆さん‥‥!」
春咲の全身から力が抜け切る、その直前。
「春咲さん、無事!?」
「十七夜ぃっ! こんなところに居たのか!」
「ちっ、運のいいやつめ。その命‥‥預けよう」
そんな声を残して、謎の声と気配は急速に遠ざかって行った。
残された春咲の下に助けが来るまで、わずか数分。
「かはっ‥‥。運じゃ‥‥ないですよ‥‥。準備の‥‥賜物‥‥です‥‥」
意識を失う春咲の指には、テレパシーリング。
その手から力が抜ける時‥‥主の無事を喜ぶように、小石に当たってカツンと音を立てたという―――
●形振り
さて、井戸の中の横穴に十七夜が潜んでおり、暗闇の中に姿を消したのは前述の通り。
しかし、オーラセンサーやクレバスセンサーのような探知系の魔法が全く横穴や十七夜に反応しないところを見ると、何か妨害系の結界でも張ってあるのかもしれない。
人一人がやっと通れるかくらいの広さだけに、迂闊に踏み込むことも難しいのが厄介だ。
とにかく、一行は十七夜追撃は断念し、当初の興行というか惨劇回避に全力を注ぐことにした。
村の中央広場に急遽舞台が用意され、にわかにお祭り気分は高まっていく。
セピアの提案で、このお祭り騒ぎは『亀山城を京都側が取り返したこの戦勝の気運を盛り下げない為に』ということになっており、監督役として庄屋にも出席してもらうことになった。
村人がほぼ総出で集まってきた夜の村。
開演間近というところで、再び村に出ていた鳳が戻ってくる。
「あ、レン君。推定犯人はどうだった?」
「どーもこーもないよー。行動パターンが単純って言うか、予想通りのことするんだもん。楽でいいけどさー」
フェザーに問われた鳳が呆れたように呟くのも無理はない。
彼女は、犯人となる左吉という男が、自分たちの催し物を見に出かけた村人の家に空き巣に入るのではと考えた。
そこから惨劇に発展しても困るので、鳳は一人、左吉を監視していたのだが‥‥左吉が予想ドンピシャで空き巣に入ろうとしたのを見て、鳳は即刻彼をふん縛った。
勿論、殺さないように必要以上の手加減をして、縄でぐるぐる巻きにして左吉の家にくくりつけておいたという。
「とことん情けないやつだな、おい‥‥。けど、これで村人をほぼ一箇所に集めることが出来たわけだ。井戸にも注意を払える場所を確保できたし、あとは興行を成功させて日をまたげれば‥‥」
「見事、惨劇回避‥‥ってね。さ、そろそろ開演よ。十七夜の動きには充分注意しましょ」
「うーん、変に緊張するわね。戦う方が気が楽なくらいかも」
鷲尾、セピア、フェザー。それぞれ思うことはあれど、願いは一つ。
終わらない七月八日を終わらせ、この村を救うこと。
「はーい、お待たせしましたっ! 春咲花音と愉快な仲間たちの公演、はじまりはじまりー☆」
「花音ちゃん、一座に勝手な名前付けないでよー!」
春咲と鳳のボケツッコミで掴みはOK。
穏やかな笑いの中、幕が開いた。
村では普段見られない、鳳の軽業や鷲尾の剣の冴え。
フェザーが舞う異国の民族舞踊に春咲の手品。
老若男女問わず楽しめる内容に、拍手が鳴り止むことはなかった。
その間、セピアはデティクトアンデットで監視しつつ、いざという時のための救護に回る。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので‥‥ふと気付けば、本来庄屋たちが殺される時間となっていた。
しかし、会場に怪しい人物は居らず、左吉も自宅にくくりつけられたまま。
庄屋と娘は、穏やかな時間の中で微笑むだけ。前回のように血を吐いて死んでしまうようなこともない。
いける。このまま何事もなければ、今度こそ巻き戻りは起こらない。
しかし‥‥十七夜がこのまま何もしないわけがなかった。
「センサーに反応!? 速い!?」
セピアの魔法に不死者が引っかかり、それはものすごいスピードでこちらに近づいて来るようだ。
今から仲間に声をかけたのでは間に合わない。そう判断したセピアは、盾を振りかざして観客の中に分け入った。
騒然となる会場だが、そこに上空から巨大な物体が突っ込んでくる!
「くぅっ!?」
ばぎゃん、と嫌な音を立てて鉤爪がセピアの盾を引っかいていき、上空を旋回する。
それは、風精龍と‥‥その背中に乗る十七夜!
「何ですか、あれ!?」
「野っ郎! 複製五行龍まで持ち出しやがるとは、形振り構ってないな!?」
十七夜というか平良坂冷凍の戦力には、十七夜の術でコピーされた五体の木偶精霊龍がいる。
そのうちの一体を駆り、村人を一人なりと殺して惨劇を起こして繰り返しを続けようという腹積もりなのだろう。
突然の精霊龍の襲撃に驚き戸惑う村人たち。中には我先にと逃げ出す者もいるが‥‥
「待って! 一人にならないで!」
フェザーの声も虚しく、十七夜が上空からライトニングサンダーボルトで逃げた村人を狙撃する。
まだ死んではいないようだが、二回三回ともらえば当然死ぬ。
「駄目、手が足りない! 回復魔法が使える人が私だけじゃ‥‥!」
圧倒的に有利な十七夜。彼は安全な精霊龍の背中から誰か一人でも殺せれば事が足りる。
「こんのー! 降りてきたところを蹴っ飛ばすくらいしかないかなー!?」
「いや、駄目だ。あの偽物は本物と繋がってて、アレが傷つくと本物の五行龍も傷つく。迂闊なことはできない!」
「そんな!? このままじゃいずれ死人が出ますよ! まだ日が変わるまで三十分以上あるのに‥‥!」
鳳と春咲の抗議を受けた鷲尾だったが、左手に握った日本刀を右手に持ち替えて不適に笑う。
「なーに、迂闊じゃなきゃいいのさ。きっちりした対抗手段が‥‥俺にはある!」
「援護するわ。鷲尾君、しっかり当ててね!」
サンレーザーで十七夜経ちの動きを牽制するフェザー。
お世辞にも射撃が上手いとは言えない鷲尾への、精一杯の助力!
そして鷲尾の右手から、槍投げのような要領で『人道・解』が放たれ‥‥風精龍の翼を切り裂いた!
「正気か!? ‥‥そうか、六道の武器! まさか持ってきていたとは‥‥!」
「備えあればなんとやらだ。お前が絡んでると分かった以上、必要になると思ったんでね! 六道の武器なら複製五行龍を傷つけても本物が傷つかない。この状態でもまだやるか!?」
「おのれ‥‥覚えておれ‥‥!」
複製風精龍を失うのが嫌なのか、緊急離脱する十七夜たち。
急いで確認するが、死人はなし。回復魔法が使えるセピアが居てくれなければ危なかっただろう。
鷲尾は人道・解を回収しつつ、夜空に向かって呟いた。
「人の往く道を解放する人道・解ね。皮肉なもんだが、洒落が効いてるじゃないか」
やがて‥‥時は静かに過ぎ行き‥‥日が変わる。
そこには、今だ興奮覚めやらぬ村人たちと、それに感謝される一行の姿が確かにあった。
誰一人として欠けることなく過ぎた七月八日。
そして、本来の時間が一ヶ月以上も経過しているのだということを教えられ、驚きを隠せない村人たち。
だが、すぐに慣れていくだろう。これからは再び、時間が平等に流れていくのだから。
冒険者たちが守り、取り戻した笑顔が‥‥八月十八日を彩ったという―――
●続
「おのれ‥‥苦労して構築した術を! どうやら思い知らせてやらねばならんらしいな‥‥!」
ループが終わっても‥‥いや、終わったからこそ。
十七夜との戦いが、本格化する―――