【外法の村】外道の倫理
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月05日〜09月10日
リプレイ公開日:2009年09月11日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「というわけで、めでたく件の村は呪縛から解放され、元の時間軸に戻ることが出来たようです。冒険者の皆さんの活躍で誰一人として欠けることなく七月八日を乗り越えられたようで何よりです♪」
「それは何よりだが‥‥日が違うだけで、左吉という男が庄屋を殺しに行ったりしないのかね?」
「その点は大丈夫みたいですよ? 村人に事情を話して、総出で更生させるべく目を光らせてるらしいですから」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海は、友人である京都の何でも屋、藁木屋錬術と一ヶ月以上七月八日を繰り返していた村の話をしていた。
古の陰陽師にして黄泉将軍の十七夜。彼が開発・使用する数々の奇術から村は解放され、平穏が戻った。
しかし、分からないことも多い。
術がどういう仕組みだったのかとか、最初に忍者が村に行った時に庄屋の家に泊まっていた冒険者というのは誰だったのかとか、二回目の時に冒険者の証言が食い違っていた理由は等など。
「とりあえず陰陽寮の知り合いから専門家としての意見を聞いてきた。流石に術の構造は分からないが、媒介を基点に一定の条件を満たすことで時間を巻き戻す空間を作るものではないかということらしい。今回の場合、『村人の誰か一人でも死ぬ』というのが条件だったのだろうね」
「じゃあ、冒険者さんたちが犯人を殺さなくても、庄屋さんが死んだ時点でアウツということですか」
「そうなるね。しかも、一度でも条件を満たせないと術そのものが崩壊するようだ。だから最後、一人なりと殺そうと十七夜も必死だったのだろう」
「謎の冒険者の存在と、意見の食い違いは?」
「さっきも言ったように、庄屋が死んだ時点で条件は満たされている。恐らく忍者の時の冒険者は十七夜の変装ではなく、本当にたまたま泊まっていただけの冒険者と思われる。意見の食い違いについては、主演目に巻き込まれて他所から来たものにも影響が出たのではとのことだ」
「主演目って‥‥何回も起こる殺人事件ですか。それが術の繰り返しの主な理由だから、それを促進させる別プログラムでもあったってことでしょうか‥‥」
「恐らくな。そして最後に、術の外に連れ出しても死んだ理由。それは術が発動した時点で内部に居たものは時間の輪に囚われており、身体の内部に楔のようなものが打ち込まれていたのだろうとのことだ。そしてそれは同時に繰り返しの条件も満たせられる一石二鳥の手‥‥というわけだね」
聞けば聞くほど、十七夜の使った術の悪意が明らかになる。
しかし、肝心の何故繰り返しをさせていたのかというのは流石に不明だ。こればかりは十七夜に直接聞くほかあるまい。
「兎に角、これで村も平和に―――」
「‥‥そうも行かないみたいよ」
ふと、藁木屋の相棒であるアルトノワール・ブランシュタッドが現れる。
別段慌てた風もなく、いつものかったるそうな表情で。
「どうした、アルト」
「‥‥例の村‥‥今度は十七夜に占拠されたんですって。しかも、例の術の亜種付きで」
「はい!? ‥‥あぁ、そうか‥‥十七夜を倒さなきゃ、そりゃ何回狙われても不思議じゃありませんよね‥‥(汗)」
「亜種とはどういうことだね?」
「‥‥今度は時間を止めたみたいよ? しかも真昼間の人が外を出歩いてる時を狙ってね。で、十七夜は時間を止められて動けなくなっている村人を人質にして、この間邪魔した冒険者たちを連れてこいって要求してるみたい」
「妙だな‥‥動きが早すぎる。時間を操るような規格外の術を、こんな短期間で何個も使えるか‥‥?」
「‥‥だって媒介の井戸は残ったままだしね。基礎が残ってるならなんとかなるんじゃない?」
「もしくは、例の井戸の中の横穴の奥に何かが隠されているか‥‥ですよね。とにかく、要求を無視すると村の人たちが殺されちゃいそうな気がします。せっかく助け出したのに、それはあんまりです!」
常に姿を隠し、陰でこそこそと暗躍するのが十七夜の基本スタイル。
しかし今回は、人質を取るという目立つ行動なのが気になるといえば気になるが‥‥。
術の邪魔をされた腹いせか、はたまた別の目的があるのか。
兎にも角にも、井戸の底から引きずり出された十七夜との直接対決が今始まる―――
●リプレイ本文
●制止した時間の中で
「十七夜、来てやったぞ! 面見せろや!」
九月某日、曇り。
件の村へとやってきた冒険者一行は、術の媒介である井戸に回る組と、十七夜と直接相対する組に分かれて行動していた。
まずは十七夜組みが村に入り、十七夜を誘き出す。その後、井戸組が別ルートから井戸に向かう‥‥という具合。
鷲尾天斗(ea2445)を筆頭に、要求された『前回来た冒険者たち』は、大体顔をそろえて姿をあらわにしている。
「返事がないな。呼び出しておいて奇襲‥‥というのもよくある話だが、潜んでるのか?」
「いいえ、違います。デティクトアンデットに反応があります。場所は‥‥村の中央辺りですね」
辺りを警戒しながら進む雪切刀也(ea6228)の疑問に、シェリル・オレアリス(eb4803)が答えを出す。
それを聞いた一同は、思わず『げっ』と言わずには居られなかった。
村の中央と言えば、井戸がありそこ以外に潜む場所は無い。
しかもその井戸の中にいると索敵魔法に引っかからないので、井戸の外で待ち構えていると言うことになる。
仕方なく、一同は村の中心にある井戸に向かった。
「よく来たな‥‥褒めてやろう。だが、私は前回来た冒険者を要求したはずだ。知らない顔が混じっている上、来ていないものも多いようだがどういうことだ?」
「面子が違う? こっちにも色々有るんだ。細かい事は気にするな。それとも面子が違うと不都合かい? 術を使うのに」
「何、構わんぞ。私としては貴様さえ殺せればいい。確か‥‥鷲尾とかいったな」
「お前にご指名を受けても嬉しくもなんとも無いな(笑)。つーか、俺にはどうしてもお前は個人的な理由で復讐をするような奴とは思えなくてねぇ。この時を止めるっていうのは前回の術の亜種って言うよりかは第二段階って言う所かね。イザナミに対抗する為の」
「無論だ。私は常に比良坂様と冷凍様に勝利を導くために動いている。そして、その道において貴様は邪魔なのだ。私の術専門で打ち壊すような迷惑な代物を持たれていてはな」
言うなれば十七夜スレイヤーとでも言うべき『六道の武器』。
十七夜はその存在と、それを所持し、操る鷲尾を消すために、術のついでに冒険者を呼ぶことにしたのだろう。
井戸の周りには女性が三人、見渡すだけでもこの辺りには子供が二人、男性が一人、固まっている。
「本当に動かないな。しかしこれだけの技術、ただ止めるだけで終わらせるわけが無い。貴様‥‥! 何が目的だ‥‥!?」
「多分あなたが考えているようなことは考えてないと思うわよ(汗)」
「何だと!? このような素晴らしい技術、動けぬ女性にあられもない格好をさせたりウサミミを着けて悦に浸る以外にどういう使い道があるというのだね!?」
「だから、そういう使い方こそありえないって言ってるの! それに、どうせこんなのトリックよ。陰陽寮でも実現できていない高度な術を、海千山千の陰陽師ににできる訳がないわ!」
ラザフォード・サークレット(eb0655)が走っている最中に空中で(!)固まったと思われる少女の肩をとんとんと叩いてみるが、まるで反応は無い。
レティシア・シャンテヒルト(ea6215)はあえて頭の固い陰陽師を演じ、十七夜を油断させようとしているが‥‥?
「お前には出来ない‥‥私には出来る。それだけのことだ。それから誤解の無いように言っておくが、流石の私でも時の流れを止められるほど万能ではない。そいつらは極度に時間の進みを遅くさせられているだけだ」
「いや、充分驚異的でしょ。で? そんなネタバレをするからには何かしらの理由があるのよね?」
セピア・オーレリィ(eb3797)が眉をひそめつつ睨み付けると、十七夜は口の端を歪めて言う。
「時が完全に止まってしまえば状態の改変は不可能だ。刀で斬ろうとしても斬れんし、どんなに強力な魔法も通用しない。だが、遅かろうが止まっていないのであれば話は別だ。くびり殺そうが噛み殺そうが自由自在ということでな」
十七夜が右手を上げると、空から月精龍と風精龍が、家の影から火精龍がそれぞれ姿を現す。
どれも五行龍をコピーした偽物ではあるが、力量は本物と違いが無いしダメージも共有するという厄介者だ。
本物と違うのは、理性が殆ど無く獰猛な獣と変わらないと言う点か。
下手をすると今にも村人に危害を加えかねない目をしている。
「私たちをここで殺すおつもりなのですか?」
「くっくっく‥‥別に抵抗しても構わんぞ。代わりに村人が死ぬだけだ」
「絵に描いたような悪役してくれちゃって! しかも媒介もついでに守ろうなんて、随分業が深いじゃないの」
「合理的と言ってもらいたいものだな。時間稼ぎなどしても無駄だ。さぁ選べ‥‥自らの死か、罪の無い者の死か!」
シェリルやセピアの言葉にも少しも動じない十七夜。
別の組に属している三人も、戦場が井戸のすぐそばでは近寄ることも出来ない。
姿こそ見えないが、どこかで様子を伺い歯噛みでもしていることだろう。
「一つ聞いていいかい?」
そこで、ふと質問をぶつけたのは雪切だった。
仲間もその意図がつかめず、意外そうな顔をする。
「つまらんことなら村人を一人殺すぞ」
「つまらなくはないだろうさ。‥‥悪魔の魂の抹消方法、或いは封じる術を知ってるんじゃないかな、と」
「‥‥ほう? 何故そんなことを聞く」
「鷲尾さん程じゃないが、お前さんのことは調べて少しは知ってる。性格破綻者だが実力は折り紙つきだ‥‥もしよかったら、仇敵の倒し方でも知ってたらな、と思ってさ」
「ふん‥‥勿論研究はしている。カミーユとかいう悪魔にしろ、最近動きを見せている悪魔にしろ、比良坂様たちの邪魔となる連中への対抗策を考えるのも私の役目だ」
「なら、陰陽寮でもそういう研究をしていると聞いたことがあるわ。技術交換って言う形で、手を結んだりは‥‥」
「はっ、今更陰陽寮ごときに私に益をもたらす技術など開発できるものか。今の奴らが通っている道など、私が何百年も前に通過した地点だというのに」
雪切の質問に便乗する形でレティシアが交渉を持ちかけるが、聞く耳待たず。
結局はどこまでも平行線。この状況に穴を空ける方法は‥‥ない。少なくとも、この六人には。
「話はここまでだ。どうやら愚図愚図言って自分たちが死ぬのは嫌だと見える。ならば‥‥村人に死んでもらおうか!」
十七夜が腕を振り上げ‥‥偽月精龍が刃のように鋭い翼を振りかぶる。
それが振り切られれば、井戸端に居る女性の首などあっさり落ちる。
今からでは制止も間に合わない! 五人までがそう思った時!
「間に合わせて!」
「承知しています!」
レティシアの叫びに、茂みから李雷龍(ea2756)が飛び出し、盾で翼をガードする。
体重差で身体ごと吹っ飛ばされたが、女性に被害は無い!
「なっ、伏兵だと!? この村への依頼は人が集まっていなかったはずだ!」
「調査ご苦労様なのです☆ ご褒美はありませんけどね!」
李に一瞬気を取られた十七夜の背後に、春咲花音(ec2108)が瞬時に現れる。
微塵隠れから超接近状態に持ち込み、スタッキングポイントアタックで十七夜を刺す!
「ぐおぉ‥‥! で、木偶龍ども!」
背後から迫る偽火精龍の爪。
しかし、その爪が春咲に振り下ろされるより先に、一条の閃光が偽火精龍に直撃、注意を逸らした。
「まだいるのか! いつの間にこんなに増えていたのだ‥‥!」
「義を見てせざるはなんとやって言うじゃない? サンレーザーくらいなら致命傷にはならないから丁度いいでしょ」
フェザー・ブリッド(ec6384)も姿を現し、合計九人の冒険者たちが集合する。
そう、レティシアはテレパシーの魔法で井戸組と常に連絡を取っていたのだ。
本来の作戦というか使い方とは大分異なるが、井戸への隠密進入が出来ないのだから仕方あるまい。
春咲は掴まれることを避けるため、十七夜から距離を取る。
「この前の仕返し‥‥じゃない、お返しは済ませました。逃げるなら今ですよ!」
「対等になったつもりか? お前たちが私を倒すより先に、村人が何人も死ぬぞ!」
「それはご心配なく。回復魔法には多少なりと自信を持っています。クローニングでも何でもござれですし、時間が遅く進むのであれば、逆に助けるための猶予も長いと言うことになりますね」
「ぐっ‥‥死人を生き返らせるほどの使い手だというのか‥‥!」
シェリルの存在に思わず歯噛みする十七夜。
完全に計算違いだというリアクション。
これまでの経緯から、この依頼に興味を持つ冒険者は少ないとタカをくくっていたのが失敗の元だろう。
「終らない時間の術で分かった事は『人の記憶が消える』、つまり絆が消える。お前さんは五行龍と冒険者の絆に手出しできなくて複製の五行龍を作った。其処まで揃ってるのならさっさと五行鎮禍陣をやればいいのにその気配が無い。前回の術と今の状況、そこが引っかかってねぇ。まぁ、複製じゃ術が展開できないって所か。だからこんな術をこしらえた‥‥違うかね?」
「‥‥ちぃっ‥‥!」
井戸組に預けていた日本刀『人道・解』を受け取り、鷲尾は詰め寄る。
その推理を聞いていた十七夜が舌打ちしたということは、鷲尾の考えが正しいと言うことなのか。
兎に角、分が悪いと判断した時の彼の行動は素早い。
偽風精龍の背に飛び乗り、急速離脱を図るが‥‥
「おっと、それは私が三日ほど前に通過した地点だよ」
皮肉の効いたラザフォードの台詞と共に、ローリンググラビティーが発動。
重力が反転し、制御が効かなくなった偽風精龍は奇妙な軌跡を描き、空中で逆さまになったりする。
当然、背中に乗っていた十七夜はその急激な変化についていけず、地面に投げ出される‥‥!
「お前との腐れ縁もこれまでだ、十七夜!」
「お前は争いを生む者だ。黄泉の世界へ帰れ!」
鷲尾と雪切が、十七夜に止めを刺すべく駆け出した。
そして、鈍い音と共に十七夜が地面に叩きつけられた‥‥はずだった。
「うそっ!? アースダイブ!?」
「私を降ろそうとすることなど簡単に読める。だが‥‥この屈辱、絶対に忘れん。甘く見ていたのは確かだがな‥‥!」
そう言い残し、さっさと地面の中に消えてしまう十七夜。
追おうにも、偽五行龍三匹が独自に村人を襲おうとしているので思うようにはいかない。
鷲尾の持つ人道・解以外で攻撃すれば、本物もダメージを負う。かといって取り押さえるのも容易ではない。
一行は、なんとか被害を出さず偽五行龍も殺さないように撃退するので精一杯だったという―――
●解けない術
「十七夜という男が去っても、村人は固まったまま‥‥ですか。くっ、これでは何も出来なかったのと同じでは‥‥!」
「そんなことはないわ。自分の動きに対して著名な冒険者が何人も動いてくると骨身に染みたでしょうから、以降の手出しは控えるんじゃないかしら。後はゆっくり村の人たちを助ける手段を講じましょ」
李を慰めるフェザー。彼らの前には、日が落ちても固まったままの村人たちが佇んでいる。
そろそろ夏も終わり、夜になると冷え込むこともある。あまり放置すると村人たちの健康が不安だ。
まぁ、餓死するまでの時間も相当あると考えればいくらか気は楽だが‥‥。
「‥‥今度は術関係無しの力技で来るかもしれないな」
「ほー。そう思う根拠は?」
「そりゃ、何回も実験を邪魔されたら場所を移りますよー。ここでないと絶対に駄目っていうわけじゃないでしょうから」
「いよいよ不死城でも動かして京都に攻め込んでくるってか? ま、そうなったらその時こそケリをつけてやるさ―――」
雪切、春咲、鷲尾。
次なる戦いの予感を秘めつつ‥‥一行は、止まった時の村を―――
「あ。ねぇ、この村が人口何人か知らないけど、京都に連れて帰っちゃえばいいんじゃない?」
「いいわね! 李さんの大型ペットもいるし、今回の術は範囲外に出したら死んじゃうっていうこともないと思うし」
『‥‥その手があったか!』
セピアとレティシアのアイディアに、思わず手をぽんと打つ一行であった―――