【外法の村】暗闇の奥に

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月23日〜09月28日

リプレイ公開日:2009年09月27日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「さて‥‥人数を甘く見ていた十七夜を撤退に追い込んだのは周知の事実なわけですが、偽五行龍も十七夜本人も倒すまでには至らずでした。更に言えば、村の術も解除されてはおらず、村人は極度に遅くされた時間の中に居るままのようです」
「ふむ‥‥十七夜を倒さなければ解術されないというわけではないと思うのだがね。やはり、井戸の中にある横穴に何かがあると考えるのが普通か」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海は、友人である京都の何でも屋、藁木屋錬術と一ヶ月以上七月八日を繰り返していた村の話をしていた。
 古の陰陽師にして黄泉将軍の十七夜。彼が開発・使用する数々の奇術から村は解放され、平穏が戻った。
 しかし冒険者が去ったところで再び十七夜が村に入り込み、今度は『村の中の時間を極度に遅くする術』を展開。
 後から村に入る者には影響は無いとのことで、冒険者は呼び出しに応じ、直に十七夜と対決。
 人手がないと高をくくっていたということもあり、冒険者は人質と言う卑怯な手を使う十七夜の撃退に成功。
 後は、村人にかけられた術を解除できれば万々歳なのだが‥‥?
「今回は、その井戸の奥を調査せよというお達しが来ています。ただ、中が真っ暗で狭く、何があるかわからない上にまた十七夜が何か仕掛けてくる可能性もありますんで、充分注意してもらいたいところです」
「井戸の中なら偽五行龍が襲ってくることは無いだろうが、それとは違った危険があると言うことか‥‥」
 京都は、平良坂冷凍への攻撃を決めたと言う。
 ならば、ここで十七夜を撃破‥‥あるいは足止めすることは大いに意味がある。
 村人を解放するためにも‥‥闇の奥へと進むしかあるまい―――

●今回の参加者

 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ec0128 マグナス・ダイモス(29歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●DIVE
 丹波藩東部にあるとある村。
 すでに何度も足を運んでいるこの村に、冒険者たちはまたしても訪れた。
 今までと違うのは、村人の姿が人っ子一人たりとも見えないこと。
 何故かと言えば、前回冒険者が村人を全員京都に連れて帰ったからである。
 時間が極度に遅くされているという村人たち。それは敵の人質になる可能性が非常に高く、実際問題そうされた。
 今後そうされないためにもと、十七夜が撤退した隙を突いて住民全員を保護したのだ。
 もっとも、術の範囲から離れても村人の時間は遅いままだったのだが。
 人がいなくなり、ゴーストタウンと化した村。寂しげな風だけが、ひゅうっと吹き抜けていく。
 冒険者たちは注意しながら村を進み、中央にある井戸まで何事も無く到着した。
「では、俺たちは予定通り井戸の外で警戒に当たります。みなさん、お気をつけて」
「ロープでの連絡を忘れないでね。十七夜のことだから往生際が悪いって言うだけじゃないと思うの」
 マグナス・ダイモス(ec0128)とステラ・デュナミス(eb2099)の二人は、井戸の外で待機する。
 全員で井戸の中に入ってしまった場合、後ろから十七夜に入り込まれて入り口を崩され生き埋めになりました、などということになると目も当てられないからだ。
 ただでさえ幻術などが得意な十七夜相手だけに、用心はするに越したことは無い。
「準備は万端ね。補助魔法も皆さんにいきわたったし、ホーリーライトも井戸の内部を照らしているわ。残念なのは、探知魔法に十七夜さんの反応が無いと言うことなのだけど‥‥」
「どうも井戸の横穴の中には探知魔法を阻害する何かが在るようですね。あとは往くだけ‥‥とうことでしょうか」
 世界最高峰の白神聖魔法の使い手、シェリル・オレアリス(eb4803)。
 彼女にかかれば、回復やレジストデビルでの防御、ホーリーライトでの照明は勿論、デティクトアンデッドでの索敵、果てはリヴィールタイムでの時間把握まで何でもござれだ。
 前回、ファインプレーで村人の命を守った李雷龍(ea2756)の防衛力と合わせればまさに鉄壁と言えるだろう。
 井戸の中へと潜り行く四人は、頷き合ってから一人ずつ慎重に降りていく。
 とりあえず周りに視線も気配も感じないが‥‥?
 四人は、光球に照らされた井戸の中であっさり横穴を見つけ、そちらへと足を踏み入れる。
 光球は二つあり、シェリルがその一つを手に持ち移動することで、漆黒の闇はその姿をあらわにする。
 急ごしらえと言うか、随分雑に掘られた感じのする横穴内部は恐ろしく狭く、人が一人通るのがやっと。
「しかし、十七夜は何を考えてるんだろうねぇ‥‥こういう術の実験なら人目のつかない所でこっそりやりゃいいものを‥‥ってぇ!? 畜生、まーたぶつけた! なんでこんな狭いんだよ! 嫌がらせか!?」
 鷲尾天斗(ea2445)ほどの身長があると、膝を曲げて移動しないとすぐに頭を天井にぶつける。
 その度にパラパラと土埃を被り、髪を汚していく。
「考えられる可能性は二つ。『人目のつくところでやりたかった』か、『人目につくところでやらざるを得なかった』か。坊主に説教かもしれないが、十七夜の性格を考えるなら後者だろう」
 雪切刀也(ea6228)は十七夜に関わって日が浅いが、今までの経緯などを聞いてかなり十七夜の性格を把握している。
 彼自身、十七夜が研究しているという対悪魔の術に興味があるようだが‥‥?
 光に照らされた横穴は、奥に進むにつれ更に狭くなる。
 武器を振るうどころか、鷲尾に至ってはほぼ中腰で移動しているためまともな戦闘は出来そうにない。
 ただ真っ直ぐ、一本道である横穴。それを二、三百メートルほど進んだ時。
 くいっ。
 一時間が経過したと言う外からの合図。それはリヴィールタイムの影響もあって四人も了解している。
 こちらからもくいっと一回引き、何事も無いと言う旨の合図を送った。
「もう一時間経つのですね‥‥あまり進んでいないように感じられますが」
「狭いからな‥‥の一言で片付けられるか? まさか幻術で進んでいるように思えて進んでいないとか‥‥」
「十七夜さんならありえるわね。井戸からあまり離れちゃ術の意味がない気がするし‥‥」
「戻るか、往くか‥‥それが問題だってか?」
 考えてみれば、分かれ道がないからと言ってこの先に終点があるとは限らないのだ。
 あと一分進めばゴールなのか‥‥それとも永久にゴールになど辿りつけないのか。
 光にかき消された闇にあざ笑われるかのように、惑っていた―――

●苦戦
「合図は!?」
「送りました! しかし、まともに伝わっているかどうか‥‥!」
「くっ‥‥もう少し頭数が欲しいわね‥‥!」
 その頃、井戸の外では、ステラとマグナスが苦戦を強いられていた。
 何にか? 言わずもがな、コピーされた偽五行龍にである。
 四人が井戸の中に姿を消してから約一時間後に、大蛇、月精龍、蛟の三匹が現れ、二人に攻撃を仕掛けてきた。
 鷲尾が持つ『人道・解』という武器以外は複写された本物にもダメージが行くため、マグナスはその豪腕を存分に振るうことが出来ず、受け流しに回ることしか出来ない。
 ステラを庇いながらであるが故、マグナスにはどんどん生傷が増えていく。
「アグラベイションをかけたから少しは楽になるはずよ。もう少し耐えて!」
「守り抜いて見せましょう。阿修羅神の名にかけて!」
 高速詠唱があるとはいえ、魔法の連続使用にはどうしても隙が生じる。
 本物と遜色ない実力を持つ偽五行龍からは、行動力が下がったとはいえ、破壊力ある角、刃のような翼、鋭い牙など、それぞれを特徴付ける攻撃が飛んでくる。
 一人では弾くだけで手一杯。それすらもいつまで保つか分かりはしない。しかし!
「水よ、応えて! この村の人たちを助けるために力を貸して!」
 ウォーターコントロールで井戸の水を巻き上げ、空中に五メートルほどの巨大な水の塊を作り出すステラ。
 ふわふわとマグナスの目の前に移動したそれは、月精龍の翼を特に防いでくれる。
 唯一、蛟だけはそれを意に介さず、水を得た魚のように水の塊を突っ切り、噛み付いてこようとする。
「しかし、一対一ならば!」
 大蛇の突進力も月精龍の鋭い振りも、巨大な水の塊の抵抗力の前には無力。
 水の塊を盾にしながら戦うマグナスにとって、注意すべきが蛟だけになったならば防御は容易だ。
 その蛟も‥‥
「ごめんなさい。直接のダメージにはならないはずだから、許してね!」
 突っ込んできそうなタイミングを見計らって、ステラがクーリングを使用。
 バキバキと徐々に凍り付いていく水の塊に突撃していた蛟は、ステラのわずか三十センチほど前で止まる。
 塊の外に出ている身体がまだ動いていることから、意識はあるのだろうが、これでは動けまい。
 不利を悟ったのか、素早く後退していく大蛇と月精龍。
 一先ず、井戸の外はなんとかなった模様である―――

●新技術
「よう‥‥また会ったな。初めてか?『追い詰めた』って感じがするのは」
「ちぃっ! 貴様ら‥‥戻らなかったのか!?」
「タイミングが良すぎるもの。まるで戻ってくださいと言わんばかりだったから、気になったのよね」
 横穴の更に奥。最深部たるそこは、先ほどの地点からものの五分ほどで到着した。
 マグナスからのロープの敵襲来の合図を受けた四人だったが、シェリルの推理で先に進むことを選択した。
 しかし、なるべく早く戻りたいのは確かであるが。
 天井は二メートル程だが、広さは十メートル程の空間が広がり、足元には奇怪な陣が描かれていた。
 何が奇妙かと言えば、中央に陣があり、その斜め左右に別の陣があって、上のほうに妙なスペースがある。
 大きな円の中に俵が三つ重ねられている絵を想像してもらえれば分かると思うが、言うなれば空白の無駄スペースがあるのだ。
「これが、時間を操る術式なのですね。奇怪な‥‥」
「見たことがないな‥‥。これも悪魔に対抗するための術の一つってわけか?」
「正確に言うなら、比良坂様と冷凍様に仇名す者すべてに対抗するための術だがな。これが完成すればイザナミ軍すらもどうとでもできると言うのに‥‥何故邪魔をする!」
「その仇名す者ってのに俺たちも入ってるからに決まってんだろ」
「貴様らにイザナミを討つ方策があるとでも言うのか? 我らは丹波さえ手中に出来ればいいと言っているのに、その邪魔をして大敵であるイザナミを何とかする力を闇に滅する気か!」
「あまり人を舐めるなよ、化物風情が。人が義を捨てない限り決してお前らには負けん。それでも負けて滅んだら、人という種は其処までだったと言う事だ」
「くだらぬ感情論を‥‥!」
「俺は全ての不条理に抗ってみせる。お前黄泉人を滅ぼす技を持った侍として生きる、それが俺の『義』であり『誠』なのだからな」
 十七夜の背後には出口へ続くと思われるトンネルがある。
 しかし、十七夜は逃げ出そうとはしない。どうも敷き詰められている陣が気になるらしい。
 鷲尾と十七夜の舌戦の隙を突いて陣について思案していたシェリルは、大まかな仕組みに気付いて驚愕する。
「これ‥‥多重構造になってるのね。大きな基盤の陣に、それぞれの役割を持つ別の陣を重ねることで効果を変化させる。言うなれば、白い紙の上に木や雲の形に切り抜いた紙を別個乗せていくようなものかしら。乗せるパーツによって、大本の『白』は変わらないけど見える絵としては違うものになる」
「なるほど‥‥一個一個違う陣を構築するより、換装用の陣を何個も作って自由に入れ替えた方が汎用性が高くなりますからね。さしずめ、この陣は麻雀のウーピンのような形で、今は上二個の丸が中央の丸に重なっている状態と言ったところでしょうか」
 シェリルと李の会話を耳にし、十七夜がまた呻く。
 自分でも分かっているであろう。最近毒づいたり呻くことが多くなっていることに。
「‥‥十七夜。これは俺個人からの提案だが‥‥此方側につく気はないか?」
「お、おい刀也!?」
「鷲尾、少し喋らせてくれ。これから先の展開は、見えてる筈だ。俺はお前さんを高く買ってるんだがな。先日、俺が言った件‥‥対悪魔の為に動いて頂きたい」
「今もそうしている!」
「そうじゃない。冷凍と手を切り、一研究者として、だ。別に人類のために働いてくれとまでは言わない。お前がどれだけ冷凍たちに忠義や義理があるのか知らないが、研究を続けていくためには生き残ることが大事だろう?」
 自分の研究の成果さえ出ればいい。研究さえ出来れば主はどうでもいい。そう考える研究者肌の者は意外と多い。
 だが、十七夜は毅然とした態度で言った。
「仮に私が是と言った場合‥‥貴様らは私を信用できるのか? 主を裏切って自らの研究を優先させるようなやつのことを信じ、その後自分たちの下で研究をさせるのか? 私なら御免被るがな」
「‥‥正論だな」
「私は私の信念と正義と忠義を以って比良坂様たちにお仕えしている。それを曲げてまでの研究など、私にとっては何の意味も無い。外道にも外道なりの譲れないものがあると知れ!」
「‥‥侮った非礼は詫びよう。俺たちの正義は永遠に交わることはない。なら‥‥俺は俺の正義のために、お前の術式を利用させてもらおう。殺してでも、奪い取る!」
「お前にも正義があるなんて言われてもピンとは来ないが‥‥結局はこうなるわけだ。さぁ、お前の罪を数えろ!」
 十七夜めがけ、駆け出す雪切と鷲尾。
 それに対し、十七夜は素早く印を切って足元の陣を操作する。
 だが、間に合わない。真ん中の陣に全ての陣が重なりきるまでにタイムラグがある。
「これで終わりだぁぁぁっ!」
「自らの正義に殉じろ、外道!」
 鷲尾の攻撃が右肩、雪切の攻撃が右脇腹に決まり、十七夜が大きくぐらつく。
 手応えがある。少なくとも幻術の類ではない!
「がっ‥‥お、の、れぇっ‥‥!」
「止めと行きましょう!」
「キツ〜イお仕置き、してあげないとね」
 畳み掛けるように李とシェリルが動き、十七夜に止めを刺すべく肉薄する。
 この負傷状態で李の龍飛翔やシェリルのピュアリファイなどもらったら、普通は保たない。
 だが‥‥二人の攻撃が届く前に、足元の陣の移動が完了する!
「ざ‥‥残念だったな。後一歩、だった、ものを‥‥」
「な‥‥何だ!? 何が起こるんだ!?」
「と、『時』を基本とする、五つの陣が重なる時‥‥『時』は崩壊する‥‥! 私と共に、時の狭間に飲み込まれろ‥‥! くっくっく‥‥わ、私の術も利用できず‥‥私を、倒すことも出来ず‥‥異空へ消えろ‥‥!」
「じょ‥‥冗談、だろ‥‥!?」
 ぐにゃりと歪んでいく地下の風景。
 時間の感覚がおかしくなっていく。時が流れているような逆流しているような奇妙な錯覚。
 少なくとも、ここにいるのは危険だ。だが、今からでは脱出も間に合わない!
「鷲尾さん、人道・解を構えて! 一か八かやってみるわ!」
 シェリルの言葉に鷲尾が刀を正眼に突き出すと、その切っ先に合わせるようにホーリーフィールドが展開された。
 十七夜の術に対して抵抗力を持つ六道の武器の一つ。シェリルはとっさの判断で、その力をホーリーフィードにわずかなりと転用できないだろうかと考えたのだろう。
「また、六道の、武器‥‥か‥‥。私は‥‥自分の手で、自らの処刑道具を‥‥作った、のか―――」
 そんな呟きすら飲み込み、時間の歪みはより激しくなる。
 ホーリーフィールドの内部は今のところ平気だが、この歪みが戻った時に周りがどうなっているかは神のみぞ知るといったところだろうか?
 相変わらず時間の感覚はない。
 数分か、数時間か。沈黙と漆黒に包まれた世界が‥‥突如砕け、白く染まる―――



「‥‥ここ、は‥‥?」
「‥‥元居た横穴、でしょうか‥‥?」
 シェリルがホーリーライトを発動すると、四人はすり鉢状になった場所の底に居た。
 どうやら先ほどの術は空間ごと時間を崩壊させたらしく、球状の空間に形状が変化していた。
 当然、地面に敷かれていた陣もごく一部を除いて一緒に消し飛んでいるのは言うまでもない。
「くそっ、悪魔への対抗手段が‥‥!」
「命があっただけ儲けもんと思えって。一歩間違えば俺たちもわけ分からんところに飛ばされてたんだぞ?」
 そう言って、鷲尾は十七夜が居た辺りを見やる。
 長い‥‥長い腐れ縁だった。
 今まで散々な目に合わされてきた相手の最後が道連れ目的の足掻きとは、なんとも寂しいものがある。
 本当にこれで終わりなのか、と。その因縁は、きっちりこの手で断ち切りたかったと‥‥。
「‥‥お前の罪は数え終わったか? こんなもんで贖えるほど少なくはないだろ‥‥」
 勝手でもいい。言わせてくれ。
 もう一度‥‥俺たちに殺されに、戻って来い―――