●リプレイ本文
●迫る不死
「近づくこともままならんか。汎用性が高すぎるぞ、不死城!」
決して速いとは言えない速度ながらも、丹波の中央部を目指して進み行く不死城。
木々をなぎ倒し、丘を踏み越える巨大な白骨の足。その姿はまるで巨大な蟹のようだ。
不死城の進行を止めるべくイザナミが向かわせたのは、八雷神の火雷、大雷、黒雷の三体。
不死者を吸収する力を持つ不死城相手では、イザナミ軍は雑魚をいくら送っても餌にされるだけ。
ならば生者である黒雷(獣)、大雷(龍)、不死者ながらも機動性で翻弄する火雷で対抗しよう‥‥という思考の流れは至って普通である。
が、毒づく火雷の言葉からも分かるように八雷神三体がかりでも足止めすら出来ていない。
最大火力と思われる大雷の広範囲雷撃ですら、不死城は何事も無かったかのように即座に再生する。
八雷神と不死城との激闘を付かず離れずで見物していた冒険者たちは、感心するより先に呆れてしまったという。
そしてオラース・カノーヴァ(ea3486)の提案どおり、言葉の通じる八雷神‥‥火雷に共闘を呼びかけてみることにする。
「ちょっとそこのアンデッドサムライ君。よければ手を組まないか?」
「何者だ!? む‥‥見知った顔がいるな。冒険者か」
「そういうことだね。こちらも平良坂冷凍というやつを成敗するのが目的でね‥‥悪い話ではないだろう?」
「確かに‥‥実力は折り紙がついているからな。その提案、受けた! イザナミ様の御為に力を貸していただこう!」
「いやまぁ、どう思おうと勝手だがね‥‥とりあえずお仲間のタイガー&ドラゴンにこっちを攻撃しないようにさせてくれよ?」
イザナミに不死城を近づかせないためならば何でも利用するつもりなのだろう。火雷はさして悩まずにオラースの言葉に乗り、冒険者を攻撃しないよう他の二雷に伝えた。
石垣から飛び出してくる無数の白骨の腕を切り払いながら、冒険者との共闘に望む。
「さて‥‥お膳立ては整ったね。後はひたすら注意を引くだけか」
「ひたすら打ち砕くのみ‥‥望むところ! 飛刃、砕!」
オラースとメグレズ・ファウンテン(eb5451)は、こちらにも攻撃を仕掛け始めた骨の腕を叩き折りながら少しずつ不死城へと近寄っていく。
しかし、攻撃を受けているのはメグレズのみ。オラースや井伊貴政(ea8384)は攻撃目標にされず、横からメグレズの援護をするような形で得物を振るう。
「思い通り! ってやつですね〜。さぁさぁ、一気に門まで行きますよ〜!」
井伊とオラースは七つの大罪の名を冠した指輪を所持している。
先人の実体験から、不死城がこれらを持っている相手を攻撃してこないのは実証済みなのだ。
まぁ、何の道具にも頼らずとも影響を受けないという奇特な人物もいたそうではあるが。
それはさておき、一行は回りこんで不死城の正門を目指す。
不死城が撒き散らす瘴気は完全には無効化できないため、速めにケリをつけるに越したことは無い。
よって破壊が困難そうな石垣より、入ることを目的として作られている門部分を破壊して侵入しようとするのは至極当然の流れであり、有効な一手であると言えよう。
地上組みの一人であり一行の回復役兼防壁作成役である琉瑞香(ec3981)は大罪の指輪を所持していなかったが、自前の魔法で防御しつつ距離を詰める。
そしてオラースと井伊の援護を受け、メグレズが門に到着する!
「牙撃、剽狼!」
六道武器と呼ばれる特殊な金棒で門を強打し、粉々に粉砕する。
不死城は侵入を拒もうと、すぐさま門の再生にかかるが‥‥
「させません。全部は無理でも、部分的にならば!」
琉が門付近に走りこみ、ピュアリファイで破壊された箇所を浄化する。
不死城は見た目こそ普通の城だが、その素材の95%以上は不死者で出来ている。
よって浄化は可能。問題はその質量。
「っ‥‥! 浄化が間に合わない‥‥!」
浄化する速度より不死城が琉を飲み込もうとする速度の方が速い。
骨の腕などは井伊たちが砕いてくれるが、圧殺するかのように迫り来る壁までは無理。
帰り道がなくなっては困るので一行は無理な突入を断念し、外での囮に従事することにした。
そう‥‥地上は囮。いるであろうと予測した八雷神も含めて。
本命の冒険者たちは、騒ぎが起こっているうちに空を往く―――
●不満
「酷いじゃありませんの‥‥骸甲巨兵との決戦にわたくしを呼んでくださらないなんて。わたくしだってあれには色々思うことがありましたのに。不満ですわー」
「それは何度も謝罪したではありませんか。それに骸甲巨兵はカミーユ嬢でも操れない相手。万が一にもカミーユ嬢に怪我などされては困りますので」
「嬉しいこと言ってくれるじゃありませんの。それじゃ遠慮なく可愛がってあげますわよ♪」
「そ、それはまたの機会で! ほら、不死城が見えてきましたよ!」
御神楽澄華(ea6526)が駆るグリフォンが空を舞い、御神楽に抱きつくような形でゴスロリドレスの少女が同乗している。
こう見えて不死者を操る力を持つ悪魔で、今回の作戦の手助けをしてくれることになっている。
「どうやら戦闘は始まってるみたい。共闘の話も纏まったようで何よりね♪」
「八雷神にしてみればこちらと敵対している場合ではないからな。あとはこちらが手はずどおりにやるだけだが‥‥責任重大だぞ。二本目の矢は放てん」
「素早く侵入し、素早く目標を討つ。これ以上瘴気を撒き散らさせるわけにはいかないからな」
ヴェニー・ブリッド(eb5868)は自前のリトルフライで、琥龍蒼羅(ea1442)はペットのペガサスで、アンドリー・フィルス(ec0129)はフライの魔法で飛行中。
不死城から放たれる薄紫色の空気は毒性を持っており、さして広範囲でないとはいえその付近のものを腐食させる。
それが移動するのだから、振り返れば茶色に枯れ果てた木や草が移動経路を如実に語っていた。
「さぁ‥‥ラストインタビュゥへの道を開きましょ。インタビュゥの一念は腐肉をも通すのよ!」
力強い言葉と共に、ヴェニーの手から扇状に広がるライトニングサンダーボルトが発射される。
それが不死城の屋根に直撃し、黒焦げにしていく。
「もう一発!」
一撃で穴が開かないと判断したヴェニーは、連続でLTBを叩き込む。
流石の不死城も超越級のLTBを連続で受けては再生が追いつかず、天守閣の屋根に真一文字の亀裂が走る!
「俺と白耀で穴を維持する。だがあまり長くは保たないと考えておいた方が無難だぞ」
「承知しています。行きましょう、カミーユ嬢」
「はいはい。まったく‥‥埴輪大魔神を突っ込ませた方が速いんじゃなくて? 悪魔の使い方が下手ですわ」
「‥‥使われると文句をたれるくせによくも言う」
琥龍が乗るペガサスが亀裂部分に留まってホーリーフィールドを発動、その聖なる守りの力で自らをつっかえ棒代わりにして再生を妨害する。
味方である御神楽、カミーユ、アンドリー、ヴェニーはHフィールドをすり抜けて、不死城最上階へと降り立った。
本当ならば屋根や石垣から巨大な白骨の腕を伸ばし、迎撃されることもあるのだが‥‥地上の囮が予想以上に効果を発揮しているのかもしれなかった―――
●理由
『やってくれましたね皆さん‥‥。よく私の丹波征服の夢を見事に打ち砕いてくれました‥‥』
不死城の最上階。つまりは冒険者たちが侵入したまさにそこに、全く同じ顔をした二人の人間が居た。
正確に言えば片方は黄泉人だが、逃げも隠れもせずここにふんぞり返ったままとは流石の一行も思わなかった。
それぞれ得物を構える冒険者たち。カミーユだけが、つまらなそうに右の平良坂冷凍を見ている。
『十七夜さんと骸甲巨兵が戻ってきませんね‥‥あなたたちが倒したんですか? どうやったのかはしりませんがこれはちょっと意外でしたよ‥‥』
「‥‥十七夜の最後は知りませんが、骸甲巨兵との戦いは熾烈を極めました。しかし、死と紙一重にあってそれでも勝利できたのは絆の力に他なりません。あなた方には、無いものです」
相変わらず完璧なタイミングでステレオ喋りをする二人の冷凍。どういうからくりなのかはさっぱり分からない。
御神楽の強い言葉と視線を受けてもなお、冷凍たちは少しも怯まない。
『随分な言われようで。それにしても、あと一息のところで手駒の殆どがやられてしまうとは‥‥私を倒したがっていたイザナミさんやカミーユさんには残念でしたが、私にはもっとでしょうか‥‥』
「いい加減覚悟をしたらどうだ。大商人だか何だか知らんが、お山の大将が一国一城の主になろうとなどするからこういうことになる。どんな特殊戦力があろうが圧倒的に数が足りない。まぁ、貴殿に足りないのは正義‥‥これに尽きるが」
アンドリーが剣を突きつけながら言った台詞に、さしもの冷凍たちも眉を吊り上げた。
しかしそれはまごう事なき事実。現に冷凍は冒険者の侵入を許し、追い詰められているのだから。
『初めてですよ‥‥この私たちをここまで虚仮にしたお馬鹿さんたちは‥‥。まさかこんな結果になろうとは思いませんでした‥‥』
「ならどういう結果がでると思ってたのかしら。というか、ラストインタビュゥをさせて欲しいわ。どれだけ丹波が好きだったのか‥‥どうしてここまで丹波だけにこだわってきたのか」
『ほっほっほ‥‥流通、交通、都との距離。商人として応えるのならばいくらでも理由はありますけれどね。この際教えてあげましょう‥‥。故郷を嫌う人物はあまりいません。そしてその中でも高い地位を確立したのであれば、その中で一番になりたいと思うのは男として当然でしょう。しかし欲をかきすぎて失敗するのはよくあること。私とて国中を敵に回しては商売になりませんからね。丹波一国、まずはその足場固めをしっかりしてから神皇様方と交渉を‥‥と思っていたのですよ』
「‥‥何それ。大きいんだか小さいんだか分からないわねぇ‥‥」
『征服というのは言葉ほど簡単ではないのです。あなたのような小物には分かりませんよ』
「男を語ってでかいことするんだったら中途半端に堅実な方法なんて取るんじゃないわよ! 故郷に錦を飾るでもなく支配も中途半端。目標も中途半端だから行動も遅くて後手後手。小物はどっちよ、まったく。こんなのを今まで必死に追っていたかと思うと呆れちゃうわ。あなたは堅実なんじゃなくて臆病なだけ」
珍しく刺々しく語るヴェニー。どうやら冷凍の思い描いていたものがお気に召さなかったらしい。
確かに人によって評価が分かれそうな理由ではあるが、彼が一時期丹波を掌握しかけたことがあるのは事実である。
そういったプライドごと全てを否定された冷凍は、わなわなと震えながら言葉を吐き出した。
『ゆ‥‥許さん‥‥! 絶対に許さんぞ虫ケラども!! じわじわとなぶり殺しにしてくれる! 一人たりとも逃がさんぞ覚悟しろぉっ!!』
「初めからそう言えばいいものを! 冷凍、覚悟!」
御神楽が左の冷凍に向かって槍を突き出す。
この槍も六道武器の一つで、例えどんな術が冷凍を守ろうともそれが十七夜の遺した術ならいとも簡単に貫通するだろう。
避ける気配すら見せない左の冷凍。カミーユが見ていたほうが黄泉人であるなら、こちらが人間ということになる。
直撃するかと思われた瞬間、右の冷凍が電光石火の速度で動いてその槍先を掴んで止めた。
御神楽を押し返す豪腕。この力は一介の商人のそれではない。
「くっ!」
御神楽は身体を捻り、なんとか掴まれた部分を引っこ抜く。
二人の冷凍がシンメトリーを崩し、ゆらりと立ち上がった。
「残念でしたね。勘はいいようですが運が無かった」
黄泉人のほうの冷凍が一人でそう呟くと、人間の冷凍と鏡映しになるような立ち位置をとって見つめあう。
そして、一行は目を疑った。何の術の前触れも発動も感じなかったにも関わらず、二人の冷凍がすうっと一人に合体してしまったのである。
元から一人しかいなかったかのように、その姿は今までと何も変わらない。
その異変に最初に気付いたのはカミーユであった。
「なんですのこれ‥‥!? 人‥‥違う、アンデッド? そうじゃない、人でもありアンデッドでもある‥‥!?」
「どういうこと、それ!?」
「気配が、生者と死者の両方を持ち合わせているんです。これはどちらの特性も持ち合わせているとしか‥‥!」
生きながら死に、死にながら生きている。こんなことができるのはまた十七夜なのだろうが‥‥。
「生きていようが死んでいようが、斬ってしまえば骸だ。阿修羅神の名の下に‥‥天罰をくれてやる!」
アンドリーがパラスプリントで瞬間移動し、合体冷凍の背後に現れる。
そしてその剣が振り下ろされる瞬間‥‥冷凍はちょいと身体を捻り、最小限の動きでそれを避けた!
「何っ‥‥がっ!?」
続けざまの攻撃。振り返らずに左手を起こすようにし、アンドリーの顔面を裏拳で強打する!
アンドリーの巨体が軽々と吹き飛び、壁に大きくめり込んでしまう。
「ほっほっほ‥‥素晴らしい! これが同化というものですか‥‥十七夜さんも良い置き土産を遺してくれました」
「パワーがあっても魔法はどう!?」
ヴェニーが放ったLTBの直撃を受けた冷凍。
しかし服が焦げ付くことはあっても、本人は至ってケロッとしている。『超越級』のLTBで‥‥だ。
「ば、化物‥‥!」
「この程度で驚いてもらっては困りますよ。よし‥‥先に絶望感を与えておいてあげましょう。どうしようもない絶望感をね。この冷凍は術の発動をするたびに力が遥かに増す‥‥。その発動をあと二回も私は残しています‥‥。その意味が分かりますね‥‥?」
見た目は細身の中年男性に過ぎない存在から感じる圧倒的なパワーと威圧感。
同化とやらで全く別の存在になったとでも言う様に、その一挙動は自身と確信に満ちていた。
「生意気ですわ‥‥そして見るに堪えませんわ。できれば今すぐにでも叩きのめしたいところですが‥‥今回は分が悪そうですわね。決着は次回、きっちりとつけて差し上げます」
「ほっほっほ‥‥一人たりとも逃がさないと申し上げたはずですよ」
「『水入りにして差し上げる』と言っているのです。それとも‥‥『本気の』わたくしと戦ってみますか‥‥?」
「‥‥どっちでもいいが早く決めろ。そろそろ穴が維持できなくなってきた‥‥!」
しばし沈黙していた冷凍の思考を遮るように、上から琥龍の声がした。
それを聞いた冷凍は、
「‥‥いいでしょう。しかし不死城はこのまま進めますよ。決戦に間に合うといいですね」
一行はすぐさま脱出し、進みゆく不死城を見送るしかなかったという。
奇妙な術で人知を超えた力を手に入れた冷凍。
そのからくりが判明するのは、次の依頼の時である―――