【因縁との決着を】生き死人、冷凍
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■シリーズシナリオ担当：西川一純 対応レベル：11〜ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：9 G 4 C 参加人数：10人 サポート参加人数：-人 冒険期間：11月19日〜11月24日 リプレイ公開日：2009年11月29日 |
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「はいでは藁木屋さん。前回の補足というか説明をお願いします」
「了解した。しかし、これは陰陽寮の資料の中でも限られたものしか閲覧できない筋の情報だ。大っぴらに流せないし情報提供者の名前も明かせない。この前提を覚えておいてくれ」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海とその友人である藁木屋錬術は、大きく事態が動いている丹波について話していた。
今の専らの話題は、人間と黄泉人、二人の冷凍が同化（と便宜的に言われている）して生まれた合体冷凍についてだ。
あっさりと合体したわりにその力は尋常なものではなく‥‥人間はおろか黄泉人の戦闘レベルすら大きく超越していると言っても大げさではないように思えた。
藁木屋はその辺りのことを一海に聞き、日々調査に精を出していたのだという。
「まず、冷凍が口にしていた『同化』というのはハッタリではなく、本当に人間と黄泉人が一つの存在になったものらしい。術の作者は勿論十七夜。正確には、十七夜がまだ過去の陰陽寮にいたころ‥‥立町という名であったころに研究していた術の一つとのことだ」
「またでた‥‥十七夜のトンデモ設定」
「気持ちは分かるがね。この術は文字通り、異なる物と物を同化させる術らしいのだが、それは同じ形をしていないと意味が無いものらしい。例えば机と湯飲みを同化させてもただくっつくだけだが、紙の扇と鉄の扇を同化させると、紙と鉄両方の性質を備えた扇が出来上がる‥‥といった具合だ」
「同化して超パワーアップする理屈は？」
「それは不明だ。後々の研究で付加させた効果なのだろう。しかし、基本は変わっていないはず」
「じゃあ今回の場合、人と黄泉人の性質を両方持った冷凍が出来た‥‥っていうのは嘘じゃないんですね。弱点とかも両方併せ持ってたりは‥‥」
「残念だがしないようだ。弱点を打ち消し、強みだけを前面に押し出すための術らしいからね」
「オーラ系も効果は無しですか‥‥。しっかし、自分たち黄泉人に目茶目茶都合のいい術作りましたね‥‥」
「黄泉人には変身能力があるからな‥‥。だが、いいことばかりでもないのだよ」
「弱点があるんですか！？」
「弱点とまで言えるか分からないが‥‥とりあえず、二度と二人に戻れない。術の段階を上げると人の姿を保てない。子供が出来ない。死ぬと魂まで完全に消滅するといった記述がある」
「どれも直接的な攻略に繋がりそうにないんですけど！？」
「そこまでは保障できんよ。この情報を引き出すだけでもかなりの綱渡りだったんだぞ、私も」
「京都上層部からの情報では、不死城は東雲城のかなり近くまで来てしまっているみたいなんです。八雷神総がかりでもあれを止めるのは質量的に難しいでしょうから、冷凍は一気にイザナミを不死城に取り込んで勝利宣言といきたいんでしょう。時間はありません！」
「イザナミから何者かが生まれるのが先か‥‥それごと不死城が取り込んでしまうのが先か。主力を大宰府に向けてしまったイザナミ軍は、手薄と言えば手薄なのだろうが‥‥」
巨大な不死の城。圧倒的な戦闘力を持つ新種生物となった冷凍。ただ目の前に立つだけでもかなりの危険を伴う。
イザナミと冷凍‥‥どちらが勝利を手にするのか重要な岐路である今回。
前回、首尾よく冷凍とまみえ、彼との戦いを確定させていたことを喜ぶべきか否か。
「ところで‥‥カミーユさんが言っていた『本気』っていうのはどういうことなんでしょう？」
「さてな‥‥これもハッタリとは思えないが、今回は何が何でも彼女に手助けしてもらう必要がある。ただでさえ厄介な冷凍が、術の発動段階をあと二回残しているという。本丸に集中して戦えないのでは話にならないからね」
「‥‥運命の一戦って、意外と連続するものなんですね‥‥」
「現実は物語より厳しいこともあるのだよ。望むと望まずとに関わらず‥‥」
長年丹波で活動していた大商人、平良坂冷凍。
因縁との決着は、どのような結末を迎えるのであろうか―――
●今回の参加者
ea0020 月詠 葵（21歳・♂・浪人・人間・ジャパン）ea1442 琥龍 蒼羅（28歳・♂・志士・人間・ジャパン）
ea6526 御神楽 澄華（29歳・♀・志士・人間・ジャパン）
ea8384 井伊 貴政（30歳・♂・浪人・人間・ジャパン）
ea9527 雨宮 零（27歳・♂・浪人・人間・ジャパン）
eb2258 フレイア・ケリン（29歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国）
eb2483 南雲 紫（39歳・♀・浪人・人間・ジャパン）
eb5868 ヴェニー・ブリッド（33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国）
ec4801 リーマ・アベツ（34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国）
ec5511 妙道院 孔宣（38歳・♀・僧兵・ジャイアント・ジャパン）
●リプレイ本文
●呉越同舟「ほっほっほ‥‥これはこれは、盛大なお出迎えで。敵同士が手を組んでまでとは贅沢なことです」
丹波藩中央部に位置する東雲城。藩の主城であり、現在身ごもっているイザナミが拠点としている場所である。
そこにゆっくりと、しかし確実に迫る不死城を前にして、行く手を阻むべく多数の影が立ちはだかった。
歴戦の冒険者十人と、悪魔であるカミーユ。
そして本来は冒険者と敵対する存在である八雷神のうち、丹波に居る六体全員が集合して平良坂冷凍と相対していた。
その眺めは壮観と形容するに相応しく、総合戦闘力は生半可な軍勢なら打ち滅ぼしてしまう程だろう。
しかし、冷凍は彼らの姿を確認すると城の最上階から飛び降り（！）、何事も無かったかのように着地して相対している。
「もう言葉を交わす段階ではないですよね。あなたが進むと言うなら、ボクたちはそれを止めるまでです！」
「よろしいでしょう‥‥しかし不死城は進めますよ。私と不死城を同時に相手取れますか？」
月詠葵（ea0020）の言葉を受け、冷凍が手を振りかざす。
すると一時停止していた不死城が移動を再開し、ゆっくりと東雲城へと進軍していく！
「是非もなし、だな。火雷、イザナミを守りたければ作戦通りに動けよ！」
「言われるまでもない！」
南雲紫（eb2483）が大地を蹴ると同時に他の冒険者も八雷神たちも行動を開始する。
本来ならば交わることの無い勢力の精鋭たちだが、打倒冷凍の目的は同じ。ならばこの場だけでも手を取り合うのは不可能な話ではない！
「どんなに貴方が強かろうと、誰一人欠けさせないし僕は決して折れない！」
最初に斬りかかったのは雨宮零（ea9527）。引いた刀を水平に薙ぐその軌跡は、冷凍を真っ二つにして余りある鋭さがある。
どこから見てもただの中年男性としか思えない外見の冷凍は、その斬撃がまるでそよ風であるかのように自然に身を引いて回避する。攻撃した雨宮が息を呑んでしまうくらい見切った動き。
「素晴らしい動きですよ。しかし今の私の敵ではありませんね」
その右拳が雨宮の顔面を狙い、それを悟った瞬間に雨宮の背筋に圧倒的な寒気と確かな予感がよぎる。
この攻撃をもらったら死ぬ。頭が粉々に粉砕される。数々の修羅場をくぐってきたが故に、相手の力量も量れる‥‥！
「大人数を相手にしていることを忘れるな！」
「君を強敵と認めよう！ しかし君には冒険者ほどの魅力は無いな！」
「イザナミ様に手出ししようったってそうはいくかよ！」
南雲、火雷、土雷が雨宮のフォローのために一斉攻撃を仕掛ける。三方向からの攻撃。例え雨宮を殴り殺してもどれか一発はもらってしまう。
そんな状況にあって、冷凍は拳を止めるとくだらなそうな笑いを浮かべ‥‥消えた。
急に掻き消えたその姿。しかし、後方からフレイア・ケリン（eb2258）の声が飛ぶ！
「上ですわ。妙に体温の低い影が上空にいらっしゃいます」
インフラビジョンで警戒していたのだろう。一同が見上げると、そこには跳躍した冷凍がまだ滞空していた。
一瞬空まで飛ぶのかと思ったが、重力に引かれて落ちてきたことから飛行能力はないらしい。
「おやおや‥‥飛びすぎてしまいました。何しろ力が有り余っていますのでね‥‥少々やりすぎてしまうかもしれません」
着地し余裕の表情を見せる冷凍。しかしいつまでも守勢に回る気はないらしく、まるで商品の品定めでもするかのように一同を見回し‥‥標的を定める。
「決めた！」
どひゅっ、と一陣の風が吹きぬけ、一人の女が一瞬のうちに殴りかかられた。
一足飛びで何十メートルという距離を移動し、巫女服の女‥‥折雷に死の一撃が加えられる。しかし！
「中々の力じゃない‥‥満足できそうよ！」
「何ですって！？」
本来なら大幅に吹っ飛ばされるか殴られた部位が粉々にされるかなのだろう。しかし八雷神の中でも随一の腕力を誇る折雷は、冷凍の拳を掌で受け止め、更に押し返しつつある！
「くっ‥‥この私を上回る力だと‥‥！？」
「イザナミ様のためならあたしは最大限の力を引き出せる！ ほらあんたたち、ぼさっとしてるんじゃないわよ！」
拳を握りこまれて動けない冷凍。折雷の言葉に、対冷凍班として動いていたメンバーが弾かれたように動き出す。
多勢に無勢の上に拘束しての攻撃。傍目から見れば卑怯この上ないが、逆言えばこの相手はたった一人でもそれだけのことをしなければならない。この場の誰もがそれを理解していた。
「冷凍、覚悟なのですよ！」
「長年の決着‥‥僕にその資格があるのかわからないけど！」
月詠と雨宮がいち早く駆けつけ、その刀が冷凍の腹部と心臓を正確に貫いた。
耐久力は一般人とさして変わりが無いのか、鈍い感触と確かな手ごたえが二人には感じられた。
「おまけぇ！」
二人が刀を引き抜くと同時に、空いていた左手で折雷が冷凍を殴り飛ばす。
まるで空の桶が坂を転げ落ちるかのように跳ね、転がり‥‥冷凍は地面に倒れ伏した。
だが、一行は警戒を解けない。これで終わるような相手とは思えないし、何より身体が警告しているのだ。『相手はまだまだやる気である』と。
「‥‥そうですか。まさかあなた方が手を込むとここまで厄介だったとは。少々お遊びが過ぎましたね」
立ち上がり、血だるまになった着物を見下ろしながら何事も無かったかのように呟く冷凍。
その目がもう何もかもを覚悟したものであることを悟り、一行は再び大地を蹴る。
「妙な真似はさせません！ 貴方『如き』に梃子摺ってはいられないのです‥‥！」
「悪足掻きが認められるのは活きのいい魚だけと相場が決まってるんですよ〜！」
御神楽澄華（ea6526）と井伊貴政（ea8384）の攻撃がヒットする直前、冷凍の身体から爆風が発生し二人を弾き飛ばす。
その爆風に守られながら、冷凍の身体は異形のものへと変貌を遂げていく。
腕や脚から蟷螂の鎌のようなものが生え、身体は二倍くらいの大きさとなって筋肉が最大まで隆起し、肌の色はどす黒く変色していく。顔にも多数の筋肉によるしわが刻まれたが、むしろ若返ったような印象さえ受けた。
「これが第二段階です。もうこうなると人の姿には戻れないらしいのですが‥‥まぁ、仕方ありませんね」
トーンが下がり、ドスの効いた声で紡がれるいつもの口調。
思わず後ずさりした自分の右足に気付き、南雲は戦慄する。
「私が無意識のうちに退いた！？ 戦女神の仮面が、戦いにすらならないと警告しているのか‥‥！？」
「今更気付いてももう遅い！」
いつのまに接近してきたのか、３メートル近い巨漢でありながら冷凍が南雲を射程に捉えている。
繰り出された拳。いつもの優雅な動きをかなぐり捨て、形振り構わぬ全力回避でなんとか回避する南雲！
しかし空を切った拳が地面に衝突した瞬間、地面が大きく陥没し衝撃波を辺りに振りまいた！
「野っ郎！ 不死身の甲羅茶話様を舐めんじゃねぇぜ！」
「今度も吹き飛ばしてやるわよ！」
土雷が壁代わりとなり、折雷と共に冷凍に接近。攻撃を仕掛ける！
鉄壁‥‥いや、金剛壁とさえ言える土雷の防御能力。冷凍はそれを知ってか知らずか、土雷に殴りかかった。
それを右腕でガードした土雷。吹き飛ばされこそしたがかすり傷程度！
その隙を突き、折雷が渾身の右拳を冷凍の腹に打ち込む！
「‥‥ほっほっほ‥‥どうやら先ほどとは立場が逆転したようですね」
「う、嘘‥‥あたしの力が通用しない！？」
華奢な腕から捻り出される豪腕。女の細腕でありながら埴輪大魔神とも渡り合うその力が、冷凍に通用しない。
折雷の腕を掴んだ冷凍は、ありったけの力を込め‥‥その右腕を肘のところでへし折る！
「うあぁぁぁっ！」
「おっと‥‥引き千切るつもりだったのですが流石にお強い。ですがこのまま引っ張ればどうなりますか！」
「こら〜！ 黄泉人とはいえ、女の子にやることじゃありませんよ〜！」
「まだ一段階あるのにこれとは‥‥！ 畜生道・解よ、私に力を貸してください！」
先ほどの汚名返上とばかりに井伊と御神楽が冷凍に攻撃を仕掛ける。
それを確認した冷凍は、折雷を無造作に投げ捨てて二人に向き直った。
渾身の力を込めて振り下ろされた井伊の太刀と交差するように、冷凍の拳も井伊にヒットする。
肩口から出血する冷凍。しかしそれは中傷程度で止めには遠い。
しかし人間の井伊が今の冷凍の拳を受ければ確実に死ぬ。腹部を穿った冷凍自身、それを信じて疑わなかった。
どてっ腹に風穴が開き、臓物を撒き散らす光景を誰もが確信していたが‥‥！
「やられた〜と思わせておいて実は〜！ 御神楽さん、今です！」
「何ですって！？」
「その想い、受け取りました！ 穿て、因縁の鎖を！」
泰山府君の呪符でダメージを無効にした井伊が冷凍の腕にしがみつき、背後に回った御神楽への反応を遅らせる。
御神楽の突き出した槍は、冷凍の強靭なはずの皮膚をまるで豆腐のように貫き通した。
首の少し上から入り、冷凍の口から槍が生え‥‥首の骨と神経類を纏めて打ち抜いている。
「まだ段階があります！ それを発動させる前に、完全に殺しきる！」
焦燥感に駆られた御神楽はすぐさま槍を引き抜き、今度は心臓を貫いた。
一瞬痙攣した冷凍の身体。次の箇所をと御神楽が槍を引き抜こうとした瞬間‥‥再び冷凍を中心に爆風が発生し、御神楽は槍もろとも吹き飛ばされてしまった―――
●不死城の末路
「咲き狂え。石の花園」
リーマ・アベツ（ec4801）が放った超越ストーンで、不死城は一気に石化されるかと思われていた。
しかし恐ろしいことに、不死城は石化される速度より早く再生を繰り返しその効果を無効化してしまう。
「‥‥なんだあれは。戦い甲斐がないな‥‥」
「無茶苦茶よねぇ。やっぱり再生能力を止めないと駄目かしらん」
著名な魔法使いの姿と能力をコピーした鳴雷と、その元となったヴェニー・ブリッド（eb5868）。
二人の超越ライトニングサンダーボルトにも、不死城は再生を邪魔するものが無ければ少し経てば回復してしまう。
上空では黒雷とペガサスに乗った琥龍蒼羅（ea1442）が不死城から伸びる白骨の腕を回避し注意を引きつけているが、地上組みが有効打を与えられないのでは意味が無い。
「カミーユ、遊んでいるな。本気とやらを見せてみろ」
「分かっていますわよ！ わたくしだってあれは許してはおけませんもの」
琥龍に急かされ、カミーユはため息混じりに呟く。
その肩に手をやり、フレイヤがこっそり耳打ちした。
「よろしいのかしら。私もエウリノームという悪魔を知ってはいますけれど、本気というのは軽々しく使うものではないと聞き及んでいます。それでもやるのですか？」
「‥‥エウリノームがどうかは知りませんけれど、わたくしは義理堅い性格ですので」
その言葉にくすくすと笑ったフレイヤに少しカチンと来たカミーユであったが、気を取り直して意識を集中する。
少女の姿から蒼い炎を纏った馬の姿に戻ると、気合と共にその炎が猛るように勢いを増していく。
そしてふっと何かがカミーユに重なったような感覚があった直後、炎の色が漆黒へと変化した！
『まずは城の下半分の再生を止めます。集中しなくてはなりませんのであとはよろしくですわ』
吹き上がる漆黒の炎と同時に、不死城が一瞬痙攣した。
それで悟ったヴェニーと鳴雷が放ったＬＴＢが、がりがりと腐肉をこそぎ取っていく！
今度は再生は無い。実証された事実を以ってリーマが再びストーンを使用。
ＬＴＢを阻害しないように城から生えた白骨の足部分だけを石化し‥‥
「獅子身中の虫ならぬ不死城中の虫になれるかわかりませんが、全力で手向かいいたします！」
「援護は任せろ。破壊に集中していい」
琥龍に守られながら、術士の護衛として骨の腕を薙ぎ払っていた妙道院孔宣（ec5511）が停止した不死城の足や門、石垣などを片っ端から打ち砕いていく。
再生できない不死城はついに地面に固定され、ひたすら超越ＬＴＢやリーマの超越グラビティーキャンの的となり、土台部分からズタボロにされていく。魔力が切れてもソルフの実で回復する冒険者に隙は無い。
やがて‥‥下半分がバラバラの瓦礫にされ、上半分と分離。その上半分もカミーユによって再生を阻害され同じ運命を辿ることとなる。
瓦礫＝腐肉の残骸は、八雷神の大雷が無尽蔵の広範囲電撃で全て黒焦げにして焼却処理していった。
あなたの死と、悲しみを重ねて作られた奇怪な城。
不死城が破壊されたことで、ようやく死者たちも安息を得ることが出来るだろう。
後は、冷凍さえ倒せれば―――
●圧倒
「ほっほっほ‥‥言いましたよね？ 地獄以上の恐怖を見せて差し上げると‥‥」
そう言い放った冷凍は最早完全に人の形を保っておらず、身長は５メートルほど、口は耳元まで裂け、龍のような太い尻尾や翼まで生えている始末。
その周りには、ボロボロになり血反吐を吐く冒険者たちの姿。
この時点ではまだ不死城との戦闘は続いているが‥‥こちらは絶望的な状況のようだ。
冷凍は魔法は使ってこないが、まさに化物の身体能力で歴戦の冒険者の骨を砕いて肉を裂き、御神楽の槍以外の攻撃を殆ど受け付けない。
まだ戦いを続けている火雷と土雷でさえその身体はボロボロだ。土雷に至っては右腕が無い。
悲鳴を上げる足に鞭をうち、武器を杖代わりにしてやっと立ち上がる冒険者たち。
最終段階まで術の段階を引き上げた冷凍は、悪魔でさえ裸足で逃げ出しそうな外見と圧倒的な強さを誇っている‥‥！
「ま‥‥だ‥‥。まだ‥‥僕、たちは‥‥やれますよ〜‥‥！」
「この程度で‥‥私の仮面は‥‥剥がれない‥‥！」
「死に損ないが！」
今の冷凍のパワーならば、拾った小石すらも凶器以外の何物でもない。
折角立ち上がった井伊と南雲の腹に叩き込まれた小石が、身体ごと数メートル弾き飛ばしてしまう。
薬は使い切った。回復役も居ない。後はもう死を待つしかないのか。
「その程度で終わりかよてめぇら！ 大事なモン守りたいから不死者になった俺らを見習えよ！ んがっ！？」
「見せてみたまえ！ 君たちが何度も掲げてきた絆の力とやらを！ ぐおっ！？」
ついに土雷と火雷が直撃をもらい、地に伏した。不死城担当の冒険者たちも戦闘中で間に合わない。
立っているのがやっとの御神楽に、怪物と化した冷凍がゆっくりと歩み寄っていく。
「六道武器もろとも始末させてもらいますよ」
振りかざされた鋭い爪。それが振り下ろされれば命の火が消えるのは明らかだ。
消えゆく意識の中で、御神楽は死を覚悟した―――
次に冒険者たちが目を覚ましたのは、京都の医療所である。
夢などではない。自分たちの身体にはまだダメージが残っている。
決着の様子は、彼らが少し回復してから語られることだろう―――
