鮮烈、堕天狗党! 〜蜻蛉奪還作戦其の参〜

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月13日〜01月18日

リプレイ公開日:2005年01月15日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「やぁ、久方ぶりだね。前回から少々間が空いてしまって申し訳ないが、それは向こうの都合だから御容赦願いたい」
 冒険者ギルドでは、奉行所の堕天狗党担当である藁木屋錬術が、すでに茶を啜っていた。
 卓袱台を挟んだ向かい側には、本来依頼の説明役である冒険者ギルドの若い衆‥‥西山一海が、同じく茶を啜っている。
「藁木屋さん、そんな挨拶より何か重要なことを掴んだんじゃありませんでしたっけ? それを説明しませんと」
「そうだったな。堕天狗党から例の挑戦状と暗号が届く少し前のこと‥‥私も自分のコネやら情報網やらを駆使して捜査した結果、柄這志摩が居ると思われる場所の候補が四箇所ほど浮上したのだよ。わりと骨だったが、協力してくれている諸君らの助けになるならと思ってね」
 いつものように江戸の略図を広げ、微笑混じりで説明を続行する。それによると、今回堕天狗党から送られてきた行動場所と、藁木屋が調べた候補の町は全て同一。当然であるかのように、挑戦状に書かれていた、彼女が囚われているであろう屋敷も全て同じだったのである。
 即ち―――『北の秋元町にある八島邸。東の藤島町にある近藤邸。南の岸本町にある皆川邸。西の矢立町にある富野邸』の四箇所だ。
「四つの町にあるそれぞれの屋敷は、いずれも少しばかり名のある志士の家柄だ。柄這志摩が志士であるという事実から、政治的な思惑で通常の牢には入れられず、志士の預かりとして志士側で処断するつもりなのだろうな。これがまた厄介な話でね‥‥」
「こうまでひた隠しにされると、当然それぞれの屋敷に赴いても知らぬ存ぜぬで通される可能性が高い。しかも調査は藁木屋さんが個人的に行ったものですから、奉行所の御用だとも当然言えない。‥‥あんまり今までと状況変わってなくありません? その四箇所に、本当に柄這志摩さんがいるという確証もないんじゃあ‥‥?」
「そう言ってくれるな、これでも苦労したのだから。実際問題あまり状況はよくなっていないが、今はこれが限界だ。もっと時間があればまた違ったかもしれないがね」
 まぁ街中を探し回らなくて済むのは大きいかも知れない。暗号を読みきり、その方角の町にある屋敷で待ち構えればいいだけの話なのだから。
 屋敷の人間の協力が望み薄である以上、堕天狗党の面々を捕まえて、連中が手に入れた情報を白状させるのが最も可能性が高いだろうか。
「ちなみに今回の暗号は‥‥『八』。ただこれだけだ。これが単純に八島邸を意味するような暗号でないであろうことは諸君もご存知の通り‥‥正月もそろそろ終わりだ、あまり宴会ばかりしていたくないからな。頑張ってくれたまえ」
 今回の暗号は短いが故に単純‥‥単純であるが故に難しいかもしれないが、解けないことはないはずだ。そして解けた後は、堕天狗党との戦闘が確実に待っていると言っていいだろう。
 頭脳戦にしろ肉弾戦にしろ‥‥勝機は必ずある―――

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5641 鎌刈 惨殺(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●リハビリを兼ねて
「これでどうじゃ!」
「甘いぞ‥‥この程度なら今の私でもほぼ確実に捌ける」
 フレイムエリベイションを発動している三月天音(ea2144)の一撃を軽々と受け止め、藁木屋は距離をとる。
 ここは奉行所内にある道場‥‥というか訓練場。今回依頼に参加していた面々が全員、思い思いの体制で二人の打ち合いを眺めていた。勿論真剣ではなく、木刀を使っての演習である。
「ちなみにっ‥‥今回の正解は、どこだったのかのう!?」
「『東の藤島町にある近藤邸』だったようだ。またしても巡回隊に負傷者を出して、堕天狗党は撤退‥‥前回確認された白い忍者と、螺流嵐馬がやってきていたようだ。青い巨刀は君たちもよく知っていると思うが、白い忍者のほうもまた厄介だそうでね‥‥とにかく凄まじい回避力を有していたそうだ」
「その忍者、どの程度の実力だったのじゃ!?」
「そうだな‥‥格闘技術は君より低いようだが、回避力は比ではない。奇跡でも起きない限り三月君では当てられないだろうな」
「そ、そんな使い手とは‥‥くぁっ!?」
 毎回宴会しているのも難だという理由で、今回の報告作業はちょっとした訓練をかねたものとしたようだ。
 ただ藁木屋の懐が寂しかっただけかもしれないが、本人曰く『ここのところ事務作業ばかりで鈍っていたから、私自身の訓練も兼ねて』とのことである。
「‥‥今度は私が相手になるよ。連続で失敗してすまない‥‥情け無いね‥‥雁首揃えて‥‥これじゃあね」
「お相手いただこう。‥‥仕方ないさ、今回の暗号は意図して2×4=8‥‥つまり『西が八』と思わせるのが目的だったようだからな。三月くんが最初に言っていたという『方角の漢字の画数』が正解だったようだ」
 三月が場外へ弾き飛ばされたのを見て、今度はヘルヴォール・ルディア(ea0828)が藁木屋と相対する。お互い木刀で打ち合うが、鈍っているというわりに藁木屋のほうがかなり優勢のようである。
「‥‥くっ‥‥これほどの腕があるなら、錬術も戦闘に参加したら‥‥!?」
「光栄だがね‥‥これで奉行所の仕事も忙しいのだよ。だから君たちに頼んでいるわけだし‥‥な!」
 ひゅっ、とヘルヴォールの喉元に木刀を突きつける。
「‥‥紅蓮の闘士の名前はまだ自称に止まるみたいだね‥‥」
「君も強いとは思うがね‥‥」
「よっしゃ、次は俺が相手だぜぇ! 藁木屋よ‥‥あんたでも意外と楽しめそうじゃねぇかぁ!」
 どんっ! とヘルヴォールを横に押しのけ、斬馬刀を模した木刀を構える虎魔慶牙(ea7767)。
「君か‥‥正直あまりやりあいたくない相手だな。一撃もらうだけでかなり痛そうだ」
「自分から言い出したんだろ。飲んだり食ったりよりは楽しめるってもんだぁ!」
 ため息をつく藁木屋に手加減をするようなわけもなく‥‥虎魔は全力を以って打ちかかる。流石に虎魔の猛攻を凌ぎきるのは難しいらしく、錬術は一発胴にもらって呻いた。
「痛っ‥‥! き、君は手加減というものを知らんのかね!?」
「悪いが知らねぇ。俺は面白ぇ戦いができればそれでいいわけだからよぉ!」
「ええい‥‥こんなことなら修練を怠けるのではなかった!」
 結局お互い傷だらけ‥‥数箇所に打ち込まれて中傷になった藁木屋が降参し、虎魔は何故か上機嫌で場外に下がった。
「次は僕が相手になろう。錬術君、準備はいいかい?」
「み、蛟静吾(ea6269)殿ですか。少々お待ちいただきたい‥‥」
 リカバーポーションを飲み干し、傷を癒す藁木屋。真面目に訓練するつもりらしく、回復手段にも抜かりがないようだ。
「で、錬術君。堕天狗党について何か分かったことはあるかい?」
「一応は。どうやら向こうは柄這志摩の居所を突き止めた模様」
「何だって!? それで、その場所は‥‥!?」
「生憎、現段階では分かりかねます。次に連中が行動を起こすまでには必ず」
 蛟と藁木屋の実力は伯仲‥‥激しい打ち合いをしながらも会話を続ける。しかし虎魔の時とは違い、藁木屋の方が少々優勢か。もっともお互い寸止めしているため、怪我をするようなことはないのだが。
「くっ!?」
「ここまで。経験の差が出たね‥‥修練は怠らない方がいい」
 ブレイクアウトで体勢を崩し、蛟が木刀を突きつける。基本的な格闘術が上ならいいというものではない見本だろう。単に藁木屋がサボりすぎという話もあるが。
「次は僕〜♪ 錬さん、いっくよ〜♪」
「言っておくが微塵隠れは禁止だぞ‥‥道場を壊されてはかなわん」
「おっけ〜♪」
 草薙北斗(ea5414)の言葉を受けて、蛟がすっと身を引く。短刀サイズの木刀で打ちかかる草薙だったが、あまりに技術の差があり、受けは勿論回避までされてしまう。得意の微塵隠れも使用禁止にされていては、訓練にもならない。
「ふむ‥‥草薙君、微塵隠れに頼りすぎではないかね? もっと基本的な格闘術や回避術を高めないと厳しいかと思う。‥‥と、サボってばかりの私が言うのも難だが‥‥今の私でも充分殺せてしまうぞ」
「えっ!?」
 ふっと体勢を入れ替え、軽く草薙の頭を小突く藁木屋。
「あ痛たた‥‥錬さん強いじゃない。次は一緒に戦おうよ♪」
「上役に言ってくれたまえ。仕事が回ってくるのは私の所為では‥‥ない!?」
 突然草薙が身を翻す。後ろから突っ込んできた幽桜哀音(ea2246)を回避するためで、藁木屋も少々不意を突かれたようである。
「‥‥つまらない、の‥‥。‥‥また‥‥戦えなかった‥‥。‥‥憂さ、晴らし‥‥」
「私でしないでくれたまえ! 君は攻防平均の取れたタイプだったな‥‥!」
 ごっ! 不意打ちだったということもあり、藁木屋は幽桜のブラインドアタックを避けることも受けることもできなかった。木刀であったことを感謝するべきか‥‥はたまた。
「くぅっ‥‥き、君も手加減を知らないタイプかね‥‥!?」
「‥‥する必要‥‥なさそう、だし‥‥」
 かったるそうにぼそぼそ呟く幽桜ではあるが、格闘も回避も素人のレベルではない。使用する技こそ違うが、堕天狗党で言えば狂気の騎士と似たようなスタイルだろう。
「‥‥それから‥‥前も、言ったけど‥‥あの人‥‥間さん、気をつけた方が‥‥いいと、思う‥‥」
「‥‥部外者から見てもそう見えるかね? あれで仕事はできるからね‥‥迂闊に意見も言えないのが現状だが‥‥」
「‥‥まぁいい、けど‥‥。‥‥次こそ‥‥死ねる、かな‥‥」
 打ち掛かってきたときの勢いはどこへやら、ゆらゆらと戻っていく幽桜。
「藁木屋君、先日は馳走になった‥‥上司とは程々に仲良くしておいた方が良いぞ(微苦笑)」
 今度は自分が相手とばかりに、 蒼眞龍之介(ea7029)が歩み出る。藁木屋自身が言い出したことではあるが、この8人相手の乱取はそれこそ命がけなような気がして、わりと後悔しているようだ。
「蒼眞殿‥‥蛟殿の師でしたか。大分カンは取り戻してきましたが‥‥どうなるやら!」
 傷にもめげず、二人は打ち合いを開始する。
「いい腕だ‥‥鈍っているというのが惜しいところだな」
「疲労も溜まっていましてね‥‥くっ、流石は穏やかなる伏龍‥‥!」
 近寄ればブラインドアタック、距離をとればソニックブームと隙がなく、基本的な技量も高い。途中回復させたとはいえ、8人を相手している藁木屋では及ばないだろう。
(「‥‥しかし‥‥ここまで受けるか。藁木屋君も修練を再開すれば相当な手練だろうな」)
 蒼眞と虎魔は冒険者の中でもかなり技量の高い部類だが、鈍っていてもそれについていけるということは、そういうことだ。
「ぐぁっ‥‥! ま、参った‥‥!」
 だが悲しいかな、現実はこの通り。COもまともに思い出せないような鈍り具合では、蒼眞には勝てない。
 荒い息をついて、藁木屋は眼前の木刀を退ける。残る相手は鎌刈惨殺(ea5641)だけだが‥‥。
「あー、俺はいい。かったるいし、錬術もそろそろ限界だろ」
 ひらひらとかったるそうに手を振って、木刀を持たずに藁木屋に近づいていく。
 ひょいっと手拭を藁木屋に渡し、やれやれとばかりに言った。
「お疲れさん。色々駆けずり回った上にこの乱取りだ‥‥お主も奇特だな」
「所詮命の危険のない稽古だよ。これくらいしておかないと命をかけている君たちに悪いだろう? それに奉行所の人間が楽をしていると思われても癪だしな。蛟殿にも言ったが、次回までには柄這志摩の居所は突き止めるつもりだ‥‥期待していてくれたまえ」
 渡された手拭で汗を拭きながら、藁木屋はお開きの旨を全員に伝える。勿論依頼自体が失敗しているので爽やかな気分で‥‥というわけには行かなかったようだが。
「上には怪しげな上司‥‥目の前には堕天狗党。どちらも相手にしなければならないなら‥‥」
 2度目の失敗‥‥それが何を意味するのか。そして蜻蛉の居場所を特定したという堕天狗党の動きは如何に。
「‥‥ならばお主は兄のように上役を暴けるか、錬術」
 誰にも聞こえないように呟かれた鎌刈の台詞もまた‥‥この先の未来にしか、答えはない―――