【五行龍復活】龍たちの想い
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 27 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月21日〜03月05日
リプレイ公開日:2006年03月01日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「失礼する。一海君は‥‥」
「ヘイ城さん! 藁木屋さん狩りです!」
「承知ッ! 漢路力(かんじりょく)パワープラスッ!」
「漢路力パワーマイナス!」
『交差爆裂ッ!』
「ぐはぁぁぁっ!? ど、どこの世界に客にいきなり合体技を仕掛けるギルド職員がいる!?」
「ここにいるじゃありませんか♪」
冒険者ギルドに顔を出した途端、西山一海&大牙城のコンビに襲撃される藁木屋。
京都の便利屋であり、二人の知り合いでもあり、戦闘力にも定評のある彼だが、何故かこの二人は苦手であった。
「申し訳ないッ! 一海くんに要請されて致し方なくなッ!」
「という割には随分ノっていたように見受けられましたが。というか、何ですかその『漢路力パワー』というのは」
「漢たる者、いついかなるときも全身全霊よッ!」
とまぁ、いつもの挨拶はこの辺にして‥‥。
本日、藁木屋は一海に呼び出されてここに来ていた。
再び五行龍の依頼が陰陽寮から出されたから、とのことだったが‥‥。
「これで大変なんですよ? ギルドで作る報告書と違って、物凄く堅苦しいですし‥‥ちょっと不適切な言葉使うとすぐに書き直しを要求されるしで‥‥もう泣いていいですか?」
「泣くのはかまわないが、泣き言を言っても事態は代わらんよ。それに、その分別に給金を貰っているのだろうに」
「てへ」
「前回、『土角龍・芭陸』なる五行龍から貴重な話を聞けたのは僥倖であったが‥‥まだ見ぬ五行龍は3匹おり、確認された五行龍も放っては置けぬッ! 幸いまだ大事には至っていないがッ‥‥!」
「五行龍が復活した理由も、何をどうしたいのかもよく分かりませんしね‥‥まだまだ調査が必要なんでしょうか」
今回も、目的地は依頼を受けた冒険者に一任するらしい。
未見の五行龍を確認に行くもよし‥‥すでに確認された二匹に話し合いの場を持つよう説得に向かうもよし。
火爪龍・熱破と土角龍・芭陸はヒトと係わり合いを持ちたくないという自らの言葉どおり、存在を知られてからも死人を出すような事件を起こしては居ない。
勿論、近隣の村の住人は困り続けているのも事実だが。
「結局、冒険者の裁量次第で事は進む‥‥か。そういえば今回は陰陽寮のお勧めは無いのかね?」
「一応、丹波の北がお勧めだとか。でも他の遠い場所に行っても大丈夫なよう、期間も長めです」
「五行龍がすべて温厚とは限らぬからな‥‥何事もなければよいがッ!」
ヒトと関わりたくない五行龍。
しかし、ヒトは彼らを放っておくわけにも行かないのだ。
双方、どうにかして歩み寄れないものか―――
●リプレイ本文
●ぜんりょくだっしゅ!
「はぁっ、はぁっ、た、体力の、無い、うちには‥‥つ、辛ぅおすえ‥‥!」
「韋駄天の草履を持ってきていて正解でしたね。備えあれば憂いなし‥‥と」
「なんだなんだ、だらしないな。ちゃんと鍛えとかないからだぞ」
雪が疎らに残る、高地の森。
さほど広くないその森の中を、全力で疾走する影が7人。
遅れ気味の香辰沙(ea6967)を気にしながら、拍手阿義流(eb1795)がちらちら後ろを見て殿を勤める。
必死の二人に余裕の表情で言葉をかけるのは、日比岐鼓太郎(eb1277)である。
「あの木の下で休憩しましょう。大分引き離したはずです‥‥!」
「さんせぇー! 流石のボクも疲れたよー」
他の木より樹齢を重ねたと思われる大きな木。
一行は御神楽澄華(ea6526)の進言に同意し、その木の下へと駆け込んだ。
いつでも元気な風月明日菜(ea8212)も、長めの全力疾走には結構参った模様。
「冬の雪の中を歩くのも3度目ですから、少しづつ慣れてきましたけど‥‥に、荷物を持ったまま走るのはちょっと」
「日本人でもきついでござるよ。まったく、折角土産も用意してきたのでござるが」
実は、一行はあっさり五行龍の一匹と会えたのである。
丹波の北に位置するこの辺りでも、木に色布を巻きつける目印を有効に使い、一同は進んだ。
途中立ち寄った村でガイアス・タンベル(ea7780)が情報を収集し、七枷伏姫(eb0487)が陰陽寮で調べてきたことと照らし合わせ、さくっと居場所を特定したのである。
だが、ここまで全力で逃走し、やっと一息ついたということは、やはり穏便にはいかなかったわけで―――
●木鱗龍・森忌
「村の人によると、実際に襲われたって言う人は一人だけだそうです。しかも旅人なので、村の人が襲われたという事例はゼロだとか。ここの人たちも協力的でよかったですね」
「しかし、そもそも村人は滅多に森に近づかないというお話ですし‥‥この地に住む五行龍の人となりは不明のままですね」
色布を枝に巻きつけながら、ガイアスと御神楽が言葉を交わす。
葉は散りきり、地面に残る雪も疎ら。
見通しは良好である。
「予想だと此処には風の龍さんが居る筈だから、上の方にも気を配っておいた方が良いかもねー♪」
「そうですね。この地に住まうのは、恐らく風精龍‥‥上方の警戒はしておくに越したことは無いでしょう」
「ここにも社があるんなら、『水』と書かれた木札と緑色の石が置いてあるんどっしゃろか‥‥」
風月、拍手、香の三人は、巣穴の有無や五行龍本人が居ないかどうかを、辺りを見回し警戒。
まぁ太陽の眩しい午後の森なら、よほど抜けていなければ見落とすまい。
「ん? なぁ、あれって社じゃないか? 他のところと違って随分分かりやすいところにあるなぁ」
「見つけにくいよりはいいでござるよ。今回は人数が少ないのでござるから、難しいところに隠されていても困るでござる」
一人風邪で病欠している現状、目の前に現れた社の存在はありがたい。
森の中にぽつんと立てられた社は情報どおり、年に一回村人が手入れに来るとき以外は完全放置のようである。
辺りを確認しながら社の中を覗くと、香の予想通り緑色をした透き通る石と、古びた木札があった。
前回作った互換表で木札に書かれている字を確認すると、やはり『水』。
「合うてましたなぁ。すると、丹波の西北西は『金』の地で、水の龍がいるんやろか」
「まるで五行博士ですね。その説を支持するなら、南西は『土』の地、金の龍が居るわけですか。炎龍、大蛇と同格の精霊となれば、風精龍、蛟、月精龍。この中で言えば月精龍が一番近いでしょうね」
「拍手様の場合は精霊博士ですね‥‥すばらしい知識です。私も勉強になります」
御神楽が柔らかく笑う。
だが次の瞬間、風月の声が一同の緊張を一気に高める!
「みんな、上から何か来るよー! 気をつけて!」
きぃぃぃん‥‥ばきばきばきっ、ずどぉぉぉぉんっ!
風を切る音を響かせ、枯れ枝を容赦なく叩き折り、地面に着地(?)した物体。
何やら緑色をしていたように見受けられるが、今は砂埃で見えなかった。
『だっしゃぁぁぁっ! おうおうおう、何モンじゃきさん等! ここが『木鱗龍・森忌(もくりんりゅう・しんき)』の縄張りと知ってのことかぁ!? ほんなら覚悟はできてるんじゃろぉなぁ!?』
翼で土埃を吹き飛ばし、姿を現したのは‥‥やはり風精龍(ウイバーン)。
他の五行龍同様、通常のそれより少し大きいようである。
「お待ちください。勝手に森忌様の領分に踏み入ったことはお詫びいたします。しかし‥‥」
『じゃかぁしぃ! 言い訳なんぞ聞きとうないっちゅーんじゃぁぁぁっ!』
御神楽の丁寧かつ礼を尽くした対応をきっぱり無視し、森忌は羽ばたいてふわりと宙に浮く。
例のテレパシーのような声の感じも、口調と同じでチンピラっぽい。
「うわ、森忌さん、その足折れてませんか!? 高いところから落ちすぎたのでは‥‥」
「というか、身体にも裂傷があるでござるな。あんな速度で落ちて来れば当然でござるが」
『なんじゃこんなモン! 全然痛ないっちゅーんじゃ!』
ガイアスや七枷の心配に対し、森忌は虚勢を張る。
明らかに折れているし、明らかに切れているではないか。
『‥‥せやけどホンマは痛いねん。じゃけんどなぁ‥‥根性で補助しとんのじゃぁぁぁっ! うぉぉぉぉぉっ、漢じゃワシゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
そのむさ苦しい森忌の咆哮に、一行はドン引きである。
だが森忌が攻撃の意思を持っていることを悟ると、さっと迎撃体制を取る!
「えっ、シュライク!? こんな技使えるのー!?」
「おっとぉ! こっちの尻尾には毒があるんだっけか? しかもポイントアタック付きとは、鍛えてるな!」
風月が爪、日比岐が尻尾で攻撃されるが、二人はそれをしっかり受け流す。
どうやら格闘技術そのものは二人とほぼ同じのようだ。
「ま、待っておくれやす! 話を‥‥」
「香さん、いくら言っても聞きそうにないですよ! みなさん、ここは一旦距離をおきましょう! 社が壊れるのは調査上でもよくないような気がしますので!」
拍手の号令の下、一行は全力で後退していた―――
●追撃!
時は現在に戻る。
少し休憩を取り、息も整ってきた一行は、森忌の追撃に備えていた。
無論極力戦いたくは無いが、降りかかる火の粉を払うくらいはせねばなるまい。
「しかし、いつもいつも上手く行くとは限らないという教訓でござるな。いきなり攻撃されるとは‥‥」
「それ以前に、ちょっとついていけない思考でしたよね‥‥。日本の龍さんってよくわからないです」
「あんな乱暴なん、珍しいんとちゃうやろか。漢がどうとかもよう分かりまへんえ‥‥」
七枷、ガイアス、香。
今まで出会った五行龍は、ヒト嫌いという共通点こそあれ、いきなり襲ってきたりはしなかった。
今回のような事態も全員想定してはいたが、やはりいざ問答無用で攻撃されるといささかショックだ。
「けどさ阿義流、風精龍ってのはコンバットオプションなんて使うのか? 魔法を使うってのは聞いてたけど」
「いえ、本来使わないはずです。勿論、炎龍も大蛇も、月精龍も蛟もです。それが異なる技を繰り出してきたということは、彼等五行龍が封印の礎に選ばれるほど突出した力を持っていたということかもしれません」
「それって、本当は熱破さんも芭陸さんも凄く強いってことー?」
頷く拍手に、日比岐と風月は複雑な顔をする。
その強大な力を持つ龍を、五匹も礎にして使われた結界術。
そしてそれを実行に移せた実力の持ち主たちが、かつての日本にいたということ。
『五行鎮禍陣』という未完成の術は、丹波に何をもたらしたというのだろうか‥‥。
『うぉらぁぁぁっ! 見つけたぞきさん等ぁぁぁっ!』
「見つかった!? 森忌様‥‥くっ、やるしかないのでしょうか‥‥!」
ずずん、と地面に着地し、森忌が追いついてくる。
が、よく見ると折れていたはずの足や身体についていた裂傷が綺麗に治っているではないか!
「さ、再生能力!? そんな、それは蛟しか持っていないはず‥‥!」
『おんどりゃ、ワシを虚仮にしてただで済むと思うなよ! ケツの穴に尻尾突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたるわぁぁぁっ!』
「おんどりゃ? ‥‥おまえ‥‥さっきから聞いてれば男弁なんぞ使いやがって。何藩民だコンチクショー!」
『藩民!?』
「日比岐さんー、わけわかんないツッコミいれて刺激しないでよー!?」
「そうどす。ツッコミ役は御神楽はんと決まっとるんどすえ!」
「はっ!? え、私はツッコミ役‥‥なのですか?」
最早何がなんだか。
意外とノリがいいところもあるのか、森忌も攻撃に移っては来なかった。
「森忌殿! 先ほどは急だったので出せなかったのでござるが‥‥土産がござる!」
と、そんな状況を打破したのは七枷とガイアス。
果物や野菜を餌に、危害を加える気はないこと、すでに熱破や芭陸と会って来たことなどを伝えた。
すると多少森忌の態度が軟化し、蜜柑を皮ごと租借しながら、戦闘を中止すると呟く。
かくして、今回は五行龍の力の片鱗を垣間見たのみで帰還となったのである。
ちなみに‥‥森忌もヒトは嫌いだそうだが、『蜜柑美味かったぞ』とのこと―――