【五行龍復活】二つの選択肢

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:10人

冒険期間:03月11日〜03月23日

リプレイ公開日:2006年03月19日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「た、大変です! とうとう恐れていた事態が起きちゃいました!」
「むぅッ!? 一海殿、いったい何がッ!?」
 京都冒険者ギルドが一日の仕事を始めてから間もなく、職員である西山一海は、同僚である大牙城へ叫んだ。
 どうやら陰陽寮からの直接指示を受けたらしく、かなり慌てている。
「五行龍のことですよ! 残る未確認の五行龍は二匹‥‥丹波の場所で言えば西北西と南西ですが、その両方で同時に厄介事が発生したんです。存在が知られてから、今まで何もなかったほうが奇跡じみてますけどね」
「ふむ‥‥して、具体的にはッ!?」
「まず、丹波の西北西。どうやらここには『蛟』と思われる五行龍が居るようです。最近、その五行龍がとある滝壺を根城にしているということが判明し、ご多分に漏れず龍の出現に困っていた近隣の村を見かねて、通りすがりの冒険者が有志で倒しに行っちゃったらしいんです」
「無謀なッ! 相手の戦力‥‥いや、そもそも善悪も確かめずに戦いを挑むなどッ‥‥!」
「でしょう? しかも、ロクに傷を与えられず、逆にボロボロになって帰ってきたそうです。ヒト嫌いの五行龍が、さらにヒトに不信感を持ったのは間違いないでしょう。それを受けて、村は怒った五行龍が自分たちに被害をもたらす前に、陰陽寮の力で何とかしてもらいたいと、正式な依頼として相談をしたとか‥‥」
「気持ちはわからないでもないがッ‥‥!」
「で、南西のほうは、『月精龍』と思われる龍が確認されました。しかしまずいことに、こちらは近隣の村が一致団結して『自分たちの生活を脅かす龍を退治するんだ!』と息巻いているらしいんです。無論何人か用心棒みたいな人を雇ってはいるようですが、それが五行龍に通用するか甚だ疑問です」
「つまり、村をあげて五行龍討伐隊を結成し、立ち向かうとッ!? こちらも無謀なッ‥‥!」
「あちらを立てればこちらが立たず。南西に向かえば『蛟』の方へ陰陽寮が派遣する陰陽師たちが向かっちゃいますし、西北西へ向かえば『月精龍』が村人たちの討伐隊と戦うことになっちゃうわけで‥‥悩みどころですね」
「まずいな‥‥今回の依頼の参加者を二班にわけることはできまい。どちらかは後回しになってしまうッ‥‥!」
「とにかく、冒険者の方々に任せましょう。私たちにはそれしかできません‥‥」
 強大な力を恐れる、力無き人々。
 そこに居るということさえ、五行龍には許されないのだろうか。
 今回の選択は‥‥これからの行く末を、大きく左右するかもしれない―――

●今回の参加者

 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0487 七枷 伏姫(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1277 日比岐 鼓太郎(44歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb1795 拍手 阿義流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ 天城 烈閃(ea0629)/ イレイズ・アーレイノース(ea5934)/ レベッカ・オルガノン(eb0451)/ 鷹神 紫由莉(eb0524)/ アゴニー・ソレンス(eb0958)/ テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)/ レイムス・ドレイク(eb2277)/ アルディナル・カーレス(eb2658)/ ララーミー・ビントゥ(eb4510

●リプレイ本文

●金翼龍・刃鋼
『あんさんらは‥‥冒険者、やね。せやけど、ウチと戦いに来たっちゅうわけやなさそうか』
 空に美しく月が映える夜。
 昼のうちに社を発見し、一応中も確認しておいた一同は、今までと少し違った光景を目にしていた。
 社の中にあった木札に書いてあった文字は『土』。
 置いてあった石の色は白。
 ここまではよかったのだが‥‥問題は、石が真っ二つに割れていたことである。
「いやぁ、苦労したぜ? まだまだ寒いし、足場が悪いから大凧で飛ぶにも神経使ったしな」
「しかし‥‥この石はいったいどういうことでしょう。まさか、この石が割れたから五行鎮禍陣が壊れたなどというチャチなオチではないでしょうね‥‥」
 夜までこの場で待ち、月精龍と対峙した8人。
 日比岐鼓太郎(eb1277)が空から場所を見つけ、拍手阿義流(eb1795)が考察するというパターン。
 今回は居ないが、もう一人五行に詳しい人も居たりするが。
『ふふ‥‥まさか、そないなことあらへんよ。しかし、あんさんら他の五行龍の誰かと会うてきたな? でなきゃその単語、この時代に広く知られとるわけあらへんわ』
「よかったー、月精龍さんはお話通じそうだねー♪」
「ええ、よかったわ。村人を説得する以前に五行龍とも戦いになりましたなんて、正直避けたい事態だものね」
「月を象徴する竜ですか、月は私達の身近で尊い物、疎かに扱えませんね。争わずに済むのは本当に嬉しいです」
 風月明日菜(ea8212)も南雲紫(eb2483)もミラ・ダイモス(eb2064)も、というかこのメンバーの中で五行龍とヒトとの共存を望んでいない者は居ない。
 以前丹波の北に向かったときは問答無用で攻撃された手前、ちょっとは警戒していたが。
『歓迎するで、皆さん方。五行龍の長、金翼龍・刃鋼(ごんよくりゅう・はがね)や。以後よろしゅう』
「わ、凄い、歓迎してくださるんですって! お土産用意してきた甲斐もありますね」
「今までの五行龍からは歓迎された試しがないでござるからな‥‥正直意外でござる」
「お初にお目にかかります。火の志士、御神楽澄華(ea6526)にございます。刃鋼様が穏やかな御気性の方であることを心から感謝いたします」
『そない硬くならんでもええよ。どうやら事態は切迫しとるみたいやしね』
 顔は怖いが、送られてくる思念の声は、意外にも可愛らしい女性のもの。
 ガイアス・タンベル(ea7780)、七枷伏姫(eb0487)、御神楽も、笑顔を覗かせて穏やかな空気になる。
 しかし、10メートルを越える大きな身体でありながら圧迫感を感じさせないのは、人柄によるものなのか。
「お分かりになっているのであれば話は早いです。お伺いしたいのですが、五行龍とはいったい何なのですか? 五行鎮禍陣はどういう術で、現在はどうなっているのです?」
『せやね‥‥あんさんらになら話してもええか。ウチら五行龍は、その昔日本のあちこちに散らばっとった、ちょっと強いだけの龍や。この丹波で五行鎮禍陣が行われるっちゅうことになった時、半ば捕まえられて連れて来られてしもた。五行鎮禍陣は、読んで字の如く五行の力で禍を鎮める術らしいんやけど‥‥今は壊れて無くなっとるよ』
「どうして? 社の石が関係ないなら、その原因は何なのかしら」
『質問をくれた陰陽師くんなら想像できるかも知れんけど‥‥実は、術の根底に使われたウチらが問題やってん。ウチらは『五行』と言うより、『五大』に近い性質を持っとるんよ。それを無理矢理五行の理で縛って結界の礎にしたもんやから、結界の機能に不備が生じた。簡単に言うと、結界内で鎮めた禍を外に吐き出す機能が働かなくて、地層のように禍が降り積もっていくことになってもうてなぁ‥‥』
「禍は吐き出されず積もっていく。しかし結界の効果で禍そのものは押さえ込まれ、ただ目に見えない淀みとして残る。それを長い年月続けていけば、いつか結界の許容量を越えるのは自明の理でござるな」
 南雲や七枷の言葉に、刃鋼は静かに頷く。
 そして結界が壊れたことにより、反動で現在の丹波では通常ありえないくらいの高確率で禍が起こるという。
「げ。ちょっと待てよ、じゃあ山名烈斬の反乱とか、裏八卦の挑戦、堕天狗党員の干渉、五行龍関連その他もろもろ、全部結界が壊れた結果なのか!? ってことはまだまだ事件は続くって!?」
『そこら辺の事件は知らへんけど‥‥まぁそういうことになるんとちゃうかな』
 五行龍が封印された昔に丹波藩や山名家があったかどうかは知らないが、現城主様もいい迷惑である。
「ボクも聞きたいかなー。このままだと良くない事になるから、ハッキリしておいた方が良いと思うんだけど、これからどうしたいのー? 出来るなら、村人さん達とちゃんと話した方が良いと思うんだけど、やっぱり難しいかなー?」
『どうしたい‥‥て言われてもなぁ。話し合いでしっかり答えが出るなら、ウチはいくらでも話すで? せやけど、それができんからウチら五行龍は封印場所から動かんのや』
 結界が壊れた今、五行龍はある意味自由だ。
 行こうと思えばどこにでも行けるし、本当なら封印された地になど留まっていたくないだろう。
 が、その巨体、その力がある限り、どこへ行っても結局騒ぎになる。
 ならばあえて移動せず、少しでもヒトとの遭遇率を抑えろ、と他の五行龍に指示したのは刃鋼であるという。
 風月はそれを聞いて、流石にしゅんとなる。
『ウチらは静かに暮らしたい。ウチはまぁヒトと共存してもええと思うとるよ‥‥お話大好きやさかい。けど他の皆はあかん。長い結界生活の中で、ようやくヒトと会話できるくらいの知性を身につけても、やっぱり基本的に不干渉でありたいんやろ。あんさんらと会話できたっちゅうだけでも、ウチは大分満足や』
「刃鋼様が他の五行龍の方々に知恵を授けたのですか? そのおかげで森忌様にも最終的には思いとどまっていただけたわけですから、感謝しなければなりませんね」
『ちぃとばかり苦労したわ。犬猫に言葉教えるようなもんやったからなぁ(笑)。あ、その桃もらってええ?』
「あ、はい、どうぞ。なんでしたら、肴に僕の体験談でも語りましょうか?」
『ん、おーきに。でもまた今度でええよ。あんまし時間無さそうや』
 ガイアスに桃を投げてもらい、器用に口でキャッチする刃鋼。
 御神楽と会話する刃鋼は、表情こそ変わらないが(龍だし)、非常に穏やかで楽しそうだ。
「‥‥どうしてでしょう‥‥私たちはこんなにも普通にお話できるのに、何故人々は分かってくださらないのでしょうか‥‥」
『‥‥そういうもんや。ヒトに限らず、すべての生物は自分と違うものを受け入れられん。敬うのも恐れるのも、正負の差はあれ自分たちと同じ目線で見とらん証拠やろ? ウチらかてそうや‥‥あんたらヒトが恐い』
「恐い? 冗談よせよ、俺たちよりよっぽど強いんだろ?」
「馬鹿ね、強ければ恐いものがないってわけじゃないでしょ。私にはなんとなく分かるわよ‥‥人間っていうのは恐い生物だもの。時に聖人のように優しく‥‥時に悪鬼のように残酷。そして時に‥‥」
「陰陽の理さえ越える奇跡を成す‥‥ですか‥‥」
 ミラ、日比岐、南雲、拍手。
 自分たちは力のある冒険者だからまだいい。
 が、何の力も持たない人々から見れば、こうやって龍と会話するなどと言うことがそもそも思考の外。
 恐いのだ‥‥お互い。
 自分と違う、『何か』が‥‥。
『っ、危ない!』
「えっ!?」
 突然刃鋼が叫び、6枚の翼のうちの一枚で風月を包む。
 直後、その翼に矢が数本刺さる―――!

●月夜の戦士たち
「刃鋼さん! だ、大丈夫ー!?」
「しまった、時間的余裕は殆どなかったのでござった! 村人たちが辿り着いてしまったのでござる!」
「月明かりもあるってのに、人が居るとか確認もせずに攻撃か‥‥!」
 ふと岩場の下の方を見てみれば、防寒服に身を包んだ人間が多数。
 たいまつを掲げた者、弓と矢を持つ者、農具で武装する者‥‥とにかく多数だ。
 何やら叫んでいるようだが、詳細は聞き取れない。
『ん、この程度なら怪我のうちにも入らんわ。すぐに再生できるさかい、心配せんでええよ』
「ぼ、僕たちだけで止められますかね‥‥あれだけの数の人たちを」
「弱音を吐いている場合ではありません。止めなければ‥‥きっと、私たちは自らの心に永遠に残る楔を打ち込むことになると思います。争いを止めましょう‥‥この刀にかけて!」
「よく言った。澄華、ミラ、私たちは前に出て防衛線を引く。伏姫、鼓太郎、阿義流は私たちの後ろから説得。ガイアスと明日菜は、遊撃としていざと言うときいつでも動けるようにしておけ」
 南雲の指示で、皆すばやく行動を開始する。
 岩場を降り、村人たちの前へ立つ。
 すると、一見して村人たちとは雰囲気の違う用心棒らしき人物がちらほらと見えた。
「この件は陰陽寮が預かっております。ことがはっきりしないうちは、余計な手出しは自らを滅ぼすことになりかねません。どうかここは我らと陰陽寮に任せ、お引取りのほどを」
 が、その程度の説得で村人が納得するはずもなく、終いには野次が飛んでくる始末。
 いきり立った村人たちが、御神楽たちを無視して進もうとした、その時。
 ごきんっ! がらがらがら‥‥。
 スマッシュで手近な岩を粉砕したミラが、高らかに叫ぶ。
「かの竜は歌を愛する温和な竜であり、月精竜が月を象徴する竜で有る事から、月と太陽は神皇様と陰陽寮の象徴! その竜を傷つける事は、京の近辺に住む者として避けるべきでありましょう! あくまで争いを望むのであれば‥‥まず私が、月夜の守護騎士と相成りましょう。さぁ‥‥是か、非か。選択のほどを!」
 村人はしぶしぶながら引いた。
 だが‥‥これが事件の終わりでないことは、誰の目にも明らかであった―――