【平良坂の野望】天地八聖珠
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:7〜13lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月27日〜03月04日
リプレイ公開日:2006年03月06日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「おわぁぁぁぁっ!? な、なんですかいきなり!?」
「‥‥別に。最近、あなたが錬術をいじめてるって聞いたから」
とある晴れた日のおやつ時、京都冒険者ギルドで悲鳴が上がった。
職員の西山一海という青年が、アルトノワール・ブランシュタッドという女性に縄金票で攻撃された。
とは言っても、足元にわざと外す形で‥‥だが。
「いじめてるってわけじゃないんですけどね‥‥(汗)。で、本題は? まさかものぐさのアルトさんが、それだけを言いに来たわけじゃないんでしょう?」
「‥‥まぁね。平良坂冷凍いるでしょ? あれに関係する依頼を持ってきたわ」
平良坂冷凍とは、京都で商売をしている、丹波系商人組織の重役。
何やら怪しげな物言いと、何を考えているか不明な行動が不気味である。
「‥‥この前、遺跡だかどこだかで、冒険者が古代魔法語を書き写して来たでしょ? それの大まかな解読が終わって、次の目的地が判明したから」
「なんて書いてあったんです? 暗号がどうたら言ってましたけど」
「‥‥えっと‥‥『其は天地の理。四方四聖を八と別け、万物を司る力を封ずる。四対の宝珠が終結せし時、運命は歪む。森羅万象の陰陽に願うなら、一つだけ思いのままに望みが叶う。その名、天地八聖珠』だったかしら。他には、他の勾玉があるんじゃないかって言う場所が書いてあったみたいね」
「願いが叶う? また眉唾物ですねぇ」
「‥‥夢があっていいじゃない」
「‥‥アルトさんからそんな言葉が出るとは驚きです」
「‥‥そう? 例えば、『私と錬術以外のヒトをこの世から消して』とか」
「前言撤回! やっぱおかしいですよあなた!?」
「‥‥ふん。‥‥あぁそうそう、言い忘れてたけど‥‥他の勾玉があるっていう遺跡の場所は2箇所。京都北部の山岳地帯と、京都南西部の森辺り。ただし、どっちも現状で遺跡があるなんて知られてないところだけどね」
「は!? じゃあゼロから遺跡を探せって事ですか!?」
「‥‥大体の場所は教えたでしょ。甘えないで欲しいわ」
距離的には、どちらも1日あれば着ける場所とのこと。
しかし、存在が公に知られていないだけで、前回の遺跡のように盗掘にあっている可能性もある。
そして、平良坂の動きは‥‥?
「で、肝心の平良坂さんの動きは?」
「‥‥なんか、最近腕利きの冒険者を雇ったとか聞いたわね。詳しいことは知らないけど、一応注意したら? それじゃ」
去っていくアルトノワールの背中を見つめ、一海が思うこと。
そんな胡散臭い勾玉のために、何故ヒトが傷つかねばならないのか―――
●リプレイ本文
●闇と遺跡と‥‥
「あだっ!? くそっ、壁をすり抜けてきやがるから油断ならねぇ!」
「おまけに狭いものね‥‥あたしたちにはちょっと不向きだわ(溜息)」
真っ暗な通路にて行われる死闘。
オーラボディを纏ったバーク・ダンロック(ea7871)に一撃で軽傷を与えるのは、怨霊の集団。
この遺跡(古墳?)を守っているのか、ただ単に生者が嫌いなのか‥‥とにかく、後からぞろぞろ湧いてくる。
大柄な体躯を持つ昏倒勇花(ea9275)も、窮屈そうにしながら魔法武器の短刀で怨霊と戦っていた。
「‥‥烈空斎に比べればなんてことないね。所詮理性の無い獣同然だよ」
「それはまぁそうなのじゃが‥‥如何せん数が多いのじゃ。おまけに、埴輪も居るしのう‥‥」
「埴輪は昏倒殿に任せ、俺たちで怨霊をなんとかしよう。ファイヤートラップもそう何回も使えないだろう?」
魔剣で斬り裂くヘルヴォール・ルディア(ea0828)。
魔法の短刀で怨霊を、ファイヤートラップで埴輪を撃退する三月天音(ea2144)。
明かりを片手に、銀の槍で貫く葉隠紫辰(ea2438)。
自由自在にとはいかないまでも、狭い通路の中で懸命に戦っている。
前回の遺跡もそうだったが、ここでも消耗戦を展開させられてしまう。
出現する妖怪の差こそあれ‥‥今までになかったパターンである。
「これで三匹! くっ、いったい何匹居るというのだ‥‥!」
「‥‥私‥‥まだ一匹‥‥。怪骨なら‥‥五匹は倒した‥‥」
通路を曲がれば怪骨、ちょっと直線の通路を歩けば怨霊、階段を下れば埴輪と、とにかく息をつく暇が無い。
特に怨霊は厄介で、魔法のかかった太刀を持つ蒼眞龍之介(ea7029)と、魔剣を持つヘルヴォール以外は、どうしても火力‥‥一撃のダメージが見劣りする。
幽桜哀音(ea2246)も鬼神ノ小柄で戦うしかなく、シュライクを覚えているからこそ何とかなっている状態。
まぁ、彼女の場合は卓越した回避能力のおかげで、まるで無傷なのだが。
「しっかし、志摩は外に戻ってもらって正解だったかもな。もし囲まれてやられちまったなんてことになったら事だぜ」
「戦力になってくれた可能性もあったがのう‥‥まぁ、正しい判断だったじゃろうな」
「皆さん、お喋りもいいけれど、団体さんのお付きよ(汗)」
「ちっ‥‥挟み撃ちか。面倒な‥‥」
「‥‥たかが怪骨、すぐに叩き伏せてやるさ!」
もしこの遺跡が、前回の遺跡とほぼ同じ規模なら。
終点となる石室は、もうそろそろのはずである―――
●一方そのころ
「やれやれ‥‥前回は多数の妖怪に襲われたと思ったら、今回は人か。‥‥まぁ、ある意味では妖怪よりたちが悪いかも知れないな。そうだろう? 平良坂殿」
「ほっほっほ‥‥これは手厳しいですね。これでも純粋に勾玉に興味があるだけなのですが」
森の奥に位置する遺跡の入り口前に陣取っているのは、蛟静吾(ea6269)。
それと相対しているのは、丹波の大商人、平良坂冷凍と、彼に雇われた冒険者たちである。
「はて‥‥何故こんなところにあなたが来るのか理解しかねる。この場所は僕たち依頼を受けた人間にしか伝えられていないし、僕たちも発見するまでにかなり手間がかかった。迷ったわけじゃないけど、草に覆われたこの入り口を見つけるのは苦労したものなんだけどな」
「ほっほっほ‥‥何、私たちも独自に調査を行っていたのですよ。まぁ、私たちは迷ったんですけどね。そんな時、たまたまあなた方を見つけて声をかけさせていただいたというわけです」
ニヤニヤしたいつもの表情と、人を小馬鹿にした様な丁寧語。
森で迷った人間がそんな余裕の表情でいるものか、と蛟は思う。
「百歩譲ってそれはいいとしよう。この際いつから後をつけていたのかとも聞かない。ただ、仮にここに勾玉があったとして‥‥それをどうするつもりだい? まさか丹波の大商人が墓荒らしってわけじゃないだろう」
「無論ですよ。以前いただいた勾玉はともかく、遺跡から発掘された物は陰陽寮にでも調査を願い出るつもりです。大いに興味がありますからね‥‥願いを叶えるという宝珠には」
「ついでだから聞いておこう。後ろの人たちは、あなたが最近雇ったという冒険者かい?」
「おや、お耳が早い。その通りです。まぁ、京都北部の方に向かってもらった人たちもいるので、これで全員じゃありませんけどね。いずれも腕の立つ方々ですよ」
「っ! ‥‥流石は音に聞こえた大商人。随分羽振りがいいんだな」
「ほっほっほ‥‥お金というものは自分にとって価値のあることに使ってこそ生き銭ですからね。儲けて稼いで、集めればそれで満足などというのは、お金の何たるかを理解していないのですよ」
「‥‥御高説どうも」
駄目だ。
とてもではないが舌戦で平良坂には勝てそうに無い。
必死に会話を引き伸ばそうとのらりくらりとしているつもりなのに、蛟の方がペースに乗せられてしまう。
「冷凍様、こんなまだるっこしいことしなくても、さっさとこいつをぶっ殺して中に入りましょうや」
「へっへっへ‥‥俺たちにお任せいただければ、こんなやつすぐにでも‥‥」
「お黙りなさい。彼は‥‥いえ、今遺跡の中に居る方々も含めてですが、相当強いんですよ。それに何度も言いましたが、私たちは強盗ではないのです。物騒な物言いは控えていただきたいですね」
「僕としてもそれは助かるけどね‥‥。何を企んでるんだ」
「申し上げた通りなのですがね。では、ここはあなた方にお任せしましょう。皆さん、私たちは一度帰って、北の山岳地帯のお手伝いにでも参りましょうか」
「では冷凍様、せめて名乗りを上げることをお許しいただきたいのですが‥‥」
「‥‥あれをやるのですか。まぁいいでしょう‥‥お好きになさい」
「はっ! ありがとうございます!」
リーダー格らしき男が他の四人に合図を送ると、何やら隊列を組んで、名乗りが始まる!
「シチュー!」
「ストロガノフ!」
「カリー!」
「ロースト!」
「ステーキ!」
「みん」
「な」
「そ」
「ろっ」
「て!」
『ビーフ特選隊ッ!』
全員でポーズを取ってキメ。
「‥‥‥‥冷凍殿」
「‥‥‥‥なんでしょう」
「‥‥用心棒はもう少し選ぶべきだと思うよ」
「‥‥心に留めておきましょう」
なんだかよくわからない空気の中、やたら満足気なビーフ特選隊を引き連れ、平良坂は帰っていったのだった―――
●気を取り直して
「‥‥やっと着いた‥‥。やっぱり、壁には模様がいっぱい‥‥」
「ふむ‥‥これも古代魔法語というものなのだろうか。よし、手分けして書き写そう」
幽桜たちが石室に到達したとき、一向は大分疲弊していた。
かといってグズグズしてまた怨霊が現れても困るので、やることをやってさっさと帰ろうというわけだ。
が、そこで処理に困るのは、部屋の真ん中にある石棺である。
「‥‥どうする? 今は志摩がいないから、直接中は覗けないよ」
「例の『黒っぽい蠢く何か』が居たら厄介よね‥‥。というか、居なくても祟られそうな気がするわ(汗)」
「ここはやはり、頑丈なバーク殿に頼むしかないかのう」
「俺かい。ま、仕方ないわな」
「いざとなったらこの松明の火でも当ててやる。安心しろ」
「俺も燃えるっつーの」
軽く笑いながら、バークは石棺の蓋に手をかける。
もちろん専門レベルのオーラボディは発動済みである。
「お? 色は違うが勾玉があったぜ」
「‥‥透き通った青‥‥。文字は‥‥。あれ‥‥? また、天‥‥?」
「どうするのじゃ? 他の調度品に手をつけないのは当然として、これだけでも持って帰るか‥‥」
「墓荒らしのつもりは無いけれど、結局同じことよね‥‥。でも、ここに放置しておいたらいずれ冷凍さんの手に落ちちゃう可能性が高いし‥‥(悩)」
「三月殿が作らせて持ってきた偽物を代わりに置いていくのはどうだ? 墓の主には、代用品を捧げるということで容赦願うしかないと思うのだが‥‥どうか」
「しかし‥‥どう見ても明らかな紛い物。まず埋葬者への失礼になるのではないかと私は思うのだよ」
「‥‥そうかも知れないけど、龍之介だってここに安置したままってのはよく思ってないんだろ?」
いまいち意見が纏まらない。
皆、お互いの言いたいことは分かってはいるのだが、どうにも状況的に今一歩。
『まだるっこしいねぇ。持っていけばいいんだよ、そんなもの』
「‥‥志摩さん‥‥? 先に外に出たんじゃ‥‥」
『迷ったんだよ、悪いかい。そんなことより、どうせ死人に口無しなんだ‥‥そいつも自分の持ち物がよくわからないやつにかっぱらわれるくらいなら、心ある人間に託すだろうさね』
「死人に口無しって‥‥幽霊のおまえさんが言うか?」
「‥‥まぁ、志摩の言うとおりだと思うよ。安っぽく見えるし色も違うけど、本物を悪用させないって誓って、偽物を置いて行こうじゃないか。すべてが終わったら返しにくればいい」
「折角作ってもらった偽物を無駄にするのも勿体無いしのう。そうしておくのが得策だと思うのじゃ」
『決まりだね。模様を写し終わったんなら、さっさと準備しな』
「志摩殿‥‥一応聞くが、何の準備だ?」
『決まってるじゃないのさ』
くいっと入り口付近を指差す志摩。
するとそこには、例によって埴輪やら怪骨やらがぞろぞろと‥‥。
「ったく、まだいるのかよ。つか、この石室には結界でも張ってあるのか? 連中入ってこねぇけど」
「考えても仕方あるまい。地上を目指し、突破あるのみ」
「‥‥蒼眞さんも‥‥結構無茶‥‥。でも‥‥確かに、突破しないと‥‥帰れない‥‥」
一同は骨だけになっている埋葬者の冥福を祈り、しっかり石棺の蓋を閉め、入り口に向き直る。
鍵を握る勾玉の一つは手に入れたのだ‥‥今更こんなところで、死ねるものではない―――