【平良坂の野望】海辺の死闘!
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:7〜13lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月18日〜03月25日
リプレイ公開日:2006年03月27日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「こんにちは。依頼をお願いしたいのですが‥‥」
ずざっ!
京都冒険者ギルドの職員、西山一海は、客の訪問にもかかわらず思いっきり後ずさった。
「ほっほっほ‥‥嫌われたものですね。そこまで警戒しなくてもいいじゃありませんか」
「あー‥‥いえ、なんというかつい条件反射で。それで、何のご依頼でしょうか、冷凍様」
客の名は平良坂冷凍。
京都に店を持つ丹波藩商人組織の重役にして、天地八聖珠を探す謎の男である。
「別に様なんて呼ばなくてもよろしいですよ?」
「いや、なんとなーく様付けしなくちゃ行けないような気がしまして‥‥(汗)」
「まぁよろしいでしょう。どうせ例の少年忍者さんから報告は聞いているでしょうから、北部の遺跡のことは割愛します」
結局、前回京都北部の方の遺跡にも手下を派遣していた冷凍だったが、成果はなかったという。
遺跡自体は見つけたものの、すでに盗掘に遭った後で、勾玉を発見することはできなかったらしい。
やはり妖怪も大量発生していたということだが、雇った冒険者が思ったよりいい働きをしてくれたとかなんとか。
「蛇盆(だぼん)さんと果樹王(かじゅおう)さん、辺時板(あたとき ばん)さん、弓囲(きゅうい)さんでしたね。ずいぶんお強いそうじゃないですか」
「良い拾い物をした‥‥というところです。しかし、随分正確に調べたのですね」
「彼も冷凍さんの言う、『強い冒険者』ですから」
「ほっほっほ‥‥そうでしたね。何せ昔々にこの国を救った戦士たちの生まれ変わりらしいですからねぇ」
(「‥‥そっちこそよく調べてあるじゃないですか。未確認の噂なんですよ、生まれ変わり云々は‥‥」)
「本題に戻りますと、天地八聖珠らしきものの情報を掴みましてね。ですが少々厄介な場所にありまして‥‥是非ご協力を願いたく参ったわけです」
「ビーフ特選隊や北に向かった四人だけでは手が足りないので?」
「はい。京都北部の山岳を突っ切り、更に北上すると海に出ますよね? その海岸の一角に、海長虫が住む海食洞があるらしいのです。どうやらそこが目的地のようでして」
「あー、確かに厄介な妖怪ですね」
「しかし、二匹の海長虫が住む洞窟が二箇所あり、そのどちらに勾玉があるかまではわからないのです。どちらに向かうかはそちらの方々にお任せし、私どもは残り物の方を調査いたしましょう。ご安心なさい、ああしろこうしろと細かく命令するつもりはありません。勝手にやっていただいて結構ですよ」
「しっかりと目的を達成さえしてくれれば‥‥でしょう?」
「おや、お話が早くて助かります。では、そういうことで」
去っていく平良坂冷凍。
目的のためにライバルも手駒のように使う男。
果たして、海食洞でどのような運命が冒険者たちを待つのだろうか―――
●リプレイ本文
●冬の海ってキツイですよね
三月某日、曇り。
大分暖かくなってきたとはいえ、やはり冬の浜辺は立っているだけで寒い。
夏なら心地よいであろう潮の香りは、今はただ不快であった。
「にしても、このくそ寒いのに平良坂のために海に入らなくちゃいけねぇとはムカツク話だぜ」
「お肌が荒れちゃうわ‥‥。珠のお肌がバリバリになったらどうしてくれるのかしら(溜息)」
近くの漁村で聞き込みをし、満潮・干潮の時刻を把握した一行は、最も潮の引く時間のちょっと前‥‥水面が膝くらいの時期に合わせて洞窟A(仮称)前にやってきた。
バーク・ダンロック(ea7871)や昏倒勇花(ea9275)は勿論、他の面々も口にしないだけで大いに不満だろう。
水が寄せては返す洞窟の入り口からは、中の様子は分からない。
「‥‥しかし、思ったより大きいじゃないか、この海食洞。真ん中辺ならバークのオーラアルファーを使っても問題無さそうだね」
「そうだな。足元と海水にさえ注意すれば、場所は気にせずともよさそうだ」
「しかし先生、その海水が厄介です。思ったより‥‥おっと、足が取られますね」
「潮が満ちたら足が取られるでは済まんと思うのじゃ。さっさと仕事を終えてしまおう」
ヘルヴォール・ルディア(ea0828)は入り口の直径を眺めて、ぼそっと呟く。
師弟コンビである蒼眞龍之介(ea7029)と蛟静吾(ea6269)の二人は、すでに冷たい海水に足を浸し、具合を確かめている。
とりあえず、一行は三月天音(ea2144)の言葉に心から頷き、闇への入り口へ足を踏み入れた。
「‥‥なんか‥‥落ち着くかも‥‥ここ‥‥。漣が‥‥耳に心地いい‥‥」
「ふ‥‥闇に生きる忍びに洞窟は似合いの場所か。だが、この闇に潜む者も‥‥俺が払って見せよう」
幽桜哀音(ea2246)の小さな声も、洞窟内ではよく響く。
松明を掲げた葉隠紫辰(ea2438)と蛟を先頭に、一行は更に奥へと進もうとする。
「よし、んじゃあ俺は念のため予定通りにここで待ってるぜ。何かあったらすぐに呼びな。オーラボディ(達人)も準備しておくから、例え冷凍の部下が来たって通しゃしねぇぜ」
バークを残し、今度こそ一行は先へと進んだ―――
●広さの理由
「来た! 例の海長虫ってやつの触手だ! みんな、気をつけろ!」
「本体が見えないだと‥‥? ちっ、この先は深みになっているな!」
先頭の蛟と葉隠が、真っ先に触手を発見する。
うねうね動く触手が海面から何本も生えており、一行めがけて襲い掛かる!
「‥‥! 結構‥‥精度、高い‥‥!」
「本体は水中とはね‥‥また厄介だわ‥‥バックパックも下ろせないし(溜息)」
麻痺毒があると言う触手は、6メートルという射程の限界こそあれ、本体を晒さずに攻撃できる。
襲い来る触手を切り払おうとするが、何やらぬめぬめぶよぶよしていて、思ったように切断できないのも辛い。
「龍牙! ‥‥しかし、本体を攻撃できないのでは根本的解決にはならないか‥‥」
「‥‥どうにかして引きずり出せないかな。先に進むには泳ぐしかないわけだから、やつを倒さないとどうにもならないよ」
蒼眞がソニックブームで触手を攻撃するも、まだまだ触手の数は多い。
しかし、ヘルヴォールが触手の一本を切り捨てた次の瞬間。
ざばぁぁぁんっ!
松明の炎に照らされ、磯巾着のような大きな口をあけた海長虫の本体が姿を現した!
そして奇妙な鳴き声をあげると、蛟と葉隠に向かって突撃する!
「おほほ、やっと出たわね! この隙は見逃さないわ‥‥乙女の一撃、受けなさい!」
「何故あの二人を狙うのじゃ‥‥? 近いにしても、作為的過ぎるような‥‥」
「‥‥っていうか‥‥でかい‥‥」
体長8メートルはあるという海長虫。
当然太さも相当なもので、昏倒が斬馬刀でインターセプトをかけても軽傷程度。
これが二匹も住んでいるのであれば、当然洞窟も広かろうと言うものだ。
「ぐあっ! ‥‥お、重い‥‥なんて力だ‥‥!」
頭からの突撃をなんとか受け止めた蛟だったが、その力と洞窟の壁とのサンドイッチ状態になってしまう!
刀からもミシミシと嫌な音が聞こえ、その危険度を現していた。
「そうか、火じゃ! 蛟殿、そやつは恐らく火や光といった物めがけて攻撃する習性があるのじゃろう! まさに虫じゃ!」
「な、なるほど‥‥ねっ! 先生、みんな、いっそこのまま横からこいつを! ボクならもう少し保ちます!」
「わかった。新たなる力‥‥烈空斎殿の教え。今こそ見せよう、『龍閃』を!」
「‥‥ある意味斬り放題か。さぁ、静吾が引き付けてくれてる間に決めよう」
「了解よ。天を斬り突く花の舞、今まで活躍できなかった分もまとめて叩きつけてあげるわっ!」
「‥‥虎穴で戦う不利に活路を見出してこそ、真の武髄‥‥か。いいだろう‥‥猛く響け、我が忍道!」
蒼眞のシュライク、ヘルヴォールの魔剣、昏倒の腕力、葉隠のヒットアンドアウェイ。
蛟を押しつぶすことに集中していた海長虫は、横っ腹に次々と攻撃を叩き込まれ、流石に悲鳴を上げた。
じたばたと巨体が洞窟内をのたうち、飛沫が盛大に一行を濡らした。
「‥‥‥‥冷たい‥‥。‥‥お返し、決定」
「ボクもお礼をさせてもらうよ。いつ触手を向けられるか、内心冷や冷やさせられたからね」
幽桜のシュライク、蛟のスマッシュもくらい、海長虫は最早息も絶え絶えである。
「では、わらわも行くかのう。口内に零距離ファイヤーボムじゃ‥‥往生するがいい」
ごうん、という音がして、高速詠唱のファイヤーボムが炸裂。
動かなくはなったが生きてはいるようなので、あとは普通に止めを刺せば終了だ。
『おーい!』
と、入り口で待っていたはずのバークの声が響いたのはそんな時だ。
「む? バーク殿、いかがなさ‥‥」
「悪ぃ! こいつもついでになんとか頼まぁ!」
葉隠の台詞が途中で中断される。
必死に走ってくるバークの背後には、巨大な海長虫の姿が‥‥!
「‥‥確かに、二匹とも在宅とは限らないね」
「必ずしも明るい場所に行かないってわけでもないでしょうしねぇ‥‥(汗)」
さしものバークも、まさか一人でこれの相手は出来まい。
一同は再び得物を構え、もう一匹の海長虫を迎撃に回った―――
●バーク、爆裂
「おらぁぁぁっ! 元々攻撃自体は効いてねぇんだ、他の連中が合流すりゃ負けるかよ!」
「流石な防御力と言うべきか。だが、先ほどのように傷を与えてのた打ち回られてもかなわん‥‥皆、最大の攻撃で一気に畳み掛けるぞ! バーク殿、少し右にずれていただけるか!?」
「蒼眞!? おう、任せろ!」
すっとバークが身をかわした次の瞬間、蒼眞の技が飛ぶ。
シュライク+ソニックブーム‥‥それは即ち。
「秘技‥‥『飛翔牙龍閃』」
「続きます! 水際でこそ輝く水守の剣‥‥『龍舞回転撃』!」
スマッシュからの2連撃で、蛟も追撃をかける。
元々回避と言う言葉を忘れてきたような動きしか出来ない海長虫だけに、当てるのは簡単。
蛟が持っていた松明をバークに預けたので、注意もそちらに向いている。
「うーむ、あれだけ強力な敵も対処法が分かると楽じゃのう。無論、きちんとした自力があっての話じゃが」
「‥‥同感‥‥。でも‥‥あまり時間‥‥ない‥‥」
見れば、一度脛まで引いた潮が、再び膝くらいまで上がってきていた。
進軍と戦闘で、思いの外時間が経っていたらしい。
「なーに、もうすぐ終わるって。俺もやってみるか‥‥零距離オーラアルファーをよ!」
すでにグロッキー状態の海長虫。
洞窟の真ん中辺りに移動し‥‥バークが力を解放する。
それは散々追い立てられた鬱憤を晴らすかのような、見事な魔法だったと言う―――
●願い事は?
結局、泳ぎの得意な昏倒とバーク、葉隠が洞窟の深み以降を調査し、見事勾玉を発見した。
それは白色で、文字は『地』。
祭壇にあったのはそれだけで、洞窟に古代魔法語はなく、今のところの手がかりはなくなってしまったが。
「ほっほっほ‥‥流石ですね皆さん。こちらも海長虫は倒したのですが、どうやらハズレだったようでして。いやいや、あなた方に頼んでおいて本当によかったですよ」
後日、京都に戻った一行は、冒険者ギルドで平良坂冷凍と会った。
依頼を完遂するため、手に入れた勾玉を依頼主である彼に渡すためだ。
「‥‥勾玉を渡す事に異存はないけど‥‥一つ聞きたいことがあるんですが」
「はい、なんでしょう蛟さん」
「今更かも知れませんが、天地八聖珠を集めきり、本当に願いが叶うとして‥‥何を願うつもりです?」
「地位も名誉も金もある。そんな人間が何を望むのか‥‥わらわも興味はあるのう」
「ほっほっほ‥‥そうですね。不老不死なんていうのも面白いですが‥‥何、私には子供のころからどうしても苦手な食べ物がありましてね。その食わず嫌いでも治してもらおうかと思っていますよ」
「あらまぁ、見事にはぐらかされちゃったわねぇ‥‥(溜息)」
「おやおや、本当なんですけれどねぇ。まぁいいでしょう、これからもお世話になることもあるかと思いますが、その時はまたよろしくお願いしますよ。ほっほっほっほ‥‥」
できればそうなって欲しくはない。
そんなくだらないことのためにこれだけの財を投げ打つはずがないのだ。
様々な不安、憶測を抱きながら‥‥今日もまた、一日は過ぎていく―――