【戦慄の裏八卦】気まぐれな情報屋

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜17lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:03月04日〜03月09日

リプレイ公開日:2006年03月12日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「何書いてるんですか?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 とある日の午後、京都冒険者ギルドに突如として悲鳴が上がった。
 叫んだのは、ギルド職員、西山一海。
 声をかけたのは、丹波藩が誇る魔法戦士部隊、八卦衆の一人‥‥地の砂羅鎖(さらさ)である。
「く、く、来るなら来るって事前に言っておいてください! びっくりするじゃないですか!?」
「は、はぅぅ‥‥びっくりしたのはこっちですよ‥‥いきなり叫ぶんですもん‥‥。‥‥あれ?」
 足元に散乱した紙を見て、砂羅鎖がそれを拾おうとする。
「ちょっと待ったぁぁぁっ! 見ちゃ駄目ですっ!!」
「ま〜ま〜、まったりいきましょう〜、一海さん〜」
「はーなーしーてー!!」
 笑顔で一海を羽交い絞めにしているのは、同じく八卦衆、火の炎夜(えんや)。
 どうやら今日やってきたのはこの二人らしい。
「‥‥‥‥‥‥‥‥はうっ」
 ぼん、と音を立てたかのように真っ赤になり、砂羅鎖は突然その場で失神した。
 炎夜が一海を放し、紙を一枚拾い上げてみると‥‥。
「えーっと〜‥‥『井茶冶×砂羅鎖 危ない地の八卦ラヴ』。あは〜、これは砂羅鎖さんには刺激が強すぎるかも知れませんね〜。個人的には楽しそうですけど〜」
「いや、その‥‥まさかご本人がいらっしゃるとは思っていなかったというか‥‥仲間内で勝手に書いてる、冒険者さんや知り合いのこーゆー話が思いのほか好評というかなんというか‥‥(涙)」
「‥‥そんなもの書いてたの。暇ね、あなたも」
 ふと、聞き慣れた声をかけられる。
 京都の何でも屋、アルトノワール・ブランシュタッドだ。
「おや、最近よくお会いしますね。ご紹介します、こちらが‥‥」
「‥‥知ってるわよ。八卦衆の炎夜と砂羅鎖でしょ。この二人が今日ここに来るっていう情報を掴んだから、わざわざ来てあげたのよ。ありがたく思いなさい」
 極度の面倒くさがりのくせに、と思ったが、あえて口にはしないでおく一海。
 炎夜はいつものごとくにへらっと笑い、会釈した。
「‥‥で? 今回も場所は八卦谷? 参加する八卦衆は冒険者が決めるの?」
「はい〜、その予定です〜。今度こそ汚名返上したいですね〜」
「っていうかですね、あんなの無理ですって。私も職場仲間と一緒に『高速詠唱を打ち負かすには?』っていう議題で討論したんですけど‥‥結果は『打つ手なし、お手上げ』でしたから」
「え〜、そうですか〜? 前回の盾の騎士さんの戦法が一つの答えだと思うんですけど〜」
「全員が全員あの戦法をとれるわけないじゃないですか。個人の良さが殺されます。そりゃあ某一撃殺しの人じゃなくても愚痴をこぼしたくなりますよ」
「‥‥馬鹿ね。暗殺を得意とするやつを相手にしてるのに、良さも悪さもないでしょ。勝てばいいのよ、勝てば」
「それを言っちゃあお終いでしょう(汗)。だいたい、向こうはこっちのことを熟知しているみたいなのに、こっちは向こうの名前すら知らなかったんですよ? そんなのどうしろと」
「‥‥あら、知りたいの? お金払えば教えてあげるわよ」
 沈黙。
 喧騒に包まれる冒険者ギルドの一角が、一瞬確実に沈黙していた。
「‥‥あ、あの‥‥もしかしてアルトノワールさん、裏八卦のこと何か掴んでたんですか‥‥?」
「‥‥掴んでたっていうか、連中にあなたたちの情報売ってるの私だもの。当然向こうのこともそれなりに知ってるわね」
「な、何考えてるんですか!? それ藁木屋さんの指示じゃないですよね、絶対!」
「‥‥そりゃそうでしょ。別に好きな人にだって一日の行動全部を話す必要ないし。面倒だけれど、これも仕事よ」
「こ、この人は‥‥! 何でまた自発的にそんなことしてるんですか、ガラにもなく!」
「‥‥んー‥‥暇だったから。最近錬術が忙しくて、あまりかまってくれないのよね。変なの憑いてるし」
「人の命がかかってるんですよ!?」
「‥‥別に錬術の命がかかってるわけじゃないもの。あなたにとやかく言われる筋合いは無いわ」
 暖簾に腕押し、糠に釘。
 どこまでもゴーイングマイウェイなアルトノワールには、何を言っても無駄らしい。
「あは〜、困りましたね〜。じゃあ〜、丹波藩に料金請求していいですから〜、裏八卦のこと教えてください〜」
「‥‥最初からそう言えばいいのに。錬術は知らなくても、私は知ってることもあるのよ。主に現地調査するの私だし」
「じゃあ〜、ちょっと場所を変えて話しましょうか〜。じゃあ一海さん〜、依頼の形式は前回と同じでいいので〜」
 そう言って、アルトノワールと去っていく炎夜。
 残された一海は、ただひたすら理不尽なものを感じていた。
 とりあえず‥‥。
「はぅぅ‥‥」
 目を回したまま呻く砂羅鎖は、どうすればいいというのだろうか―――

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2699 アリアス・サーレク(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6114 キルスティン・グランフォード(45歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

倉神 智華(ea6391)/ 黒畑 緑朗(ea6426)/ 音無 影音(ea8586)/ 神木 秋緒(ea9150)/ 日下部 早姫(eb1496

●リプレイ本文

●読み
「来た‥‥反応が二つ、ゆっくり近づいてくる。警戒してるみたいだな」
「迂回組みのほうとかち合ったりしないだろうね? その時はこっちが奇襲部隊になるだけだが」
「大丈夫だと思うよ。向こうには目のいい人が二人も居るからね‥‥そうそうヘマはしないさ」
「あは〜。まぁ〜、ぼちぼちやっていきましょう〜」
 丹波藩某所、通称八卦谷。
 故意に『妖怪が出る』と言う噂を流してまで人を遠ざけているこの一帯は、地形も相まって様々な戦闘を展開できる、ある意味で貴重な場所である。
 今回は様々な情報と作戦会議の結果、障害物の多い森の中で戦うことになったようだ。
 スクロールを巻き戻して呟く黒畑緑太郎(eb1822)の言葉に、場の空気は否が応にも緊迫してくる。
 木の上にロープを張った一角を作るなど、やれることをやっていたらあっという間に指定の時間だったのだ。
 各々さっさと散開し、裏八卦の二人がやってくるであろう方向を警戒する囮組み。
 キルスティン・グランフォード(ea6114)やヒースクリフ・ムーア(ea0286)など、破壊力はあるが機動性や隠密性に欠ける者や、狙われている張本人、八卦衆・火の炎夜がこれに属している。
 炎夜はヒースクリフに庇って貰う形で、すぐ側に居る。
 やがて、二つの気配が囮組みの近くまでやってくると、姿は表さないが問いかけがくる。
「それで隠れているつもりなのか? 体も隠しきれて居ないし、気配も駄々漏れ‥‥見苦しいから出て来なッ!」
「まったくだわ! それとも、隠れたまま無様にぶっ殺して欲しいのかしら!?」
 どうやら男と女のコンビらしい。
 問題は、それがまだ未見の裏八卦の誰かと言うことである。
「あは〜、それは嫌ですね〜。初めまして〜、八卦衆・火の炎夜です〜」
「っ! うふふ‥‥兄さん、あたしたちにとっては相性のいい八卦衆が来たみたいね‥‥安心してぶっ殺せるわ!」
「兄さん‥‥ということは、裏八卦・『風の緑葉』と『山の屠黒』かな?」
「ワンヒット・キラーことキルスティン。何故俺たちのことを知っている‥‥?」
「なーに、『情報は武器』とはよく言ったもんでね。こっちもちょっと本腰を入れて調べたのさ」
「兄さん、そんなの関係ないわよ! あたしたちの力でさっさとぶっ殺しちゃいましょう!」
「おいお前‥‥さっきから五月蝿いぞ、ぶっ殺すぶっ殺すってよ。どういうつもりだお前‥‥そういう言葉は俺たちの世界にはないんだぜ。そんな弱虫の使う言葉はな」
「に、兄さん‥‥?」
「ぶっ殺す‥‥そんな言葉は使う必要が無ぇんだ。何故なら俺や裏八卦の仲間は、その言葉を頭の中に思い浮かべたときにはすでにッ! 実際に相手を殺っちまってもう終わってるからだッ! だから使ったことがねェーッ! 緑葉‥‥お前もそうなるよなぁ? 裏八卦の一員なら‥‥。わかるか? 俺の言ってること‥‥えぇ?」
「わ‥‥わかったわ、兄さん‥‥」
「『ぶっ殺した』なら使ってもいいッ!」
「やってみるかい? 生憎、私たちもただではやられん! フッフッフ‥‥魔法が使える‥‥!」
「それじゃ〜、やってみましょうか〜」
 炎夜の気の抜けた声とともに、戦端は開かれる―――

●看破
「焔雲雀〜!」
「甘い! 竜巻の術で迎撃してやるわ!」
「続けていくぞッ! アグラベイション!」
「じょ、冗談じゃない! そんなの食らったら魔法が使えなくなる!」
 炎の鳥となって突っ込んできた炎夜を、緑葉が竜巻の術の壁で弾く。
 さらに複数対象版のアグラベイションで動きを鈍らされるが、黒畑と炎夜は抵抗に成功したらしい。
「くっ‥‥だが、完全に動きを封じられたわけでは!」
「ヒースクリフ、炎夜と離れろ! こいつらの魔法は‥‥!」
「遅いッ!」
 ローリンググラビティで重力を反転、抵抗できないダメージを狙う。
 が、ヒースクリフは事前に張っておいたロープを掴み、魔法の効果が終了してから無事着地。
 炎夜は上空でファイヤーバードを再発動、移動のみして着地。
「に、兄さん、こいつらあたしたちの魔法も知ってるわよ!?」
「慌てるなッ! あんなもの、場所を変えれば問題ねェーッ!」
「逃がさん! ムーンアロー!」
「きゃぁっ!? ま、まだこんなものでぇ!」
「チィィィッ、一端距離を置くぞ!」
 やはり違う。
 相手の手の内を多少なりと知っていて、それへの対策を練っているのといないのとでは雲泥の差がある。
 かつて無い攻勢‥‥手の内が知れ、襲ってくると分かっている暗殺者は、最早暗殺者ですらないのかもしれない―――

●屠黒と緑葉
「はぁっ、はぁっ、に、兄さん‥‥私たち裏八卦が、こんな‥‥」
「まだ負けたわけじゃない。それよりも気をつけろ、まだまだ冒険者は居るッ!」
『そのとぉり!』
 どごぉぉぉん!
 屠黒のすぐ側にあった木に、グラビティーキャノンが直撃する。
 上空を見上げると‥‥グリフォンに乗った、楠木麻(ea8087)の姿が!
「今のは威嚇です! おとなしく投降しないと、次は当てますよ!」
「ちっ、空から高速詠唱で魔法だとォ‥‥!」
「兄さん、他にも!」
 見れば、アリアス・サーレク(ea2699)、伊東登志樹(ea4301)、雨宮零(ea9527)の迂回組三人が、退路側から、しかも分散して突撃してきていた!
「‥‥闇夜より人々を守る月の盾、アリアス・サーレク‥‥推して参る!」
「伊東登志樹だぜ。俺はまだ登り始めたばかりだからよぅ‥‥この長いちんぴら坂をよ‥‥!」
「片紅眼の芍薬、雨宮雫‥‥この一刀が届くか届かないか‥‥勝負!」
「伏兵!? う、上手く隠れてたものね!」
「迎撃だァーッ! 迎撃するぞ、緑葉ッ!」
 シュライクを使える雨宮とアリアスを優先的に範囲内に入るように移動し、緑葉が竜巻の術を起動。
 更に屠黒のアグラベイションのコンボで、動きを大幅に制限。
 だが、範囲外に居た伊東へのアグラベイション以外の対処が間に合わず、その剣閃が屠黒を捕らえる!
「ぬぅぅぅッ‥‥ま、まだだッ!」
「に、兄さん!」
「まだ‥‥俺の攻撃は終わってない‥‥!」
 墜落のダメージを堪えつつ、雨宮がシュライク交じりの一撃を緑葉へ向ける。
「こ、このぉ!」
 ぼんっ、と煙が立ち、緑葉がその辺に落ちていた枯れ枝と入れ替わる。
 空蝉の術‥‥これでこの二人の手の内は完全にさらけ出されたわけだ。
「に、兄さんどうしよう‥‥持ってきた薬だけじゃ対処しきれないよ‥‥!」
「やかましい! いちいちうろたえ過ぎなんだよ、兄さんっ子が!」
「お、怒らないでよ‥‥」
「いいか、俺が怒ってるのはな、お前の『心の弱さ』なんだ緑葉! そりゃあ確かに今までに無い不利な状況で取り囲まれてるんだ‥‥衝撃を受けるのは当然だ! 負けるかもしれないんだからな‥‥俺だってヤバイと思う!」
「おい、ベラベラ余裕があるじゃねぇか」
「だが! 俺たち裏八卦の他のやつならッ! あともうちょっとで一人でも倒せるって決して諦めたりはしねぇッ! 例え腕を飛ばされようが足をもがれようともなッ! おまえは『甘えん坊』なんだよ緑葉! ビビったんだ‥‥。甘ったれてんだ! わかるか? え? 俺の言ってる事。不利なせいじゃあねぇ、心の奥のところでおまえにはビビリがあるんだよ!」
「戦闘中に説教とは‥‥後ろから斬られても文句は言ないぞ!」
「成長しろ緑葉。成長しなきゃあ俺たちは栄光を掴めねぇ。八卦衆たちには勝てねぇ! そしてはっきりと言っておくぜ」
「まだ続くんですかー? いい加減にしてくれないとグラビティーキャノン本気で当てますよー?」
「俺たち裏八卦はな、そこら辺の遊郭や酒場で『ぶっ殺すぶっ殺す』って大口叩いて仲間と心を慰めあうような負け犬どもとはワケが違うんだからな。『ぶっ殺す』と心の中で思ったならッ! その時すでに行動は終わっているんだッ!」
「もういい‥‥この隙、これ以上見逃しては置けない‥‥!」
 無闇に長い屠黒の説教に業を煮やし、雨宮、アリアス、伊東が追撃をかける。
 いくら高速詠唱があると言っても、あぁも屠黒と緑葉が接近していては、緑葉の竜巻の術は使えまい。
 だが、雨宮たちが攻撃を仕掛けるより先に。
「ゴフッ‥‥!?」
 倒れ付す屠黒。
 彼を斬ったのは―――
「いい加減腹が立ってきまして‥‥。本当はもう少し傍観しているつもりだったんですが‥‥俺もそうそう気の長い方ではないんでね‥‥」
 隠身の勾玉を片手に持った、緋室叡璽(ea1289)であった。
「緋室さん!? そうか、作戦会議にも来なかったのは、自分の存在を味方からも隠し通すためだったんですね!」
「‥‥‥‥」←それは違うと思っているが面倒なので反論しない
 素で悪意無く言う雨宮をキッパリ無視し、緑葉は緋室を警戒しつつも、屠黒に肩を貸そうとする。
「に、兄さん!」
「い、いいから行けッ‥‥! こいつらの足はッ‥‥!」
「くっ、まだ‥‥!?」
 ローリンググラビティで緋室を地面に叩きつけ、屠黒は緑葉を逃がそうとする。
「おっと、ボクと伐折羅(バサラ)が居る限り、逃がしませんよ!」
「俺が止めるッ! 全力で走れッ! 木と空蝉を駆使すれば、逃げられねぇことはねェーッ!」
「兄さん‥‥くっ!」
 振り返らずに走り続ける緑葉。
 追うにしても、屠黒の壁を抜けねばならない。
 一先ず一行は、合流してきたキルスティンたちと共に、屠黒の確保に全力を注ぎ‥‥ついに、裏八卦の一人を捕獲せしめたのであった―――