【戦慄の裏八卦】藩主の苦悩

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月23日〜03月28日

リプレイ公開日:2006年03月31日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「叔父貴ぃぃぃッ!」
「応ッ、凍真よッ!」
「オウ、相変わらずバーニングだネ。HAHAHA!」
「‥‥勘弁してくださいよ、朝っぱらから‥‥」
 京都冒険者ギルドが一日の業務を始めてまもなく、二人の青年がやってきた。
 朝も早いのでまだ人は疎らなのに、この二人だけで充分五月蝿い。
 ギルド職員の大牙城はノリノリだが、同じく職員の西山一海は辟易している。
「へへ‥‥叔父貴のところに依頼出しにくるのに、昼以降なんて真似ができるかよ。大牙家家訓、早起きは三Cの得だぜ!」
「トウマが行くなら付いていかないとネ。また迷っても困るし、裏八卦にサプライズアタックされてもバッドだヨ!」
 この二人は丹波が誇る八卦衆のメンバーで、『水の凍真』と『山の岩鉄』。
 どちらも日本人だが、岩鉄はわざとこういう口調で喋っているのである。
「そんなことより、捕まえた裏八卦の屠黒さんはどうなったんです? お二人が来るってことは、また裏八卦との戦いの日取りが決まったんでしょう?」
「あぁ‥‥アイツか。それがな、豪斬様も判断つきかねてるんだよ」
「は? どういうことです?」
「実際、よく考えると裏八卦って何した連中だ? 電蔵のじっちゃんを襲ったのは確かに許せねぇが、そんだけだ。別に民に被害を出したわけで無し‥‥電蔵のじっちゃんも死んだわけでなし」
「正気ですか? 八卦衆に喧嘩売るってことは、丹波藩そのものに喧嘩売ってるってことじゃないですか。反逆罪とか謀反とか、いくらでも罪になりそうですけど」
「一海君ッ! そんなことを言ってしまったら、以前烈斬殿の反乱に加担した者もすべて斬らねばなるまいッ!? 豪斬様は、『反逆』の一言で人を裁くのはよろしくないと思っているのだろうッ!」
「イエース、ザッツライッ! 実のブラザーをパニッシュして、豪斬様はすごく悲しんだヨ!」
「つまり、とりあえず捕まえて、傘下に下るよう説得すると? 説得に応じないようなら、その時は‥‥」
「‥‥流石に処刑だろーな。野に放って悪さされたんじゃ、丹波藩の面目丸つぶれだしよ。連中、一応は元丹波藩士らしいしさ‥‥非公認つーか未確認だったけど」
「ちなみに、今回バトルする裏八卦は、『天の金兵衛』と『雷の牙黄』らしいヨ。向こうから言ってきたネ」
「陰陽師と志士ってわけですか‥‥。しかし、もし裏八卦も全員豪斬様に仕える事になったら、周りの藩や神皇様から苦情来ません? どれだけ魔法技術に特化した国になるんですか」
「ンなことまで知らねぇって。俺たちは志士や陰陽師である前に、豪斬様に惚れ込んだ人間なんだぜ!」
「だが凍真よッ! 志士であるならば、もう少し剣の腕をどうにかしてはどうだッ!? 自衛もできぬようでは、大牙家の名が泣くというものぞッ!」
「うぐ。叔父貴‥‥痛いところを。けど、俺なんかまだいい方だぜ? 刀持って歩いてるんだから」
「そういや、岩鉄さんは刀持ってませんね‥‥手ぶらです」
「オウ、ミーは刀嫌いデース。ロングソードなら考えなくもないけど‥‥」
「それはいかんッ! 日本人たるものが、魂たる刀を嫌いなどとッ! さぁ、手にとって見ればその良さが分かろうッ!」
「駄目だ叔父貴、岩鉄に刀渡すな!」
 凍真が大牙城を止めるも、一足遅く。
 刀を手渡された岩鉄は、何故か鼻歌などを歌いだす。
「何故に鼻歌‥‥?」
「‥‥すいませーン‥‥ミー嘘吐いてまーした‥‥。日本刀とか、ヨダレが出るほど大好きデース‥‥。ミーの故郷ではみんな‥‥太刀とか霞刀しか帯びませーん‥‥。ロングソード‥‥あんな脆い鉄屑要りまセーン‥‥。ミーの故郷では幽霊斬る時は‥‥魔力帯びた刀って決まってマース‥‥。あの型と混ぜ物だらけの材料も気が滅入りマース‥‥。生産性の重視? クソくらえでーす‥‥。ミーの故郷では、強敵と戦いたかったらポーションと魔法使いマース‥‥。あ! あと大牙城サン! 一つだけ講釈まちがってマース! 志士なら剣の腕も磨けとか言ってましたね‥‥そんな野蛮なこと必須じゃありまセーン。その代わりミーの故郷ではみんな‥‥魔法と高速詠唱が無いと‥‥安眠できまセーン‥‥。でも外国のコトワザで一つだけ好きなのありマース‥‥。『カタナに勝るソードは無い』裏八卦はもちろんどんな敵も‥‥ミーの前ではロングソードでーす‥‥」
 凄まじい迫力で呟く岩鉄。
 とりあえず、一海が思ったことは‥‥。
(「‥‥こ、この人‥‥ホントは外国のこと嫌いなんじゃあ‥‥?」)

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2699 アリアス・サーレク(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6114 キルスティン・グランフォード(45歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1277 日比岐 鼓太郎(44歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

黒畑 緑朗(ea6426

●リプレイ本文

●不屈
「うわぁぁぁっ!? ぐっ‥‥う‥‥!」
「あの馬鹿‥‥無茶にも程があるじゃないか! 自分たち体力がある連中でも厳しいのにさ!」
 どんよりとした灰色の雲の下、雨宮零(ea9527)が膝から崩れ落ちる。
 場所は、八卦谷の中でも身を隠す場所の多い岩場だが、彼がいるのは非常に見通しのいい箇所である。
 キルスティン・グランフォード(ea6114)が言うように、華奢な雨宮ではヘブンリィライトニングの直撃は即刻死につながりかねないダメージになる。
 幸い抵抗に成功したようだが、それでも中傷である。
「くそっ‥‥最初に狙われるのは私だと思っていたが、まさか雨宮君があんな行動を‥‥!」
「ウェザーコントロールのスクロールはどうしたのかな? 晴れにすれば、あの魔法は‥‥」
「やったんだ‥‥。だが、元から雨が降っていたんじゃどうにもならない。連中もこっちに使われても問題ないと判断したから、嵐にまでしなかったんだと思う」
 黒畑緑太郎(eb1822)とヒースクリフ・ムーア(ea0286)もキルスティンの近くにおり、様々な対応の出来る黒畑をナイトとファイターで死守‥‥という格好か。
「まだ‥‥! まだ場所を見つけられていない‥‥!」
 薬で回復した雨宮は、その視力を最大限研ぎ澄まし、魔法発動時の発光を見つけようとその場に留まる。
 ヘブンリィライトニングは相手を視界内に収めることで発動できる魔法。
 と言うことは即ち、こちらからも発光が見つけやすいということにもつながる‥‥が。
「かはっ‥‥! あ、うぅっ‥‥!」
 二度目の直撃。
 しかも今度は抵抗できず、重傷‥‥!
「み‥‥えた‥‥! あっちの‥‥高台‥‥! ぐっ、で、でも‥‥身体が‥‥!」
 電撃で思った以上に身体が動かず、声も上手く出ない。
 次の電撃に耐えられるか‥‥!?
「その精神‥‥美しいわぁ。まさに不屈美!」
 突如雨宮の近くに八卦衆・風の旋風が現れ、彼を抱える。
 さらに、高速微塵隠れで土煙を起こし、自分たちの姿を隠した!
「つ‥‥旋風‥‥さん‥‥。は、はは‥‥酷い‥‥ですよ‥‥追い、討ち、なんて‥‥」
「ごめんね。ああでもしないと君が殺されちゃいそうだったから。機転美って言って欲しいわん」
 岩陰に移動した二人は、雨宮の進言で旋風だけが他の面々に裏八卦の居場所を伝えに行った。
 薬の持ち合わせもないので、無茶をした雨宮は、ここで安静にしていないと危険だ。
 だが、彼の勇気ある行動と目のよさが、文字通り一行を救うことになるのである―――

●肉薄
「裏八卦を神皇様に代わってお仕置きよ。と言うわけでグラビティーキャノン!」
「おらおらぁ! 雨宮の命がけの行動ッ! 俺は敬意を表するッ!」
『ちぃっ! こいつら‥‥!』
 旋風から報告を受けた他の面々‥‥楠木麻(ea8087)や伊東登志樹(ea4301)は、一路雨宮の言った高台を目指していた。
 だがたどり着く前に見えない敵‥‥つまり裏八卦・天の金兵衛と遭遇し、交戦状態となったのであるが‥‥。
「よぉし、アカギ! 一緒に金兵衛のやつを燻り出すんだ!」
「スクロールの防御は任せろ! オーラエリベイションとオーラシールドで何とかしてみせる!」
『そこの忍者! 私を呼ぶ時は名前の前に『美しき』とつけるのを忘れるな! 私の名は『美しき陰陽師金兵衛』だ!』
「はっ、トチ狂ったこと言ってんじゃねぇよ! 姿消してるくせに美しいも醜いもあるか!」
『馬鹿め‥‥伝説に素顔など要らん。正体が不明だからこそ―――』
「長台詞はんたーい!」
 再び楠木のグラビティーキャノン。
 威力を落として連射しているが、やはり姿が見えないと上手く当たらない。
 楠木の護衛に当たっているアリアス・サーレク(ea2699)や、犬と共に疾走する日比岐鼓太郎(eb1277)も敵の正確な位置は把握していないが、決して逃がしはしない位置に居る。
 そして、伊東は‥‥。
「そこだオラぁ!」
『うぉぉっ!? 馬鹿な‥‥こいつ、なんというカンの鋭さだ!』
「ちっ、もうちょい右か!」
 今日はやたらカンが冴えているのか、見つけにくい透明な金兵衛に肉薄する。
 ちなみに、やたら声を出している金兵衛が何故逃げ回れるかと言うと、岩場で声が反響するから。
「多分そっち行ったぜ、アリアス!」
「了解! そっちか!?」
「アカギ、お前に決めた!(しゅっ)」
『お、おのれ‥‥! 牙黄、何をしている牙黄! こいつらも狙い撃て!』
 響き渡った金兵衛の声に、突如雲から稲妻が落ちる。
 目標は‥‥楠木。
「‥‥っ、‥‥あっ‥‥!」
 声にならない声。
 抵抗してなお重傷‥‥もし達人級のヘブンリィライトニングに抵抗失敗したら、楠木は間違いなく即死である。
 そして、裏八卦・雷の牙黄には今にもそれを撃てる可能性がある‥‥!
「どっちで光った!? 目も鍛えておくべきだったかな‥‥!」
「わからない‥‥だが、今の俺に出来ることといえば‥‥!」
 オーラシールドを空に掲げ、倒れている楠木に覆いかぶさるようにしてガードするアリアス。
 が、それを嘲笑う金兵衛の声が響くのもまた必然‥‥!
『ふはははは! 隙だらけだな‥‥ファイヤーボムのスクロールをくらえぃ!』
「野郎‥‥光った後すぐに移動してやがんな‥‥!」
「甘酒も使い切ったしなぁ。意外と当たらないもんだ」
 上からヘブンリィ、横から何がしかのスクロール。
 焦げた臭いで犬の鼻も鈍るのか、楠木のク○クンも日比岐のアカギも右往左往し始める。
 このままではジリ貧もいいところだが―――

●剛
「‥‥流石にやるのぅ。金兵衛のテレスコープでかなり射程を延ばしたのじゃが。雨宮零‥‥やはり強敵か」
 こちらは、先ほどまで冒険者一行が居た辺りを見下ろせる高台。
 雨宮たちが遮蔽物の多い場所に陣取るのは予想の範疇。
 ならば、そこを見下ろせる場所に陣取るのが彼ら流のやり方だ。
 卵が先か、鶏が先か‥‥読み合い、騙し合いなどそんなものである。
「しかし、数が足りぬのう。あちらで金兵衛と戦っている連中とは別に、二、三人おったはず‥‥」
「見つけたぞ‥‥お嬢さん」
「っ!」
 牙黄がいる場所から、少し下方に‥‥ヒースクリフとキルスティンの姿が!
「こっちのほうが先に着いちまったか。まぁいい、雨宮をあそこまでやってくれた礼はさせてもらうよ」
「ほほほ‥‥できるかのう? この足場の悪い場所では、わらわの魔法の方が圧倒的に早いぞえ」
「やってみな。久しぶりに頭に来てるんだよ‥‥影からこそこそと。今日は絶対に引かないね」
「その心意気やよし。ならば死ねぃ!」
 高速LTB。
 直撃を受けたキルスティンだが、多少よろめいた程度で足は止めない。
 二度目のLTBには抵抗も成功し(!)、ゆっくりとだが距離を詰めていく。
「ば‥‥化物め‥‥なんという耐久力じゃ。ならば神の雷をくらえぃ!」
「がっ‥‥ぐ、そ、それがどうしたぁ! 自分の心を折りたければ、命を奪うまでやめないことだね!」
「おのれおのれおのれぇぇぇ! 言わせておけば付け上がりおるわ! 望みどおり殺してくれる!」
 流石のキルスティンでも、これ以上抵抗なしのヘブンリィLを喰らっては流石に保つまい。
 だが、牙黄の手が振り下ろされるより前に!
「ぬっ‥‥くっ、これは‥‥厳しいな‥‥!」
 ヒースクリフが盾を掲げ、キルスティンを庇いに入っており、上空からの雷をガード!
 魔法で強化していても流石にダメージはあるが、まだまだ動ける!
「あまり一人で突っ走らないで欲しいね。頭に来ているのは私も同じ‥‥もう少し頼ってくれてもいいだろう?」
「ふ‥‥そ、そうだね、悪かったよ。なら‥‥そろそろ決めにかかろうか」
「こ、ここまでの力を誇るのか‥‥! もう少しあの情報屋の言うことを信じておけばよかったのじゃ‥‥!」
「信も仁も徳もない。君たちの敗因は、人間性の欠如と知りたまえ」
 二人の屈強な戦士に接近され、挙句魔法の撃ち過ぎで魔力の切れかけた牙黄に、最早抵抗の術はない―――

●柔
「ムーンアロー!」
『くっ、ちまちまと!』
 姿を消している裏八卦・天の金兵衛に対し、黒畑のムーンアローは非常に有効な手段である。
 威力自体は小さいが、確実に命中するメリットは計り知れない。
「守護美さんと母性美さんの二人と別れてきてもらって正解だったわねん。これぞ転換美!」
「雨宮君にあそこまで格好いいことをされては、八卦招の私としても活躍しておかないとね。さぁ、おたくはもう追い詰められた! スクロールを使う暇はもう与えないぞ、天の金兵衛!」
『私の名を呼ぶときは『美しき』とつけろと言っている! よってたかって少数を攻めている分際で、よくも言う!』
「それを承知で仕掛けてきているのはそっちだろう。旗色が悪くなれば自分たちの不利を取りざたすなど愚の骨頂。やはり豪斬様に進言しよう‥‥『裏八卦、召抱えるに足る人物にあらず』とな」
 伊東たちに合流した黒畑と旋風は、すでに形勢を逆転させていた。
 牙黄の雷撃も止んだし、最早金兵衛の運命も時間の問題である。
「ボクもまだやれます‥‥! グ、グラビティーキャノン‥‥!」
『し、死にぞこないがぁ!』
「っ! アリアス、右斜め前だ! 鞭で薙げ!」
「了解! この長さならば当たる‥‥いや、当てる!」
 アリアスの鞭が、何もない空間で止まり、何かに巻きつく。
 無論、そこを逃す面々ではない‥‥!
「よし! 業火乱舞の型! でやぁーっ!」
「ざかざかざかざかざかざかッ! ちんぴら坂だッ!」
 見えないながらも、檜の棒と十手で金兵衛の顔辺りを滅多打ちにする日比岐と伊東。
 体力のない陰陽師がこれに耐えられるはずもなく、金兵衛はすぐに動かなくなった。
 祝・裏八卦二人捕獲である。
「あ、しまった」
 ただ、唯一の心残りとすれば。
「こいつの美しいツラとやらを拝むの忘れてたぜ」
 とのことである―――