【戦慄の裏八卦】闘志、衰えず
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月13日〜04月18日
リプレイ公開日:2006年04月21日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「お久しぶりだべよ。八卦衆・天の明美だべさ」
「やっほー! 同じく、月の宵姫ちゃんだよーん♪」
「あ、あの、その‥‥地の砂羅鎖です‥‥」
「うっわ、砂羅鎖さん私のことめちゃめちゃ警戒してますね?」
「それは仕方ないでしょ、自分を題材にあんな話書かれたら。これぞ恥辱美」
「はぅぅ!? そ、それは美でも何でもないと思いますぅぅぅ!」
とある日の京都冒険者ギルドは、いつにも増して姦しかった。
ギルドが、と言うよりは、ギルド内の一角が、と言うべきではあるが。
丹波藩の誇る魔法戦士部隊、『八卦衆』の半数が来訪しており、しかも風の旋風を含め4人とも女性なのだから、ある意味華やかと言ってもいいかもしれない。
もっとも、応対する職員の西山一海はたまったものではない。
「何で4人もいらっしゃるんですか。一人だと裏八卦にいつ襲われるかもしれないから、二人で来るって言うのには違和感はありませんでしたけど‥‥4人は多すぎでしょう。丹波の守りはどうするんです?」
「別に丹波はあたしたちだけで守ってるわけじゃないもーん。それに、あたしと旋風お姉ちゃんは別の用で京都に来てて、ついでに顔見せにきてあげただけだしー」
「カリカリすないで、ゆっくり話すべ。お茶要るけ?」
「結構です。で、皆さんが来られたと言うことは裏八卦がらみの依頼なんでしょうけど‥‥これからはどういう形になるんです? 一応裏八卦とは全員戦いましたけど」
「そ、それがですね‥‥豪斬様に裏八卦から文が届いたんです。『我ら裏八卦、最後の一人になろうとも戦い抜く所存。されど、勝負の規定に変更を申し入れるものなり。こちらの数の不利を相殺するため、戦闘において八卦衆を一人でも行動不能にせしめたとき、我らの仲間の一人を解放することを要求する。これに不服の場合は、不本意ながら他藩へ流れ、我らの力を振るうものなり』以上です‥‥」
「よ、要は『冒険者を無視しようが、八卦衆を倒したら仲間を一人引き渡すことにしろ、それが嫌なら近隣の藩に行って好き勝手暴れるぞ』ってことですか!? 無茶苦茶ですよ!」
「んだども突っぱねるわけにもいかねぇべよ。丹波内で領民に被害を出されるのも困るけんど、他所でそれをやられたら丹波藩の信用問題だぁ。ここは要求呑んだ上で、やつらさ全員とっ捕まえるすかない」
「3人捕まっても、怯まず戦いを継続する‥‥これぞ不退美。彼らがもうちょっと友好的ならよかったのにねん」
どうやら裏八卦との戦いはまだまだ続くようである。
残り5人となった彼らは、いったいどんな戦術で来ると言うのだろうか。
表と裏‥‥同じ八卦の名を冠していながら、その本質は大きく違うようである―――
●リプレイ本文
●策
「チェスはキングを倒すまで分からない。それどころか、ルール変更で八卦を取られたら敵戦力が回復する将棋のようなルールになったからな、欠片も油断が出来ん」
「うーん‥‥前回みたいな事をしない限り、敵に最初に狙われる冒険者は、私か楠木さんだろうな‥‥」
「大丈夫です、逆に返り討ちにしてあげますよ! それでもって薔薇神秘を奪って‥‥」
「はいはいそこまでにしておきな。格好だけでも危険なのに、これ以上妙な発言は却下だ」
いつもの如く、八卦谷‥‥天気は晴れ。
今回は前回と同様の岩場に陣取り、一同は裏八卦を待ち構えていた。
アリアス・サーレク(ea2699)がキメ、黒畑緑太郎(eb1822)が憂慮し、楠木麻(ea8087)がボケ、キルスティン・グランフォード(ea6114)がツッコむ。
楠木がちょっと変わった服装をしていること以外、概ねいつもの風景である。
「今回は、本気(マブ)でいかせてもれぇやす‥‥」
「すまないが『今まで本気ではなかったのかね?』などと無粋なことは聞かないよ?」
「‥‥ボケ殺しかよ‥‥」
一応、固まっているのはこの6人。
八卦衆・山の岩鉄と似たような格好に変装した伊東登志樹(ea4301)もボケ担当(?)。
ヒースクリフ・ムーア(ea0286)は意外とお茶目な性格で、冗談も暖かい目で見てくれるからよい。
「でも、上手くいきますかね? いくら『裏八卦は始めに捕まえたものから開放していく』って立て札を立ててもらっても、必ずしも緑葉さんが来るとは限らないんじゃ‥‥」
「確かに、返って罠かと勘ぐられる事も考慮しなければいけないと思う。しかし、来てくれれば儲け物程度に考えればいいんじゃないかな。少しでも相手を想定できる努力はしないといけないだろう?」
「来るさ‥‥あいつら基本バカだから。特に緑葉は、一旦スイッチが入ると簡単にクールダウンしない性格だと見たね」
「おやおや、相変わらずキルスティン君は手厳しいね。まぁ私も似たような印象を持ってはいるが」
楠木やアリアスの意見に、キルスティンとヒースクリフが応える。
「緑葉が来ると仮定して、恐いのはもう一人の裏八卦か。八卦衆・風の旋風さんに聞いたんだが、連中丹波内を常に移動してるらしいからな‥‥拠点を持っていないと言うのは厄介だ」
「チャカ(魔法)がナンボのもんじゃいぃ! どんな相手が来ようと、命(タマ)取ったるわ!」
『それはもういいから』
とりあえず5人からツッコまれる伊東であった。
と、そんな時である。
『みんな、逃げてくんろ! 固まってっと危ねぇべ!』
インビジブルで姿を消し、別行動をしていたはずの八卦衆・天の明美の声が響く。
岩場の反響でどこから発せられたのかは分からないが、問題はその内容である。
「固まるなって‥‥竜巻の術に気をつけろってことか? ンなの今更だっての」
「‥‥嫌な予感がするね。明美嬢の警告に従って、魔法を発動しておこう」
「わかった。俺も魔法を‥‥」
アリアスが呟いた瞬間。
どごぉぉぉぉぉんっ!
6人の直上15メートル辺りで火の玉が炸裂し、超高威力の大爆発が起こる。
達人級のファイヤーボム‥‥裏八卦でこの魔法の使い手といえば!
『うふふ‥‥お馬鹿さぁん。誰が来るかもわからないのに固まってるなんて、自殺行為もいい所だわぁ』
反響する甘ったるい言い回しの声。
裏八卦随一の火力の持ち主‥‥火の真紅―――
●想定外
「ぐ‥‥ち、畜生、真紅だと‥‥!? じゃ、じゃあ相方は水銀鏡かよ‥‥!?」
『それがねぇ、あなたたちが妙な立て札を立てさせたせいで、緑葉が『あたしが行くわッ!』って聞かなかったのよぉ。本当は水銀鏡と井茶冶がくるはずだったのにねぇ』
「な、なら‥‥何故、おたく‥‥が、来る‥‥! 水銀鏡か、井茶冶が来れば‥‥いいだろうに‥‥!」
『緑葉が行くって聞いて、井茶冶はさらっと辞退したわよぉ? 『撹乱魔法の無いやつと一緒はごめんだぜ』ってねぇ。水銀鏡も、『私と緑葉は相性最悪なのだわ。残念だけれど、他の面々に任せるのだわ』だってぇ』
「それでよりによって君か‥‥。魔法の発動が間に合わなかったのは痛かったな‥‥!」
「ごほっ‥‥! ち、致命傷に‥‥ならない、と、いいん‥‥ですけど‥‥!」
「まずい‥‥超威力のファイヤーボムがこれほどとはね! 自分やナイト二人もきついか‥‥!」
隠れながら成功するまで詠唱していたのだろう、いきなりの攻撃で6人と一匹(楠木のグリフォン)は最低中傷。
耐久力の低い黒畑と楠木は抵抗してなお重傷である。
「くそっ、みんな散れ! 固まったままだと、またすぐにさっきのようなのが飛んでくるかも知れない!」
「いや、それはないよアリアスさん。いくらなんでもあの威力の魔法を高速詠唱では撃てないだろうし、成功確率はよくて3割。まぁ、散れと言う案には賛成だけどね」
「黒畑‥‥何をするつもりだい? あんたとあいつじゃ火力が違いすぎる。犬死にするよ」
ポーションで回復した黒畑は、フレイムエリベイションのスクロールを発動し、次の魔法の準備。
他の面々も、薬を持っている者はそれで回復し、魔法を発動しているようだ。
「大丈夫。彼女がわざわざ超威力の魔法を使ったのは、高威力版じゃあ射程が足りなかったからだろう。ならば、こちらには威力は低くても絶対命中の矢がある。魔法使い同士ならそれで充分」
「ふむ‥‥悪くない推論だね。それならば、盾があるとなお安全だろう?」
「この状況下では、一番の戦力は黒畑だ。なら俺の力‥‥あなたを守るために使おう」
「やれやれ‥‥馬鹿ばっかりだね。わかったよ、盾は多いほうがいいだろ? ワンヒット・キラーは‥‥」
『タフじゃないとやっていられない』
黒畑、ヒースクリフ、アリアスが同時に言うので、ちょっと面食らった様子のキルスティン。
だが、それはすぐに笑みに変わった。
「おーい、俺はよ? つか、楠木も」
「おたくは楠木さんを連れて離れてくれ。万が一さっきのが飛んできても困るしね」
「ちぇっ、はっきり『盾にもなれないやつぁ要らねぇ』とでも言えよ。あーあ、俺ってカッコ悪ぃ‥‥」
「おやおや、悪い魔法使いから可愛いお嬢さんを守って逃げられるなんて、最高の栄誉だと思わないかい?」
「中身は八卦衆モドキの危険人物だろーが。ま、しゃーねぇ‥‥楠木、一旦引くぜ!」
「い、いつか超威力グラビティーキャノンでお仕置きですよ‥‥?」
微笑む楠木をお姫様抱っこし、伊東(と楠木のグリフォン)は全速力でその場を離脱した―――
●我通の結果
「そこかッ! 天の明美、覚悟ッ!」
「‥‥させるものか‥‥!」
「参ったなぁ‥‥空蝉を使える緑葉は俺にとって鬼門なんだけどな」
インビジブルで透明化している明美を目ざとく見つけ、肉薄する緑葉。
しかし、その短刀は緋室叡璽(ea1289)にあっさり受け止められる。
魔法ばかり達者な緑葉では、彼に格闘で及ぶべくも無い。
そして、疾走の術を発動しているもののいまいち攻めに転じきれないのは日比岐鼓太郎(eb1277)。
天の明美がヒースクリフたちと離れた場所におり、そちらに緑葉が向かっているのを察知し、なおかつ向かえたのは、緋室と日比岐の二人だけなのである。
「兄さんを取り戻すためにッ! お前らごときにかまってなんていられないわッ!」
「‥‥どうでもいいがやり口が段々任侠っぽくなってるな‥‥言う事成す事我侭ばかり‥‥。まぁ、元々そっちから突っかかってきたんだったな‥‥」
「任侠っていうかさ、ただ単に都合のいい魔法を使える仲間がいないと困るってだけなんじゃないかな。ただ暴れられればいいっていう風に見えるんだよね‥‥あいつらの行動」
意外と的を得ているかもしれない日比岐の推測。
場所を悟られないよう押し黙ったままの天の明美も、うんうんと頷いているようだ。
わざわざ隠れ身の勾玉も使って息を殺していた緋室は、天の明美の守りがあまりに薄いので、仕方なくフォローに回っていた。
裏八卦と違い、暗殺を主任務としているわけではない明美は、忍び歩きもあまり上手くなかったからである。
「‥‥斬りかかればすぐに済むというなら話は簡単なんですけどね‥‥そうじゃないのが鬱陶しい‥‥」
「近づけば竜巻の術だもんなぁ。今度、伊吹にでも対策教えてもらおうかな」
「‥‥まぁ、日比岐さんは忍術への耐性が高いからいいですよ。ついでに、明美さんも姿を消してるから入れ替わられる心配も少ない。この場合、一番厄介なのは‥‥」
「俺がスタンアタックしかけたときに、お前さんに入れ替わられることだな」
「何をゴチャゴチャ言っているッ! 来ないならこちらから行くわよッ!?」
「やってみなよ。お前が近づくより先に、俺たちは散開する。一方が竜巻で吹き飛ばされても、もう一方が攻撃できる。何気に明美さんもサンレーザーで狙えるんだぞ」
「‥‥先に仕掛けたほうが不利ですか‥‥。‥‥だが‥‥!」
何を思ったか、おもむろに緋室が突っ込み、斬りかかった!
「甘いッ! 竜巻の術よッ!」
「‥‥ぐぅっ‥‥! あ、明美さん、やつを撃て‥‥!」
「わかったべさ!」
サンレーザーが何も無い空間から発射される。
吹き飛ばしている緋室と入れ替わるわけには行かないので、緑葉はそこら辺に落ちている石と入れ替わった。
‥‥が。
「そういうことか。やるじゃないか、緋室」
「なッ‥‥!?」
疾走の術で、離れた場所に出現した緑葉に急接近した日比岐。
いくら身軽な忍者でも、いくら軽装であっても、これ以上は動けない。
その拳が彼女を捉え、昏倒・捕縛せしめるのに、そこから1秒もかからなかったと言う―――