【戦慄の裏八卦】真意の在処

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月04日〜05月09日

リプレイ公開日:2006年05月12日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「久しぶりだな。雷の電路だぜ」
「また来たべさ。天の明美‥‥よろすくお願いするだぁ」
 今日と冒険者ギルドの一角。
 職員の西山一海に声をかけたのは、丹波藩が誇る魔法戦士部隊、『八卦衆』のメンバー二人である。
 笠を目深に被った青年と、おさげを結い、地味な着物に身を包んだ少女である。
「よかった、今度はお二人できてくれましたね。前回に倣って今回は男性4人がいっぺんに来たらどうしてくれようかと思っていた所なので、ちょっと安心しましたよ」
「つなみに、もす男のみんなが4人出来てたらどうするつもりだったんだべか?」
「ギャグー空間に引きずり込んだ上でツッコみます」
「‥‥普通にツッコめばいいだろう。やれやれだぜ」
「そんなことより、裏八卦の依頼ですね? 今回も形式は変わらないので?」
「ああ、変わらないぜ。裏八卦もとうとう半分の4人になったからな‥‥組み合わせも想像しやすいだろう」
「んだども、一人一人が厄介な連中だからなぁ‥‥油断できねぇべ」
 聞けば、今まで捕まえた裏八卦の処遇はまだ決まっていないという。
 説得というか説教は続けているようだが、彼らが改心するようなそぶりは見られないらしい。
「豪斬様はお優すぃ方だべ‥‥あんな危険な連中にもお情けをかけられるなんて、おらには真似できねぇだ」
「‥‥それも良し悪し、時と場合によると思うがな」
「まぁまぁ、反抗したら即処刑なんて言う人よりはいいですよ。では、早速依頼書を作成しますね」
 残る裏八卦は後4人。
 果たして、今回と次回で決着をつけられるのだろうか―――

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2699 アリアス・サーレク(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2823 シルフィリア・カノス(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

葉霧 幻蔵(ea5683)/ シャフルナーズ・ザグルール(ea7864)/ フレドリクス・マクシムス(eb0610

●リプレイ本文

●絶
「くくく‥‥ハァーッハッハッハ! いいねいいねぇ、水銀鏡と組んだときは狩りの気分が味わえてまたオツだぜ! オラオラ、閉じこもってないで出てきたらどうだ!? あぁ!?」
「野郎‥‥好き勝手言いやがって! ちんぴら魂を見せてやらぁ!」
「だ、駄目ですよ、迂闊に飛び出したら魔法の餌食です! 忘れたんですか!? 井茶冶にはビカムワースとディストロイっていう、一撃即死級の連続攻撃があるんですよ!」
 丹波藩某所、八卦谷。
 今回もまた岩場に展開していた冒険者たちは、裏八卦の奇襲を受けていた。
 3組に分かれて展開していたのが災いしたのか、そのうちの1組が狙われてしまったのである。
 水銀鏡のシャドウフィールド(初級)で視界を塞がれ、接近戦を得意とする伊東登志樹(ea4301)と雨宮零(ea9527)は手も足も出ない状況となってしまっている。
 本当は緋室叡璽(ea1289)も同じ班で行動しているはずなのだが‥‥。
「ネズミがいるようなのだわ。けど、いつでも単独行動が成功するとは限らないのだわ」
「放っておけよ。近づいてきたらお前のイリュージョンでもかけてやりゃあいい」
 少し離れた場所で様子を伺っていた緋室は、小さく舌打ちして踵を返した。
 おそらく、他の冒険者たちに知らせに行ったのだろう。
「なんで俺たちがわかった!? 慎重に慎重を重ねて警戒していたのによ‥‥!」
「馬鹿かお前ら。警戒するのは勝手だけどよ‥‥隠れ身の勾玉ってのは姿までは消えねぇんだぜ? 遠くからだって人がいることくらい丸わかりなんだよ!」
「しかも、ここは岩場なのだわ。上から見下ろすことも簡単なのだわ」
 狙い通り、声や音が反響してどこから喋っているのか計り難い。
 が、それは闇で視界をふさがれている雨宮や伊東の不安をさらに掻き立てる結果となってしまっている。
 救いは、裏八卦のこの組み合わせに強力な範囲魔法がないことか。
「くっ‥‥例え俺たちが抑えられていても、すぐに他の人たちが来る! 今は有利だとしても、お前たちは常に多勢に無勢の渦中にいるんだ! 地の井茶冶、月の水銀鏡‥‥闇路への片道、覚悟はできているか!」
「五月蝿ぇんだよ馬鹿が」
 ズゴゥンッ!
 井茶冶が使ったマグナブローのスクロールで、雨宮と伊東がダメージを負う。
 二人は闇の中で、裏八卦二人の気配が遠ざかっていくのを、薬で回復しながら見送るしかなかったという―――

●凝
「く‥‥そぉっ‥‥! イリュージョン、か‥‥!」
「不意打ち‥‥奇襲‥‥。や、やつらの常套手段‥‥だったな‥‥!」
「わざわざ散会してくれているから手間が省けたのだわ。私と井茶冶の組み合わせは火力が足りない‥‥つまり一塊のほうが困るのだわ」
 3班に分かれて行動している冒険者たちのうち、次に裏八卦がターゲットに選んだのはこの班。
 アリアス・サーレク(ea2699)、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)の3名‥‥つまり、本来裏八卦が一番苦手とする接近戦が得意な面々で構成された班である。
 が、テスタメントの使える探知魔法の有効距離が、水銀鏡の3対象版イリュージョンの射程を下回っていたことがまずかった。
 オーラエリベイションで精神に作用する魔法をシャットダウンすることもできず、突如幻覚を見てアリアスとテスタメントが膝を突く。
「参ったね。今からでは間に合わないか‥‥!」
 一人だけ抵抗に成功したヒースクリフは、無造作に歩いてくる裏八卦の二人に対し、剣を構える。
「やめときな。いくら強かろうがお前一人じゃ俺たちにゃあ勝てねぇ。大人しく殺されとけよ」
「謹んで辞退しておこう。戦わずして敵の手にかかるなど、英国騎士の名折れだからね。それより‥‥いい加減君たちの真意を聞きたい。なぜ半分もの仲間が捕らえられてなお、挑戦を続けるのかな」
「聞くまでもないと思うのだわ。それは自分自身に『あなたたちは何故依頼を受けるの?』と聞くのと同じなのだわ」
「ふざ‥‥けるな‥‥! お前たちは、誰かの頼みで‥‥動いてるわけじゃ、ないだろう‥‥!」
「おー、幻覚見ながら会話に参加してくるなんざ大したもんじゃねぇの。流石、歴戦の騎士様だなぁ? ハッハッハ!」
「簡単な話なのだわ。私たちは自分の好きなこと、興味のあることを自分たちの力を頼りにやっているだけ。その為に死ぬならならそこまでの器量だったいうだけのこと‥‥お金や命を惜しむ人生なんて真っ平なのだわ」
「‥‥命を惜しむな、名を惜しめ‥‥とでも‥‥!? ご、ご立派なことだ‥‥!」
「ばぁか。やりたいことやらなくて何が人生だよ。平和のために尽力だぁ? ンなこたやりたいやつがやりゃあいい。俺たちが望むのは‥‥戦い! バクチ! 女! そういう生きてるってことを実感できるもんなんだよ!」
 必死に食い下がるアリアスやテスタメントを一蹴し、井茶冶と水銀鏡はヒースクリフを警戒する。
 いくら高速詠唱からの魔法があるとはいえ、抵抗されれば命が危ない。
 お互いが相手の出方しだいで大きく運命を変える対峙‥‥だからこそ。
「スクロール‥‥! それを使わせるわけにはいかない!」
 不確定要素を巻き起こすその行動を、ヒースクリフは見逃しておけなかった。
 盾を構えて猛然と井茶冶に突っ込んでいくが‥‥向こうの発動のほうが速い!
 バチバチバチバチッ!
「がっ‥‥! ライトニング‥‥トラップ‥‥!?」
「テメェが突っ込むしかねぇってのはわかってんだよ。ほぅら、せっかく近づいてくれたんだ‥‥こいつもオマケにつけておくぜ!」
 ビカムワースで、防御力に関係なく一気に重傷に持っていく井茶冶。
 スクロール使用直後なのでディストロイは飛んでこないが、ピンチに違いはない!
「一人脱落なのだわ。他の二人にもさっさとトドメを刺すのだわ」
「くっ‥‥ヒースクリフ! こ、この幻覚さえなければ‥‥!」
「振り払えん‥‥! 師匠‥‥私は、まだまだ‥‥未熟ということですか‥‥!?」
「安心しな。全員まとめて‥‥あの世に送ってやるからよぉ?」
 井茶冶がにやりと呟いて、アリアスに手を伸ばした時だ。
『大自然のお仕置きよ!』
『オラオラオラオラオラァッ!』
 不意にグラビティーキャノンとライトニングサンダーボルトが飛び、井茶冶と水銀鏡を直撃する!
 裏八卦二人は持っていた薬で回復し、攻撃のあったほうに向き直る。
 するとそこには、もう1班の冒険者たちの姿が―――

●発
「‥‥間に合いましたね‥‥。雨宮さんたちのほうからいなくなってたから、こちらだと思いました‥‥」
「一つの班を襲撃し、わざと一人逃がして別の班へ報告させる。その隙にさらにもう一つの班を襲撃とは手が込んでいるな‥‥やれやれだぜ。だがッ! 俺たちが来たからにはもう許さねぇぜッ!」
 緋室が呼んできたらしい、八卦衆・雷の電路、楠木麻(ea8087)、シルフィリア・カノス(eb2823)の魔法使い組み。
 今は重たい直接攻撃よりも、確実にヒットさせられる魔法のほうがありがたい。
「前回は酷い目にあいましたからね‥‥祝コロポックルも含めて、今回こそはボクの活躍の場面ですよ!」
「『殺ポックル』の間違いだと思うのだわ。ねぇ、美少年」
「だーかーらー! ボクはこれでも女なんですってば!」
「はっ、どっちだっていいんだよンなこたぁ。どうせお前らはここで死ぬんだからな!」
 言うが速いか、裏八卦の二人は同時に行動に移る。
 水銀鏡が3対象イリュージョンを使用し、確率は低いながらも楠木たちを無力化しようとする。
 が、それは意外な形で防がれることとなる。
「ホーリーフィールド‥‥間に合いましたね。直接ダメージのある魔法ではないので、防ぐのは容易でした」
「あぁ!? っざけやがって‥‥つまんねぇやつが参加してやがったもんだぜ!」
「神聖魔法とは、こうやって誰かを守るためにあると思います。あなたもそれを使うのであれば‥‥」
「五月蝿ぇ! 余計なお世話なんだよっ!」
 ブラックボール(専門)のスクロールを発動し、井茶冶は楠木・電路の無力化を図った。
 だがすでに何度も魔法を使い、魔力を消耗している裏八卦の二人では、壊されるたびに使用されるシルフィリアのホーリーフィールドを壊しきることはできまい。
「‥‥井茶冶、残念だけれどここは退くのだわ。何気にあの女、私たちと相性が悪いのだわ」
「クソがっ! 例の場所で落ち合うぞ!」
 井茶冶が踵を返し、水銀鏡はインビジブルのスクロールを使用する。
 どちらにも楠木たちの魔法が有効でなくなってしまった上、ヒースクリフたちはまだ動けない!
「へっ、また次があるってもんだ。命あっての物種‥‥ってな」
『そうはいくかばっかやろぉぉぉっ!』
「なっ!?」
 その場から距離をとり、逃げ切るのも時間の問題とたかをくくっていた井茶冶が、いきなり横から短刀の一撃を喰らった。
 見れば、最初にあしらったはずの伊東と雨宮の姿が‥‥!
「このまま逃がすかよ! 魔法が効かないんならよ‥‥俺のちんぴら魂でぶっつぶす!」
「‥‥姿が確認されていなければ隠れ身の勾玉は有効‥‥。あなたから教わったことだ」
「野郎‥‥野郎ぉぉぉっ! テメェらごときによぉ‥‥!」
「もう一度言おう。地の井茶冶‥‥闇路への片道、覚悟はできているか―――」
 きちんとトドメを刺すか、完全に動けなくなるまで痛めつけるべきだったのだ。
 裏八卦・地の井茶冶の敗因は‥‥己の見通しの甘さだったのかも知れない―――