【戦慄の裏八卦】反乱の余波
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:9〜15lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:05月29日〜06月03日
リプレイ公開日:2006年06月07日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
がすっ、ぐしゃあ!
「‥‥サボってるんじゃないわよこのトンビのクチバシ」
「げふっ。こ、この靴の裏の感触はアルトさんですね。お願いですから退いてください‥‥」
京都ギルド職員、西山一海は、突然後ろから蹴りを入れられて倒れ、さらに後頭部を踏みつけられた。
やったのは、京都の便利屋、アルトノワール・ブランシュタッドという女性である。
いつものことではあるが、一海が担当しているスペースは色々賑やかだ。
「‥‥あなた、この前『あと2〜3日で裏八卦の依頼書ができます』みたいなこと言っておいていつまで待たせる気?」
「す、すいません。別に最終幻想其の十二に現を抜かしてたとか、ひぐらしの鳴き声を聞いてたわけじゃないんです」
「‥‥‥‥」←無言で縄金票を取り出すアルト
「わっわっ、ホントですってば! 五条の宮様の反乱のごたごたで、丹波藩のほうからちょっと待ったがかかったんです! おかげで今回はちょっとした制約が付いちゃったそうなんですよっ!」
「‥‥八卦衆が来てないところを見ると、丹波は自国の防衛で手一杯。八卦衆は国内で部隊指揮に当たってる‥‥ってところかしら」
「正に。かと言って裏八卦もいつまでも待っちゃくれないので、今回一緒に戦う八卦衆は『月の宵姫』さん一択だとか」
「‥‥裏八卦が残り3人であと一息になったってところでこれとはね。‥‥面倒くさい‥‥」
「‥‥どうせアルトさんが戦うわけじゃないでしょうに」
「‥‥長引けばまた情報集めやらされるでしょ」
「なるほど。じゃあ是非とも冒険者の方々に頑張ってもらいましょう」
思わぬ事件により、丹波にも悪影響が及んだ今日この頃。
ここに来て選択の余地がなくなるのは痛いが、愚痴っても致し方のないところである。
残る三人・・・月、火、水の組み合わせは、果たしていかなるものか―――
●リプレイ本文
●的中
「で、どーすんだ。まさかこのままにらめっこしてるつもりじゃないだろうね?」
「そこで突撃ですわ。一気に接近して、魔法の連発で逝ってらしゃいませ」
「相変わらず過激なお嬢さんだね。とても魔法特化型の戦闘スタイルの人の発言とは思えないよ」
「敵に最初に狙われる冒険者は、私か楠木さんになりそうだから、うまくやらないと‥‥」
丹波藩某所、八卦谷。
今回は見通しのいい広場に陣取った冒険者たちは、籾殻を撒いておくなどの事前策を講じた後、静かに待っていた。
流石に場所が場所だけに裏八卦の二人の接近を感知するのも容易で、一同は一気に交戦状態に入る‥‥はずだった。
だが、最初にキルスティン・グランフォード(ea6114)が言ったように、双方一定の距離をとったまま動こうとしなかったのである。
というよりは、裏八卦が必要以上の接近を躊躇していると見るのが妥当か。
一度殺されかけている裏八卦相手に、何故かメイド服(+丁寧口調)で挑む楠木麻(ea8087)は、可愛い外見をきっぱり切り捨てるように過激な提案をする。
が、そこはそれ‥‥冷静なヒースクリフ・ムーア(ea0286)や黒畑緑太郎(eb1822)がきっぱり止めたが。
「くっ‥‥ここがお互いの絶対距離なんでしょうね。蒼陣の超長射程版アイスコフィンが届かない、ギリギリの地点‥‥!」
「義妹が言っていた‥‥。窮鼠は猫を噛み、獅子が全力をもってウサギを狩るとカロリー収支がマイナスになり餓死する、と。つまりどれほど優勢であっても、何があって足元を掬われるか解らない。まして相手が傷ついていても獅子とあっては何をかいわんや、だな」
「‥‥何と言うか‥‥微妙に合っているようでまったく合っていないような気がしますね‥‥」
「つまり、裏八卦の方々も手負いで、あまり無理をしたくはないと思っている‥‥ということでしょうか?」
雨宮零(ea9527)が歯噛みをするように呟いたのを受けて、アリアス・サーレク(ea2699)が真面目に言う。
敵の魔法の射程外なので、不承不承といった感じで一緒にいる緋室叡璽(ea1289)が呆れたようにツッコみ、少し天然気味にシルフィリア・カノス(eb2823)が質問する。
この4人と先の4人は別々の班として大きく距離を離しており、大きな声を出さないと意思の疎通は難しい。
ちなみに、八卦衆・月の宵姫はヒースクリフたちのほうに所属している。
「どうだろう、宵姫さん。私のムーンアローや、宵姫さんの超長射程版シャドウボムを撃ち込んでみるのは‥‥」
「うーん‥‥やめといたほうが無難かなぁ。ムーンアローじゃ威力が低すぎるし、あたしの超長射程玄影衝は発動確率が低いし。モタモタ詠唱してる間にさらに距離とられちゃうよー」
「私のロングボウも射程ギリギリだね。厄介な距離だ、まったく」
「麻じゃないけど、突撃もありって気がしてきたね。アイスコフィンについてはぶっちゃけ諦めるとして、ファイヤーボムなら体のでかいやつが盾になれる。まぁ自分かヒースクリフかってとこだろうけど」
「わかりましたわ御死人様(ごしにんさま)。あなたの尊い犠牲は忘れません」
「縁起でもないこと言うんじゃないよ。あくまで最終手段なんだからね」
「あだだだだだだっ!?」
キルスティンにうめぼしをかまされて悲鳴を上げる楠木。
それを遠くから見ていた裏八卦の二人‥‥蒼陣と真紅は、あからさまに言葉を交わし始める。
何か仕掛けてくるつもりなのであろうか。
「来るか。シールド再発動‥‥エリベイションはまだ保つな‥‥!」
「組み合わせはどうでも良い‥‥誰が来ても俺には斬る事しか能が無いんだから‥‥」
「皆様方は私がお守りいたします。高速詠唱からの天使の障壁‥‥神の祝福があらんことを」
「では覚悟を決めましょうか。‥‥今日の得物に選んだ斬馬刀。吉と出るか凶と出るかは‥‥運次第だ」
もう一方の班も準備万端。
始まってみればあっという間であろうこの戦い。
いや‥‥戦いなどというものは、往々にしてそんなものかも知れない。
兎にも角にも、場は動き‥‥生死をかけた、戦いへ―――
●冥途
「聞こえるかしらぁ〜、鏑木ちゃぁ〜ん! 今日はまたずいぶん可愛い格好ねぇ〜!」
「鏑木じゃありません! 楠木ですってば! ‥‥っとと、いけない、つい地が‥‥」
何を思ったか、真紅が大声で楠木を呼んだ‥‥らしい。
名前を間違えたのは、わざとだろうか?
「あらぁ〜、ごめんなさぁ〜い。楠ちゃんだったわねぇ〜! く・す・の・き・ちゃあ〜ん! うふふ‥‥!」
「うあぁぁ、聞こえは同じなのに、なんかすごく馬鹿にされてるような気がしますっ!」
「楠木さん、落ち着いて。あんな見え見えの挑発に引っかかっちゃ駄目だ!」
どうやら黒畑の言うように、激しくわざとのようだ。
楠木が遠目でもわかりやすいリアクションをするので、それが面白いのだろう。
「でもねぇ〜、見るたびに思ってたんだけれどぉ〜! その『女装癖』、どうにかしたほうがいいわよぉ〜!?」
ぷつん。
その時、黒畑、ヒースクリフ、キルスティン、宵姫の4人は確かに感じた。
人がキレる時の、何かが切れたような音を‥‥。
「だっ‥‥誰が女装癖ですかぁぁぁっ!? お誂え向きに、この服は『めいど服』という名前からして相手を冥途に送る時に着る正装っ! 冥途へ光の速さで一足お先させてやりますっ!」
「ふ‥‥貴様にできるかな! 我々を相手に、そんな格好で!」
「ひゃあぁぁぁぁぁっ! 一撃で冥途に送ってあげますよぉぉぉぉぉっ!」
「まずい! 楠木君、戻りたまえ! 飛び出すのは危険だ!」
もう遅い。
元から距離を詰めて魔法を撃とうと考えていた楠木が、冷静さを欠いたらどうなるか。
ノリがいい性格だけに、一度火がつくとそう簡単には止まらない‥‥。
「うふふ‥‥お馬鹿さぁん」
「冥途に逝くのは貴様の方だな」
楠木がある程度まで近づいてきたところで、蒼陣は長射程ミストフィールドを展開。
霧に包まれたことでようやく我に返った楠木だったが、これまた後の祭り。
真紅の高威力版ファイヤーボムの直撃を受け、抵抗は成功したが中傷!
「あの馬鹿! 自分は楠木のガードに回る! 後は頼んだよ!」
「了解っ! 黒畑さん、ヒースクリフさん、あたしたちは裏八卦の撃破に回るよ! そっちのみんなもいいよね!?」
「流石‥‥切り替えが早い。歴戦の魔法戦士というのは伊達ではありませんね‥‥」
「こちらも了解した! 少しくらいのダメージならかまわず突っ込む!」
宵姫の号令で、緋室、アリアスたちの班も突撃を開始する。
が、その間にも楠木は二発目の高威力ファイヤーボムを喰らい、重傷へ。巻き込まれたキルスティンも中傷!
魔法で作られたとはいえ、霧は霧‥‥炎の熱でざぁっと拡散する。
が、そこはそれ、魔法だけにすぐにまた濃霧状態へと戻ってしまうのが厄介だ。
「楠木は保護した! あとは自分がぶっ壊される前になんとかしてくれ!」
「うふふ‥‥見えてるわ。他の4人はぁ‥‥そっちよぉ!」
真紅がアリアスたちのほうに手を向け、高威力版のファイヤーボム。しかし!
「ホーリーフィールド!」
高速詠唱で造られた障壁は、すぐに壊れてしまったがシルフィリアたちへの攻撃を何とか防ぐ。
有効範囲の関係で、アリアスだけは自前のオーラシールドで防ぐことになってしまったが、それも仕方ないことだろう。
‥‥が。
「う‥‥あ‥‥!? か、体が‥‥!?」
障壁が割れた次の瞬間、シルフィリアの身体が凍結する。
運悪く失敗した魔法抵抗‥‥蒼陣の長射程版アイスコフィンだ。
「‥‥これで盾はなしか‥‥。だが‥‥このまま斬りかかるのみ‥‥!」
「シルフィリアさんがくれた機‥‥見逃すものか!」
「ちっ‥‥ならば貴様らも氷付けにしてくれようぞ」
そう言って緋室と雨宮に魔法を放とうとした蒼陣だったが、すぐには実行に移せなかった。
霧を迂回するように移動していたヒースクリフのロングボウが、ここで間に合ったのである!
「ぐぅっ‥‥! 馬鹿な‥‥やつが弓だと!?」
「持ってきた甲斐はあった‥‥というところかな」
動揺と傷が、蒼陣の判断をさらに鈍らせる。
目と鼻の先まで接近してくる雨宮たちへの対応が遅れた‥‥!
「‥‥受けろ、紅き稲妻を。『紅雷』‥‥!」
すでにライトニングアーマーを纏っていた緋室の一撃を受け、さらに電撃までもらっては蒼陣はたまらない。
挙句、雨宮に斬馬刀で追撃をかけられては死にかねない。
そう判断した蒼陣は、自分自身にアイスコフィンをかけてその場をやり過ごした。
ここで殺されるくらいなら、捕まってでもいくらかのチャンスに掛ける‥‥ということだろうか。
氷に阻まれ、雨宮の一撃は通らなかったものの‥‥シュライクを交えれば、蒼陣は重傷を免れなかったはず。
「鬱陶しいことしてくれるじゃない‥‥あのナイト! 残念だけど、ここは退かせてもらうわねぇ!」
「そうはいくか! 穿て、月の光! 日の下でも威力は変わらない!」
黒畑の高速ムーンアローが、逃げ出した真紅を捉える。
射程の長さ、命中の確実さでは、魔法の中でも随一なこの魔法‥‥しかし、惜しむらくは。
「威力が低くて残念ねぇ! お返しに痛ぁいのをあげるわぁ!」
高威力ファイヤーボムを目晦まし兼足止めに使い、真紅は逃走する。
結果として蒼陣は捕まえたものの、一気に二人捕縛はならなかった。
果たして、次回で決着がつくのであろうか‥‥?
「ジャパンは大動乱を起こしつつあるのに、その力を無駄にしやがって!」
アリアスの言葉は、まさに的を射ているとしか言いようがなかった―――