【戦慄の裏八卦】いざ、最終決戦?

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:12〜18lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月16日〜06月21日

リプレイ公開日:2006年06月25日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「さて‥‥いよいよ最終決戦ですね」
「そのようだね。丹波藩自体は五条の宮の残党を警戒しているが、裏八卦はそんな事情はお構いなしだ。後2人にまでなっておきながら、あいも変わらずの挑戦‥‥まったく、何を考えているのやら」
 冒険者ギルドでは、職員の西山一海と、京都の便利屋、藁木屋錬術が何やら話していた。
 長々続いた裏八卦と冒険者との戦い‥‥初めは裏八卦の奇襲に足元を救われる事があったが、回を重ねるにつれて連中の戦法に慣れていき、ついに残り二人にまで数を減らしたのである。
 残る裏八卦は‥‥火の真紅、月の水銀鏡の姉妹。ある意味一番厄介な組み合わせだ。
「しかし、挑戦状の最後の一文‥‥『今回は逃げないわよぉ? 私たちが負けるのが先か、私たちが八卦衆を倒すのが先か‥‥楽しみねぇ!』っていうのは本当ですかね?」
「二人揃って逃げるというのなら可能性はある。だが、残り一人になってしまったら彼女らは逃げまい」
「根拠は?」
「確かに八卦衆や裏八卦の面々は強い。が、それはあくまで誰かと一緒に行動することが前提だ。無論一人でも戦えるが、強敵を複数相手にする場合は単独行動は不可能。ということは、裏八卦は残り一人になっては挑戦することもできない‥‥ということだよ」
「なるほど‥‥じゃあ文字通り最終決戦っぽいですね。八卦衆の一人を守りつつ、裏八卦の二人を撃破‥‥って、それっていつもと変わらないんじゃありませんか?(汗)」
「仕方ないだろう、連中には明確な首領がいないのだから。だが、こちらにも少し困った事情があってな」
 藁木屋が言うには、前回同様に都合がつかない八卦衆が多く、同行できるのが山の岩鉄か地の砂羅鎖のどちらかだけらしい。
 どちらも回避に使えるような魔法がない分、不安といえば不安である。
「早く騒動が終わるといいですねぇ。少数の我侭で藩一つごたごたさせるのは勘弁してほしいものです」
「‥‥終わったら終わったでまた面倒だと思うがね‥‥」
 藁木屋の呟きの意味を、一海は理解していないようだった。
 兎にも角にも‥‥今回が最終決戦となるか―――?

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2699 アリアス・サーレク(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2823 シルフィリア・カノス(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

佐上 瑞紀(ea2001)/ 藺 崔那(eb5183

●リプレイ本文

●足掻き
 どごぉぉぉんっ!
 丹波藩某所、八卦谷。普段は人っ子一人いない、秘密の場所である。
「ぐはっ‥‥!? ファ、ファイヤーボムだと!?」
 アリアス・サーレク(ea2699)は、信じられないといった表情で毒づく。
 八卦谷は、川、谷、平地、岩場、森など、様々な環境を内包した奇妙な地形をしている。
 一行は、決闘場所に指定した開けた区域を目指し、進んでいたところで‥‥。
「ちっくしょう! 場所に辿り着く前に奇襲たぁ、なりふりかまってねぇな!?」
「痛ぅっ‥‥! か、可能性はあったのに、今までやられなかったからなぁ‥‥。油断した!」
 伊東登志樹(ea4301)や黒畑緑太郎(eb1822)が言うように、よく考えれば、裏八卦にはいつもいつもこちらが指定した場所で戦わなければならない道理は無かったのだ。
 奇襲、騙し討ち、ゲリラ戦上等の戦闘集団‥‥それが裏八卦だったはず。
 黒畑がスクロールで曇りにしたので、天気も悪い。
「あちち‥‥! でも、恥を忍んでこの格好をしてきた甲斐はありましたね!」
「まずいね。次を喰らったら、私はともかく魔法使い系の仲間には致命傷になる!」
 巫女服で魔法防御を上げていた雨宮零(ea9527)や、頑強な装備で身を固めていたヒースクリフ・ムーア(ea0286)は軽傷で済んだが、他の前衛型の面々は中傷。
 同じく魔法使い系の面々も中傷ではあるが、それは魔法抵抗を成功させたからの話。
 次に同じのをもらえば、抵抗しても重傷。そうなれば、戦闘能力は大幅にダウンする!
「真紅〜〜〜〜〜〜! 許さん! 許さん! 許さーん!」
「‥‥味な真似をする‥‥。足掻きにしては、見苦しい部類ですけどね‥‥」
「いけません‥‥。皆さん、回復を」
 前回の事を根に持ち、やたらヒートアップする楠木麻(ea8087)と、逆にこの状況でもクールな緋室叡璽(ea1289)。
 シルフィリア・カノス(eb2823)は近場の人からリカバーで治療しようと手を伸ばしたが‥‥。
「あら‥‥真っ暗です」
「ゲ‥‥ゲーーーッ! こんなとこで連中のお得意連携かよ!?」
「完全にあちらのペースか! みんな、走れ! この際散り散りでもいい! 一網打尽にされるよりはるかにマシだ!」
 不意に周囲をシャドウフィールドで覆われ、接触していなければ使えないリカバーは不発となる。
 ちなみに、伊東の言う『こんなところ』とは、川辺の岩場。
 例の平地へ向かうには、ここを少々川沿いに南下しなければならないのである。
 アリアスの号令でみな必死に離脱しようとするが、石ですっ転んだり川に入ってしまったりと、思うように動けない。
「うふふ‥‥いつも遅刻しててごめんなさぁい。今日は反省して、あなたたちより先に来てあげたわぁ」
「いつも奇襲を受けないから次も無いなんて思い込みは命取りなのだわ。場所を指定するのは勝手だけれど、それはあくまで『そこで待ち合わせ』的な意味なのだわ。そこでしか戦わないとは一言も言っていないのだわ」
 対岸のちょっとした高みに、ひらひらした改造着物の女性が二人。
 裏八卦の二人‥‥真紅と水銀鏡。
 だが、闇に包まれている冒険者にはそれは見えない。
「オウ、シット! ここでミーがやられるわけにはいかないヨ!」
「私が少しでも時間を稼ぐ! みんなは岩鉄さんを守りながら逃げてくれ! ムーンアロー!」
 刀を持たない岩鉄は、『危ない人』から『ちょっと変な人』にレベルダウンする。
 裏八卦との戦いの特殊ルール‥‥『八卦衆の撃破で裏八卦一人解放』がある限り、彼を守るのは最優先事項だ。
 黒畑が闇の中から高速ムーンアローで反撃し、ダメージは少ないもの、ファイヤーボムの二発目が飛んでくるのをなんとか遅らせてくれている‥‥!
「みなさん、とにかく闇を抜けるんです! 黒畑さんの気持ちを無駄にしちゃいけません!」
「合流地点は例の平地だ。防御に自信のない者は、私の後ろについてもらってかまわないよ」
「うぅぅ! こんな卑怯な手まで‥‥許すまじ、真紅〜〜〜!」
「‥‥必ず血祭りにあげてやる‥‥」
 一行は黒畑を残し、散り散りになりながらも平地へと脱出した。
 残された黒畑は、未だ闇の中。
「なんとかポーションで回復したが‥‥悪足掻きにしかならないな」
 自嘲気味に笑う黒畑を、闇の中でファイヤーボムが襲う。
 死。頭の端に、確かにそれがよぎった。
「かっこいいじゃなぁい? 流石は月光謡‥‥丹波藩の新進気鋭の家臣にして、八卦衆を呼びつけられる男ねぇ」
「あなたも楠木も、私たちと同じような存在なのに‥‥理解できないのだわ」
「私は魔法好きだが、法を破ったり、人の迷惑になる事はしない‥‥! 一緒にしないでもらおうか!」
「あら、そぉ? それじゃあ‥‥イっちゃいなさぁい!」
「ぐ‥‥みんな‥‥あとは、頼む―――」
 遠くで爆音が響いたのを、7人は確かに聞いた。
 後に聞いた話では、この時点ではまだ黒畑は意識があったという。
 が、瀕死状態でしばし放置されていたため、呼吸停止。丹波藩の僧侶が蘇生に成功し、なんとかなったらしい。
 そして舞台は、本来の戦闘場所である平地へ―――

●決着‥‥?
「ソルフの実‥‥!? やつら、あんなものを!」
「雨宮さん、よく見えますね‥‥って、そんな!? いくつ持ってるか知りませんけど、連中は魔力が回復できるんですか!?」
「最後かも知れないとあって、出し惜しみはしないつもりらしいね」
「しかし、こちらも先ほどの傷は私が直しましたし‥‥なんとかなりますよ」
「‥‥楽天的ですね‥‥。‥‥『なんとかなる』のではなく、俺たちが『なんとかする』んですよ」
「ちげぇねぇや! 黒畑のアニキの仇‥‥この伊東登志樹が、ちんぴら魂にかけて取らせてもらいやす!」
「縁起でもない‥‥俺たちはあの二人に勝って、黒畑を助けに行くんだぞ。そうさ‥‥この勝負に引き分けはない! ジョーカーを切らせてもらう!」
「ミーはベリーアングリー! メッタメタのギッタギタするのDEATH!」
 7人は、遅れてやってきた真紅と水銀鏡を確認し、戦闘態勢を取った。
 二人はソルフの実をかじりながら、余裕綽々‥‥ではなかった。
「さぁ‥‥いくわよぉ水銀鏡。お姉ちゃんを守ってちょうだぁい」
「わかってるのだわ。ブラックボールのスクロール‥‥発動なのだわ」
 水銀鏡の上に黒いボールが発生し、浮遊する。
 そこまではまぁ予想の範疇だったが‥‥次に彼女らがとった行動は、7人にとって意外であった。
 即ち‥‥。
「一気に潰してあげるわぁ!」
「フォローは任せるのだわ!」
 水銀鏡を先頭にして、突撃してくる姉妹。
 一瞬面食らったが、対する7人は歴戦の冒険者。すぐに迎撃に回る!
 が、ヒースクリフは重過ぎる装備が災いしてか、矢を撃つのに時間がかかりすぎた。
 その僅かな差で、水銀鏡はシャドウフィールドを発動‥‥7人と自分たちの間に闇を作り出す!
「また目晦ましか! だが、俺たちが当たり負けすると思うなよ!」
「おらぁ! 魔法が怖くてちんぴらやってやれるかぁぁぁ!」
「一度近づけばアナタ方を鋭角に捕らえてみせますよ‥‥僕の居合いは」
「うふふ‥‥全力でイクわよぉ!?」
 ごぅんごぅんと、二回ほど爆音が轟く。
 間が開いていれば、この魔法は下手な反撃を受けない。
 唯一遠距離攻撃ができたヒースクリフも、闇のせいで照準が取れないため、武器をロングソードに持ち替えたところだ。
「ミーの魔法じゃ効かないヨ!?」
「お、同じく! あのスクロールを使ったのは誰だっ!?」
「水銀鏡さんですよ?」
「そこっ! シルフィリアさん! ボケに素で返さない!」
「はい?」
 ごぅぅぅんっ!
 ずいぶん余裕のある楠木とシルフィリアだったが、飛んできたファイヤーボムに巻き込まれてそれどころではなくなった。
 見れば、ファイヤーボムで前衛組みを怯ませた隙に、真紅と水銀鏡が走りこんでくるではないか!?
「特攻でもする気か。力のみを頼りに、と言ったな‥‥所詮は己を上回る力に出会った事の無いが故の甘えに過ぎん!」
「私たちは地獄を見てきたのだわ。ご立派な家柄のあなたにはわかりはしない地獄だったのだわ!」
「だから信じるのは力! 権力に守られた八卦衆なんて似たような連中、虫唾が走るのよっ!」
「そういうのは僻みと言うんですよ! どうして手を取り合えないんです!?」
「無駄だ雨宮! あいつら、いっぺん痛い目みねぇとわからねぇ連中だ‥‥!」
「ヒースクリフ! 真紅のマグナブローに注意を!」
 アリアスの叫びに頷いて応えたヒースクリフ。
 だが真紅は、にぃっ。と笑った。
「もう遅いわ。着いたもの」
 ふと後ろを振り向くと、そこには真紅と水銀鏡が岩鉄の目の前にいた‥‥!
「悪夢は‥‥見れたのだわ? 最初からオーラ魔法を使っておくべきだったのだわ」
「イリュージョン‥‥!? いつの間に‥‥!」
「‥‥俺が引き継ごう‥‥。姿さえ見られなければ効果があるんだったな‥‥」
 闇で逆に姿を隠していた緋室が、ふっと水銀鏡の後ろに現れる。
 隠身の勾玉で、気配も感じられなかった‥‥!
「関係ないわぁ。一緒に‥‥イきましょぉ?」
 自分はもちろん、水銀鏡も、岩鉄とそのすぐそばにいたシルフィリアも巻き込むファイヤーボムを連打。
 ホーリーフィールドの有効範囲内に入り込むことで、それを抵抗、発動させず。
 加えて自爆覚悟の高威力ファイヤーボムを連打し、岩鉄のロ−リンググラビティを封じる(岩鉄自身も巻き込むため、ファイヤーボムとの相乗ダメージで死にかねない)。
 そして‥‥水銀鏡は長時間版ブラックボールの効果を受けているため、ファイヤーボムのダメージを受けず、岩鉄に止めのヘブンリィライトニングのスクロール‥‥!
 岩鉄は倒された。
 が、真紅も戦闘不能だし、水銀鏡は前衛組みによって拘束されてしまう。
 この場合、どうなるのか。
 どうやら‥‥もう一回だけ、事件は長引きそうである―――