【勾玉攻防戦】守護者の名は
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:9〜15lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:06月08日〜06月13日
リプレイ公開日:2006年06月17日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「やぁ一海君。少し手間がかかったが、例のことを調べてきたよ」
「待ってました! では早速依頼書の製作開始です!」
京都冒険者ギルドにやってきた京都の便利屋、藁木屋錬術。
その言葉を受けて、ギルド職員の西山一海はささっと紙を取り出した。
「石にされてしまった人の証言や、人を石化するという能力を持つ妖怪を調査した結果‥‥例の遺跡の奥にいるのは、『八足岩大蛇』という妖怪らしい。巨大な8本脚のトカゲで、頭には王冠のような形に逆だったトサカがある。主に砂漠に棲むらしく、おおむね凶暴で、縄張りに誰かが侵入すると、容赦なく襲い掛かってくるようだ」
「ちょっと待ってください。冒険者さんたちが行ったのは山の中の遺跡ですよ? 砂漠とはぜんぜん環境が違うんじゃ‥‥」
「『主に』と言っただろう? 何事にも例外は存在するさ。それに、見ただけで石化を引き起こすような能力を持っている妖怪は、日本にはこれしかいないという話だがね」
「巨大なトカゲとなッ!? 大蛇と書くのにトカゲとはこれ如何にッ!」
ドン、という効果音を背負って現れたのは、虎覆面のギルド職員、大牙城。
前回は不死者相手に大立ち回りを演じたものの、最終的には冒険者たちに助けられた困ったさんである。
「城さん、もう平気なんですか? あれだけボロボロで帰ってきたのに」
「何のあれしきッ! 日本の寺院の医療技術は世界一ィィィッ! 治せぬ傷はないィィィッ!」
「‥‥いつもよりテンションが高いな」
「久しぶりに暴れて、野生に火でも点いたんでしょう‥‥(汗)」
とりあえず大牙城は無視して、話を続けることにする藁木屋と一海。
「村長にも話を通した結果、『そのような恐ろしい妖怪が住み着いているのであれば、祭りのときに村人が危険に曝される。すぐに退治を願いたい』という言質を取った。まぁ外国人嫌いは相変わらずのようだが、これで遺跡内を少しくらい傷つけても文句は出ないだろう」
「平良坂冷凍さんの動きはどうなんですか? 前回は果樹王組だけ寄越したようですけど」
「それがな‥‥前回、果樹王組は遺跡で迷い、八足岩大蛇のいる場所までは辿り着けなかったそうなのだ。こちらは志摩殿という協力者がいたから、偶然遺跡の最奥まで行き着けただけらしい」
「は? 一番奥が御神体の勾玉を置いてある場所じゃないんですか?」
「実は違うらしい。村人たちが把握しているのは、あくまで遺跡の一部。その『一部の一番奥』に御神体を安置したらしい」
「‥‥ややこしいですね。ということは、そのなんとかっていうトカゲとは戦う必要はなかったってことですか?」
「さて‥‥どうかな。何の理由もなくそんな強力な妖怪がそこにいるものだろうか‥‥」
漠然とした疑問。
確かに八足岩大蛇がいた場所を詳しく調べたわけではないが‥‥村人も知らない遺跡の奥に、一体何があるというのだろうか。
丹波の大商人、平良坂冷凍の動きも気にしつつ‥‥強力な妖怪との戦いが今始まる―――
●リプレイ本文
●違和感
某月某日、雨。
一行は一度村に立ち寄って軽い挨拶を済ませた後、三度遺跡へと足を向けた。
幾度となく立ちふさがった不死者の姿もなく、あっさりと遺跡へ辿り着いてしまう。
まぁ一匹二匹のはぐれ死人憑きには出くわしたが‥‥そんな相手が何を今更である。
「‥‥なるほど、確かに変だな。足跡がないんだ」
「じゃろう? 不死者が遺跡を出入りしているなら入り口に足跡がないのはおかしい。つまり不死者は遺跡から出来てきたのではないという事を意味しているし、もし勾玉が引き寄せたなら遺跡に入らずに近くをうろうろしているのも妙な話なのじゃ」
「雨で足跡が消えたって線もないだろうなぁ。これ、以前あんたらが来たときの足跡っぽいし」
遺跡の入口で議論を交わす乃木坂雷電(eb2704)と三月天音(ea2144)。
可能性としては、不死者は別の事情で行動しているor遺跡の出入り口が別にあるの二点くらいか。
現時点では確かめようも無いので、一先ず議論は打ち切られたが‥‥。
「冷凍殿ではない、新たな第三者の可能性か‥‥。正直、考えたくないところだな」
蒼眞龍之介(ea7029)の呟きに、雨の雫を払いながらもみな頷く。
ただでさえ厄介な人物がいるのに、不死者を操るような存在にまで出てこられてはたまらない。
そういえば‥‥今日は冷凍の部下たちの姿を見ていないが―――?
●道すがら
「志摩君、一つ聞きたい。以前幽体にも関わらず体調を崩したそうだが、その理由はわかるだろうか」
一度行ったことのある最奥を目指し、一同が遺跡を進んでいる最中、蒼眞が志摩に声を掛けた。
今は幽霊となってしまった、元堕天狗党の女性。昨今では、冒険者に協力することもある妙な存在である。
『知らないさね。ある日突然頭がズキズキしてきて、身体はだるいし胸焼けはするしで散々だったって思い出しかないね』
「‥‥幽霊でも‥‥頭痛とか、するんだ‥‥?」
『例えだよ例え。なんていうか、存在そのものを鷲掴みにされたって言うか‥‥まぁよくわからないってことは確かさね』
「ある日突然というのも変な話ですね。病気の類‥‥というわけでもないでしょうし」
幽桜哀音(ea2246)やセイロム・デイバック(ea5564)も会話に参加するが、詳細は不明。
この世に留まれる期限が近づいているのかという懸念もあったが、今現在どうということも無いのなら違うのだろう。
志摩の死体が不死者として蘇ったことを発端とするのであれば、それは何を意味するのであろうか?
「‥‥しかし、遺跡の中は本当に静かだね。こうなると奥にとんでもないモンスターがいるなんて普通思わないよ」
「確かに。まだ村人たちが行き来する領域を出ないとはいえ‥‥流石は祭事に使われる場所か」
更に進みながら、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)やクーリア・デルファ(eb2244)が通路を見回しながら言う。
相変わらず自前の照明器具を使わなければ真っ暗な場所であるが‥‥なるほど、言われてみれば厳かな雰囲気がするような気がしないでもない。
何を以ってこの場所を祀ることにしたのか‥‥機会があれば聞いてみたいものである。
「いない‥‥か。この場に在らざるはずの妖は、出歩くことを嫌うのか‥‥?」
「ちょっと神経使いすぎなんじゃないか? まだ未踏さの場所にも来てないんだからさ」
「ここはすでに敵地だ。戦場での油断は死を招く‥‥警戒しすぎてし過ぎと言う事は無い」
「あーはいはい、確かにそうだな。俺が悪かった」
フロアを降りたり角を曲がろうとする度に銅鏡で確認をする葉隠紫辰(ea2438)に、乃木坂が軽くツッコむ。
真面目な葉隠はそれを真顔で返し、それを予想していた乃木坂もあえてこれ以上ツッコまなかったが。
かくして、一行はひたすら最奥を目指す。
未踏査区域の他の場所も調べてはみたいが‥‥まぁ、それはまたの機会ということで―――
●石化の瞳
やがて、最奥へとたどり着く。
途中いきなり八足岩大蛇に出くわすこともなく、一行は実にスムーズに目的地へたどり着いた。
が、ここでちょっとしたハプニング。
「無理? 無理とはどういうことだろうか、志摩君」
『アタシが憑依したってあんたに有益なことなんて無いよ。あんたが主導権握ってようが、アタシが主導権握ってようが、どっちみち目を合わせたら石にされる。幽霊になっちまった挙句に石にまでされたくないよ、アタシゃ』
志摩の憑依は石化の瞳対策にはならないということ。
ならば自前で、磨いて鏡面のようになった銅版を持参し、盾に貼り付けたクーリアの方法に掛けるしかないか?
「しかし、造れたのはあたいのとセイロムのだけだ。他の連中はそもそも盾を使わないらしいしな」
「‥‥日本じゃ‥‥盾、広まって‥‥ないし‥‥」
「‥‥とにかく、やつはこの奥にいるんだろ?」
「あぁ、以前と同じ気配がする。いるのは間違いないが‥‥」
ヘルヴォールの問いに、蒼眞は呟く。
間違いないが‥‥どうする。
以前のようにたいまつを投げ入れ、明るくしてから勝負を掛けるにしても‥‥それだけ石化の瞳の脅威も増す。
特に乃木坂のアグラベイションのように、相手を視界内に収めなければ使用できない魔法はさらに危険度が上がる。
「とりあえず明るくする。これはわらわたちが戦う上で絶対条件じゃ。後は、目の良いものは後衛にまわし、銅鏡や鏡の盾でなんとか戦えないか、ぶっつけ本番でやってみるのみじゃろう」
「あとは運を天に任せろってな。やつの注意を引いてくれれば、俺もアグラベイションで援護する」
三月と乃木坂の言葉に一同は頷き、たいまつを一本奥へを放り込む。
開けた空間の奥に、例の八足岩大蛇の姿を確認する。
「行けます! よく映ってますし、鏡の中のあいつと視線を合わせてもなんともありません!」
「グッドラックの付与も完了。さてバシリスクが相手だ。あたいは教の刃となるか‥‥」
「できれば遠方からの初撃を入れたかったが‥‥仕方あるまい。蒼眞龍之介‥‥推して参る‥‥!」
「‥‥ひとたび刃を振りぬけば、戻る道無きは彼奴らと同じ‥‥路傍の石と果てようとも、命ある限り諦めは、せぬ」
セイロム、クーリア、蒼眞、葉隠が構え‥‥いざ、戦いへ―――!
●その者、凶暴につき
「ゴアァァァァァッ!」
「くあっ!? チィッ‥‥こいつ、こちらが自分を迂闊に見れないと知っている‥‥!」
鏡のように加工した盾を見ながらの攻撃は、恐ろしく精彩を欠いていた。
普段のクーリアならしっかり捌けるであろう八足岩大蛇の爪を、受け損なって中傷を受ける。
避けるのにも当てるのにもかなりのペナルティが加わるこの戦い方‥‥考えうる限りベストな選択でもこれだ!
「行くしかあるまい‥‥不利は覚悟の上」
「ですね! 私たちがやられたら後は頼みます!」
「待ちたまえ! 纏まって突っ込むのは危険だ!」
蒼眞が叫ぶがもう遅い。
葉隠とセイロムが同時に仕掛けたところで、待っていたかのように八足岩大蛇が石化のブレスを吐く!
二人はそれをまともに受け、抵抗虚しく足から石になっていく‥‥!
遠ければ視線で‥‥かといって近づけばブレス。いったいどうしろと言うのだ‥‥!
「セイロム! 葉隠! やっろぉ‥‥! アグラベイションで縛り付けてやる!」
石化していく二人に八足岩大蛇が気をとられているうちに、乃木坂は魔法を詠唱して発動。
距離的には充分で、やつの動きが大きく鈍る!
「‥‥また厄介な相手が出たもんだね‥‥ある意味、今まで戦った中で一番の面倒臭さだよ」
「‥‥まだ‥‥出られない‥‥?」
「‥‥やめといたほうがいいね。ブレスはもうこないかも知れないけど、目は健在だ」
「ファイヤーボムは味方を巻き込むしのぅ‥‥」
中を覗き見るのも一苦労な幽桜、三月に代わり、ヘルヴォールが戦況を確認。
蒼眞は無傷だが、クーリアは中傷。
葉隠とセイロムは石に。
が、乃木坂のアグラベイションで動きが鈍ったところを蒼眞がソニックブーム‥‥『龍牙』で攻撃、なんとか口の辺りにヒットさせるが、八足岩大蛇は意外とタフで、軽傷程度の模様。
「‥‥雨だったのが悔しいね。せめて晴れてれば鼬くらい捕まえられただろうに」
「そんな眉唾当てになるのかよ!? というわけで、俺は人事を尽くすためにこのまま突っ込むからな!」
「‥‥目‥‥なんとかして‥‥もらえれば‥‥私たちも‥‥出られる‥‥」
「やってはみるけどよ‥‥!」
乃木坂も開けた空間の中に入り、ロングソードをかまえて目をそらしつつ立ち回る。
「こっちは以前の依頼に出遅れた身の上なんだ、遅れた分はきっちり巻き返す! こっちだ、トカゲ野郎っ!」
「いい気迫だ。あたいも負けてはいられないな」
乃木坂に気をとられた八足岩大蛇に、クーリアが長巻を刺しにかかる。
大振り(スマッシュ系)ではないので、やはりダメージは軽傷程度。
正確に相手の一部を狙うときは、やはりポイントアタックが欲しい。
「くっ‥‥! 幽桜君、無茶を承知で頼む! 正確に目を狙えるのは君だけだ!」
「‥‥だそうだよ? 大丈夫‥‥私が壁になってやるよ」
「‥‥了解‥‥。期待には‥‥応えるつもり‥‥」
ヘルヴォールの後ろにぴったりつき、幽桜は八足岩大蛇に急接近。
乃木坂たちの陽動の甲斐もあり、その目を切り裂く‥‥!
悲鳴を上げてのた打ち回る八足岩大蛇‥‥そこにもう一方の目も幽桜が斬り付けて、勝負あり。
あとはクーリアや乃木坂、ヘルヴォール、蒼眞、三月も加わって叩き伏せて終了‥‥。
こう言えば聞こえはいいが、前回のように知らずに突っ込んでいたらと思うとぞっとしない。
兎にも角にも‥‥強敵、撃破であった―――