【勾玉攻防戦】追加調査
|
■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:7〜13lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月01日〜07月06日
リプレイ公開日:2006年07月09日
|
●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「というわけで、今日も例の村からの依頼だ。よろしく頼む」
「はいはい。しかし、ずいぶん虫のいい話ですよね‥‥外国人嫌ってるくせに、外国人が依頼受けてもいいなんて」
「その辺にツッコミだすときりが無い。とりあえず、依頼書を作ってくれたまえ」
京都冒険者ギルドの一角では、今日も今日とて京都の便利屋・藁木屋錬術と、ギルド職員・西山一海が話をしていた。
石にされてしまった人もいるものの、八足岩大蛇という強敵を退け、一先ず村からの要望は果たせた。
が、思った以上に被害の大きかった冒険者たちは、寄り道をする間も無く帰還することになったのである。
そこで気になるのが、前回姿を見せなかった平良坂冷凍の配下たち。
ただ単に来ていなかったとか、迷っていたとか、憶測は色々飛んだが、正確なところは分かっていない。
「内容が‥‥遺跡内の調査? あぁ、村人たちが把握してる区域以外も、この際調べちゃえってことですか」
「そうらしい。知らぬこととはいえ、あんな凶悪な妖怪が住み着いていた遺跡を祭りで使っていたわけだからね‥‥不安の声が出たんだろう。それに、遺跡内にまだ見ぬ妖怪が潜んでいるかもしれないし、な」
「もしいたら、それの討伐も含まれるわけですか‥‥面倒な」
「主目的は『未踏査区域の調査』だ。今までの状況から鑑みて、私見ではあるが妖怪と出くわす可能性は低いと見ている。それよりも、気になる噂があってね」
「噂?」
「村人たちが把握している区域の一番奥に社と勾玉があるというのは話したね?」
「えぇ。お祭りのときはそこに行くんですよね」
「どうもその社に収められている勾玉が偽物ではないかと思われるのだよ」
「根拠は?」
「まず、勾玉の色。実物は半透明なのだが、その社にあるものは透過性がないらしい。文字は刻まれているが、模造品の可能性が高いと思うのだよ。ちなみに、色は黒とのことだね」
「今までと合わせると‥‥赤、青、白、黒ですか。全然規則性がありませんねぇ」
「‥‥そうでもない。あくまで聞きかじりだが、その色法則のものを知っている」
「へぇ。何ですか、それ?」
「京都を守る四神‥‥四聖獣ともいうか。即ち―――」
朱雀、青龍、白虎、玄武。
それは、人ならざる神々の名―――
●リプレイ本文
●未知の道へ
丹波藩某所の村。
その村から山の頂を目指し、山頂部にある入口からのみそこに入ることができる。
即ち‥‥今まで訪れる度に大量の不死者に出くわし、八足岩大蛇などという化物とも戦った遺跡。
今回冒険者たちは、この遺跡の未踏査区域の調査という名目で呼ばれたのである。
「村人は勾玉が偽物であると知らぬ‥‥と。あ痛たた‥‥」
「いや、自業自得だろ。面と向かって『あんたらが祀ってる勾玉が偽物だったらどーする?』なんて聞くか普通」
「そんな直に、しかも無礼な言い回しはしておらんのじゃ。できるだけ遠まわしに、包んで包んで言ったはずじゃが」
「終点も意味も同じだ。あーあ、キセルなんぞ投げつけられちまってまぁ」
三月天音(ea2144)の額は、直撃したキセルのせいでまだ赤くなっていた。
それは乃木坂雷電(eb2704)が手にした照明の光の中で、くっきりはっきり目立つ。
「しかし、妙な話ですよね。村人が知らない事実が、どこから噂として漏れたんでしょう。まぁ、村人全員に問い質したわけじゃありませんが‥‥。それに、聞いたところによると『八足岩大蛇が居た場所が遺跡の最深部』だったんですよね?」
「‥‥らしいね。私たちは志摩に案内してもらったからほぼ一直線に辿り着いたけど‥‥実際の未踏査区域はかなり入り組んでる。最深部だけ知ってて後は知らないっていうのも変な話だね」
「それは仕方がないさ。それ故の調査なのだから」
セイロム・デイバック(ea5564)やヘルヴォール・ルディア(ea0828)が言うように、一行はゴール地点に二度も訪れている。
だが、そこに至るまでの道の複雑さは、ゴールまでの道を一歩外れれば容易に体験できる。
『村人たちが把握する部分の最深部』である社を調査した後は、当然未踏査区域に踏み込むことになる。
正解のルートを外れて調べ始めたらさぁ大変‥‥一時間でどれだけ調べられたのやら。
今回は天地八聖珠の一つを持参して同行している藁木屋錬術でさえ、声のトーンは暗めだ。
「モンスターの気配はないなぁ。ホントに中は平和だぜ」
「調査が捗って良いだろう。欲を掻いて一度に大雑把で終わらせるより、時間をかけ正確に調べるが得策だ」
「‥‥確かに‥‥(頷)。それに‥‥まだ、何もでないとは‥‥限らないから‥‥」
「敵は妖怪だけではない‥‥ということだな」
頷きあう一同。
バーク・ダンロック(ea7871)が言うように、未踏査区域もやはりネコの子一匹居ない。
まぁ蒼眞龍之介(ea7029)の言うように、無理に一度で終わらせようとしても終わらないということは、この場の全員が感じている。
時に広く、時に狭く‥‥複雑な遺跡内部は、幽桜哀音(ea2246)の危惧どおり、いつモンスターが襲ってきてもおかしくないような気にさせるから不思議だ。
そして、襲ってくるのは妖怪だけにあらず。
人‥‥平良坂冷凍やその雇われ人の介入を危惧する葉隠紫辰(ea2438)であった―――
●そもそも
やがて、3〜4層のマッピングが終了したころ、一行は少々休憩を挟んだ。
藁木屋が用意した保存食で腹を満たしながら、思い思いのことを藁木屋に質問してみる。
「思えば、勾玉について知らされている事と言えば、『集めた者の願いを叶える』という眉唾ものの所以‥‥しかしそれが真実でなく、何か別の目的の為の偽装であったとしたならば‥‥。或いは、人の手に余る脅威を封じるものであったなら。考えを改める必要があるだろうな‥‥」
「確かに。そもそもこの疑わしいことこの上ない勾玉が、冷凍殿の手に渡ったのが始まり‥‥。いや、むしろ志摩殿の身体が不死者と化して歩き回り始めたことのほうが先でしょうか」
「‥‥わらっきー、遺跡内社で見た勾玉。あれはどう思う?」
「明らかに偽物だな。以前、三月嬢が模造品を作ってもらったことがあるだろう? 恐らく精度はほぼ変わらないだろうね」
「じゃあ、本物を見て偽物を作ったやつが居るってことだな。いつの時代にかは知らないが‥‥」
「そうなるな。これまた三月嬢の例を出すが、黒い勾玉を見て黒い勾玉の偽物を作ったとは限らない。分かっているのは、遺跡内社の偽物は相当古い物だということくらいだよ、乃木坂君」
「引き合いに出されっぱなしじゃな(苦笑)。じゃが、そうするとまた疑問が生じるのじゃ。偽物を作った『誰か』は、『何故本物を持ち帰らなかった』のか。あれだけ似せたものは、ちら見では作れん。じっくり眺めているような余裕があるなら、わざわざ偽物を作らんでも本物があろうに‥‥とな」
「そこのところは分かりかねるが‥‥こうは考えられないだろうか。『偽物を作ったのは本物を安置した人物と同一で、撹乱のために偽物も作った』。あくまで想像だがね」
「ふむ‥‥藁木屋君の推理が当たっているとすれば、偽物を作ったのは天地八聖珠を作った人物か? しかし、そうであればもう少し上手い偽物を作れそうなものだが‥‥」
「それもそうですな‥‥少々無理がありましたか‥‥」
「‥‥勾玉に‥‥変化は無し‥‥。数に、反応するのか‥‥場所に‥‥反応するのかも‥‥重要かも‥‥」
「やはり検証のために、もう一つ二つ勾玉が欲しいところか‥‥」
「結局、勾玉は平良坂に奪われっぱなしってことか。ま、仕方ねぇな。確かにあれは偽物だったかもしれないが、ここに本物が無いって証拠にはならんよな? ということは、藁木屋の言うように偽物を掴ませて帰らせるための罠って可能性もゼロじゃねぇ。実は本物はもっと奥に隠されていたりしてよ。まあ、詳しいことを知らない復帰したての意見じゃ、あてにはならねぇと思うが」
「‥‥奥。奥ですか。しかしバーク殿、最奥になかったとなると、そこへの行きがけに大事なものを安置するでしょうか? 八足岩大蛇が勾玉防衛を意図して配置されたものなら、彼は守護者とは呼べない存在に‥‥」
と、藁木屋がそこまで言ったときだ。
「あーーーー!? みなさん、ちょっといいですか!?」
急にセイロムが叫ぶので、遺跡内にはエコーのかかった彼の声が充満した。
耳を押さえながら収まるのを待っていた一同は、何事かとセイロムを見る。
「私は前回、石にされてしまったのでよくわからなかったんですが‥‥あの部屋、ちゃんと調べました!?」
「‥‥調べてるわけないじゃないか。怪我人と石化人がいるんだよ? そんな悠長なことしてられないね」
「それに、祭壇のような物があれば馬鹿でも気づくのじゃ。あの空間には、人工的な道具は見当たらなかったがのう」
「では壁も、床も、天井も調べてないんですね? なら今すぐあそこへ向かいましょう!」
「っておいおい、唐突だな。なんだ、何かアテでもあるのか?」
「‥‥そうか。守護者はあくまで守護のために存在する。ならばあの場所に何かがあるのが道理か‥‥」
「‥‥前回は‥‥戦うだけで、手一杯だった‥‥。大蛇に‥‥目線を合わせないようにさせる‥‥それは結局‥‥大蛇にばかり注意が行って‥‥大事な何かを‥‥見落とさせることにもなる‥‥ということかな‥‥」
「私としましては、あの場所の北の方角が怪しいと思ってます。藁木屋さんと同じく聞きかじりですけど、黒の勾玉なら玄武を象徴するはず。なら、その方向に何か‥‥!」
「それに、一番奥と思ったところが一番奥とはかぎらねぇってか。宝探しみたいで面白ぇじゃねぇか!」
「行ってみる価値はありそうですな。セイロム殿、急ぎましょう」
現在、調査・マッピングした区域は全体のおよそ半分。
別に村から一回で終わらせろと言われたわけでなし‥‥疑問の追及は大いに結構なことである。
‥‥邪魔が入らなければ、ではあるが―――
●制止
「お待ちなさい。この先に行くのは止めておいたほうがよいですよ」
一行が遺跡の最奥‥‥八足岩大蛇の居たフロアに降りてきてすぐ、もう聞きなれた声を聞いた。
丹波の大商人、平良坂冷凍‥‥そして、その部下の果樹王たち4人。
「よぉ、冷凍じゃねぇか。久しぶりだな‥‥好き好んで会いてぇ顔じゃねぇけどよ」
「おやおや、バークさんじゃありませんか‥‥お久しぶりです。嫌われたものですね」
いつものように余裕綽々でニヤつく冷凍。
バークの皮肉にもまったく動じる気配はない。
「‥‥先に行くなってのはどういうことだい? 私たちがこの先に行くと都合が悪いのかな?」
「まさか『自分たちが調べるからすっこんでいろ』とでも言う気かよ? 悪いがこっちは村から正式な依頼って形で調べに来てるんだ‥‥あんたたちにとやかく言われる筋合いはないな」
「ほっほっほ‥‥私は親切で言っているのですがね。まぁいいでしょう‥‥行きたければどうぞ。邪魔はしません」
「既に此は虎穴。我々は千の牙に囲われた顎にて、果つる際やもしれぬ。然しここまでの危険を冒した末、真実を見極める事に何の躊躇いやあらん」
「‥‥待って‥‥。何か‥‥聞こえる‥‥」
幽桜が人差し指を唇に当て、静かに、という仕草をする。
すると、かすかに聞こえてくるのは‥‥何かの咆哮‥‥!?
「ま、まさか‥‥! そんな、倒したんですよね!?」
「‥‥間違いない。念のためにしっかり止めを刺しておいたはずだが‥‥」
「えぇ、死んでいましたよ。私たちがあの空間に入ったときには間違いなく。しかし、あそこを調べている最中に突然動き出しまして‥‥困ったことに不死者化してしまったようなのです。よほど無念だったのでしょうかねぇ。おかげで祭壇への隠し通路と思われるものは見つけましたが、勾玉は手に入れられませんでした」
「命あっての物種か‥‥商人らしい考え方じゃの。しかし気に入らんのぅ‥‥わらわたちに面倒を押し付けて漁夫の利を狙うのは」
「ほっほっほ‥‥まぁ、そういうことにしておきましょう。どうせ信じないでしょう?」
一行は苦虫を噛み潰すような思いを抱いたまま、とりあえず引き返した。
仕方がないので他の未踏査区域の調査をしっかり終え‥‥真実はやはり、遺跡の最奥に―――?