【五龍伝承歌】熱破とおりん

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:07月08日〜07月13日

リプレイ公開日:2006年07月17日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「ふっふっふ‥‥今日はですね、新技を習得してきましたよ」
「なんだね、藪から棒に」
 昼下がりの京都冒険者ギルド。
 職員の西山一海と、その友人であり、何でも屋の藁木屋錬術は、いつものように茶を啜っていた。
 そしていつものように、一海が妙なことを言い出したのである。
「体験すれば分かります。『冗談界』をね」


「なんだね、その冗談界というのは」
 その男―――藁木屋が言った。
「冗談界は冗談界です」
 一海が、口元にうっすらと笑みを浮かべ、そう答えた。
「だから、それが何かと聞いているのだが」
 藁木屋が、再び質問した。
「特殊能力です」
「特殊能力!?」
 にぃっ。
 と。一海が笑んだ。
「はい。特殊能力です」
 くっきりと。
「ノリのいい知人にだけ効く、特殊能力です―――」
 そう、言い切った。
 馬鹿な。
 ここが、どこだかわかっているのか。
 ここで―――職場の冒険者ギルドで、よりによって―――
 特殊能力などと!?
 寒気に似たものが、背筋を通り抜けていく。
「―――で」
 ごろり。と石のように、重たい声が出た。
「その、冗談界に私を巻き込むことによって‥‥何の得があると?」
 この男、何を考えているのか―――
 そういう思いが、声に滲んでいるのがわかる。
 一海が。
 にいっ。
 と。笑った。
「藁木屋さんからかうと、面白いじゃないですか―――」
「むぅっ!?」
 馬鹿な―――
「私には、そんなものは通用しない」
 そろり。
 と、藁木屋が言葉を紡ぐ。
「それに―――それに、人をからかって遊ぶのは、よろしくない―――」
「でも、生活習慣ですから―――」
 この男‥‥。
 この男、人の話をまるで話を聞いていない―――
「いや、面白いとか、面白くないとか‥‥そういう問題ではない」
「場所が場所なら、十人以上巻き込めるんですよ―――」
 言いきった。
 ごうっ。
 と。ひどく熱いものが、腹の奥から沸きあがってくる。
「ふざけないでくれたまえ」
 止まらない。
 止まらない。
 もう、この熱いものを止めることが出来ない。
「それに―――それにノリのいい知人だけにとは何だ!? だいたい‥‥」
「知らない人に冗談言っても、寒いだけでしょう?」
 まるで、子供に教えるような口調で、一海が言う。
「相方とも書くんですよ‥‥ノリのいい知人というのはね‥‥」
「そんなことは聞いていない」
 叫びそうだ。
「仕事だ」
 叫びそうだ。
「仕事をしたまえ」
 だが、そこを堪える。
「聞いていないのかね。仕事に戻りたまえ」
 そこに。
 張り詰めた糸のように、今にもぷつりと切れそうなそこに。一海が。
「あれ?」
 と。
「あれあれ? そんなこと言っていいんですか―――」
 と。言葉を滑り込ませる。
「使いますよ。冗談界」
 ぷつり。
 そこで、糸が切れた。
「いいとも‥‥」
 もういい。
 使いたければ、使うがいい。
「使ってみたまえ。冗談界とやらを―――」
 それが、どうしたと言うのだ。
 特殊能力どと、そんなたわけたものが、ある筈も無い。
「それで、満足したら、仕事に戻ってくれ」
 一海が。
 にぃっ。
 と。笑う。
 そして。
「運がよかったですね」
「何!?」
「今日は精神力が足りないみたいです―――」
「仕事をしたまえ」
 たまらぬギルド職員であった。


「しまった! 何やかんやですでに術中にはまっていた!?」
「いやぁ、藁木屋さんは乗せやすくていいですねぇ。よっ、素直!」
「この妙な空間は何だ。今日は熱破の話で来たのだが!?」
「はいはい、聞きましょう。聞きますとも」
「もういい、今日は何やら疲れた。詳細はこの紙に書いてあるから、依頼書作成は任せる」
「はいはーい。お達者で〜」
「‥‥一海君」
「はい?」
 いつにも増してどたばたしたやりとりをかました後、藁木屋は立ち上がってギルドを後にしようとする。
 振り返らず、ただ呟いた。
「無理に明るく振舞ってくれて感謝する。‥‥ありがとう」
「‥‥いえ。私にできるのはこれくらいですから」
 どうしても雰囲気が暗くなりがちな、熱破がらみの依頼。
 それを払拭しようと、暗黙のうちに相手の意図を察する二人。
 たまらぬ友情であった―――(もういいって)

●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0487 七枷 伏姫(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

天螺月 律吏(ea0085)/ 佐上 瑞紀(ea2001)/ ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)/ ユリア・ミフィーラル(ea6337)/ 鷺宮 夕妃(eb3297)/ 張 真(eb5246

●リプレイ本文

●燃え尽きるほどヒート?
『うぉらぁぁぁっ! とっとと帰れ! 俺はてめぇらに用は無ぇぇぇっ!』
「うわわっ、ちょっとちょっと熱破さんー!? 僕たちだよー! 忘れちゃったのー!?」
『あぁん!? ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あぁ、悪ぃ。お前らか』
「ね、熱破様、もしかして近づく人間すべてにあのような対応をなさっているのですか?」
「というか、あたしたちのことも半分以上忘れてたみたいだね。危ないったらないなぁ」
「寿命が縮む思いだ‥‥。頼むから私達の顔や声くらい覚えておいてくれ」
「また怪我人を出さねばならないのかと冷や冷やしたでござる‥‥」
『お、思い出したんだからいいじゃねぇか。いつまでもぐだぐだ言うなっ!』
 丹波藩東北東部、とある村の付近。
 五行龍の一匹、火爪龍・熱破の住処の洞窟辺りで、一行は怒声での歓迎を受けた。
 なんとか一行の顔を思い出した熱破は、猛る炎を小さくし、態度を軟化させる。
『えーっと‥‥? ちっちぇガキが風月明日菜(ea8212)、でっけぇ女がミラ・ダイモス(eb2064)、緑色の服着てんのがサーシャ・クライン(ea5021)、髪の長ぇ野郎が白河千里(ea0012)、ござる喋りが七枷伏姫(eb0487)‥‥だったか? ‥‥あん? ちび忍者と歌の女はどーしたよ』
「‥‥嫌な覚えられ方だな(汗)。彼らには今回、村のほうに回ってもらっているよ。調べることも多いからな」
『‥‥そうか。ま、いいや‥‥んじゃ、約束どおり話をしてやる。なんでも聞いて来い』
「気になる事は色々あるけど、一つずつ訊いていこー♪ まず、おりんちゃん以外の行方不明の子供達の事で、何か知ってる事ないかなー?」
『知らねぇな。あのガキだけだって手ぇ焼いてんのに、他のガキなんぞ知ったことかよ。‥‥あぁ、そういや悪かったな、前ん時は。かなり痛かったろ』
「とりあえず、前の事は僕は気にしてないよー♪ 熱破さんにも考えがあっての事だったと思うしねー♪」
「じゃ、次はあたしね。おりんの身の上についてよ。親兄弟親戚は村に居るのか、おりんの食事の世話などはどうしているのか、おりんの眼は出会った当初から見えなかったのか、会った当初は見えていたとしたら、何故眼が見えなくなったのか。‥‥ゆっくりでいいから応えて欲しいかな」
『いいけどよ‥‥おまえ、その生傷はなんだ?』
「あぁ、これ? この間連れてたフロストウルフいたでしょ? あれに『家で大人しくしてなさい』って命令したら反逆されたの。まぁいつものことね」
『‥‥飼うなよ、ンなもん。で、質問だっけか。あのガキの身の上なんぞ俺が知るか。食事の世話ったって、そこら辺に生えてる果物とか、鹿とか猪とかとっ捕まえてきたお零れをくれてやってるだけだ。目は最初から見えてなかったようだぜ』
「‥‥果物はともかく、鹿や猪って‥‥熱破、ちゃんと調理してあげてる?」
『俺がンなことできるかっ! 勝手に食わしてるからしったこっちゃねぇよ!』
「生肉を食べさせているのでござるか!? ‥‥はぁ、これは用意してきて大正解でござるな」
 そう言うと、七枷は荷物の中から保存の効く食料やら子供用の服やらを取り出す。
『生で食うのが一番だろーが。違うのか?』
「少なくとも人間の身体は、野生の鹿や猪を生で食べて平気なようにはできていないでござるよ。というわけで、これでしばらくは保つはずでござる。おりんには、これを使ってもらうとよいかと思うでござる」
『‥‥お、おう。で、お前の質問はなんだ?』
「うーむ‥‥熱破殿は今後どうしたいのでござるか? おりんの処遇なども含めて」
『‥‥俺が聞きてぇよ。どうもこうも、俺は今までどおりのんびり適当に生きてたいだけだ。‥‥あんなガキ、さっさとどっかに行っちまえばいいんだよ』
「ふふ‥‥相変わらずですね、熱破様。私からも、おりんちゃんと熱破様にお土産がありますよ」
 ミラはゆったりと微笑んで、果物やら京菓子やらを取り出す。
 五行龍と付き合いの長いミラや風月は、その扱い方も大分心得ているようである。
『に、ニヤニヤしてねぇでさっさと質問しろよ! なんもねぇのか!?」
「申し訳ありません(微笑)。では‥‥おりんちゃんと熱破様の出合った日、何が有ったのか。おりんちゃんが熱破様に出会ってから、熱破様が知り得たおりんちゃんの身の上などを‥‥」
『身の上は知らねぇっつってんだろ。あのガキ、よく喋るわりにてめぇのこと話さねぇからな。俺も聞く気ねぇし』
「何故ですか? そこにこそ事件の手がかりがありそうなのですが‥‥」
『事件なんぞ知ったことか。‥‥それに、俺がそれを知ったって何もできやしねぇよ‥‥。で、会った日だったか? 何がっつってもよぉ‥‥いつものように晩飯捕りに行って帰ってきたら、あのガキがあの辺に転がってたってだけだぞ。死んでんのかと思ったら、意外と元気に目ぇ覚ましやがったし』
 と、爪で一本の木を指し示す。
「そこで助けてやる辺りが心憎いな。江戸っ子は口は悪いが気は良い奴が多いと相場が決まっててな‥‥ついでに人情に厚く感情の起伏が激しいと来たもんだ。ああ、面倒見も良いのだ江戸っ子は。どうだ! お前さんそのものだろ?(にっこり)」
『た、単なる気まぐれだ! 言っとくが、倒れてたのがお前だったら絶対見殺しだからなっ! つか、江戸ってどこだよ!?』
「はっはっは、愛いやつめ♪ まぁ、真面目な話に戻るとだ‥‥おりんちゃんを匿った後に、村人が来ただろう? その村人達の様子と態度、熱破から見た印象等を聞かせてもらいたい」
『態度ぉ? 別に普通だったぜ? 『子供が来なかったか?』とか、『別にあなたに危害を加えに来たわけじゃない』とかよ。どこにでもいそうな、普通の村人だったがなぁ』
 その後、おりんとも会って色々聞いたのだが‥‥熱破の言うとおり、おりんは自分のことを話したがらない様子であった。
 おりんに対しては雑談で終わってしまった感があるが‥‥風月のこの質問に、何かカギがありそうだ。
「おりんちゃんが来てから、僕達が来た以外に何かあったー?」
『ねぇよ、何にも。‥‥あぁ、でも誰だかが俺たちの様子を伺ってるみたいだったぜ。気配はあるんだが近づいてこねぇ。しかも決まって複数で来てやがった―――』

●京都と丹波と雲水の因果関係
 さて、こちらは村捜索班の三人。
 ヴァージニア・レヴィン(ea2765)、草薙北斗(ea5414)、月詠葵(ea0020)は、『前回までのこともあるし、更に変なことが起こってないか心配で』という理由をつけて村を訪れていた。
 それを疑うわけでもなく、村人たちは3人を歓迎してくれた。
「‥‥オープンすぎるわね。龍についての伝承や由来を知りたいって言えばすぐに教えてくれるし、怪しい宗教もなし。雲水についても、『京都からよくいらっしゃるお坊さん』って即答するし‥‥」
「僕も例の雲水さんとか、お寺の人とかを調べてみたけど‥‥全然駄目。雲水さん、一言も喋らないんだもん‥‥」
「新撰組の情報網でもハズレなのです‥‥。そういった妙な組織とか、お寺とかの話は聞かないそうですよ」
 各々思うままに村での捜査を行ったが、それらはすべて徒労に終わってしまったらしい。
 確かに、情報的な収穫はあった。
 ヴァージニアが仕入れてきた、熱破に関するものであろう伝説。
 だが、それは断言してもいいが作り話や御伽話の類だ。
 何故なら‥‥『五行龍は全員、封印された地に護送された後、さしたる生活もせずに封印された』からである。
 本人たち‥‥少なくとも刃鋼と熱破に関しては、すでにそういう話を聞き出しているのだから。
「じゃあ、なぜ村には龍の伝説があるのか。陰陽寮にも明確な資料が無く、奉っていた社も、龍を奉ったものとは知らなかったのに。恐らく、何かから目を逸らすための作り話だと思うの。まぁ、あくまで憶測だけれど‥‥」
「雲水さんも、怪しいといえば怪しいよね。一言も喋らない人なんて、普通いるかなぁ? やっぱり、お寺で交換してた手紙みたいなのに何か書いてあるとか‥‥。でも、おいそれと手が出せなくて‥‥」
「それが正解なのですよ。迂闊に手を出して悪者になっては、元も子もないのです。あ、ちなみに僕が此の間目を付けた無関心な人たちにも動きは無かったのです。普通に畑を耕して、普通に家に帰ってたのです」
 無論、三人は道端で話をしているわけではない。
 自分たちが熱破の味方であるということがばれないよう、村はずれの丘で、辺りを確認した上での相談だ。
 一応村長に話を聞いて、行方不明の子供たちの共通点なども調べてもらってはいるが‥‥すぐに返答はできないらしい。
「あら? そういえば、結局最初に『龍が犯人かも?』って言い出したのは誰だったのかしら‥‥」
「えっ、ヴァージニアさんが聞いてると思ってたから、僕は聞いてないよ(汗)」
「‥‥えっと‥‥。なんて言うか、悪いお知らせなのです‥‥」
 珍しく歯切れ悪く、月詠がおずおずと挙手する。
「行方不明の子供を捜す対策本部が結成されたとき‥‥近隣の村の村長さんたちも集まったときにですね、『折角だから知恵を借りよう』という理由で意見を求めたそうなのですよ‥‥」
「き、聞くまでも無いと思うけど‥‥それって、もしかして‥‥」
「‥‥例の雲水に‥‥ね―――」
 頷く月詠。
 やはり、カギは雲水‥‥外部の人間にあるのだろうか?
 それを確かめる術は?
 村人と熱破の関係は?
 事件は今、大きな転機にさしかかろうとしていた―――