【五龍伝承歌】新たな判断材料

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月29日〜08月03日

リプレイ公開日:2006年08月06日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「さて‥‥では今までのことを整理してみよう」
「えっと‥‥犯人は不明、しかし熱破さんではない。でもそれを証明する手段は無い‥‥」
「村には怪しい雲水と、事件に無関心な村人が数名。雲水にいたっては、謎の手紙を村の寺の住職と交換していた‥‥」
「事件の鍵を握るであろうおりんちゃんは、自分のことを話したがらない。ついでに、おりんちゃんはいつも冒険者の皆さんが立ち寄る、事件の対策本部がある村の住人じゃなく、その他の子供たちは行方知れずのまま‥‥」
 京都冒険者ギルドの一角では、何でも屋の藁木屋錬術と、そのスペースの担当員、西山一海が話していた。
 議題は、『五行龍、熱破の関わる誘拐事件について』である。
「各村の村長に問い合わせた結果、居なくなった子供には特に共通点は見られない。そして、最初に熱破のことを怪しいと言い出したのは、例の雲水である‥‥」
「うーん‥‥大分材料は揃ってきたんですけどねぇ‥‥。まだ点だらけで、線として結べません‥‥」
「困ったものだ‥‥。この、龍の伝説が捏造であるというのも、何を意味するのか分からないな」
 とりあえず、一番怪しいのは京都方面からやってくる雲水である。
 が、これを無理に調べて何も出てこなかった場合、冒険者の立場は相当に悪くなる。
 ならば、熱破の洞窟にでも潜んで、謎の監視役(?)たちでも抑えるべきか‥‥?
「さもなくば、おりんの住んでいた村に行き、おりんのことを聞くのも手か‥‥」
「‥‥あれ? なんです、これ?」
「ん?」
 ぺらぺらと資料をめくっていた一海が、ふと声を上げる。
「いえ、前回村に行ったお三方が纏めてくれた資料なんですけどね‥‥ちょっと妙かな、と」
 そう言って、一海はある一点を指差したまま、藁木屋に資料を渡す。
「‥‥何だこれは? どの村も、毎年少なくとも3人は行方不明者が出ているではないか。しかも、決まって子供だと‥‥?」
「そんな話、聞いたこと無いですよね? 丹波で連続失踪事件が起きてるなんて‥‥」
「‥‥隠蔽か? しかし、そんなことをして何になる。消えているのは自分の村の子供だぞ‥‥」
 被害届の無い、連続失踪事件。しかもそれは、毎年起こると言う。
 熱破が復活していない時期にも起こっていたこの事件。
 これが、熱破とどうつながるのか‥‥また頭が痛いことである。
 果たして‥‥冒険者の推理は、真実へと迫れるのであろうか―――?

●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6357 郷地 馬子(21歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0487 七枷 伏姫(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

天城 月夜(ea0321

●リプレイ本文

●その静かなる闇
 ここは、いつもの村‥‥例の熱破討伐隊の本部が置かれたままの村。
 いつまた熱破を倒しに向かうかもしれない‥‥そんな危険をはらんでいる事が、二人にはしっかりと感じられる。
「巨大な怨霊? 何それ」
「陰陽寮で調べ物してたら、たまたま七番隊組長の谷三十郎さんとお会いしたのですよ。丁度調べ物も行き詰っていたので、『丹波で信仰されている(いた)土着の神様や、強力な物の怪の類』のことを聞いてみたら‥‥」
「その答えが返ってきたわけね。けど、詳しいことは何一つ分からないウワサ程度の情報、と」
「流石、お話が早いのです♪」
 今回ここでの調査を担当しているのは、サーシャ・クライン(ea5021)と月詠葵(ea0020)。
 新撰組に所属している月詠は、谷からも容易に話を聞き出せたらしい。
「でも、それ以外は資料にも谷さんの情報網の中にもないそうなのです‥‥。結局は、直接当たるしかないですね」
「かもね。けど、気になるね‥‥巨大な怨霊ってなんなのかな?」
 それは、ふとよぎった嫌な予感。
 まぁとりあえず、今回の調査には関係あるまい。
 二人はすでに村の大半の人間と顔なじみになっており、ちょっとした理由付けでもここにいることを疑われない。
 その利点を生かし、なるべく村に不満を持ってそうな人、口の軽そうな人を月詠が探してそれとなく質問してみようと粘っているのだが‥‥これが中々上手く行かないのだ。
 例の、事件に無関心な連中が最適かとも思ったが、何故かコメントを避けるのだ。
「どうする? このままじゃ手がかり無しで終わっちゃうね」
「ふみゅ‥‥一か八かで普通の村人さんに聞いて、薮蛇だったら困るのです‥‥」
 と、月詠が冗談半分でうるうるした時だ。
「お前たち‥‥何を嗅ぎ回っている」
『っ!?』
 不意に掛けられた声に、ぎょっとして振り返る。
 そこには、頭にすっぽり被るタイプの笠を被った雲水が‥‥!
(「き、気づけなかったです‥‥! この人、何者ですか‥‥!?」)
 戦慄する月詠。サーシャもただならぬものを感じているらしく、じりっと少し後退した。
「‥‥別に嗅ぎ回ってるわけじゃないよ。自分たちが手がけている依頼の中で、行方不明になっている子供たちがいてね‥‥その情報集めさ。ここだけじゃなく、人里ならどこでもやってるよ」
「ほう。ならば何故村人をじろじろ観察し、相手を選ぶ必要がある?」
「なら僕もお聞きしたいです。なんで僕たちに近づくのに、気配を殺す必要があるのですか?」
「‥‥あまり首を突っ込みすぎないことだ。知りたがりは早死にするぞ」
「へぇ。聖職者の台詞とは思えないね」
 サーシャの皮肉に振り返ることもなく、雲水は去っていく。
 翌日から村の中に居る間中ずっと、二人には監視されているような気がしたという―――

●少女の生まれた村
 さて、こちらはヴァージニア・レヴィン(ea2765)と郷地馬子(ea6357)が向かった、おりんの村である。
 旅の吟遊詩人と、雇われ護衛という名目で村に来た二人だが、それを疑う者はとりあえずいないらしい。
「困ったわね‥‥おりんちゃんが天涯孤独の身だとは流石に思わなかったわ。親御さんに会うっていうプランがこの時点でパァね。後は‥‥どうしようかしら」
「おりんちゃん‥‥可哀想な子だべ! 目も見えねぇのにたった一人で生きてきたなんて、辛かったべなぁ‥‥!」
 もちろん村の有志が食事や働き口などの援助はしていたようだが、養子になったという話はないらしい。
 なんでも、おりんの両親はおりんが生まれてすぐに崖崩れに巻き込まれて死んだ、とのことだったが‥‥。
「でもね、変なのよ。その『おりんちゃんが生まれた、おりんちゃんの両親が建てた家はどこ?』って聞いたら、案内役の人が一瞬言葉を詰まらせたの。一応案内はしてもらったけど、何か探り探りだったような気がするのよね‥‥」
「??? ヴァージニアさんの言ってることは難しくてよくわかんねぇべよ‥‥」
「つまり‥‥『おりんちゃんの両親は最初からいなかった』もしくは『おりんちゃんの両親は、何らかの理由で殺された』とか、ちょっと嫌な想像に結びついちゃうのよ。もしかしたら、村ぐるみで‥‥とかね」
「そ、そったら恐ろしいことするような人たちには見えなかったけんどなぁ‥‥」
「私だってそんな怖いこと考えたくないわよ。でも、何かある。何か不自然なの。私の考えが正しければ‥‥」
「正しければ‥‥?」
「今までに起きたって言う行方不明事件‥‥他の村で聞いても、どこかしらに不自然さが出てくると思うわ。何か、共通の意思‥‥組織的な思惑が絡んでるとしか思えないの」
「と言うことは、人の手による誘拐だべ? それならやっぱし、被害届が出るんでねぇかなぁ‥‥?」
「そこなのよね‥‥。現状で出来る推理はここまでかしら‥‥」
 ヴァージニアの推理は、あながち的外れでもあるまい。
 だが、それを証明する手立てもなければ、何かと線でつながりもしない。
 何かが。まだ、足りない―――

●冗談orシリアス
「さて質問です、私の名前はなんでしょう熱破さん。1、板垣退助。2、白鳥麗雄。3、オスカル」
『焼・か・れ・て・ぇ・か・コ・ラ』
 こちらは熱破の住む(今はおりんも一緒だが)洞窟内。
 少しは協力する気が出来てきたのか、熱破は訊ねてきた4人を洞窟内に入れた。
 熱破が生活するにも充分な広さと奥行きがあるので、多少人数が増えても問題ないようだ。
「熱破殿、いつもの冗談でござる。本気にしないで欲しいでござるよ」
「おじちゃん、お友達が増えてよかったね♪」
『ぃやっかましい! 今の会話を聞いててどうトモダチとかに結びつくんだ、てめぇは!?』
 どうやら白河千里(ea0012)と七枷伏姫(eb0487)が熱破とおりんの相手をしている間に、草薙北斗(ea5414)と風月明日菜(ea8212)が調査に当たると言う構成のようだ。
 草薙たちは熱破の許可をもらって洞窟内を調べてみたが、これといった成果はなし。
 奥の方に、別段何かあったわけでもない。
 ‥‥が。
「まだいる? どんな人たち?」
「んーとねー‥‥村人さんだねー。僕は村に行ったことがないからよくわからないけど、多分いつもの村の人たちじゃないかなー? とりあえず、隠れ方が素人だよー」
「鳴子も鳴ったし、それは分かるけど‥‥」
 そう、以前熱破が言っていた『監視者』が、今日は来ている。
 彼らはいたって普通の村人のように見え‥‥洞窟には近づこうとはしない。
 中から様子を伺っている風月たちに気づかないところからも、素人であることは明らかだ。
『来てやがんのか。ちょっくら脅かしてやるか?』
「こらこら、そんなことをしたら立場が悪くなるだけだぞ。ここは我慢して、様子見に徹するんだ」
『ちっ、まだるっこしい‥‥』
「ねぇねぇおじちゃん、誰かお外に居るの?」
『あー、気にすんな。奥でござるとでも遊んでろ』
「いや、ござる呼ばわりはできれば止めて欲しいのでござるが‥‥」
 言いつつも、七枷はおりんと一緒に洞窟の奥へ引っ込む。
 鞠の音が聞こえてきたので、白河、風月、草薙は談義を再開する。
「んー、熱破さんは罪を擦り付けられた形になってる訳だから、熱破さんに何かしたいのかなー? まだ分からない事がいっぱいなんだよねー。点を線にする為に頑張る訳だけどー」
「例の雲水の後をつけてみたんだけど、やっぱり気づいてたのかな‥‥。途中でちらちら振り返るんだよね」
「うーむ、ここで仮説を立ててみよう。雲水は、村に多大な影響力を持つ人物。その指示で、例年起こっている失踪事件の犯人役を熱破に擦り付け、村々や役人の目を誤魔化そうと思っている」
「それは拙者が最初に言い出した説でござる!」
 ぽこーん、と白河の頭にお手玉が直撃する。
 話が聞こえていたのか、七枷が投げつけたのだ。
「と、とりあえず、監視してるって人達の狙いを出来るだけ調べよー♪ それが分かれば、多少は違いそうだしー♪」
「‥‥ちょっと待って? 白河さん、もとい、七枷さんの説を基本に考えると、村の中に失踪の原因を知ってる人と知らない人が混じってるって事だよね? もしかして、事件に無関心な人たちは‥‥」
「そうだ。原因を知っていて、熱破に罪を擦り付けることを快く思っていない人物とも取れる。どちらにせよ、村人すべてがグルということはないだろう」
「えー、どうしてー?」
「全員が全員グルなら、別の犯人をでっち上げる必要がない。村総出で黙っていればいいのだから。それが出来ないから、わざわざ熱破を槍玉に挙げた。‥‥もしかしたら、近隣の村にも真犯人の一部が紛れ込んでいるかも知れない。失踪した子供たちは‥‥そうだな、人身売買か何かで売られたとか」
「じゃ、じゃあ、外に居る監視者の目的は‥‥」
「あら捜し、かな。熱破が乱暴なことをすれば、それを口実にまた討伐隊を組もうと言う魂胆か」
「‥‥あのさー、気を悪くしないでねー? 白河さん、いくらなんでも疑いすぎじゃないー? 悪く考えすぎだよー」
「考えるだけならタダだからな。それに‥‥『状況はいつも最悪。それが当たり前』。覚えていて損はない言葉だぞ♪」
『‥‥つか、いいか?』
「ん?」
『お前‥‥ただの馬鹿じゃなかったんだな‥‥』
「ぎゃふん」
 封印されていた五行龍によって保たれていた結界、『五行鎮禍陣』。
 災厄を封じると言うこれが不具合を起こして壊れたから、丹波には悪いことが立て続けになるという。
 その『悪いこと』というのは‥‥人の心にまでも入り込むものなのであろうか―――?