【京都勾玉怪盗記】敵は忍者集団!
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:7〜13lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月25日〜09月30日
リプレイ公開日:2006年10月01日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「つまり、相手は忍者の集団なんですよね?」
「そのようだね。直に相手をしてもらったことで判明した新事実だ、これは」
冒険者ギルド、いつもの場所。
職員である西山一海と、京都の何でも屋、藁木屋錬術。そして、藁木屋の相棒であるアルトノワール・ブランシュタッド。
すでに他の職員たちも藁木屋たちがいることに慣れてしまったのか、気にするものはいなかった。
「しかし、報告を聞いてますます分からなくなりました。連中は勾玉を奪うことを第一目的にしてるわけじゃないみたいなんですよねぇ‥‥。なんか、勾玉の真贋を確認しただけでも満足してたみたいですし」
「それは重要なことだよ、一海君。つまり連中は、『勾玉の真贋を見分ける方法を知っている』ということだ。もしかしたら、連中が勾玉の一つを持っている可能性も無くはない。とりあえず、注し当たって一番の問題は、連中の戦法だろう」
「‥‥大ガマの術を使ってから逃げるんだっけ? 別に放っておけばいいのに」
「そういうわけにいきますかっ! 屋敷の人たちに被害が出たら、元も子もないでしょう?」
「ただでさえ機動力がある連中のようだからね‥‥高速詠唱での忍術と、逃げの一手。これを捕らえるのは容易ではない‥‥」
つい、と藁木屋は一冊の帳簿を、開いたままテーブルに押し進めた。
前回狙われた屋敷の名前の前には×印が書かれ、今回狙われるであろうという場所に○印が書かれていた。
またしても2軒同時‥‥恐らく、また4:4に分かれるて忍び込むつもりなのだろう。
「‥‥あ、ところで。いつだったか解読を頼んでた木簡、終ったみたいよ。返事が来てたわ」
「ほう。見せてくれ」
アルトノワールから紙を受け取り、つらつらと読み進める藁木屋。
読んでいる途中から、その眉間にしわが寄っていく。
「な、何が書いてあったんですか?」
「それがな‥‥『勾玉を揃えし者、この世の全てを得るであろう。天地の四神の力で封印は解かれる。守護者たる者たちを撃破せよ。さすれば至宝が与えられん』」
「‥‥なんか、今までのことでわかったことばかりじゃないですか」
「話は最後まで聞きたまえ。『されど努々忘れるなかれ。願いの成就の代償は大いなる悲しみである。その覚悟無き者、勾玉に手を出すことを禁ずる。また、悲しみを知らぬ者もまた、手を出すことを禁ずる。願わくば、この勾玉がこれ以上災厄を振りまかぬことを祈って―――』」
「‥‥意味わからないわね。願いを叶える方法を書いておきながら、使われたくないなんて」
「願いの成就の代償が大いなる悲しみっていうのは‥‥? 等価交換‥‥もって行かれる‥‥!?」
「なんだそれは? よくは分からんが、術者にも不利益があると考えた方がいいかも知れないな」
兎に角、今は目の前の事件‥‥忍者集団を防ぐことが肝要。
彼らを捕まえることで、何かが分かるかもしれない。
勾玉騒動の行方は、あなたたちが握っているのである―――
●リプレイ本文
●名家D
曰く、前回の轍を踏まぬ様、『昨今出没する盗賊団より治安を守る為』、相対した事もあるので早期発見が可能である。
曰く、敵が忍者である以上屋敷の外で食い止めるのは難しく、敵が召喚する大ガマは冒険者ではないと相手が難しい。
同日同時刻に賊に入られる二つの名家‥‥こちらは名家D(仮称)。
商人系の家柄であるここは、蒼眞龍之介(ea7029)、三月天音(ea2144)の意見を聞いて、損得勘定を高速で脳内展開させた後‥‥すぐに屋敷内の警備の許可を出した。
「知らねぇ人間に屋敷の中をうろうろされてでも、勾玉を盗まれたくないってか。よっぽど大事なんだな」
「それはそうじゃろう。勾玉と言う物の性質上、宝物、値打ち物であることは確かじゃ。あっさり盗まれてはたまるまい」
「かと言って、持ち主の執着心が天地八聖珠であることには結びつかない。せめて拝見できればな‥‥」
バーク・ダンロック(ea7871)が言うように、この屋敷の主人は勾玉にいたく執着している。
護衛役と受け入れたはずの3人にも実物は見せず、保管してある土蔵の周辺に彼らを配置しただけ。
つまり、3人は勾玉が天地八聖珠であるかの確認も取れず、勾玉に近寄って警護もできないのである。
「しかしよ、こいつは意外と悪いことばっかりでもねぇんじゃねぇか? 土蔵の中にあるとなりゃ、微塵隠れで出たり入ったりはできねぇんだろ?」
「そうじゃな。あの通気口と思われる窓枠も、大の大人が潜れる代物ではないかのぅ」
「ふむ‥‥しかし、それはそれで気になるものだ」
「どういうこった?」
「あの忍者集団が、そんなことを予測せずに来るだろうか。警備の者がいれば、唯一の出入り口である入口の突破が難しいということくらい、調べていそうなものだろう。我らに感づけば撤退するやも知れん」
「どうじゃろうな‥‥無理にでもわらわたちを突破するか。何にせよ、何もせず帰ることは無いと思うがのう」
三人が蔵の入口で、そう話し合っていたときだ。
二人の女中が、三人へ近づいてきた。
「あの‥‥旦那様から、警備の方々へお夜食をお持ちしろと言われて持ってまいりました。よろしければどうぞ」
「おっ、なんだ、あのおっさんも意外と気が利くじゃねぇか! 丁度腹減ってたんだよなぁ」
「ふむ‥‥大分秋めいてきたからのう。暖かいお茶はありがたいのじゃ」
「他の皆さんの分もありますので、お食べください」
そう言って、手に持ったやたら大きなお盆の上にあるおにぎりと、同じく大きなお盆に載せた無数の急須と湯呑を差し出す。
三人及び屋敷の主人が集めた警護の者たちは、喜んでそれに手をつけた。
そんな中。
「あら? お武家様、お口に合いませんでしたか?」
「そういうわけではないよ。ただ、腹も空いていないし喉も渇いていないだけだ」
「そうですか。では、気の向いたときにでもお食べくださいませ」
蒼眞だけは差し入れに手をつけず、皆が食べる様子を眺めていた。
「なんだなんだ蒼眞よぉ。折角の心づくしを無碍にしちゃあ、名が廃るってもんだぜ?」
女中たちは、ぺこりとお辞儀をして去っていく。
その背中を見送った後、なおなんとも無い一同を見て、蒼眞は胸中で苦笑いする。警戒しすぎか、と。
「‥‥のう、蒼眞殿。あ、いや、この場の全員に問いたい。あの女中二人に見覚えのある者はおるか?」
喰って飲んでを終えて、腹が落ち着いたのか‥‥ふと三月が気づく。
合計で10名くらいのこの場で、知っていると答えたものは誰一人としていない。
それこそ、この家に雇われて一ヶ月という人間でもだ‥‥!
「し、しまっ‥‥くぅっ‥‥!」
「な、なんじゃ‥‥こりゃあ‥‥!」
「天音君! バーク殿!」
突如身体の痺れを訴え始める一同。
蒼眞が慌てて駆け寄るが、時すでに遅し。
警備の者の中から二人が立ち上がり、蒼眞を冷たい目で見下ろしていた。
「人遁の術で警備の者として潜入、女中に化けた仲間が差し入れた痺れ薬入り夜食へ皆を誘導か‥‥手の込んだことを‥‥!」
再び姿を現した女中も含め、敵は4人。
流石の蒼眞でも、分が悪すぎた―――
●名家C
さて、こちらは名家C。
公家系の家柄であるようだが、思いの他お高く留まった感じは無く‥‥すんなりと一行を警備の末席に加えた。
しかし、葉隠紫辰(ea2438)が進言した、『勾玉の入った箱だけの借用』は流石に認めてもらえなかったが。
一行は、勾玉の置いてある、屋敷の主人の部屋の隣で警備中である。
「出鼻をくじかれた格好にはなったが‥‥先日の借りは返す‥‥」
「主殿のお部屋は、この部屋を通らねば入れない、いわば閉鎖空間。屋根裏も張っていますし、今回こそは」
「昏倒様、屋根裏に変化はありませんか? お疲れになったのなら交代いたしますが」
「おほほ、大丈夫よ。特に変わった様子もないし、体力はあたしの自慢どころだもの」
葉隠、セイロム・デイバック(ea5564)、御神楽澄華(ea6526)、昏倒勇花(ea9275)は、声を潜め、辺りの気配に気を配りながら、かれこれ2時間もこの状態を維持している。
屋根板をはずし、台に乗った状態で立ったまま屋根裏の監視をしている昏倒など、かなり辛そうなものだが。
感じる気配の変化といえば、隣の部屋で寝ている主が寝返りをうつことくらいか。
‥‥いや。とことこと何の警戒も無く近づいてくる気配が一つ‥‥!
「よう、こっちの首尾はどうだ、兄弟」
見れば、同じく警備についている冒険者を名乗る男。
一週間くらい前に雇われたらしく、この屋敷内では先輩ということになる。
手には急須と湯飲みを人数分載せた盆を持っており、人なつっこい笑顔で入ってきた。
「ご苦労様です。こちらは特に何もございません」
「そうか。そろそろ寒くなってきたからな、茶でも差し入れにきたってわけだ。どうだい、一杯」
御神楽の言葉に、盆をついと差し出してくる。
「あら、助かるわね。埃っぽいから、ちょっと喉が渇いちゃったのよ」
「そうですね‥‥そろそろ一息ついてもいいかもしれません。ジャパンの緑茶は美味しいですから」
昏倒、セイロムは湯飲みを受け取り、茶を注いでもらう。
そして、二人がそれを口にしようとした時だ。
「‥‥待て。二人とも、どうしても水分が必要でない限り飲むな」
「おいおい、なんだいきなり」
「無礼は承知。気分を害したのならいくらでも謝罪する。が、俺は忍だ。万が一にも薬物混入の可能性は断っておきたい」
「‥‥ほー、立派なことで。んじゃ、俺はとっとと退散するよ」
男が頭をかきながら、出て行こうと襖を開けた時。
「隣の部屋に気配!? まさか!?」
セイロムの言葉に、一同に緊張が走る。
主人の部屋への襖を開けると、そこには畳をひっくり返し、床下へ脱出しようとする黒装束の姿が‥‥!
「今から床下へ追っても間に合わん! 外で捕まえる!」
「まったく、忙しいことね‥‥(溜息)」
葉隠の号令で、一行は全速力で外へ。
運よく、黒装束たちが床下から出てきたところで対峙する事に成功‥‥!
「3人‥‥? 数が合いませんが、この際気にしてはいられませんね!」
「手はずどおりいくわよ。出来る限り一対一を維持して、機動力重視! いいわね!?」
「はい! ガマが出た場合はお任せを!」
「‥‥逃げを最初から考える輩に、勝ちは譲らん‥‥!」
できる限り軽装を意識し、機動力を上げた4人の動きに、黒装束たちも速さを感じたのであろうか。
早々に忍術を発動し、ガマ2体出現、2人が微塵隠れで離脱する。
が、先ほど言っていたように、ガマを御神楽がまとめて相手をし、微塵隠れが使えないと思わしき黒装束一人を、昏倒・セイロム・葉隠が追撃にかかる!
どうやら黒装束たちは忍術を初級高速詠唱が完璧にできるくらいまで修め、術の数を増やした。
そのため、基本的な俊敏性はともかく、格闘能力や回避能力は術に頼らなければいけない程度のものらしい。
「っ!」
「そう何度も逃がしません! 『守り抜く盾』の名にかけて、必ず守り通します!」
「葉隠様、昏倒様、追跡を!」
セイロムにスマッシュで斬りかかられた黒装束は、結構な傷を受けながらも脱出を図る。
軽い霞刀だからこの程度で済んだとも言えるが‥‥。
その黒装束が、屋敷の門を出たときだ。
「逃がしませんよぉ! 鳥爪撃!」
「〜〜〜〜ッッッ!!」
不意に、横っ腹から鋭い蹴りをもらう黒装束。
他の黒装束が遠目ながらちらりとこちらをみたが、すぐに走り去ってしまう。
このタイミングのみを狙い、闇に潜んでいた鳳刹那(ea0299)の作戦は大成功であった。
「さぁ、もう観念なさいな。知っていることを洗いざらい吐いてもらいますからねぇ」
「やったか。よし、猿轡を噛まして自害を防ごう」
「そうね‥‥彼らは玄人みたいだから、誇りで死なれちゃこまるわ」
よろよろと立ち上がろうとする黒装束であったが、鳳、昏倒、葉隠に取り押さえられてしまう。
「さすが、大トリは鳳さんに任せて正解でしたね」
「セイロム様、上手い事を仰いますね。しかし、これで事態はいくらか好転するでしょう―――」
だが。大ガマを倒して合流してきたセイロムや御神楽の笑顔が浮かんだ瞬間、彼らの前を日本刀が過っていった。
それは黒装束に深々と突き刺さり‥‥せっかく捕らえた彼の命をあっさり奪う。
「馬鹿な! 何者だ!?」
見れば、茶を差し入れてきた警備の先輩。
ぞっとするような冷笑を浮かべ、なんと一瞬で黒装束に戻って走り去ってしまう。
「前もって潜り込んで、手引きしていた‥‥ということかしら‥‥」
「くっ! まさか、捕まったとはいえ仲間を処分するとはねぇ‥‥! 血も涙もないじゃないのさぁ!」
「やつらめ‥‥徹底的に忍だな‥‥!」
この夜、襲われた二つの名家に天地八聖珠は無く、敵方も一人減った。
しかし、冒険者一行の心は消して晴れやかとは言い難かったという。
「願いの代償は大いなる悲しみ‥‥そんなものに頼らなければ、願いは叶えられないんですか? ‥‥人は、何かを犠牲にしなくては幸せにはなれないんですか?」
鳳の言葉は、誰にかけられたものだったのか。
自分か‥‥仲間か。はたまた、仲間に処分された黒装束の一人へか―――