●リプレイ本文
●急行
「神皇様を守護する『黄金聖志士』。我が小精霊(コ○モ)を極限まで燃やして、地水火風陽月につづく究極の精霊魔法、セブンエレメンタルマジックに目覚め、黄泉人とその配下を撃破する。燃えろ、ボクの小精―――」
ずがどんっ!
「‥‥とりあえず言われるままに始末しましたが、よかったのですか?」
「放っておきな。グリフォンの背中にでも乗っけておけば事足りるよ」
丹波藩西北西部、もう見慣れた風穴への入口。
辺りはいたって平穏‥‥今のところは前情報の通り、風穴の外にまでは不死者は出てきていないらしい。
まぁ、その平穏をぶち壊すかのような轟音が響いたのは置いておいて(笑)。
コスプレ大好き志士の楠木麻(ea8087)は、今回も大変凝った上に楽しいコスプレをしてきたのはよかったが‥‥事態が深刻である以上、ちょこっと仲間の神経を逆なでしたのかもしれない。
島津影虎(ea3210)が鞘で、御堂鼎(ea2454)が蹴りで同時にはたき倒し、さらっと楠木はのびていた。
「うーむ‥‥流石の僕も今回は同情できないかなぁ。楠木殿はもうちょっと空気を読むべきだと思うな。うん」
「あ、あの‥‥す、凄い音が‥‥き、聞こえました、けど‥‥。楠木さん、だ、大丈夫‥‥でしょうか‥‥」
「Don’t wary(いいんじゃないでしょうか)。遊んでいる暇はないわけですから」
「まったくでござる。どうやらグリフォンの方も、楠木殿への仕打ちが『攻撃』ではなく『ツッコミ』と認識しているようでござるよ。頭が良いでござるな」
八幡伊佐治(ea2614)、水葉さくら(ea5480)、ベアータ・レジーネス(eb1422)、七枷伏姫(eb0487)。
楠木のペットである伐折羅(バサラ。種族はグリフォン)は、別段いつものこととばかりに取り乱さない。
打ち合わせどおりにピストン輸送をするため、島津を乗せてくれる。
「依頼人がなぜ氷壁の破壊にこだわったのかなど気になることは色々あるが、今は氷雨と熱波の救出が最優先、1秒でも早く合流できるようにせねばな」
「今回も随分強行軍だったものね。氷雨さんと熱破さん‥‥無事でいて欲しいわ」
「大丈夫ですよ、二人はあんなに強い五行龍なのですから! ‥‥大丈夫に、決まってるのですよ‥‥!」
琥龍蒼羅(ea1442)、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)、月詠葵(ea0020)。
こうして話している時間も惜しくて、一行は(一人気絶しているが)早速風穴の奥へと進軍する―――
●予想害(誤字に非ず)
今更言うまでもないが、風穴は長い。
長い上に、滑って進みにくい。
しかも今回は氷雨がいないので、全員で一気に奥までと言う選択肢がない。
一刻も早い合流を目指す一行は、グリフォンに楠木と島津、ヴァージニアのFブルームに御堂を乗せ、少数人数でも先に送り込んで、徒歩で進んでいる仲間の元へ戻ってまた輸送という妙案を立てた。
実際問題、氷雨ほどの速度は出ないまでも、これなら大幅に氷壁までの道を短縮できる。
‥‥が、この案はあくまで『目的地が氷壁のまま』という前提の下に立てられていることを忘れてはならない。
「‥‥はて。御堂さん、まだ進んで1日も経っていませんよね?」
「あん? そうだねぇ‥‥まだ半日ってとこさね。何かあったのかい?」
「いえ、この先に灯りのようなものが見えまして。今も見えるので、人魂でなければ何なのだろうかと」
「まっ、まさか! 火時計の火が消えかかっているんでしょうかっ!?」
「楠木さんは黙っててね。変ね‥‥ひょっとしたら敵が送り込んできた新手のモンスターっていう可能性も考慮に入れておいたほうが良いかも知れないわ」
「何にせよ、うちらは止まってなんていられないのさ! 突っ込むよ!」
島津、御堂、楠木(流石に起きた)、ヴァージニアは、謎の灯りに向けて突き進む。
そして4人は、完全に近づく前に分かってしまう。
その灯りの正体とは‥‥!
「熱破さんと氷雨さん!? どうしてこんなところに!?」
「聞くまでもありませんよ! 見てください、あの不死者の群れに押されて来たんです!」
そう、氷壁はまだまだ奥。
なのに熱破と氷雨は、戦いながらもジリジリ後退させられていたのだ‥‥!
『はぁっ、はぁっ、あ、歌のお姉ちゃん! 熱破お兄ちゃん、皆が来てくれたよ!』
『遅ぇよっ! さ、流石にずっと戦いっぱなしはきついぜ‥‥!』
見れば、熱破も氷雨もそれなりにダメージを負っている。
再生能力も精神力が尽きれば使用不可能なわけで‥‥一匹一匹は雑魚でも、この大軍相手では流石に厳しいらしい。
「ちっ! 影虎、麻、ヴァージニア、すぐに援護に回るよ! 麻、さっさとグリフォンを後ろの連中に回しな!」
「了解ですっ!」
「足場が悪いのにも慣れましたが‥‥はてさて、上手くできますことやら」
「氷雨さん、熱破さん、八幡さんが来るまでもう少し持ちこたえてね。彼ならダメージの回復ができるから」
『うん、わかったよ! もう一踏ん張りー!』
『ったく‥‥ぞろぞろぞろぞろ、鬱陶しいんだよっ!』
恐ろしいことに、不死者の群れは、熱破の『近づくだけで燃える発火能力』で燃やされているにも関わらず、平然と行軍して来るのである。
燃え尽きて動かなくなる者も当然いるが、燃えたまま殴りかかってくる者が大多数。
熱破、氷雨は一撃で不死者を行動不能にまでもっていけるが、圧倒的に手数が足りない。足りなすぎる。
「ここでボクの出番ですよ! 今こそ冴えろ、光速詠唱! 我が一撃を受けて見るがいい! グ○ートホーン!」
ごうっ!
楠木の高速グラビティーキャノン(専門)で、ばたばたとなぎ倒されていく不死者たち。
「ふっふっふ‥‥ブロンズごときには‥‥って、うわわわわわっ!?」
が、そのなぎ倒された不死者を踏みつけにして、後から後から傾斜を登ってくるアンデッド軍団。
その波に、あっという間に飲み込まれる楠木‥‥!
「えぇい、かませ犬‥‥いや、この場合かませ牛かい、お前さんは!」
「まずいですね。我々も後退しながら戦い、皆と合流してから反撃に転じましょう」
不死者をなぎ払い、楠木を救出する御堂と島津。
『数』というかつてない圧倒的な暴力を前には、精霊龍が二匹いてすらこの状況となるのか―――
●脇道の意味
「くっ! あ、あとどれだけいるのですかぁっ!? こんな、一匹一匹は弱いのに‥‥!」
「なるほど‥‥例の『苔の層』は、こいつらが過去に進軍した際に踏み固めた苔の上に、新たに苔が生えたものというわけか。これで安心して眠れる」
「琥龍殿、納得している場合でござるか! 熱破殿、氷雨殿、一体どれくらい倒したのでござるか!?」
『ンなもんいちいち数えてられっか! とりあえず下がり下がり、近づくやつを片っ端からぶっ飛ばしてただけだっ!』
『僕、100までしか数えられないんだよー!』
一行はなんとか合流を果たし、二匹の回復も終えて待ち構え、反撃に転じた。
が、ここは風穴の中。
広い広いと言っても、流石に熱破と氷雨の二匹が同時にいると動きが取りづらい。
月詠、御堂、島津を前面に押し出し、熱破、氷雨も協力。
後方支援の面々がストームで押し返したりするが、あとからあとから押し寄せる不死者たちには、ほんの時間稼ぎにしかならない。それが、一見派手に軍勢が崩れたように見えても‥‥だ。
「例の、なんとかという旗を使って引き寄せられないか!? 連中、道返の石で鈍っていてもまるでおかまいなしじゃよ! やーだな、群れると強気になるやつらって!」
「無理でしょう。引き寄せても、振った方たちが連中に飲み込まれ、不死者の仲間入りをするだけです。それとも、使い捨てにするつもりで振った直後に投げ捨てますか?」
「そ、それは流石に‥‥勿体無い、です‥‥。でも‥‥本当、に‥‥全然‥‥減ったように、見えません、ね‥‥」
劣勢。
一言で表すのであればその言葉が浮かぶ。
敵の数は、見えるだけではわずか数十。しかし、実際は何百‥‥いや、もしかしたら何千といるのかもしれないのだ。
人は、あくまで人。
どんなに強くても、体力の限界があり‥‥多勢に無勢を覆せるスーパーヒーローなどにはなれない‥‥!
「足場がよければ、もうちょっとマシに戦えるんだけどねぇ‥‥!」
『くそっ、なんかここいら一帯の気質は俺に合わねぇ! 力が抑え込まれる感じがするぜ‥‥!』
「ここは水の地だものね‥‥熱破さんには相性が悪いはずだわ。無理をさせちゃってごめんなさい」
「こんな時だが、熱破! 草薙殿から伝言だ!『次会うときまでお互い頑張ろう』とな!」
『わぁってるよ! 俺だってこんなところでくたばってたまるか! が、悪いが俺は今回で帰る!』
さっき言っていた『気質が合わない』というのが理由の大半。
精霊龍である熱破には、人間にはわからない理屈での苦痛があるのだろうか。
「こ、これで‥‥22匹目‥‥! 島津さん、御堂さん、調子はどうですか!?」
「私は16匹です。死者に鞭を打つようで少々気が引けますが‥‥」
「うちは25匹さね。そういうお優しい発言は、連中を全部片付けてからにして欲しいねぇ」
「ちなみにボクは、もう50匹は弾き飛ばしましたよ!」
「あ、あの‥‥楠木、さん‥‥。氷雨ちゃんの、下から‥‥出てきた方が、いいの‥‥では‥‥」
胸を張ろうにも、哀れ楠木は氷雨の下敷き。
魔法を撃って後退しようとした時、にょろにょろ動く氷雨の身体に巻き込まれたのである。
と、その時だ。
ヴァージニアの背中に、意味不明の悪寒が走る。
とりあえず周りを見ても、不自然な点はないが‥‥?
「八幡さん、確かデティクトアンデットの魔法使えたわよね? 急いで使ってみて!」
「ん? あぁ、それは構わんが‥‥どうかしたのかのー?」
言われたままに魔法を使った八幡の顔が、見る見る青ざめていく。
前方に多数の不死者反応‥‥それはいい。
問題は、左右にある脇道の方向にも不死者の反応があるということ‥‥!
「‥‥八幡さん。まさかとは思いますが‥‥」
「そ‥‥そのまさかだ。『いる』。脇道の奥にも反応があった!」
「何だと‥‥? そうか、氷壁の奥に通じる脇道はなくとも、氷壁を突破した不死者たちは脇道を利用できるというわけか‥‥。知能など必要ない‥‥行き止まりになったら引き返し、水路に水が走るかのように縦横無尽に廻る、と‥‥」
ベアータと琥龍も、落ち着いているように見えるが内心穏やかではない。
つまり、いつ横から不死者が現れてもおかしくない。
というより、脇道に反れた不死者たちが自分たちより先んじていれば、もしかしたら挟み撃ちにあう可能性がある。
いや‥‥最悪の場合、前後左右で囲まれて、数で圧殺される可能性すら‥‥!
「く、悔しいのですよ‥‥! これだけの手練と、熱破さんと氷雨君までいて、こんな‥‥!」
『僕も悔しいー! これじゃ、僕たちが死人憑きや怪骨より弱いみたいだよー!』
「忘れたのかい、葵。これはうちたち人間と、黄泉人との戦なんだ。戦は、強い方が必ずしも勝つとは限らないのさ」
『だ、そうだぜ? 氷雨、駄々こねてねぇで逃げるぞ』
『ぶーぶー! 熱破お兄ちゃんは悔しくないの!?』
『寝言は寝て言え! 悔しいに決まってんだろーが!? 意地張るのは大いに賛成だが、張りどころを間違えんな!』
「確かに。『水没地蔵』を返上して『エロかわいい』と呼ばれるためにも、ここでは死ねません!」
「‥‥ひたすら疲れるでござる。とにかく、熱破殿と氷雨殿の救出は完了、不死者も最低150以上は減らしたはずでござるよ! 退いても問題はないでござろう!」
「そうですね。氷雨さんには風穴の出入り口の監視もお願いしなければなりませんし、余力は残しておきませんと」
「で、では‥‥ストーム、で‥‥時間稼ぎ、します‥‥!」
「俺も手伝おう。ベアータ、3人で入れ替わり立ち代り撃てば、それなりの時間は稼げるだろう」
流石に熱破は氷雨に乗れないので、自力で駆け上がってもらう。
精神力の尽きた状態では、ファイヤーバードで加速することも出来ないが‥‥なんとか氷雨についてきていた。
鈍重な不死者の群れは、あっという間に引き離せ‥‥一行は無事、地上に帰還することができたのであった―――
●状況の打破には
『つーわけで、俺はここはまでだ。後はお前らでなんとかしな』
「拙者に免じて残ってもらうわけにはいかんでござるか?」
『駄目だっつーの。世の中そんなに甘くねぇ。ま、祈るくらいはしてやるよ‥‥事が上手く行くようにってな』
そういい残して、熱破は自分の巣に帰っていった。
勿論、単身で帰すのはまた色々問題を起こしそうだったので、縁の深い七枷が送っていったのだが。
「で、結局どうする? 風穴の入口を崩して埋めてしまえばえぇんじゃないかと僕ぁ思うんだが」
「それでは根本的な解決にならないのですよ‥‥。入口を崩したくらいじゃ、連中はいずれ這い出ていきますです」
「わざわざあんな大掛かりな氷壁で封印したくらいだからな。そう考えるのが自然か」
「こう、大量の油でも流し込んで、火を付けちゃったらどうでしょう。鳳凰の翼がなんたら〜、とか言って」
「そんな大量の油をどこから手に入れるのですか? 第一、風穴内の湿気と風で、上手くいくとは考えにくいです」
「うだうだ言ったって仕様がないさね。戦とあれば、こちらも数を揃えて戦う‥‥それだけさ」
「ふむ‥‥問題は、その頭数と言う点をどう克服するかですね。こればかりは私にも始末のつけようがありません」
「丹波藩の藩主様にお願いできないかしら。自国内のことなのだし‥‥」
「ど、どうでしょう‥‥。た、ただでさえ‥‥何やら大変だという噂を聞きます、し‥‥」
結局、この場の見張りは氷雨に任せ、一行は帰路に着くこととなった。
予想を大きく上回る黄泉人の勢力を前に、地底城をその目で見ることも叶わずに。
分の悪いこの戦い‥‥果たして、状況を打開する方法はあるのであろうか―――