【勾玉最終章】混沌の中の再会

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 95 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月10日〜03月16日

リプレイ公開日:2007年03月18日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「はい? つまり‥‥冷凍さんは、骸甲巨兵の噂を聞きつけて全国から流れてきた冒険者崩れを従え始めた‥‥と?」
「‥‥そうだ。地味に丹波藩内の村々の制圧も続けていて、今では半数以上の村が冷凍殿の傘下に入ったと言っていい」
 ある日の京都冒険者ギルド。
 丹波藩における大商人‥‥平良坂冷凍の動きについて話し合っているのは、ギルド職員、西山一海と、京都の便利屋、藁木屋錬術の二人である。
 先日、冷凍の行動の理にある欠点を見抜き、激闘の末撤退させたのはよかったが‥‥やはり、一つ二つ村を魔の手から救っても埒が明かない。
 無意味とまでは言わないが、向こうとこちらで手数が違いすぎるのだ。
 冷凍は、すぐさま別の村へ向えばいいだけなのだから。
「しかし、骸甲巨兵がすぐに抜けない伝家の宝刀とわかったのはいいとして‥‥結局どうするんですか? 決して抜けないというわけでもない以上、あの力は危険すぎます。丹波藩主の山名豪斬様はどう思ってるんでしょう?」
「無論快くは思っていないだろうが、あれに正面切って対立するのも得策ではないと承知なさっているだろう。例えば、冷凍殿が丹波藩のために骸甲巨兵の力を使って味方をしてくれれば‥‥他所の藩が攻めてきた時、心強い味方になる」
「紙の様な薄い希望ですね。冷凍さんに限ってそんな殊勝なことしないでしょう」
「同感だ。かと言って、迂闊に退治に腰を上げ、藩士の被害が拡大すれば、あっという間に他藩に攻められる。微妙な立場なのだよ、豪斬様も」
「で、その豪斬様に秘密裏に依頼を受け、藁木屋さんが頑張っていると」
「‥‥さてな」
 短い沈黙の後、藁木屋はさして驚いた風でもなく誤魔化した。
 長い付き合いであるが故に、一海がその程度を見抜いてくるのも予想の範疇。
「ではまぁその話は置いておいて‥‥今回はどう動くつもりです?」
「村で迎撃は基本的な解決策にならないとわかったからな‥‥どうにかして先手を打ちたいものだが‥‥」
 と、藁木屋がぼやいた時である。
 ギルド職員の一人である大牙城(たいが じょう。虎覆面をつけた武士)が、一海たちの方へ寄って来た。
「藁木屋殿ッ! そして一海君ッ! 先ほど耳にしたのだがッ!」
 大牙城が言うには、丹波藩内のとある村に不死者の群れが断続的に襲撃をかけているらしい。
 しかし、村に滞在している二人の冒険者風体の男たちのおかげで、被害は殆ど無しで済んでいるとかなんとか‥‥。
「聞いて驚くなかれッ! その二人組みというのがどうも、螺流嵐馬と松岡進らしいのだッ! 彼らが何故その村に滞在し、守護しているかは不明だが‥‥不死者の掃討がてら、会いに行ってみる価値はあるのではないかなッ!?」
 大牙城の話を聞いている最中から、藁木屋の表情がどんどん険しくなっていく。
 そう、決していい話を聞いたという表情ではない。
「‥‥まずいな」
「どういうことです、藁木屋さん」
「そもそも、村を断続的に襲う不死者などいるものか。恐らくそれは、冷凍殿が差し向けたものだろう。‥‥元・堕天狗党員の二人をその村に足止めするためにな」
「足止めって‥‥何か用事でもあるんでしょうか。いくら交渉や説得をしても、あの二人が冷凍さんに付くとは到底思えませんけど。ひたすら抵抗するんじゃあ‥‥?」
「その可能性は高いが‥‥どうも嫌な予感がする。一海君、依頼だ。その村へ行き、不死者を掃討する」
「冷凍さんがやって来たらどうするつもりです?」
「相手の思惑が読めない内はなんとも‥‥。しかし、放っておけばさらに厄介なことになりそうな気がするからね」
「了解しました。城さん、情報感謝です♪」
「なんのッ! 役に立てて幸い也ッ!」
 戦力を増していく平良坂冷凍。
 そして、具体的な打開案が浮かばない状況での、懐かしい名前との邂逅。
 冷凍の思惑に不気味なものを感じながらも、時間だけが静かに過ぎてゆくのだった―――

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)

●サポート参加者

朱鳳 陽平(eb1624)/ 張 真(eb5246)/ 木下 茜(eb5817)/ ボルカノ・アドミラル(eb9091

●リプレイ本文

●断片
「藁木屋さん、平良坂の経歴に付いて、何か分からないかしら。商人と言う事だけど、何時頃から商いを始めて、何時頃から頭角を現し始めたのか。‥‥一度没落して破産しかけた所から、急速に持ち直した、なんて事は無い?」
「一応調べたが、平良坂家は代々丹波で商人をしている家系で、ゆっくりゆっくり勢力を拡大していった、言わば叩き上げの商家だな。経営難に陥ったこともないということだ」
「では拙者もお聞きしたいでござる。確か、かつて堕天狗党の方々は奉行所のお尋ね者になっていたと思うでござるが、今でもそうでござろうか? また、丹波藩ではどうなのでござろうか?」
「無論今でもお尋ね者ですよ。丹波での犯罪歴はなくとも、公に顔を出せば捕まるでしょう」
「しっかし、村人はレミングの群れか? 娯楽の少ないところにあんなもの連れてきたら、噂は広まるわ団結されるわ‥‥冷凍殿ももう商売ができなくなっている頃じゃないかと思うんだが‥‥」
「冷凍殿は根っからの商人なのです。冷凍殿は村々を締め付けるだけではなく、村人の益になることもしているのですよ。例えば、傘下にした村に出張販売員を送り、普段より2〜3割も安く品物を提供する‥‥など」
 さて、一行は別にゆったり会話を楽しみながらピクニックに‥‥というわけではない。
 藁木屋が事前に聞かれていたことの回答をしながら、ある者は馬で‥‥ある者はセブンリーグブーツで‥‥といった具合に、必死に急いでいたのである。
 神木秋緒(ea9150)、久方歳三(ea6381)、八幡伊佐治(ea2614)の三人が投げかけた質問に、藁木屋は淀みなく答えたが、それが各人の望むような回答だったかは不明だ。
「‥‥‥‥よもや堕天狗党の方々を骸甲巨兵で始末して、不死者として手駒に加えるつもりではありませんよね‥‥」
「可能性はあるのう。しかし、冷凍のことじゃ‥‥それだけでは留まらんと思っておいたほうが無難じゃろう」
「もう少しで村に着くようです。いずれにせよ、真相は行ってみないと分かりませんね。しかし、私は果樹王とかいう方々とはお会いしたことはないんですが‥‥やはりビーフ特選隊のように決めポーズとかするんですか?」
 セイロム・デイバック(ea5564)の懸念も、三月天音(ea2144)の推論も、ベアータ・レジーネス(eb1422)のちょっとズレた疑問も、今は放り出しておこう。
 ベアータの言うように、村は目前なのだ。
 そして、村に入った一行は、すぐに異変を察知した。
 遠くで悲鳴と‥‥争うような物音が多数聞こえ、緊張感が嫌が上にも高まってくる‥‥!
「‥‥どうやら事態はよくないようですね。大凧がどうとか言っていられなくなりましたか‥‥!」
 山王牙(ea1774)が呟いている間も、一人前進する影があった。
 ただ、前に。
 逸る気を抑えきれないかのように、その武人は歩を進める。
 そして、村の一角で、不死者と戦う二人の武芸者の姿を認めたとき‥‥彼の口からは自然とその名が漏れていた。
「‥‥嵐馬殿!」
「‥‥!」
 互いの実力を認め合い、力を尽くして戦った強敵(とも)。
 蒼眞龍之介(ea7029)は、万感の思いで手にした太刀を‥‥刀身が青く塗られた太刀を掲げる。
 それに対し、相手の髭を蓄えた武芸者‥‥螺流嵐馬もまた、『鹿島』と銘の入った日本刀を掲げて応えた。
 それで、充分。
 多くを語らずとも、それだけで百の言葉に勝るのだ‥‥!
「嵐馬殿、再会を喜ぶのは後回しに! 敵はまだまだ湧いてくるぞ!」
「すまん、松岡殿。この螺流嵐馬‥‥またしても戦いの中で戦いを忘れたようだ!」
 見れば、村外の森のほうから怪骨や死霊侍がぞろぞろやってくるではないか。
 協力しようと合議したわけではない。
 しかし、自然と‥‥冒険者たちと元・堕天狗党員二人は、標的を同じくし、村のために駆け出すのであった―――

●間違いはどこから?
「そぉい! スープレックスで粉砕でござるよ!」
「乾いた不死者ばかりじゃが‥‥改めて火葬してやろう!」
「シルフツォーン! 突撃しますよ!」
「藁木屋殿、道返の石はどうかのー?」
「普段魔法等と無縁の生活をしているので、魔法力を使うと言うのは妙な感覚だとわかりました」
「器用ですね‥‥祈りながら回避なんて、私には真似できません」
「流石ね‥‥私も回避にはそこそこ自信あるけど、あれは無理だわ」
「山王君、ソードバンバーでなぎ払えるか?」
「‥‥お任せを‥‥!」
 村人たちの声援に後押しされ、冒険者たちは華麗に怪骨たちを撃破していく。
 この程度のレベルの妖怪であれば、多少の数の差なら問題にならない。
 しかも今日は、頼りがいのある強敵(とも)が二人もいるのだ‥‥負けようはずがない!
「下呂愚具! 村人の防衛は任せる!」
「この程度の相手に手間取るわけにはいかんのでな!」
 何体の怪骨やら死霊侍を撃破したかは数えていなかったが、誰も彼も大した傷を負っていないのでよしとしよう。
 八幡の魔法力の消費も少なくて済んだし、楽が出来てよかろう。
 やがて、完全に不死者の行軍が止まったのを確認し、一行は村人から歓迎を受けたのだった。
 その席で、八幡が藁木屋に問いかける。
「あー、藁木屋殿。お伝えできたらして欲しいんだが‥‥例えば、冷凍殿の勢力は、他藩の差し金だという考え方ができないだろうか? 今からそうなる、でもいい。僕ぁ丹波が商人の藩になろうがどっかの属国になろうが、あまり関係ない。冷たい話だが。年貢という名の上納金を払っているのに、冷凍殿に従順な村人を見よ。まるで藩をあてにしていないじゃないか。もう時既に遅しかもしれない。だが始めることに遅すぎるという事もない。そろそろ動いてはどうだろう。理由は山ほどある。誰が一番困るのか、いや、誰『だけが』困るのか」
 言いたいことはよく分かる。
 こんな事態にまで至って、何故丹波藩主は腰を上げないのか。
 家臣にそれだけ被害者が出ようが、自分の領地内の人々を守るのが藩主の務めではないのか。
 藩主は、骸甲巨兵に怯えているだけなのではないか。
「‥‥八幡殿、豪斬様もただ黙って見ているわけではないのです。八卦衆や八輝将に命を出し、様々な方面から事態の打開を図ってはいるものの、それが実っていないだけなのですよ。勿論、具申してはみますが‥‥」
 苦笑いする藁木屋。
 八幡の言い分は正しいが、藩主には藩主の辛い立場もある‥‥とでも言いたげだった。
 その時である。村人の一人が悲鳴をあげ、ある一方を指差した。
 そこには、地響きを立てながら歩いてくる巨大な怨霊‥‥骸甲巨兵の姿が‥‥!
 螺流嵐馬たちとの語らいもそこそこに、また新たな厄介事の到来である。
「‥‥不死者がやってきた方向とはほぼ真逆の方向からやってきましたね‥‥」
「志摩殿で実験したと言う遠隔操作かのう‥‥。無関係とはとても思えんが、やはり証拠はないのじゃ」
 流石に骸甲巨兵は村の外に待機させているようだが、冷凍本人、果樹王、蛇盆、辺時板、弓囲の5人が一行の前に姿を現し‥‥慌てふためいて逃げ惑う村人たちに、いつものニヤニヤ笑いを向けていた。
 山王、三月の表情は、クールなようでいて確実に相手への敵意を持っている。
「これはこれは‥‥妙な取り合わせですね。村が不死者に襲われていると聞いて、取り急ぎ救援に参上したのですが‥‥いやはや、あなたたちが妖怪退治をしてくださったとは。無駄足でしたかね」
「気に入らない言い方ね。妙な取り合わせってどういうことかしら」
「っ!? 危ないでござるよ!」
 神木がつい、と一歩前に出た瞬間、久方が叫んで神木を押し倒す。
 風切り音を残して、神木の顔があった辺りを矢が通過し、嵐馬に直撃した。
「嵐馬さん! 冷凍さん、いきなり何をするんですか!?」
「彼らはこの村を守るのに協力してくれたのですよ? 警告もなしに攻撃とはどういう了見です?」
 セイロムもベアータも、言葉は丁寧だがそれぞれ温度差がある。
 共通しているのは、冷凍たちの行動を承服しかねるという思いだ。
「ほっほっほ‥‥知らないわけではないでしょう? 彼らは札付きのお尋ね者なのですよ。村を救うために戦ったと言うのも、我が身可愛さで戦っただけというものです。すぐにでも番所に突き出すのが正しい一般市民の務めというもの‥‥。さぁ、彼らを引き渡していただきましょうか」
 誰が一般市民だ、と思わずには居られないが、これはこの際置いておいて。
「断る‥‥と言ったら犯罪者幇助で僕らも悪者扱いか。相変わらず狡いというか汚いなぁ」
「冷凍さん‥‥最初からそれが目的だったのですか? 不死者に村を襲わせ、彼らを足止めし、捕える事に何の意味があると言うんでしょう。我らの横槍が入ることくらい先刻御承知だったと思うのですが」
「拙者たちが彼らを庇うなら、それを理由に骸甲巨兵でまとめて始末する。彼らを見殺しにするなら、その時はその時‥‥元・堕天狗党員という不安要素を排除し、あわよくば手駒にするという腹でござるか?」
「ほっほっほ‥‥分かっているなら話は速いですね。選んでください‥‥ここで彼らと一緒に死ぬか。それとも、彼らを見殺しにし、志摩さんの時のような無力感を味わうか!」
 ぐうの音も出ない‥‥とはこういうことを言うのだろうか。
 いちいち嫌味な言い回しをする冷凍が、憎くて仕方がない‥‥!
「あぁ‥‥もう一つ選択肢がありますよ。『極悪非道のお尋ね者を、私と一緒にひっ捕らえる』。どうです?」
「いい加減にしなさい‥‥この恥知らず! そんなことができるわけがないでしょう!?」
「でしょうね。でもまぁ、それでも一向に構いませんよ。『犯罪者を追わず見逃した』というのは、罪に問われないまでも著しく評判を落とします。今後のあなた方の行動に支障が出ないといいですねぇ」
 何がいけなかったのだろう。
 そもそもの間違いは、元・堕天狗党の二人と共闘したことなのか?
 いや‥‥それよりも前。冷凍たちと戦わなければならないというのを前提にしたことがまずかったか‥‥?
 と、その時である。
「‥‥ぐぅっ‥‥!? ら‥‥嵐馬殿、何を‥‥!?」
「うあぁっ!? う、後ろから‥‥! お二人とも、どうしたんですか!?」
 突然、蒼眞とセイロムに螺流嵐馬と松岡進が攻撃を仕掛けたのである。
「‥‥愚かなやつらよ我らがお前たちを利用したとも知らずに」
「左様。忍びたるもの‥‥生き延びるためなら何でも利用するのが務め」
 だが、その言葉とは裏腹に‥‥彼らの目は語っていた。これで面目も立とう、と。
 冷凍はその意図をすぐに察知し、舌打ちして号令をかける。
 が、それよりも速く螺流嵐馬たちは駆け出していた。松岡の大ガマ‥‥下呂愚具を出現させて。
「追いなさい! 捕まえるんですよ! 出来なければ殺しても構いません! 相手はお尋ね者なんですからね!」
 その後の噂では、二人は冷凍の手を逃れ、再び闇に姿を消したと言う。
 ビーフ特選隊と違い、果樹王たちは連携があまり取れていないのが最大の原因らしい。
 混沌とした情勢の中で果たした、束の間の再会。
 しかしそれは、またしても平良坂冷凍の思惑に飲み込まれてしまった。
 まるでどこまでも広がる闇のよう‥‥平良坂の野望は、どこへ向かうと言うのだろうか―――