【勾玉最終章】丹波反攻作戦

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 86 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月28日〜04月04日

リプレイ公開日:2007年04月05日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 京都冒険者ギルドの奥にある、わけありな依頼人の相談を受ける部屋。
 他の職員や一般人に聞かれたくない話をする場合、ここが使われることが多い。
「いよいよ丹波藩も重い腰を上げた‥‥というわけですか」
「上げざるを得なかったと言うのが本当だろうがね。冷凍が集めだした冒険者崩れの数も、決して馬鹿にできない規模になってきたと聞く。もうこれ以上静観は出来まい」
 ギルド職員、西山一海。
 京都の何でも屋、藁木屋錬術。
 丹波藩主である山名豪斬の密命を受けた藁木屋は、事態の打開のため、別働隊の組織を任ぜられたのである。
「丹波藩士と、八卦衆の炎夜君、凍真君及び八輝将の屠黒殿、牙黄嬢が部隊を率い、冷凍の屋敷を襲撃する。恐らくこれは冒険者崩れや果樹王組み、ビーフ特選隊などの抵抗を受けるだろう。その隙に私たちが屋敷の裏手に周り、骸甲巨兵を全力で撃破に当たる‥‥という具合だ」
「八卦・八輝が4人ですか‥‥もうちょっと数が欲しくありません?」
「‥‥一海君、なんなら彼ら4人を相手にしてみるといい。私とアルトでも30秒保たずに地面に転がされるぞ」
「そ、そうなんですか? それはともかく、本来本命である丹波の軍勢を囮にするとは‥‥」
「逆に言えば、私たちが囮になるのは不可能なのさ。十人程度で多勢の相手をするには限界があるし、軍勢規模の集団は察知されやすい。これが最上の骸甲巨兵対策にして、一回しか使えない奇襲戦法だ」
「‥‥もし、囮の丹波部隊に骸甲巨兵が使われたらどうするんです?」
「確かに、丹波藩の方から攻めてきたのだと正当防衛は主張できるかもしれない。しかし、冷凍の性格からして、切り札は最後まで温存しておくと思う。私たちがやるべきことは、ビーフ特選隊やら果樹王たちやらが骸甲巨兵の防衛に回らないうちに、短期決戦でこれを撃破するだけだ」
「わかりました。では今回は、丹波藩の森に住み着いている妖怪退治という名目で依頼を出し、依頼を受けてくれた方々にだけ真実を明かすと言う方向性で」
「頼む」
 ついに始まる、丹波藩の骸甲巨兵撃破作戦。
 その重要な部分を担うのは、他でもない冒険者たち‥‥!
「ところで、前回冷凍さんは何のために元・堕天狗党のお二人を追っていたんでしょう‥‥?」
「‥‥本人たちに聞いてみないとわからんよ。ただ、惜しむらくは、立ち回り方次第ではあの二人を味方に引き込むことも出来たかもしれないということか。同じ戦うにしても、情報戦・心理戦で戦うべきだったのかもしれない。いつぞやナンパな坊主の方がやってくれたように、理詰めで攻めて向こうから手を出させるのは非常に有効だったと思う。冷凍の行動理念は『なるべく戦わずに目的を達する』というような感じだろうからね」
「‥‥今更ですけど、本当に厄介ですねぇ。正面切って戦ってくれないっていうのは‥‥」
「だが、それでも打ち破らねばならない。骸甲巨兵は、明らかに人の手に余る力だ」
 果たして、この奇襲は上手くいくであろうか。
 行く末は、神のみぞ知る―――

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607

●リプレイ本文

●賽は投げられた
『うぉぉぉぉぉぉっ!』
 割と近くで、大勢の人間が叫んでいるのが聞こえる。
 それと同時に、金属が打ち合うような音や悲鳴、怒鳴り声なども続々と上がっていく。
 それは作戦通り、丹波藩の軍勢が平良坂冷凍の屋敷の正面から攻撃を仕掛けた証拠であった。
 冷凍の戦力とぶつかり、さながら小規模な戦を展開しているのだろう。
「始まったか。さて、アルト君も屋敷に潜入したようだし、我等も向うか」
「そうですね。しかし、冷凍氏はどうやって、骸甲巨兵を動かしているんでしょうか?」
「何にせよ、アルトさんが無事に戻ってきてくれることを祈るだけでござるよ‥‥」
「はっはっは。大丈夫だ、いざとなったらアルト殿には色仕掛けという手段が!」
 さて、屋敷の背後に陣取り、骸甲巨兵撃破に挑む4人。
 蒼眞龍之介(ea7029)、ベアータ・レジーネス(eb1422)、久方歳三(ea6381)、八幡伊佐治(ea2614)。
 流石に8人固まっていると動きづらいので、2班に分かれて別々の茂みで様子を伺っていた。
 冷凍の屋敷は、辺りに他の民家もないだだっ広いところに設けてあり、かろうじて裏手に藪地帯があるだけだからだ。
「あの巨兵と対決ね。大変な仕事よね‥‥けど、あの男は許しておけないもの」
「骸甲巨兵をやっつけましょー。基本的に僕は新参者なので、他の皆さんの指示に従って行動したいと思います〜」
「‥‥志摩さんの死の要因となった骸甲巨兵を倒す為、この武器に魂を篭めます」
「無茶かもしれませんが、アルトさんには冷凍を如何にかこちらまで連れてきていただきたいです」
 もう一班の4人‥‥神木秋緒(ea9150)、井伊貴政(ea8384)、山王牙(ea1774)セイロム・デイバック(ea5564)。
 そう、先ほどから話題に出ているが、一行にはもう一人、一緒に行動していたメンバーが居た。
 京都の情報屋にして諜報活動を得意とする、アルトノワール・ブランシュタッドその人である。
 彼女は、単身冷凍の屋敷に潜入し、冷凍の確保、もしくは位置の特定を任されたのだ。
 冷凍が雇い入れていた冒険者崩れ、及び果樹王たちやビーフ特選隊は丹波藩部隊との戦いに出てしまっているので、屋敷の中には非戦闘員のお手伝いさんなどがいるのみと思われる。
「では、そろそろ攻撃を仕掛けよう。向こうの班にも合図を」
「命令がないということで、叩かれても動かずそのまま破壊‥‥できたらええじゃなぁ」
「それはいくらなんでも望みすぎではござらんか?(汗)そうであれば楽でござるが‥‥」
「アルトノワールさんの援護の意味もあります。急ぎましょう」
 ベアータがブレスセンサーの魔法を発動し、その発光を以ってもう一班への合図とする。
「お、合図ですねー。どうやら攻撃を仕掛けるみたいですよ〜」
「し、しかし、アルトさんを待ったほうが‥‥!」
「‥‥いいえ、その余裕はなさそうです。聞こえますか?」
「どうやら冷凍軍が押されてるみたいね。流石、音に聞こえた八卦・八輝のうちの4人‥‥ってところかしら」
 魔法による攻撃音や光、そして冷凍軍のものと思われる悲鳴がここにまで聞こえてくる。
 戦況が芳しくないとすれば、冷凍が骸甲巨兵の戦線投入することも充分に考えられる。
 アルトが失敗しないまでも、混乱する戦場に骸甲巨兵がいってしまっては、撃破は難易度を増すのだ。
 セイロムは慌ててオーラエリベイションを発動し、味方にオーラパワーの付与を始めようとするが‥‥!
「動き出した!? まずい、セイロムさん、魔法は中止! 全力で叩きに行くわよ!」
 見れば、蒼眞たちの班も藪から飛び出したところ。
 神木に言われるまでもなく、一行は立て膝状態から動き出した骸甲巨兵に向かい、突撃を敢行した―――

●超破壊力
「な、なんて無茶苦茶な硬さですかー!? スマッシュ絡めないと、僕でもかすり傷しか与えられませんよー!?」
「くっ‥‥駄目だ、私の龍牙(ソニックブーム)も龍閃(シュライク)も同様だ!」
「鎧も思った以上に頑丈みたい! バーストアタックで壊れないなんて‥‥!」
 先制攻撃を仕掛けたのは、勿論冒険者たちであった。
 前衛を担当する6人が連続で攻撃するも、そのどれもがまともなダメージにならなかったのである。
 少なくとも、井伊、蒼眞、神木の攻撃は通用していない。
 厄介なことに、自らに危害を加えるものが居ると認識した骸甲巨兵は、冷凍の命令もなしにこちらを迎撃に回っていた。
 18メートルもの巨体と、手にした刀から繰り出される一撃は、その気になれば一振りで死人を量産することだろう。
 精度も、井伊や蒼眞、山王、セイロムには及ばないが、達人とまで呼べるくらいに鋭い。
「山王さん、危険です! 狙われていますよ!」
「‥‥く‥‥二度も一撃でやられるわけには‥‥!」
 ズドンッ! と大地を振るわせる一撃を、山王は救清綱という魔力のある太刀で受け止める。
 足に凄まじい負荷がかかり、見れば足周辺の地面がひび割れて陥没しているではないか!?
「さ、山王さん、太刀が‥‥! 次に受け止めたら多分折れるでござるよ!?」
「町に戻って修理すれば使えるでしょうが、今はもう戦闘に使わないほうがよろしいかと思います」
「冷静に分析してる場合か! 怪我をする前に一つだけ言っておく! 頼むから一撃即死だけは避けてくれ! 瀕死までなら僕とポーションでなんとかするが、即死だけはどうにもならん! ポーションとかリカバーとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない! もっと恐ろしいものの片鱗を味わいたくなければ―――」
 久方、ベアータ、八幡、セイロム。
 骸甲巨兵の脅威の攻撃力を目の当たりにし、八幡が全員に向って注意を促したまさにその時、その頭上には巨大な刀を振り上げる影が‥‥!
「八幡さん、危ない!」
 セイロムが八幡を突き飛ばし、その刀をいつの間にか発動していたオーラシールドで受け止めるが‥‥!
「そん‥‥な! た、盾が、保たな‥‥うわぁぁぁっ!?」
 魔法の盾を砕き、そのままセイロムに刀が直撃する。
 ナイトであり、体力や耐久力に恵まれているはずの彼でさえ、一撃で重傷に持っていかれるのだ‥‥他の面々がもらえばどうなるかは推して知るべし。
「くっ、すまんセイロム殿、今回復させる! つい熱くなって警戒を忘れた‥‥!」
「まずいな‥‥正直ここまでとは。動きが鈍い分、重装甲と凄まじい攻撃力を両立している‥‥!」
「こちらの攻撃は、蒼眞さんのソニックブームを除けば相手の膝にも届きませんからね〜。僕はせめて、スマッシュで足首の関節でも壊しにいきましょーかー!」
 漆黒の窪みに、真紅の光が灯る骸甲巨兵の眼。
 一対八でこれなのだから、取り巻きがいたらとてもではないが相手は出来ない。
 そう確信する8人‥‥その時、状況はさらに絶望的なものへと変わった。
「おやおや‥‥黒い鼠がかかったと思えば、みなさんもご一緒でしたか。丹波藩も姑息な真似をしますねぇ」
『!?』
 一行が声のした方に振り返ると、そこには大方の予想通り、平良坂冷凍の姿と‥‥!
「ごめーん。捕まっちゃった♪」
 大方の予想に反し、笑顔ででふん縛られているアルトノワールの姿があった。
「‥‥アルトノワールさん‥‥? まさか、あなたが捕まるとは‥‥」
「何とか抜け出せないの? 足は自由なんでしょう!?」
 山王と神木が声をかけるが、アルトはすぐに首を振る。
「知ってるでしょ? あたし、射撃は得意でも格闘は駄目なのよ。こうなっちゃうとどうにも‥‥」
「ほっほっほ‥‥誤算でしたね。骸甲巨兵は、その正体がだいだら法師の骸とも言われている妖怪。あなたたちがいくら強くとも、そう簡単には倒せはしませんよ」
「馬鹿な! こんな詰んだ状態で何を強がるんだ!? 藩が動いた以上、冷凍殿の試みは、ジャパンという国の『つくり』に殴りかかっているような状況となった! この場を乗り切っても次があるまい!」
「嫌ですねぇ八幡さん。私はね、この国に喧嘩を売るつもりなどはありませんよ。私はこの藩‥‥丹波を手中に収めたいだけなのです。ほら、下克上と言うやつですよ。私が新たな藩主となり、近隣の藩ともっと上手くやって見せますとも。京都にお住まいのあなた方には、対岸の火事ではないのですか?」
「その火事は、京都にも延焼しかねない火事でござる。それを放っておけるほど、拙者たちは馬鹿ではないでござるよ!」
「‥‥まぁいいでしょう。とにかく、あなた方は色々と目障りです。折角人質もいらっしゃることですし、今日と言う今日は死んでいただきましょうか」
 冷凍がそう言うと、骸甲巨兵は明確に何らかの指示を得たように動き出す。
 どうやら、冷凍はテレパシーのようなもので、念じるだけで骸甲巨兵を動かせるらしい‥‥!
「くっ‥‥どうします!? このままでは、私たちもアルトさんもやられてしまいます‥‥!」
「みんな逃げて! あたしのことは気にしなくていいから!」
「ではそうさせていただきましょう。みなさん、撤退を」
「ベアータさん〜、いくらなんでもそれは〜」
「いや、ベアータ君の言うとおりだ。私たちがここに残る道理はもうない」
 ベアータと蒼眞の言葉に、井伊は首を傾げるだけ。
 だが、アルトと付き合いの長い面々は大よその察しがついたようだ。
「いいんだ、逃げるぞ! あのアルトノワール殿は偽物だ!」
 八幡の言葉に、井伊、山王、神木、セイロムの疑問が更に深まる。
 目の前で縛られている人物は、どう見てもアルトノワールである。
 顔も、声も、体格も、まず間違いなく。
「本物のアルトさんなら、あんな殊勝なことは言わないでござるよ! どんなに性格が変わってもアルトさんでござるから‥‥そうでござるな、『自分のために死ね』くらいのことを言うでござろう!」
 そういうものだろうかという疑問が抜けなかったが、それが正しいことはあっさり証明される。
 どこからか飛んできた縄金票が、縛られたアルトに直撃することによって!
「お、おっけー、流石に付き合い長い人たちはよくわかってるわね。それに、私は自分のことを『あたし』とは言わないのよ。覚えておいてよね!」
 見れば、屋敷の塀の上に、もう一人のアルトノワールの姿。
 しかし、その表情は苦痛に歪んでいるようである。
「ちっ‥‥もう動けるんですか。流石はハーフエルフですね。もう少し吸っておくべきでしたか‥‥」
「仕方がありませんね。丹波藩の軍勢と戦っている方たちが心配です。確実に仕留められないのであれば時間の無駄‥‥骸甲巨兵はそちらの方に回しましょう」
 冷凍がそう呟いた頃には、もう冒険者たちは散り散りになって撤退を始めていた。
 疲弊していたアルトノワールは、神木が一緒に馬に乗せて行ったらしい。
「やれやれ‥‥死よりも恐ろしい恐怖と言うものを教えて差し上げようかと思ったんですがね。骸甲巨兵さん、行きますよ。‥‥‥‥どうしました?」
 部下の援護に向うため、骸甲巨兵に移動の命令を出した冷凍だったが、何やら巨兵の動きが鈍い。
 足を引きずるように、すり足をしている‥‥?
「‥‥なるほど。井伊さん、でしたか。あまりお見かけしなかった方ですが‥‥なかなかどうして‥‥」
 そう、井伊の金棒によるスマッシュEXが、骸甲巨兵の足首にひびを入れていたのである。
 ひびを入れたことを賞賛するべきか‥‥あるいは、ひびが入るだけで留まったことを驚くべきか。
「いいでしょう、まずは再生なさい。丹波藩の勢力を追い返すのはその後でも遅くはありません」
 その後、冒険者たちに丹波藩部隊が撤退したという事実が知らされた。
 そして冷凍の下にますます冒険者崩れが集まりだしたという報告も受けた。
 丹波藩の正規軍さえ押し返すその勢力‥‥平良坂冷凍の今後の動きや如何に? そして、それに対する丹波の動きは?
 事態は、ますますと激化の一途を辿るのであった―――