【勾玉最終章】標的はビーフ特選隊
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月15日〜04月20日
リプレイ公開日:2007年04月23日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
京都冒険者ギルドの奥にある、わけありな依頼人の相談を受ける部屋。
他の職員や一般人に聞かれたくない話をする場合、ここが使われることが多い。
「で、だ。アルト、もう一度冷凍の屋敷に忍び込んだときのことを説明してくれないか」
「OK。んっとね、部屋に篭ったままおびえてるお手伝いさんたちとか、屋敷の中にちょっとだけ残ってた冒険者崩れをひたすらスルーして、冷凍を探したの。無駄に広いもんだから時間かかっちゃったけど、とりあえず冷凍を発見したわけ」
「それで、どうなったんです?」
京都の何でも屋、藁木屋錬術。
その相棒、アルトノワール・ブランシュタッド。
ギルド職員、西山一海。
三人は、前回の戦いにおいて、精巧なアルトノワールの偽物が現れたことなども含めたこれからへの議論を戦わせていた。
「冷凍を発見して、後ろからふん縛ってやろうと思ったんだけど‥‥あいつ、意外と勘が鋭くてね。見つかっちゃったから仕方なく、正面から対峙したの」
「他に人影は?」
「その時はなかったわね。でね、冷凍ったら、たった一人で私を前にしても、いつもの余裕とか笑いをなくさないのよ。ちょっと頭にきたんで、縄金票で脅してやろうとしたの、そしたら‥‥」
「急に後ろから肩を掴まれ、急に力が抜けて意識を失った‥‥だったか。そいつの顔を見ていてくれれば楽だったのだがな‥‥。足元だけでもいい、この際何かしらの手がかりとなってくれればね」
「ごめん、後ろからきたやつのことはさっぱり‥‥。でもね、私が意識を失う直前、冷凍の声が前後から二つ聞こえたような気がしたわ。もし、そいつが私の偽物に成りすましたやつだとしたら‥‥」
「‥‥えっと‥‥私の想像が正しかったら、凄く恐いことになるんですけど‥‥」
一海は、さっと青ざめながら呟く。
掴まれて力が抜け、意識を失う。それは精気を吸われたということではないのか?
そして、声も姿も完璧と言っていいほど模倣できる者とはいったい?
一見難問そうに聞こえるが、一海だけではなく、藁木屋にもアルトにも予想が付くのだ。
そんな真似が出来る存在は唯一つ‥‥。
「黄泉人、か‥‥」
「森忌のところで何やら画策してるのとは別物ね。まったく、どうなってるのかしら。人間と手を組む黄泉人なんて‥‥」
「それも気がかりですが、まずはあの骸甲巨兵をなんとかしないと。あの防御力と攻撃力はまさに脅威としか‥‥」
「一海君、今は外堀から攻めることを考えないといけないのだよ。奇襲攻撃が失敗した以上、もう骸甲巨兵一体のみと戦うのは不可能だろう。ならばこちらからそういう状況を作り出すしかない」
「まずはビーフ特選隊を倒すのがいいかしらね。果樹王たちと違って、連携が取れてる分、後に回すと厄介だわ」
「今回は、冷凍と果樹王たちが村の制圧に出かけた隙を見計らい、ビーフ特選隊の撃破に回る。姑息だとは思うが、無駄な死人を出さないためにはそこそこ有効な手段だと思っている」
「敵の戦力を削ることが重要‥‥ってことですか。分かりました、依頼書の手配をします」
戦況はお世辞にも芳しくない。
ここでビーフ特選隊に遅れを取れば、冷凍勢力の増長に歯止めが利かなくなるだろう。
そういう意味では、ある意味決戦。
冷凍の野望を打ち砕くため、今回は絶対に負けられない―――
●リプレイ本文
●激闘、再び
「随分と抵抗してくれましたが、これでカリーは6分の間魔法が使えません」
「仕掛けるなら今ね。というか、今しかないんだけれど。そっちの首尾はどう?」
「向ってきた冒険者崩れはあらかた倒しました。後はビーフ特選隊を叩くだけです!」
「回復ならお任せじゃ。どーんと怪我して来てもかまわんぞ! 僕ぁそれしかできんからな!」
丹波藩某所、平良坂冷凍の屋敷近辺。
冒険者一行(含藁木屋)は、ビーフ特選隊に先んじて出撃してきた冒険者崩れをさくっと撃退し、いよいよ本番を迎えようとしていた。
即ち‥‥ビーフ特選隊との、二度目の本格的な戦闘である。
勿論、同じ轍を二度踏むような面々ではない。
対策も連携のチェックも万全で、ベアータ・レジーネス(eb1422)は、サイレンスの魔法の長射程を生かし、カリーの魔法が射程に入る前に沈黙させることに成功。
神木秋緒(ea9150)は、思ったよりも数の多かった冒険者崩れたちに、『貴方達が黄泉人の手下になると言うなら、そう言う対応をさせて貰うわ。手を引くなら今の内よ。今なら、黄泉人に味方した事には目を瞑ってあげる』とあながちハッタリとも言えないハッタリで士気を下げた。
士気が低い状態で、実力の劣る冒険者崩れ程度に、セイロム・デイバック(ea5564)や八幡伊佐治(ea2614)が遅れを取るわけもなく‥‥一行は、6分以内にケリをつけるべく疾駆する!
「‥‥牛殺しが、牛料理に負けてたまるか。全員喰らいつくす」
「確か前に、どんどん卑怯な手を使えとかシチューが言ってたでござるからな。文句は受け付けんでござるよ!」
「ビーフ特選隊ですかー。僕としては、是非とも料理したい名前ですが〜。まー、文字通り料理出来たらいーんですけどね〜」
「ふ‥‥料理、か。料理は心でするものと聞くが‥‥ならば今必要な心は、退かぬ心だろうな」
「虚を突く行動‥‥奇を衒った行動か。やってみせる‥‥!」
山王牙(ea1774)、久方歳三(ea6381)、井伊貴政(ea8384)、蒼眞龍之介(ea7029)、藁木屋錬術。
各々戦闘能力に秀でた凄腕であり、それは冒険者崩れをあっさり撃退したことでも明らかだ。
ビーフ特選隊のような連中を相手にする場合、彼等のような前衛型が多いに越したことはないだろう。
見れば、慌てふためくカリーをステーキが叱責しているようだ。
後は時間との勝負。八幡の回復を当てにして、相打ち覚悟も一つの策か―――
●崩
「ビーフ特選隊の黄色い衝撃‥‥シチュー!」
「ビーフ特選隊の青い旋風‥‥ストロガノフ!」
「ビーフ特選隊の緑の呪縛‥‥カリー!」
「ビーフ特選隊の赤い防壁‥‥ロースト!」
「そしてこの俺が、ビーフ特選隊の―――」
「‥‥聞く耳持ちませんよ‥‥!」
「付き合っていられないでござる!」
ビーフ特選隊がご丁寧にも名乗りを上げようとしているところを、山王と久方がさくっと割り込む。
攻撃自体はそれぞれ阻まれて不発に終ったが、ステーキはお冠である。
「ま、まだ途中なんだぞーーーッ!」
「戦場で堂々と名乗りを上げる方がどうかしてるのよ‥‥!」
「下劣で卑怯な手段に比べれば、この程度の兵法、全く問題などありませんっ!」
神木とセイロムの言うことはもっともであるし、これも充分連携崩しとしては機能するのだからマヌケである。
隊列を崩されたビーフ特選隊はだが、そこはそれ、そういう事態も想定してあるのかすぐに立て直しにかかる。
「いいねいいねぇ、楽しくなってきたねぇ! ちゃーんとお勉強してくるとは偉いねぇ!」
「シチューさんでしたっけー? 料理も戦いもですねー、日々のお勉強が物を言うんですよ〜!」
「ケーケケケケー! お前の相手はこっち‥‥おぉっ!?」
「いいや、ストロガノフ。お前には私の相手をしてもらう‥‥!」
「藁木屋錬術だとっ!? ちっ、カリーの魔法が使えないとそこそこ厄介なやつだ!」
「どこを見ているでござる! ロースト殿、隙だらけでござるよ! ‥‥って、重いでござるな!?」
(「わわわわわー! こ、このままじゃマズイ! 速くサイレンスの効果切れねえのかよー!」)←と言っている
「‥‥カリー、貴様にはビーフはいらん。ビーフ特選隊のミソッカスめ。大人しく此処で落ちろ‥‥!」
「い、いかん! カリー、今助けにいくぞ!」
「させはせぬよ、ステーキ君。天龍の牙‥‥掻い潜れるかな?」
やはり、9対5の戦いは今回も乱戦である。
分断する、と言うだけなら簡単だが、実戦でそれをするとなるとこれが恐ろしく難しい。
冒険者たちも分断させるつもりで動いて逆に孤立しても困るので、優勢とはいえ深追いはしない。
今回は連携をある程度抑えられているし、八幡のグッドラックやセイロムのオーラシールドも間に合っており、完璧とまでは言わないまでも有利な状況を作り出せているが‥‥それでも圧倒できないステーキたちを褒めるべきだろうか?
「やれー。そこだー。いてこませー」
「八幡さん、応援もいいですが久方さんが怪我をしましたよ。回復して差し上げてはどうですか?」
「おぉ、そうか。久方殿‥‥次に久方殿は、『ボケは後回しでいいでござる』と言う!」
「ボケは後回しでいいでござる! ‥‥はっ!?」
「随分余裕あるじゃない。あとでお仕置き決定ね」
「あ、いや、すまん。本気ですまん。ちょっと余裕が出るとボケたがる悲しいサガが‥‥」
「あの〜、どうでもいいですから回復をお願いします〜」
回復を一手に担う八幡。前回彼らと戦ったときはボケる余裕さえなかった分、反動が出たか?
久方、神木、井伊を高速詠唱のリカバーで次々と回復させ、ベアータと共に送り出す。
この回復の際も、前衛が多ければ最小限の隙で行うことが出来る。そういう意味では、このメンバー構成は的確だ。
「た、隊長! こいつはちょいとヤバイですぜぃ! こっちのポーションの数にも限界が‥‥!」
「泣き言を言うなストロガノフ! 我々ビーフ特選隊より強いのは冷凍様だけだ! 俺たちなら骸甲巨兵だって倒せると言っただろう! 相手の動きを良く見ろ!」
「‥‥知ってるの? 平良坂は黄泉人の走狗よ。あの巨兵の事を考えなさい。並みのペットならともかく、あれは明らかに不死者の手が加わった代物。そんな物が人間に扱える訳が無いでしょう?」
「知ったことか! 世の中強いものが全て! 力も金もある冷凍様が例え何者であろうと、俺たちは冷凍様についていくと決めたのだ! 人間でなかったとしたら何だと言うんだーーーッ!」
「呆れた。リーダーがこれじゃ、隊員の程度も知れるというものね‥‥」
しかし、神木もビーフ特選隊の強さは認めている。というか、認めざるをえない。
せめて激昂させ、さらに隙を作れれば。そんな想いなのである。
「よし、喋れる! 6分経ったみたいだぜ! 見てろよ、あの風のウィザードの小僧め! 目に物見せて―――!?」
「‥‥救えませんね。高速詠唱があるんですから、喋れるようになったらすぐに魔法を使えばよかったものを」
今度は2回目でサイレンスが効いたのか、ベアータは再びカリーを黙らせる。
つまりは、いちいち隙が多いのだ。
ビーフ特選隊は確かに強いが、それによる慢心が最大の弱点となっているのだろう。
「カリーちゃぁん、あんまり役立たずだともう一緒に遊んであげないよー?」
「3時のおやつもおまえだけ別だからなー!」
サイレンスの効果を受けているカリーには聞こえていないが、なんとなく雰囲気は察したらしい。
ガードしてくれているローストにしがみつくあたり、なんとなく連中の力関係が伺えた。
「そういう油断が敗北を招くと、なんでわからないんですか!?」
「‥‥隙を見せるほうが悪いんです」
「たまには私も攻撃に転じさせていただこう!」
「藁木屋君、援護する。龍牙!」
「超々重い一撃〜、ローストさんにいってみましょうか〜!」
ここぞとばかりに攻勢に出る冒険者たち。
セイロム、山王、藁木屋、蒼眞、井伊の5人に斬りかかられて、無事に済む人間はそうそう居ない。
いやまぁ、藁木屋は攻撃面ではあまり役に立たないが。
「おぉぉぉっ!? がっ、や、やるじゃなぁい‥‥!」
「ばっ、馬鹿な‥‥! こ、この俺の防御が‥‥!?」
(「ぐ‥‥ぐえっ‥‥!」)
「シチュー! ロースト! カリー! お、おのれ‥‥無事なのは俺とストロガノフだけか!」
ストロガノフは劣化藁木屋のような能力らしく、蒼眞のソニックブームを回避。
ステーキは藁木屋の攻撃を楽々回避したが、ビーフ特選隊のうち3人はかなりの手傷を負ったことになる。
「回復の暇は与えないでござる!」
「ストロガノフは私が抑えるわ。追撃をお願い!」
「君らがッ! 負けを認めるまでッ! 仲間にリカバーするのをやめないッ!」
「なんなら、リーダーさんをアイスコフィンあたりで凍らせてみましょうか?」
戦闘開始前に蒼眞が言った、必要なのは退かぬ心という言葉。あれはまさに言い得て妙だったと思える。
いや、以前戦ったときに退かない心がなかったとは言わないが、やはり勝負には時の運と言うものが存在するのだ。
状況や参加する人間が違えば、当然結果も違う。骸甲巨兵などの脅威がなければ、杞憂なく戦える。
足りない腕前を連携で補っていたビーフ特選隊ではあったが‥‥カリーが何の役にも立てなかった時点で、彼らの負けはすでに決まっていたのかも知れない。
「いくら硬い素材でもですね〜、叩き続ければ大概柔らかくなるものなんですよ〜」
ローストは、井伊が。
「‥‥止めです。まぁ、命まで取りますまい‥‥」
カリーは、山王が。
「あなたの一撃‥‥骸甲巨兵には遠く及びません!」
「声がでかくて五月蝿いですからね。凍らせるのは彼にしましょう」
シチューは、セイロムの攻撃で弱ったところをベアータが。
「いくら素早くても連携が取れないなら蝿と同じ。あなた、藁木屋さんにようにバックアタックも覚えてないしね」
「捕まえたでござるよ。こうなったら後は締め上げるだけでござるからな!」
ストロガノフは、神木が相手をしているところを合流した久方が。
「ふぅ‥‥中々上手くはいかないですな。蒼眞殿たち師弟コンビのようには動けません」
「充分だったよ藁木屋君。それに、君にはアルト君が居る。彼女とならまた違うはずだ」
ステーキは、藁木屋が掻き回しているところを蒼眞が仕留めた。
殺してこそいないが、全員丹波藩に突き出されたので、もう冷凍の配下として立ちふさがる事はあるまい。
これで、冷凍の戦力はかなり削れた。あとは果樹王たちをなんとかできれば、骸甲巨兵を残すのみだ。
急がなくてもいい。
今回のような場合‥‥一歩一歩、確実に事を運ぶのが大切なのだから。
「つまり、あれだ。『どんな手を使おうとも、勝てばよかろうなのだァァァ』ってことじゃろ」
「‥‥台無しですね」
「台無しですな‥‥」
影の功労者、八幡。
彼も含めて、各々忙しい中、最善を尽くそうと努力した結果であった―――