【五龍伝承歌・参】沈黙する風
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:7 G 21 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月18日〜03月26日
リプレイ公開日:2007年03月26日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「それで、結局森忌さんはどうなったんです? なんか森に引きこもるみたいなこと言ってたみたいですが」
「うん、言葉通りあれから出てこなくなったみたいよ。ただ‥‥ちょっと事態が悪化しちゃってるのよねぇ‥‥」
ある日の京都冒険者ギルド。
ギルド職員である西山一海と、京都の何でも屋の片割れ、アルトノワール・ブランシュタッドは、丹波の北部で起こった事件‥‥森忌のことについて話し合っていた。
そして、ふとアルトノワールが漏らした『事態の悪化』という言葉に、一海は面食らう。
「悪化? まさか、例の村から依頼が来ないのと関係あります?」
「そ。錬術が帰ってくれば詳しいことが分かるはずだけど‥‥」
と、タイミングよく藁木屋錬術がギルドに顔を出した。
しかし、その表情は険しい。
「あ、藁木屋さん。何か分かりました?」
「‥‥困ったことになった。あの付近の村では、ギルドに依頼を出すことを中止にするつもりらしい」
「‥‥はい?」
「単刀直入に言うと、村人たちに森忌を擁護する気がなくなってきているのだよ。それと同時に、冒険者に対する不信感も同時に上がり、頼ることを疑問視する声が多くなっている」
「あーらら‥‥予想通りね」
「な、なんでですか!? 私にはさっぱり理解できません!」
「簡単よ。冒険者たちが妙に森忌寄りの考え方だから、不信感が募るわけ。だって、現地に住んでるわけでもない冒険者が、なんであそこまで森忌を信じる必要があるの? また、信じるに足る理由があるの? なにか森忌と口裏合わせて‥‥もしくは利用して、妙なことでも企んでるんじゃないかってなるわよ。普通は」
「‥‥なりますかぁ? 私はそんな風に思いませんけど」
「なるのだよ。得てしてそうなる。危機が近くにある弱者の気持ちは、その立場になければわからんよ」
つまるところ、もう村からは『森忌を宥めてくれ』という主旨の依頼はもう出まい。
かといって、冒険者に不信感を持っていると言う以上、『森忌討伐』という依頼も出されないだろうが。
「今回は私たちが依頼を出す。今は騒動が起こっていないが、逆にその分黄泉人の調査に当たれるのではないかと思っている」
「そう! 黄泉人ですよ! 村の人たちに黄泉人のことを説明すれば‥‥」
「無理無理、信じるわけないでしょ。今の村人たちが居るかどうかも分からない犯人の話を信じると思う?」
「‥‥‥‥」
「信じることは美徳だ。しかし、『信じられない人間』には、『それを信じている人間すらおかしく思える』ということを忘れてはならない。例えば一海君も、ジーザス教の信者を少なからず妙に思うだろう?」
「う‥‥」
「そういうことなのさ。過度に信じることは周りの不信感を煽る。特に弱者はその傾向が強い。覚えておくといい‥‥妄信も過信も、信じることには違いないのだから」
藁木屋の言葉に、何か言い返したかった一海だったが、上手く言えないので敢えて口を噤んだ。
しかし、一海は思う。
それでも‥‥信じ会うことができるのが、ヒトの強さなのではないかと―――
●リプレイ本文
●森忌の迷い
「森忌のダンナ〜、もちっとの辛抱っすぜぇ。近いうちに派手な喧嘩をやれそっすからよぅ」
「森忌様、どうか御自重を。ここで森忌様が暴れるようなことがあれば、全て無に帰すのですから」
「ほ〜ほっほっほっ。まぁ、あなたが大人しくしてさえいれば、わたくしも見逃して差し上げてよ!」
「あのね‥‥お願いだから自重してくれないかしら、本当。あ、森忌に言ってるんじゃないのよ?」
『きさん等、ワシを宥めに来たのか焚きつけに来たのかどっちじゃあッ!?』
丹波藩北部にある、五行龍・森忌の住み着いている森。
なんとか森忌と村人たちとの仲を取り持とうとしている冒険者のうち、伊東登志樹(ea4301)、御神楽澄華(ea6526)、ぱふりあしゃりーあ(eb1992)、南雲紫(eb2483)の4人が直接森忌に会いに来ていた。
名前こそ覚えていないものの、伊東は大分森忌の記憶に残っているらしく、森忌が割と素直に話し合いに応じたのである。
「勿論宥めに来たってもんでさぁ。本当は八卦衆とか丹波一家の衆に話を通したかったんですがねぇ、こっちにゃほら‥‥あいつがいるじゃあねぇですかい」
と、小声で伊東が指差したのは、同じ冒険者のパフリア。
『あぁ‥‥あんのアーパーか。嫌いじゃないが頭に来る女じゃからのぉ』
「でしょ? だからせめて、旦那に一番覚えがいいであろうあっしもこっちに来たってわけでさぁ」
「‥‥何か馬鹿にされてるような気がしましてよ?」
「き、気のせいですよ。パフリア様」
伊東と森忌だけがこそこそ話をしているのを見て、訝しげな表情をするパフリア。
話の内容の予想があっさりついた御神楽は、フォローに必死である。
御神楽の存在は、地味ながらも絶妙な緩和剤になっているようだ。
『まぁえぇわい。最近は森に踏み入ってくるやつもおらんし、ワシも森の外に出とらん。ついでに、森の中もあちこち探してみたが、怪しいやつや死体は見つからんかったぞ』
「随分殊勝な態度ですわね。どういう風の吹き回しでございますこと?」
『ぃやっかましい。正直疲れただけじゃい‥‥刃鋼の姐御にも釘をさされたしのぉ』
「刃鋼? まさか、頼んでみようとは思っていたけれど、頼む前に動いてくれるなんてね‥‥」
『どっかで噂を聞きつけたらしくてなぁ。月夜の晩に飛んで来て、小言言われたわ』
「へへっ、いいタイミングじゃねぇか。だから森忌のダンナも大人しくしてるってわけか」
『刃鋼の姐御には頭が上がらんからな。それに‥‥熱破や氷雨の小僧、芭陸たちにも迷惑が及ぶとなれば、それは漢としての仁義に欠けるってもんじゃからのぉ』
「さっすが森忌の旦那だ! チンピラ道を理解してるぜ‥‥!」
「よかった‥‥私などが申し上げなくとも、事態を重く見てくださっていたのですね」
にっこり微笑んだ御神楽が差し出した蜜柑を、森忌は一瞬躊躇してからだがパクついた。
正直、ついこの前毒入り蜜柑を食わされた身としては、しばらく蜜柑は遠慮したかっただろう。
とはいえ、この時期に用意できる果物などさして種類が多いわけも無く‥‥。
『‥‥きさん等まで毒を盛るようじゃったら、もうヒトとなんぞやっていけんわな‥‥』
「はい? 何か仰いましたか?」
『なんでもないわい。ほれ、次出さんかぃ』
「森忌‥‥」
刃鋼にも言われた、自分からの歩み寄り。
不信感を元に対立している村人たちが差し出してきたなら問答無用で突っぱねるところだが、わざわざ遠方から自分たちを和解させようとやってきた面々まで疑っていては、どん詰まりもいいところである。
一人でじっくり‥‥誰にも邪魔されずに考えた結果、森忌はそういう結論に行き着いたのだ。
そんな森忌の行動を、南雲は目ざとく察知する。
そして、それがたまらなく嬉しく‥‥また、悲しくもあり哀れでもあった。
「ほ〜ほっほっほっ。頭が悪いと聞いていましたが、中々どうして聞き分けがよろしいですわね!」
『‥‥ぉい、チンピラ。あの女を殴り倒したいんじゃが構わんな?』
「気持ちは分かる! 気持ちは分かるんだが耐えてくだせぇ! あいつはああいうやつなんでさぁ!」
「後で言って聞かせるから、私に免じて。お願い‥‥」
「私が代わりにいくらでも謝罪いたしますので! どうか抑えてくださいませ!?」
「‥‥なんだか馬鹿にされているような気がするのですけれど」
自覚が無いと言うのは恐ろしいことである。
「ところで森忌さん。折角の機会なので、内緒のご相談があるのですけれども」
「‥‥お、お願いしますから事態を悪化させないでくださいね?」
「森忌の旦那を怒らせるような真似だけはするなよ!?」
「まずは私に話してみない? ね?」
「わたくしどれだけ信用が無いんですのっ!? 別に悪い話ではありませんわよ!」
『わかったわかった。聞いたるからさっさとせぇ』
森忌も呆れ気味でそれを受け入れ、二人の内緒話が始まった。
ただし、いつ実施しようと言う確約はできなかったことを付け加えておく。
結局伊東と御神楽と南雲はその内容を教えては貰えなかったが、それが返って不安を掻きたてたという―――
●村の迷い
「これまでの経緯は、これまでの説明でご理解いただけたかと思います。どうやら風精龍を悪しき目的で利用しようとする者が存在し、今回の事態もそうした者の仕業である可能性が高いのです。具体的にその者は森忌殿と人間との仲違いを狙っているのではないかと予想され、それ故私たちは、それを阻止すべく動いています」
島津影虎(ea3210)の丁寧な説明で、集会所に集まった村の重役たちは小さく唸る。
直接的な犯人像は言及しなかったが、今までのことをきちんと整理して考えれば嘘と笑い飛ばすこともできまい。
「普段後始末っていうか目立たない役が多い分、島津さんが率先して行動してると違和感があるわねぇ」
「否定はしないが、今はそんなことを言っている場合ではないだろう。そっちの首尾はどうだ?」
「ブレスセンサーを使った限りでは、全員呼吸しています。黄泉人が呼吸と言うものをできないならば、全員シロです」
「‥‥つまりそれは、黄泉人が普段は息をしていなくても、息をする真似事が出来れば誤魔化されるということですね」
ヴァージニア・レヴィン(ea2765)、琥龍蒼羅(ea1442)、ベアータ・レジーネス(eb1422)、山王牙(ea1774)。
彼等は島津たちの後ろに控え、小声で会話している。
ブレスセンサーでの確認も、確証が取れないと言うのではあまり意味が無い。
山王の用意した鍋パーティーセットだけが、軽快にグツグツ音を立てていた。
「ところで琥龍さん、森忌さんのところへ行く予定だったのでは?」
「‥‥そのつもりだったんだが、どうもパフリアが苦手でな。あの非合理な言動にはついていけない」
「‥‥分かる気がします。あちらは南雲さんと御神楽さんに抑えていただきましょう‥‥」
その南雲の言伝でヴァージニアが質問し、答えてくれた村人によれば、まず怪我を負った旅人が村にやってきて、それを権助(例の死体の人)が介抱し、家に泊めた。
旅人は数日間村に滞在していたが、その間も権助は普通に生活していたのが確認されている。
やがて旅人は姿を消し‥‥権助が死体で発見されるまで、村人は彼が生きているものだとばかり思っていた。
では、カラカラになるまで放置されていたということは、よほど前に殺されたのか?
いや、それなら白骨化しているだろう。ミイラ化しているのはおかしい。
「‥‥どうだろう、電路。八卦衆として‥‥丹波藩としての意見を聞きたい」
琥龍、島津を筆頭に、村からも丹波藩から公正な立場の見届け人が欲しいと言う陳情をし、八卦衆・雷の電路を派遣してもらうことに成功。
笠を被っているので表情は分からないが、雰囲気は深刻だ。
「‥‥現場の判断で軽々しいことを言うのは好ましくないが、確かに何者かの存在を感じるぜ。それも、人ならざる何か‥‥ってやつだ。やれやれだぜ‥‥」
とはいえ、丹波藩から森忌と仲良くしろとは言えない。また、言っても村は従うまい。
そう言って電路は被りを振る。
「‥‥何故ですか? 森忌様は話の通じる精霊様です。少々乱暴なところはありますが‥‥」
「丹波藩にとって、精霊も妖怪も大差がないのでしょう。仲良くしろと言い渡して、万が一森忌さんが心変わりをして民に被害があれば、藩としての面目も潰れる‥‥そんなところでしょう」
「山王さん、ベアータさん、もう少し言葉を謹んであげてください。電路さんも意地悪をしたいわけではないのです。考えても見てください。友達というものは、友達になれとか、なろうとか言ってなるものではないでしょう? それと一緒です」
島津に言われ、山王とベアータは大人しく引き下がる。
「難しいわね‥‥藩としては、黙認が精一杯。暴れれば退治する。そういう対応しかできないのよね?」
「‥‥今のところはな。しかし、豪斬様は刃鋼と熱破と氷雨に関しては心配ないだろうと言っている。近隣の村と、誰に言われたわけでもなく順調にやっているわけだからな」
つまり、この事件を乗り越えられれば、森忌も丹波からのお墨付きが貰えるという事だろうか。
と、その時である。
「ここかな!? みんな、来て! 村の外れで怪しい人影を見たんだ! まだ気付かれてないはずだから、手を貸して!」
『!!!』
熱破のところに寄ったり、一人隠密行動をしていた少年忍者、草薙北斗(ea5414)。
彼が突然集会所の扉を開け、駆け込んできたのである。
一行は頷くと、電路も含めて一斉に駆け出した―――
●蠢く影
「見える? 南雲さんがこっちにいてくれればよかったんだけど‥‥」
「‥‥上手く隠れているな。少なくとも頭巾か何かを被っているように見えるが‥‥」
「怪しさ満点ですね。どうしますか? これ以上近づくと察知されると思いますが」
「魔法も控えた方がいいでしょうね。発光でバレる可能性があります」
「‥‥斬り込むしかないでしょう。この距離でも、全力で近づけば機先を制することができるはずです」
頷きあい、今にも飛び出そうとする5人を前に、ヴァージニアが優雅に微笑む。
「みんな落ち着いて。まず先に、私の魔法を使いましょう?」
「ヴァージニアさんの魔法って‥‥メロディー?」
「違うわよ。ム・ー・ン・ア・ロ・ー。射程も充分、黄泉人って指定して撃って、当たれば確定よ。ね、電路さん」
「‥‥なるほど。俺に黄泉人が絡んでいるという証人になれということか」
「そういうこと。飛び出す準備はいい? ムーンアロー‥‥指定は『黄泉人』!」
ヴァージニアが放ったムーンアローは、真っ直ぐに不審人物へと向かい‥‥!
「当たった! 間違いない、黄泉人だよ!」
「‥‥駄目だな。追えない」
「琥龍さん、どうしてですか?」
そう、不審人物はムーンアローが迫ってくる段階でこちらの存在に気付いた。
そして、あっという間に森に姿を消したのである。
「確か、あの黄泉人はリトルフライの魔法が使えたはずですね。森に隠れつつ空を飛ばれては後始末もままなりません」
「‥‥そのために森の近くで様子見ですか。悪知恵の回る‥‥」
結局黄泉人は逃がしたが、草薙の作戦で不審人物を発見、ヴァージニアの魔法で黄泉人と断定、琥龍と島津の提案のおかげで丹波藩士の電路に黄泉人の介入を認めさせると、大収穫であった。
すぐに結果は出ないであろうが、森忌とパフリアの会話内容も気になるところである。
手探りの状況から一転、各々の策が上手く共鳴し合い勝ち得た結果。
果たして、ここから一気に事態が進展するのであろうか―――