【五龍伝承歌・肆】関係

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 95 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月13日〜07月19日

リプレイ公開日:2007年07月20日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「はいぃ? 教会ぃ〜?」
「そ、そんな、思いっきり疑わしそうに、返さないで、ください‥‥(汗)」
 京都冒険者ギルドの一角。
 ギルド職員の西山一海と、京都の情報屋の片割れ、アルトノワール・ブランシュタッドは、丹波藩で起きている新たな五行龍関連の事件について話していた。
 前回の調査の結果を纏めた一海が、藁木屋の代わりにやってきたアルトにそれらを説明したところ、彼女は『その建物は教会ではないか?』と言い出したのだ。
 日本で教会。しかも木造。更に、奇妙奇天烈な森の中。どうもその線は薄そうな気がするのだが?
「え、えっとですね‥‥まず、形が正六角形というのは、イギリスの教会に、たまに見られる仕様‥‥なんです。付け加えて、入口に、伽藍堂があったんですよね? それも、教会に、見られる部分‥‥なんですよ」
「偶然の一致‥‥と言いたい所ですが、例の木造建築はちょっと聞くだけでも日本の建物と違う造りみたいですもんねぇ。しかし、件の建物が教会だとしたら‥‥」
「は、はい。遥か昔に、日本にやってきた宣教師‥‥もしくは、隠れジーザス教の人たちが、建てたのかも‥‥」
「それにしちゃあ物騒すぎやしませんか? 意味不明な視覚状況だの、読経だの、目玉だの、寒さだのは要らないでしょう」
「そ、それは‥‥うーん‥‥」
 巨大な建物だということは分かった。そしてそれが、日本の建築様式ではなさそうだということも。
 しかし、そこまでなのだ。現状ではこれ以降のことは推し量ることしか出来ない。
 付近の村は勿論、陰陽寮にも資料が残っていないというこの秘匿具合‥‥謎は深まるばかりである。
「とりあえず、建物に到着するまでに時間がかかるんですよね。その上寒さで体力、読経で精神力を削られるわけですから、そりゃ調査も進みませんよ」
「朝になって、建物が、消えて‥‥また、次の夜になったら、脱出できれば‥‥いいんですけどね‥‥」
「前例が無いんで危険ですね。もし試して『ありゃー、帰ってこられなかったかー』じゃ済みませんし」
 そもそも、次の夜になって帰ってこられるなら、行方不明者の何人かが帰還するだろう。
 流石に消えた人間全員がそれに思い当たらなかったとは考えにくく、むしろ屋敷に潜む何かに害されたと考える方が自然。
 何か、ないだろうか。このまま手を拱いていると、芭陸が愛想を尽かすか、勝手に独自行動を取る可能性も出てくる。
 芭陸が求めるのは、平穏。他の誰にも干渉されない平穏‥‥。
「‥‥でも‥‥それって、寂しい‥‥ですよね‥‥? 私は、錬術がいてくれれば、いいけれど‥‥芭陸さんには、誰も‥‥いないんですから‥‥」
「世の中、辛いことがあるから楽しいこともあるんです。他人との関係も、煩わしいことがあるから素敵こともあるんですけどねぇ。芭陸さん、分かってくれるといいんですけれど‥‥」
 孤高か、孤独か。土角龍・芭陸はどこに行くというのだろう?
 今はまだ、恐怖を乗り越えつつ三度森に向う他はない―――

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb2898 ユナ・クランティ(27歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

物見 昴(eb7871

●リプレイ本文

●昔語り
「そういえば、芭陸殿は『失うものは何も無い』と仰っていましたが、我々が失いたくないものには、芭陸殿も含まれていると言う事はお忘れなく」
「芭陸さんの、人が嫌い、人に関心がないっていうのは昔に関心があった反動とか? 封印として使われる時かその前に何かあった? どうでもいいなら話しても話さなくても同じ事でしょ。私達の意識を恐怖からそらす為に、昔話をお願いできないかしら?」
 丹波藩南東部、件の森。
 薄至異認の森と呼ばれる古代の術が発動した森は、中にいる人間の視覚をさながら万華鏡を覗いたかのように変化させ、通常の歩行すら困難にさせる。
 三度この森に足を踏み入れた島津影虎(ea3210)、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)を始めとする冒険者たちは、闇夜と押し寄せる寒さと戦いながら謎の教会(?)を目指して進む。
 その道中、恐怖や寒さで錯乱する確率を少しでも下げようと、ヴァージニアは芭陸に昔話を要求したわけだ。
 芭陸が動きを止めてぽかーんとしていたので、冒険者仲間も続けて声をかけた。
「それはええじゃなぁ。微妙なお年頃な芭陸のことを知りたいもんだ」
「前回はいささか物足りなかったですから〜、今回は楽しいお話の一つも聞かせていただきたいですね♪」
「着ぐるみでの防寒も役に立たないようです。何か気を紛らわせるものが欲しいものです」
 八幡伊佐治(ea2614)、ユナ・クランティ(eb2898)、ベアータ・レジーネス(eb1422)。
 まだ薄至異認の森が発動してから間もないため、寒さも深刻と言うほどではない。
 しかし、純粋に芭陸の話を聞いてみたいという思いもある一行は、やんわりとだが芭陸に願った。
 芭陸は少し考え、答える。
『‥‥なるほど。どうでもいいなら話さなくても話しても同じこと‥‥ですか。確かに』
「‥‥では、芭陸様。お話を聞かせていただけるのですか?」
「聞きたいです。芭陸さんの昔話」
「聞かせてもらいたいものだな。お前の奏でる風を‥‥」
 山王牙(ea1774)、神楽聖歌(ea5062)、琥龍蒼羅(ea1442)。
 期待の眼差しを一身に受けた芭陸は、溜息を一つ吐いた後に語り始めた。
 自分が封印される前‥‥言葉すら知らない頃に起こったことを―――

 芭陸は元々、東北地方で発現した、小さな土の夜刀神であった。
 精霊には両親というものがなく、たった一匹で生きていかねばならない状況であったという。
 人語もわからず、脆弱な夜刀神の身ではあったが、性格自体は昔から変わっていなかったので特に人里に関わることもなく、テリトリーと定めた山の巣で目的もなくただただ生きていた。
 そんな風に人々に全く知られず存在していても、一応身体は長い年月の間に成長していく。
 自分の生死にも成長にも興味はなかったが、何の理由も無しに死ぬのもそれはそれで癪だと芭陸は考えた。
 そういう自分の性格に疑問を感じたことはないし、また嫌悪したこともないと芭陸は言う。
 そして、時は過ぎ‥‥芭陸もすっかり今ぐらいの大きさに成長した、とある日の事。
 何の気まぐれか久々に外に出てみようと思った芭陸は、数ヶ月ぶりに巣の外へ出た。
 テリトリーの山を這い回り、無意味に山中をぶらつくこと2時間。そこで芭陸が見つけたのは、行き倒れた少女であった。
 何度か見かけたことがある。これはヒトと言う生物だ。そう思い当たった芭陸は―――
「喰ったってわけだ!」
 ごずっ!
 伊東登志樹(ea4301)がいらないボケをかましたので、ステラ・デュナミス(eb2099)が全力のボディブローによるツッコミをかまして黙らせる。
「ごめんなさい、続けて。ふん縛っておくから」
「う、ぉぉ‥‥い、ひ、酷く、ねあぼっ!?」
 伊東の断末魔を無視し、芭陸は続けた。
 少女を見つけた芭陸は、自分の巣に連れて帰った。自分でも理由はよくわからないが、気まぐれだろうと言う。
 しかし、いざ連れてきてから考えると、この行為はデメリットしかない。
 まだ生きているのは分かっていたので、目を覚ましたら厄介なことになるであろうことは容易に想像がついた。
 不意に、芭陸の精霊としての本能が告げる。『無闇にヒトに手を出すな。巡って我が身を滅ぼす』。
 それは精霊と言う存在そのものに受け継がれたメッセージであるかのように、芭陸の頭に鮮明に入り込んで振り払えない。
 やがて目を覚ました少女は、最初こそ恐がっていたものの、すぐに芭陸に慣れてしまった。
 道に迷って行き倒れていたということだけジェスチャーで理解した芭陸は、2、3日彼女を巣に住まわせた。
 芭陸にとって、初めて触れ合う人間。姿形も、言葉さえも理解できない異形の種。
 それでも芭陸にとって、少女との時間は決して不愉快なものではなかったという。
 やがて回復した少女は、「ありがとう、大蛇さん。最後だから、あなたにお名前を付けてあげる。そうすれば私は、あなたを忘れない。あなたも、私を忘れないでいてくれるでしょう?」と笑った。
 芭陸はこの数百年後に、少女が妙齢であったこと、あの表情が『笑う』という表情であったことを知ることになるのだが、それはまた別の話である。
 少女は少し考え、言う。
「私の名前、『梨句』っていうの。だから、大地って言う意味の『陸』でどうかしら。あぁでも、二人とも『りく』じゃ変よね。じゃあ‥‥あの花の一字を貰って、『芭陸』。ば・り・く‥‥でどう?」
 たまたま見かけた芭蕉の花を指差し、自分に何やら言ってくる少女。
 言葉の意味は理解できない。だが、自分を指差して『ばりく』と言っている。
 ‥‥名前? そういえば、知らない。精霊である芭陸には、明確な自分の名というものがなかったのだ。
 それを、この少女がつけてくれたというのか。
 その『芭陸』というのが、自分が自分である故の名前なのか。
 言葉も話せない。笑って返すこともできない。また、そういう行為自体を知らない芭陸。
 ただゆっくり‥‥頭を下に振り、頷いたような態度を取ることしかできなかった。
 しかし、少女はそれに満足したのか、手を振って山を降りていった。
 残された芭陸は、少女が残した芭陸と言う名前と、出所不明の喪失感を抱きつつ、今までと変わらない生活に戻る。
 芭陸は言った。刃鋼に言葉を教えてもらった後、あの時ほど人間の言葉を理解していたかったと思った時はないと。
 あの時、少女が一人で呟いていた言葉の半分も理解できていればと、今でも思うという。
 少女が下山して数日。たまたま飛んでいた二匹の鳥が話していた内容を聞いて、芭陸は脇目も振らず山を二つ越えた。
 テリトリーを逸脱しての行動は未経験の芭陸であったが、未見の地であろうとなかろうと行かねばならない‥‥そんな衝動に駆られ、柄にもなく全速力で移動した。
 目指すは、自分とは別の大蛇によって苦しめられているという村。
 大蛇。村。毎年。子供。生贄。今年は。最高齢。関わった。大蛇。話。数日後。
 鳥たちの言葉は、人間たちのそれより幾分か分かりやすい。
 聞こえてきた単語を組み合わせれば、当時頭のよくなかった芭陸にも答えは推し量れる。
 自分は梨句以外に存在を知られていない。
 つまりはこの近くに自分以外の大蛇がいて、そいつが毎年、生贄に差し出されたヒトを趣味嗜好で食べているわけか。
 今年の生贄は、あの少女ではないかもしれない。でも、あの少女だったら? 来年は?
 そう思うと、芭陸にはじっとしていることができなかったのだ。
 やがて、なんとか『その日』に村に辿り着けた芭陸は―――

『‥‥見えました。例の建物です』
 芭陸の声に、全員が芭陸の指した方向を見ると、そこには確かに例の木造建築。
 皆芭陸の話に聞き入ってしまっていて、寒さも目玉もそんなに気にならなかったようだ。
『話の続きはまたの機会にしましょう。みなさんは別に小生の話を聞きに来たわけではないはず。さっさと面倒ごとを終らせて帰りたいでしょう、あなたがたも』
 やる気のなさそうな芭陸の声。しかし、一行の耳にはそれが寂しそうに聞こえてしまうのは気のせいだろうか?
「芭陸さん。まだ話を全部聞いたわけじゃないから、偉そうな事は言えないけれど‥‥でもね、」
「あらあら、ステラさんは野暮ですのね。芭陸さんはご自分で色々考えた後に今の考えに至ったのですから、他人がどうこう言うことではありませんわ♪」
『‥‥そういうことです。流石ユナさんは小生の気持ちをよくお分かりで。さぁさぁ、無駄話してしまいましたから急ぎますよ』
 しぶしぶと木造建築の扉を開け、中に入っていく一行。そして芭陸が入ろうとした時、ユナがこっそりと囁いた。
「でも‥‥相談できる方が誰もいなかったのは、不幸なことですわ―――」
『‥‥‥‥』
 かくて、本題ともいえる建物内部の調査が、今始まる―――

●血の教会
 建物内に入った一行は、班を2つに分けて行動することにした。
 教会内部の探索をするのが6人と、入口付近で待機し、拠点防衛するのが4人。
 芭陸は探索組みについていくことにしたらしいが、通れないところがあったらどうするつもりなのだろう?
「‥‥まさに命綱となるかもしれません。みなさん、管理をよろしくお願いします」
「薄至異認の森が空間を対象とするのであれば、教会内部も森同様に空間の歪みなどで迷宮化していると言う事も考えられるからな。帰れませんでは話にならん」
 山王が大量に持ってきたロープを繋ぎ、命綱を作る。
 一方、ヴァージニアがステラの協力の下、島津を対象に超範囲のテレパシーを発動、通信手段を確保した。
「500mを越えると会話が出来なくなるから、一旦戻ってきてね」
「わかりました。後始末は無理をせずが基本なのでご心配なく」
 やがて探索組みと芭陸が奥の通路へと姿を消し、待機組みだけが入口付近に残される。
「なんだこりゃ。木で出来てるように見えるが随分と硬いじゃないか。壊すのは無理そうか‥‥」
「八幡さんが外に結んだロープや入口にも変化なし‥‥と。待機組みは持久戦かしらね」
「こちらは4人のみ‥‥正直厳しいですけど、全員で突っ込んでいくのはリスクが大きいですし‥‥」
 何気にハーレム状態でウキウキしている八幡だが、調べることはしっかり調べる。それが八幡クォリティ。
 何事もなく時間が過ぎ、テレパシーの効果時間も切れて久しくなった頃‥‥それは突然起こった。
 ギギ‥‥という音にぎくりとして、入口を見たときにはもう遅い。バタンと扉が閉まり、一行を閉じ込めた!
 そして閉まった開き扉には、両方の扉にまたがり、赤黒い色で大きな『死』という文字が書かれている。
 その下方には、同じく赤黒い色の何条もの筋が滅茶苦茶に奔っていた。
「こ、これは‥‥まさか‥‥!?」
 口にするまでもない。過去に閉じ込められた行方不明者が、何とかしてこの建物から脱出しようと、爪が剥がれても必死に扉を引っかいた跡だろう。無論、結果は推して知るべしだ。
 急速に噴出してきた恐怖に、八幡が2、3歩後ずさる。
 しかし、僧侶である彼の第六感が働いたのか、背後に何かがいると察知。恐る恐る振り向くと‥‥!
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
 八幡が絶叫を上げるのも無理はない。八幡の背後‥‥というか4人の後方には、いつの間にやら多数の怨霊が群れをなして近づいてきていたのだ。
 しかもそれが、ただの怨霊ではない。普通の怨霊は青白い炎のような外見なのだが、この怨霊たちは人の姿を保っている。
 ある者は血を吐き、ある者は眼球の抉り取られた目から血の涙を流し、ある者は首がなく。
 そんな、見るも無残な姿の青白い人間の姿で、一斉にゆっくりと近づいてくる。
『痛い‥‥』
『苦しい‥‥』
『暗い‥‥』
『助けて‥‥』
 口々に救済や怨嗟の声を上げ、4人を仲間に引き込もうと襲い掛かる。
「いや‥‥嫌ぁぁぁ! 来ないでぇぇぇっ!」
「あ‥‥あ、あぁぁ‥‥!」
 こう言っては何だが、ステラもヴァージニアも‥‥八幡も神楽も、死人憑きなどのアンデッドモンスターは見慣れている。
 しかし、恐怖心を煽り、増大させる薄至異認の森の中では、建物の中であってもその効果を逃れられない。
 まるで冒険者になりたてでアンデッドと遭遇したかのような恐怖感。足が竦んで、動けない‥‥!
 4人は確信する。かつての行方不明者も、こんな正気を保つのがやっとの恐怖に襲われ、怨霊の仲間入りをしたのだと。
 それでも‥‥彼等4人は違う。ステラたちは何の力も持たない一般人ではないのだ。
「う‥‥うあぁぁぁっ!」
 アイスブリザードで怨霊を薙ぎ払うステラ。それはいつもの彼女にある優雅な仕草とはかけ離れた破れかぶれの攻撃であったが、今は体裁を気にしている余裕がない。
 ヴァージニアが恐怖を必死に抑えてメロディーを使い、幾分かマシにはなったが、到底本来の力は出せないだろう。
「くそっ、僕としたことが醜態を晒したもんだ! しかし、このままでは多勢に無勢だぞ‥‥!」
 八幡が呟いた時、正面の拱門から足音が響き、前衛組みが戻ってくる。
 例によって、琥龍、ユナ、芭陸はさほど驚かなかったが、他の4人は錯乱こそしないものの状況に圧倒されていた。
「な、なんだこいつら!? えぇい畜生、せっかく森忌のダンナに気合入れてもらったんだ! ビビッてたまるかよッ!」
「これが、死人‥‥本当の死人の恐怖‥‥! いやはや、初心忘れるべからずとはよく言ったものです‥‥!」
「‥‥震えるな‥‥私の手よ。この程度、幾度となく乗り切ってきたはず‥‥!」
「敵の数、更に増大中。一旦この場を放棄し、囲まれることを避ける事を進言します」
「あらあら、どこに逃げるんですの? 私たちが探った区域に、新たなモンスターが出ていないとは限りませんわよ♪」
「確かにその通りだが、何故嬉しそうにするんだ、お前は」
『やれやれ‥‥やはり無駄話が過ぎましたかね。仕方ありません、手伝いますからこの雑魚を蹴散らしますよ』
「‥‥芭陸。悪いが彼等も被害者のようだ。雑魚などと呼ぶのは遠慮願いたい」
『‥‥御随意に』
 珍しく芭陸が協力を進言し、一行は入口付近の怨霊の掃討にかかる。
 恐怖に駆られ、実力を出し切れないながらも、一同は善戦したが‥‥如何せん怨霊は無限に湧いてくるかのように出てくる。
 仕方なく芭陸が入口の扉をぶち破り、脱出する運びとなったが‥‥振り返った一行が見たのは、まるで時を戻すかのように元通り修復する扉であった。
 気付けば、夜明けはまだまだ遠い。そんな短い時間しか木造建築の中には居なかったのだ。
 しかし、成果は0ではない。比較的落ち着いた後、探索組みが重要なことを掴んだと報告する。
 即ち‥‥あの教会は、十七夜が‥‥いや、黄泉人が絡んだ施設である、と―――