【大掃除】 ワイン倉の掃除
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■シリーズシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月14日〜10月19日
リプレイ公開日:2006年10月23日
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●オープニング
「今年の葡萄のできはいかがざますか?」
ザマス・ザマスが執事にそんなことを尋ねてきたのは、秋も深まった、ある日のことであった。男は、額にしわを寄せながら読んでいた書類から目を離し、にっこりと笑う。
「まだ、今年は雨がすくなかったせいか、粒のひとつひとつは小粒ですが、甘味が凝縮されたものになったとのことですよ」
そう言って、執事は机の上のグラスのワイン――今夏にザマス家の畑でとれたものの出来を見るために酒蔵から取り寄せたものだ――をもちあげ、言葉とは裏腹に、すこし残念そうな表情をした。瓶にも手をやるが、手にしたとたん、これまた落胆したような表情を目元に浮かべる。老婆が笑った。
「そうざますか。それはよかったざます」
ほっと胸をなでおろしている。
「ドレスタットの方ではドラゴンの襲来やら、名を口にすることすらはばかれる者どもの跳梁やらで、昨年はさんざんだったざますからね」
「まったくです。そのせいで、あのあたりの封土の年貢をすくなくされて‥‥おかげで、我が家の財政の苦しかったこと‥‥よくも、赤字にならなかったものですよ‥‥」
「なにかいったざますか?」
「いえ、なにも――おや、なんだい?」
「あの‥‥」
という声がして、メイドがおずおずとドアから顔をのぞかせた
「そのワイン倉なんですけれど‥‥」
「帰ってきたのかい? どうしたのだ?」
それはザマス家が所有するワイン倉の村に実家――その地域の名家である――がある娘であった。
「帰郷したときに聞いたんですけど、時々、なかからヘンな音が聞こえてくるそうなんです。村の娘たちの中にもも聞いた子がいるらしく、なんか雰囲気がよくないって‥‥」
「また、ネズミかな?」
この夏、ネズミに関していろいろとあった屋敷の執事は眉をひそめる。
「それはわからいんですけど、ただ‥‥」
「ただ?」
「ただ、おぼっちゃまが、気にしなくてもいいおっしゃっているのが気になるんです」
「ショウタ様がかい?」
「ええ、パリからそれほど遠くないとはいえ、私もびっくりしたんですが、父やワイン倉の管理人もそうだというので、まちがいないかと思います」
「確かに君の家は、パリからならば歩いても日帰りできる場所だからな。最近、よく外出もされるし行ったとしてもおかしくはないが‥‥」
「なんざましょうか?」
「さあ――」
そう言って見せて執事はわざと大きく肩をすくめてみせた。
「子猫でも拾ってきましたかな?」
「ならば、うちで飼えばいいざますのに‥‥」
「飼えない‥‥他人には紹介できない子猫というものも世の中にはいるものですよ。特に年頃の男の子にとりましてはね。まあ、なんにしろ気にはなりますし見に行ってもらいますか? 試飲ついでの小旅行にね」
●リプレイ本文
「結局、今回も同じ連中か‥‥」
晴れ渡った空に、きょうもきょうとて大宗院奈々(eb0916)のため息が漏れる。わざとらしいほどのそれは、そよぐ風にのって、どこまで行くのだろうか。ため息に合わせて小鳥達が踊る。あるいは、カルル・ゲラー(eb3530)が指揮棒のようにふるう草にあわせて踊っているかのかもしれない。
なんにしろ、そんな日和のワインの試飲をかねたパリ近郊のワイン倉の視察。
「今回の依頼は、お酒の飲める小旅行見たいなものか?」
のんびりとした様子でクンネソヤ(eb5005)が歩きながら仲間達に聞き返していた。
なんにしろ――
「まあ、調査があるみたいだがたいした事なさそうだしな。一応ちゃっちゃと調査して、美味しいものにありつきたいぜ」
という言葉が、その日の仕事のすべてを物語っていたかもしれない。
「そんなものやな」
中丹(eb5231)が応じる。
その後ろではふたりがおしゃべりをしている。
「私は、蔵にいるのは、悪い子ではない気がするな。お酒の精霊さんかなにかだと思うの」
恋文の君などという雅な通り名をもつパトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)がウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)に言った。邪を打つ天雷――ウィル嬢の返答はこうである。
「一応、シェリーキャンではないかと予想して動いてみるのだよね」
「石の中の蝶があるからデビルさんがいたらわかると思うのっ! でもでも、グリマルキンさんでもデビルだから退治しなきゃダメなのっ」
口をとがらせてカルルがぴょんぴょん跳ねながら、ふたりの会話に入り込んできた。なんとも微笑ましい、一行のそんな風景は、点描のように自然の中に溶け込んでいる。
さまざまな色に染まった木立を抜けながら畑のひろがる一帯を進む。道中、祭りの為にあちらこちらを旅する吟遊詩人や芸人たちを見かける。あいさつをかわしながら、どこそこの村の祭りがとか、どこそこの村は今年は豊作で‥‥などという、たわいもない会話をしては別れる。
道中で立ち寄った村では大きな樽にとりたての葡萄を入れ、素足の少女たちが樽に入って葡萄を踏んでいたりもした。
そんなおだやかな日常の流れの中を歩いていくと、やがてザマス家の領地にある、その村につく。
「何が出るかな何が出るかな〜♪」
中丹が、みょうにうきうきとしている。
「最初っから、村の娘たちがどんな音を聞いたか聞き込みや」
そういってナンパ‥‥もとい、そのあたりにいた女の子たちに手当たりしだいで声をかけはじめた。
「華国から来た河童やで〜。なあなあお嬢はん、どない音やったん? ちっちゃい音かな〜おっきい音かな〜?」
きゃあきゃあと叫びながら逃げる女の子たちの尻を追う(形になってしまった)。
彼女にとっての男がいないことを確認すると、大宗院は冷静なものである。彼女は仲間たちに向かって、こんなことを言った。
「東洋には、あんな河童のことをこういうんだ!」
「わかった!」
同じ東洋出身のクンソネヤは察しがいい。
ふたりの声が重なる。
「エロガッパ!」
「ちゃうわぃ!」
さて、そんなとぼけたやりとりはあったものの村人や倉の管理人――ちょうどかれらが食事をしている場所の主人でもある――などの情報は集まった。
昼食時、まずは軽く食事と情報分析。ワインの試飲は夕食後にまわす。さて、持ち寄った情報ををまとめてみる。
「気をつけろ」
「蔵の中には」
「なにかがいるぞ」
「役に立たん!」
そんな冗談も飛び交ったりしたが、たいした情報が手に入らなかったのも事実である。音はすれども姿は見えず。
「なにか宴会みたいな騒がしい音だったららしいよ」
パンにとりたての野菜をはさみ、塩をかけただけのシンプルな料理を口をする。あるいは、暖炉の鍋で一日かけて煮込まれた野菜のスープをいただいたりして、軽い食事は終わった。すこし休んでから酒の倉に入ろうということになる。
さて、そんな休憩時間が終わった頃、集合場所の倉の前でパトゥーシャはなにやら準備をしていた。
「なにをやっているのかな?」
パトゥーシャの背後からそうじの格好をしたウィルが顔をのぞかせる。
「えへ、内緒!」
「いじわるなんだな!」
ウィルがそうじ仲間のパトゥーシャの背中から抱きついて見せて、きゃあきゃあと騒いだりした。
「なにをやっているんだ!」
同性は対象外であることを公言してはばからない恋の狩人があきれたような声でふたりを呼び、
「さあ、行くよ!」
カルルが声をあげた。
※
倉といっても、かつては小さいながらも砦であったというシャトーは広い。
記録によると、このシャトーに残っているはずのヴィンテージは初代の王がパリに入城した年のものであるという。
もっとも、そこまで古いと――
「味もそうとうとんがったものざましょうから、いまさら、私は飲みたいとは思わないざます。記念の品という意味あいの強いものざますよ」
ということになる。
さらに執事は口さがなく――
「なぜ砦がシャトーになったかといえば、もともとパリ攻略の為に食料を貯めていた砦が戦いのあと、食料などは腐ってしまうからというわけですべて食べてしまったわけだが、ワインならば、そのままにしておいてもいいやというわけで大量のワインをおきっぱなしにしておき、そのまま酒の倉にしたということだそうだ。いかにも適当なザマス家らしい逸話だな」
ということにもなる。
なんにしろザマス家の食卓を潤し、さらには市場で売られて家計すらも潤してくるそれらの寝室へと冒険者たちは踏み込んだのである。
手書きの地図を頼りに、そうじがてら、あっちの部屋を巡り、こっちの部屋をめぐり。ワインが中心だとはいっても、それなりに広いと、それ以外にもいろいろな種類のお酒も置いてある。
どこからか音がしてきた。
「この音か‥‥」
クンソネヤがそれだけ言うと、仲間達に無言の合図をおくる。
ランタンの火を隠し、けっしてきれいだとはいえない壁を頼りに闇の中を進む。
(「そうじをしなくっちゃ!」)
歩く音さえ静かになる。
がたがたと音のする部屋の前へとたどり着く。
息をひそめる。
音はする。
(「なんの音やろな? わいの知識にはない‥‥強いて言えば、人間かなにかが酒を飲んでいるようにも聞こえるし――」)
そっと、扉を開ける。
ひとつの樽――あとで知ったが、これはビールの樽だそうである――の前にうずくまる影があった。三匹いる。ランタンの明かりに浮かびかがったそれは――毛むくじゃらな生き物であった。背中には蝙蝠に似た羽をもち、槍のようなするどい尻尾をしている。そして、振り向いた顔は耳までさけた口に鋭い歯がならんでいる。その姿は、教会に飾られたガーゴイルの像にも似ている。
「かわいくない!」
「デビルだけれど、グリマルキンさんじゃない‥‥」
グレムリンさんである。
「なんやてグレムリンやて〜って、なんでそんなのがおるん?」
この小悪魔の好物はビールであり、時には樽一杯のビールを用意してこの悪魔を捕まえたというつわものもいるという。
「なんだ、そのオロチの親戚みたいな習性は?」
東洋出身の侍があきれたような顔をする。
それが、神の定めた習性ですから。
「宴会でもしていたのかな?」
ウィルが首をひねる。
実際、宴会をしていたのかもしれない。
「子猫と戯れるだけだと思っていたんだがな!」
大宗院が胸元から手裏剣を取り出した。
そんな彼女に向かって、グレムリンが襲い掛かってきた‥‥のだろう、たぶん。羽をはばたかせ、飛び上がったかと思うと、長い爪を振り上げながら迫ってきたのだが、その跳び方は、よろよろと右に行きかけ、ついでよろよろと左に飛んでいく。しまいには壁と激突して、墜落――
「ええっ‥‥どうすれば、いいのかな?」
もう一度、ウィルが首をひねった。
敵だとはわかっていても、なんとも戦う気をそぐ相手である。
「だが、悪魔だから!」
大宗院は、問答無用とばかりに地上に落ちた小悪魔を足で踏みつけると、その背中に手裏剣を突き刺すのであった。
その横では小柄な体が剣を振るう。
背後から中丹のローズウィップが振るわれグレムリンの動きが止まり、カルルの剣が、スマッシュで仕留めた。
「二匹め!」
そして、最後の一匹である。
さすがにこうなってしまえば、酔いも醒めてしまうものらしい。
グレムリンは、きぃーと叫んで冒険者たちを威嚇した。
そして、じりじりと間合いを図り、ふたたび叫ぶと、爪をあげて襲い掛かって――
「しま‥‥っ――!」
隙をつかれた。
ぶつかってくると判断して、全員が身構えたところで、グレムリンは、その脇の突破を狙ったのだ。
逃げられてしま――ばちん!
「なんや?」
見事に入り口にはってあった罠にグレムリンはかかった。
「えへ!」
パトゥーシャが、ちょっと自慢げ。
さすがは猟師である。
動物を捕る網を使ったトラップでまんまと悪魔を生け捕りにしたのである。どんな生き物でも優しく捕獲するつもりではあったが、まさか、こんなにかわいくない生き物が捕まるとは思ってもいなかったろう。
「で、どうするね?」
「どうするって?」
「この、かわいくないヤツ‥‥お話できるかな?」
網の中できぃきぃと騒ぐ悪魔を指差して、パトゥーシャは仲間たちの意見を募った。
殺してしまえという声もあるが、それは、あまりにも不憫だという声もある。
戦闘中ならばともかく、戦いが終わったあとでの始末となると少々、面倒なのだ。
「まあ、悪魔に情けをかけるなんて、それこそ悪魔に対して無礼やな。悪魔は悪魔らしく扱ってこその悪魔や!」
そんなことをしゃべっているところへ声がかかった。
「ボクが預かりましょうか?」
「おや?」
「えとね、わたしたちが調べに入っちゃうと中の子が、嫌な思いをしたり、無理に引っ張り出されちゃうかもしれないんだ。それも嬉しくないから、よければ知ってることを教えてくれないかな‥‥って、聞くつもりだったんだけどな‥‥」
しばらく姿が見えなかったショウタ・ザマスが姿をあらわした。
「そうですね。あなたたちに頼めばよかったんですね。どうやって退治しようかと思って、人が近づかないようにさせていたんですれけど。酒が好きなだけみたいだったし、ヘタにさわらなければ問題はないかと思っていましたし‥‥それに、グレムリンはうまく飼いならせれるといいますから、ちょっと興味を持っていたんですよ」
そう言って、グレムリンを譲ってくれないかと言い出した。しばらく、ああだこうだというやりとりがつづいた。
「わかった、お前にまかすよ!」
バカ正直なクンソネヤはショウタ少年にほだてられ、決心した。
じっとショウタの目を見つめ、やがてその両肩に手を置く。クンソネヤのあまりにも真摯なまなざしにショウタはその視線を外そうとしかけ、あわてて、ヘタな愛想笑いをした。
※
「ダメじゃないか‥‥」
ショウタは、籠の中の悪魔に語りかけた。
そして、籠を開けると、窓辺にグレムリンを連れて行った。
「さあ、仲間のもとにお帰り‥‥」
グレムリンは、きぃきぃと鳴いた後、闇の中へと戻っていった。
「帰る場所か‥‥」
ショウタはそのままベットに潜り込んだ。
「ぼくの戻る場所――あの人に会いたいん‥‥先生に――」
(「そうだ、そうだ我々を呼べば、それはかなうぞ!」)
闇の中からショウタに語りかける声がした。しかし、それがなんの声であるのかはわからぬまま、秋の夜は更けていくのであった。
※
かるるくんのにっき。
「今年のワインはできは、たぶん、いいんだと思うんだ。でもね、夜の試飲会の時にはおいらも、みんなもくたくたで、すこし飲んだからぼくは眠くなっちゃったんだ。朝になってから聞いたんだけど、あのあと起きていた人たちはそのまま宴会になってしまって、いろんなお酒を飲んだんだって。でもね、どれが今年のワインの味だったか覚えていないって言っていたのは内緒だよ!」