【叛逆の王家】 束縛
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■シリーズシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月13日〜06月18日
リプレイ公開日:2007年06月21日
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●オープニング
「かんばしくないわね」
届けられたレポートを一読して、フロランスはやれやれとつぶやいた。
「なにかありましたか?」
絶妙のタイミングで、横から紅茶が出される。
「いろいろと、ね――あら、きょうはまた一段とうまくいったわね」
少女の茶を妙齢の女性は素直にほめる。
「はい」
まだ若い娘がギルドの主人に微笑んだ。そして、にこにこと笑い、なにを語るのかと楽しみにしている。さて――と女は乙女に語った。
「公爵の土地に新しい遺跡が発見されたということは話したことがあったわね」
「ええ、冒険者のみなさんが交渉をしてくださって調査の許可がおり、この前、第一陣が出発したと聞いています」
「そう。そこまでは先日の出来事、そして、いろいろとあって報告がきたのが昨日」
「そして、その手紙を読み終えてため息をしているのが今日ですか?」
「いいえ、あなたの煎れてくれた紅茶を飲みながら対処方法を考えているのが現在」
「そして、どのような対処をするのか、わたしに語ってくれるのが、遠くない未来でしょうか?」
「あら、残念。すこし急かしすぎね」
「ええ、すこし後悔していますわ。状況の確認を忘れていましたもの」
「はい、正解。それで、報告によれば、遺跡の調査は開始され、ある程度のところまで迷宮のマップも作られるところまできた。ところが、ある扉――これはなにかしらの鍵が仕掛けられているので――その道の技術を持っている者の派遣を依頼してきているわね。ただ、それとは別に迷宮のあちらこちらで小さな事故が多発していて、中には遺跡で幽霊を見たという作業者もいたりしているそうよ」
「作業者?」
「遺跡を調査するのに必要なのは、なにも冒険者だけではないわ。いえ、本格的な調査だったら逆に冒険者はいらない。それこそ、ケンブリッジの学園の先生がたとその生徒たちが指揮をして、発掘の手伝いをする作業者がいればいい。あぶなくなったら、さっさと撤退。本当に調査が目的だったら、別に金銀財宝が欲しいわけじゃないものね」
そう言われると、娘はくすくすと笑い出した。
「子供の頃、遺跡調査って盗掘泥棒のことでしょ? って言っていたんですけれどね、あたし」
「正直すぎるわよ」
フロランスもくすくすと笑う。
そうそうと、娘は表情をあらためる。
「その幽霊って、前の冒険者たちの報告にあった、かれらを襲った者たちのことでしょうか?」
「それにしては、おとなしすぎると思わない?」
「夜討ち、隙をみては毒をもる。でしたか? それほどのことをやった者たちにしてはやけに穏やかですね」
「予想外でわたしも戸惑っているわ。それが、先ほどのため息の意味」
そういってフロランスは茶を飲み干した。
「それで、どのような対処をしましょうか?」
カップを片付けながら娘は尋ねた。
「わかっていて聞いているわね?」
「はい。それでは、とりあえず依頼を張り出しておきます。迷宮の扉仕掛けられた鍵、そしてもしかしたらそれに付随する罠に関して、それに対応する技あるいは知識がある者。あるいは作業者たちが見た幽霊について調べようとする者。さらには扉の奥につづくはずの迷宮探索に協力してもらえる方々を募集します。そんなところで、よろしいでしょうか?」
「そのように手配を」
「はい――」
そう応じて、係員が部屋から出て行くと、ギルドの女主人は、別の資料をとりだすと、もはやつぎの仕事について思いをはせてた。
それは、女たちのありきたりの昼のひと時のできごとであった。
●リプレイ本文
「大兄、料理してくれへんか〜」
料理が得意な小丹(eb2235)の袖をひっぱる中丹(eb5231)の目は、ふだんの線のように細い眼ではなく、少女のような大きく見開かれ、すこしすねたような視線で義兄を見つめている。そして、その瞳には、きらきらとお星さまがまたたき、ふたりの背後にはなぜかバラの花が咲き乱れていた。そして、吟遊詩人が、甘いメロディーの曲を弾き始めると――
「やめろ! やめろ!?」
食べかけの骨つき肉やら、ブーイングが飛んできた。
「酒がまずくなるぞ!」
「河童のオスが野郎のパラに媚を売るんじゃあねぇ!」
あちこちらから酔っ払いたちの怒声が聞こえる。
手近にあったものが、ふたりにはあたらない程度の手加減はされつつも物がこれでもか、これでもかと投げつけられる。
「な、なにをするんや!」
「そんなのが許されるのは美少年同士だけです!?」
「男同士なんて、萌えねぇんだよ!?」
酔っ払いたちの正気を疑う発言もまじってたような気もするが、そんなこんなで冒険者たちの到着を祝う――という名目の――宴は最高潮に達していた。
「酒を注ぎながら、ちょっと情報収集をしてきましたが、小さな事故って壁が壊れたり、物が落ちてきたり、食事に石がまじっていたり、あるいは酔っ払って転んだ――お化けを見たと本人は言っていますが――といった、本当に小さな事故みたいですね。それに、私の見るかぎりでは作業員のみなさんがウソをついているようにも見えませんでしたわ。雪さん、そっちはどお?」
スズカ・アークライト(eb8113)の頬が、焚き火とアルコールのおかげでほんのりと赤みをおびている。
「そうね、どこから説明した方がいいかな?」
夜風を受け、ふわりと揺れた長い髪をかきあげると、シュネー・エーデルハイト(eb8175)は、自分の調べてきた情報を友達に語り始めていた。
その頃――
「ええっと、おつまみとお酒‥‥って、なによ!?」
食事を取りに迷宮そばの宿にやってきたジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)は、用件の書かれたメモを読み直して、やれやれとため息をついていた。
呑み会の常で、とりあえず言っておけというノリと勢いの用件が羅列されている。
「あら、これは?」
宿に入り、お酒を頼もうとすると、主人はいなかった。かわりにカウンターには一枚の絵があった。
いや、絵というのは正確な表現ではないかもしれない。
「紋章‥‥ですか?」
ジュヌヴィエーヴは、じっとそれを見つめた。
鳩を真ん中において剣と盾が左右を飾っている。その図柄を、手の込んだ刺繍で編んである。なにか謂れがあるものであるようだといいことしか、彼女のもつ僧侶の知識ではわからなかった。
「ああ、すまねぇ、こんなものを出したっきりにしてしまってな」
宿の奥から、怪人物である主人が、あわてて出てきて手馴れた手つきで布をたたむと、ジュヌヴィエーヴになんの用かとたずねた。
※
喧騒の一夜があけた。
出る出るいわれた幽霊も出現することなく――いっしょに酒を呑んでいたけど、気づかなかっただけではないのか、と言う者もいたりするが――翌日の仕事が始まった。
水をがぶがぶと呑んだり、濡れた手ぬぐいで額を冷やしたりするスタッフや現場監督との打ち合わせからはじまる。
「まあ、朝なんて毎日、こんなものだよ!」
などと人を安心させるつももりんだろうが、聞くほうからすれば不安にしかならないようなことを平気で作業員たちは言っている。スズカの見立てどおり、悪い人間ではないようである。
「それで教えて欲しいことは、こんなところかの‥‥一応事故にあった者の聞き取りをしておくんじゃ。それから隠密技能で仕掛けや鍵、罠を調べるんじゃ。古いものか、最近仕掛けられたものか調べとくんじゃ。そして、ブービートラップ系、追い払う系の系統も調べるんじゃ。調査団に多数の死人がでとらんようじゃしのう」
「わかりました。わたしたちは専門家ではないので、そこまで考えていませんでしたから、それらのことについてはすべておまかせします。正直なところ、不謹慎な話ですが、人が死んだり、大怪我をした人間が出たりしているわけではないので作業員たちもあまりまじめに幽霊に関しては接していないというのが本当のところですね」
さて、そんなやりとりが為されているテントの前にスズカが立っていた。
護衛役を買って出た形にはなっているが、剣に手をやっているわけでもない、いかにも自然な立ち姿に見えるし、その上品そうな顔から作業員たちの人気も高いようで、声をかけてくる男たちも多い。
スズカは微笑しながら、それに応じてはいた。
しかし、その実は集中しながら、あたりの殺気を読み取っている。
こんな白昼堂々と襲ってくるとは思えないが、用心に越したことはない。昨晩、シュネーに語られた話では、正体不明な襲撃者たちは機を見るに敏。撤退時も心得ている。つまり、その筋のプロのようなのだ。その意味では奇襲の本質が、虚を突くことにあり、それ以上に相手に対して精神的なプレッシャーをかけることにあることを考えれば、かれらの策はすでに功を為している。
ほらみろ――
「水‥‥水‥‥どないしよ?」
ぶつぶつ言いながら東洋の水霊が通り過ぎていった。見事に、相手の策は成功しているということであろう。
「紋章?」
「はい‥‥」
ジュヌヴィエーヴがシュネーを呼び止めている。
騎士であるシュネーならば、昨晩見た紋章に何か思い当たることがないかと思ったのである。
「似たようなものは幾つかあるにはあるが――」
シューネの言葉は重い。
なにか思い当たるものがあるようだが、あるだけに言いづらいようだ。
「見ればわかるかもしれないが、あの偏屈者の宿屋の主人が見せてくれるかしら?」
当然の疑問だろう。
ジュヌヴィエーヴも自信なく首を横にふるだけであった。
しばらくして、シューネはつぶやいた。
「派手に動いてみせる必要もあるかしら?」
「派手に?」
「そうね。食事を頼みに行ってもらえる? そして、こう言ってまわるの――」
やがて、ジュヌヴィエーヴになにごとか耳打ちした。
※
「ここが、そうかの?」
話に聞く扉の前に立つ。
「大兄!」
中丹が裏声を使った高い声で叫ぶ。まるで、おにいちゃんと言わんばかりで、まわりの気温が確かに数度下がった。昨晩、みんなにからかわれたり、いじられたりされたせいか、今回は、このキャラづけで行こうと開き直ったようである。そういえば、小丹のあとをついていく、その足取りも少女のように軽やかなものにに見えるから困る。
「これは、これは、いろいろとあるようじゃのう」
扉を一通り調べ終わると、小丹はほほほっほと笑った。
そして、一転、無口になって扉の解除にあたる。なかなかの難物と見えて、それっきり黙りこくっている。何が起きるからわからないからと説得して作業員たちを退去させてしまった。冒険者たちだけが扉の開くのを待っている。
どれほどの時間がたったろうか――
ふいに迷宮の中に不自然な突風が起こった。
たいまつが消える。
「来たわね!」
スズカが警告を発した。
そのときにはすでにスズカの腰から剣の刃には血がつたい、彼女の白い手を赤く染めていた。スズカは背後から近づいてきた影を斬ったのだ。
黒髪の横では白い髪が踊り、剣が舞う。
シュネーだ。
朝方、ジュヌヴィエーヴに口ぞえして、
(「なにかとんでもないものが見つかったみたい――」)
と、宿の周囲にふれて回るように頼んだことが功を奏した。もっとも、ここまで早く反応するとは意外なほどであったが――
「それだけあせっていることよね!」
相手はまんまと策にはまってくれた。
ならば、こちらもそれに応えなくてはなるまい。
それが、戦場での礼儀というものだ。あたかも、血を求め歌うがごとき二重奏は、血飛沫という音符を連ねながら死の旋律を奏でていた。
「大兄は、おいらが守る!」
こぶしに、あたかも炎が点くように淡いピンク色が燈ったかともうと、中丹が走り出していた。その体型からは想像もつかないような俊敏な動きで襲撃者たちをのしていく。蝶のように舞い、蜂のように刺す――あとで、中丹がそう自慢していたが、まさに彼の拳法家としての動きは、そう表現してもよかったろう。
すくなくとも、
「はずむボールは、早いし勢いがあるからな!」
などと休憩時間に玉蹴りに興じている作業員に笑われることはなかったであろう。
「おお、ようやく開きおったの」
背後で戦闘があったというのに、小丹は、いまのいままで自分のペースで仕事をしていたらしい。
その声を合図にして、黒ずくめの者たちは引いた。
「あいかわらず、いい引きだ――」
「あら、この紋章‥‥」
ジュヌヴィエーヴが、倒れた者たちの剣の一本の柄に、宿で見たものと同じ紋章を見つけた。
「ああ、これです!」
ジュヌヴィエーヴの素直な言葉にシュネーの表情が凍てついた。
なんにしろ、扉が開いたのだ。
まるで宝物庫にでも使うような手のこんだ仕掛けであったが、注意しながら順番に仕掛けを解いていけば解除できる仕組みになっていた。しかも、手が込んでいるわりには毒のような罠はなし。
「使われることが目的だったのじゃろうな――」
よく盗賊が言うことなのだが、自分の家の中に毒の罠を仕掛けるような者はめったにいないのである。誰かが使うことが前提であるのならば、手違いをしてはいけない以上、それも当然のことである。
目を細めながら、小丹はほっほほと笑うのであった。
※
扉を抜けると、広い空間に出た。
ぽっかりと地下に開いた暗闇で、あたりをランタンで照らしてみても前方には壁が見えない。
「あぶ‥‥な――」
中丹が声を上げた。
「ほぉ、ここは崖なのじゃな」
「そうすると、なにかあるとしたら下かしら?」
やがて、闇に目が慣れてくる。
(「あれ!」)
誰かが指差す。
「誰や?」
冒険者たちは息を呑んだ。
まわりには自分以外の四人がいる。それでは、その誰かとはだれなのであろうか。
「幽霊?」
クレリックのディテクトアンデットは、それが正解であると告げる。
淡い青い光に包まれた、その人影は崖の底を指差し、そして消えていった。その闇の奥底には整然と広がる十字架がならんでいる。
「な、なん、なんや?」
「墓地‥‥かの?」
ほっほほと大兄はあいかわらず悠然とかまえている。
「そうね――まるで整列した軍勢のようにも見えるけれど――」
スズカは、足元に広がる十字の墓の集落を、そんな風に表現した。
見ると、壁沿いがやがて下へくだりはじめ、やがて階段のようになっていた。段のようになった坂を下りて、墓場に立つ。
そこは、きわめて整理された墓地であった。あまりにも清潔で――トラップなどの状態を考えれば、ほんの数年前まで使われていたであろうというのが小丹の見立てである――薄気味悪いというよりも、あまりにも整然とならんでいる為、なにかのモニュメントの中に立っているような気分になってくる。
ひとつの墓標を見た。
無名墓地らしく、それには名前は刻まれていなかった。かわりに、ひとつの紋章が刻まれている
「ここにも‥‥」
ジュヌヴィエーヴは言葉を呑んだ。
またも、あの紋章だ。
「あなた――」
シュネーが、その耳元にささやく。
「今朝、鳩の紋章のことをたずねていたわね。この紋章は、現在のブロア公爵家の紋章――かつて、その配下で戦い、その夫人となった女性の率いた軍隊の旗に記されていたもの。そして、ここは、その兵士たちの墓なのかもしれないわね」
※
「そうか、見つかってしまったか。思ったより、早かった‥‥いや、もはや時間は残されておらんのかもしれん」
その報告を受けたブロアは、さがるように部下に命じると、ひとり、片膝をつき祈りを捧げるのであった。
「神よ‥‥あなたは、この老いぼれになにをなされよと申されるのか――」
老貴族の目には、涙が浮かんでいた。