●リプレイ本文
「敵はこれまでになく強大だな。だが‥‥之も悟りに至る為の試練だな」
いよいよ大阪会場での試練の始まりだ。嵐真也(ea0561)と対する塾友達はいずれも劣らぬ使い手ばかり。
「‥‥ふっ、まさかお前と一戦交える事になるとはな。だがこれもいい経験だ。遠慮なくやらせてもらうぜ」
風羽真(ea0270)を初めとして、皆いずれも入塾以来から苦楽を共にした仲間。だからこそ、その凄みは身に沁みている。
「何とも困難な‥‥だが、いや、だからこそ、この試練超えてみせる」
その嵐の前へ一番手に飛び出したのは雷山晃司朗(ea6402)だ。
「嵐筆頭殿の見事な人拓をおさめ、神皇様にお喜び頂けるよう粉骨砕身の意を持って尽力するといたそう」
魂美(こんび)を組むのは義侠塾一小柄な凪里麟太朗(ea2406)。その身の丈は3尺程の差がある。それを補うかのように雷山が身を屈めた。
「ここは相撲の技の基本である阿飛流(あひる)にて対処するのが良いであろう。蹲踞姿勢ですり足ならばこの身長差も必ずや埋めることができるであろう」
「行くぞ、雷山君!」
片や凪里は幼少より賛銃人惨獣逸伽駈(さんじゅうにんさんじゅういっきゃく)の技を鍛え上げた達人だ。二人は呼吸を合わせて自在にステップを刻む。
だが。
「こちらは追われる身。ならば服装は軽装、むしろ褌一丁。韋駄天の草履の加護で、長距離も問題無しだ」
流石は筆頭。既に対策は打ってある。二人に捕まる前に先手を打って駆け出した。
「むむ、あの早さにはこの技では対応できぬか」
見る間に嵐は塾舎内へと消えていく。
「逃がすかー!」
伊珪小弥太(ea0452)が果敢に追うがそれでも捉えることは叶わない。だが行く手には魂美の久方歳三(ea6381)が立ちはだかっている。
「拙者の新必殺技に任せるでござるよ!」
やけに自信満々な様子の久方。
「我が秘拳を出すからには、後には引けん!」
‥‥しーん。
「! あれはっ!!」
「知っているのかねオンドル君?」
虎杖薔薇雄(ea3865)に訪ねられてオンドルが頷いた。
「‥‥聞いたことがある。あれはおそらく『座・我留怒(ざ・わーるど)』」
下らない洒落をして「寒い」ということがあるが、その寒さが時の流れを凍てつかせる絶対零度に達した時、この技は完成する。文字通り時を止めるこの技は、達人であれば最大十数秒に渡って時間を静止させることが可能であるともされている。(太公望書院館『鳴程・座・我留怒』)
身動きできない嵐。動きを止めた伊珪。固まった久方。
「どうやらまだ修行が足りなかったようだね」
と見ている間に術が解けて嵐が逃走した。
「追うぞ、オンドル君!」
駆け出した薔薇雄が、自慢の金髪を掻き揚げた。その手には香油が塗られ、巻き毛が見る間に逆立っていく。まあ何か無理やりねじ上げながら立たせたので間違ったマダムみたいな感じになってるがとりあえずOK。
「まさか、その髪型は惚慣夫!」
三国志にも知られる名軍師・徐庶が実は西域を見聞していた事実は余り知られていない。彼の記録によると、古代フランク人の騎士は皆いずれも髪を天に向けて立てた円筒状の奇妙な髪型をしていたとされる。その中でも特に高く髪を立てた者はご婦人からも絶大な支持を受け、惚慣夫(ぽるなれふ)と呼ばれて尊敬を集めたといわれている。(『徐庶の奇妙な冒険』)
「ブラボー、おおブラボー!!」
くるくると回転しながら薔薇雄が側面へ回り込んだ。
「早くも追いついてきたか。相手も百戦錬磨の兵、これだけで逃げれるわけがないとは分かっていたことだ」
嵐もミミクリー伸ばした腕で牽制して近寄らせない。だが薔薇雄の攻撃は囮に過ぎなかった。
「食らえ、黒酢腐亜嫌針拳(くろすふぁいやあはりけん)!」
死角に回ったオンドルが燃える拳を放つ。燃え盛る火炎が嵐を襲い、その身が業火に包まれるかと見えたその時! 僅かに早く地を蹴った嵐が宙へと逃れる。
「かつてこの鬼粘邪神を俺と同じミミクリーの技で防ぎきった先人がいたとされる。その名も蛇是亥(たぜい)と舞瀬射(ぶぜい)。俺も大先輩に習いその型を以って事に当たったまでだ」
蛇是亥、蛇の如く四肢を伸ばし、亥の如く猛烈な一撃を敵に先んじて与える。舞瀬射、鳥に擬態し舞う如く空に飛翔し、隙をうかがい擬態を解除、射る如く鋭い一撃を加える。
「この二つが多勢に無勢と言う言葉の元になったのは言うまでもないな」
風羅李覇射(ふらい・はい)を初めとする空中殺法は嵐の得意とする所。お返しに放った蹴りがオンドルの脳天を貫く。オンドルのバンダナが宙へ舞い、彼は力なくくずおれた。
「お、オンドル君―――!」
そして薔薇雄へも強烈な突きが見舞われる。二人が力尽きたのを見届けると嵐はその場を走り去った。
「シブイねぇ‥‥嵐君まったくシブイよ」
その背を見送りながら薔薇雄が賛辞の言葉を贈る。全力で当たったのだ、悔いはない。
「そう、私は既に美の筆頭という役職についているからね」
ああ、血達磨になったその姿も美しすぎる。とか言ってる場合じゃないのだが。
「大丈夫か!」
そこへ駆けつけたのは菊川響(ea0639)、じゃなかった。
「俺はクラスの暇な人、もとい謎の助っ人、南蛮丸(なんばんまる)」
手作り感あふれる着ぐるみはまるごと凡寺威音(ぽんでらいおん)ちゃん。もちもちのパンで作ったタテガミは発癌性のありそうな緑色に着色されているが勿論のこと食べられる。そういや最近ミスド行ってないな。
(「名古屋では不覚にも屠処準備室へ連行され一人個別指導を受けてしまったが、おかげで義侠塾の伝統を僅かながら知ることとなった。正体を隠し試練の厳しさを皆に感じてもらうのもまた、我々が京へ赴くためには必要なのだろう‥‥」)
籠に下げた薬瓶を開けると薔薇雄に飲み下させる。ついでにタテガミも取って食べさせてやる。名古屋会場にて行方を絶った菊川は、毅業院先輩の密命によって影の助っ人として壱号生を見守っているのである。
ふと、塾舎へ毅業院岳から伸びた影が差した。
「しまった、シフール宅配時間指定をしていたのを忘れていた! 今日こそお中元を受け取らなければ生ものだと大変。これにて失礼する!」
慌ててその場を去る菊川。謎の助っ人を務める以上は先輩の影は踏めないのである。
そしてもう一人。
「あそこが大阪会場‥‥あれから2ヶ月にございまするか」
その声に嵐が振り返ると、逆行を背に木刀を背負ったシルエット。立っていたのは女性と見まごう細面の青年だ。
「紅葉が義侠塾第二の助っ人にございます! ‥‥皆様、昨日の敵は今日の友にのっとり、この火乃瀬紅葉(ea8917)、今より義侠塾に入塾いたしまする!」
神皇様をお救いしたい想いは同じ。その想いの元に塾の門を潜った新しい仲間だ。
「なんの恨みもございませぬが、お覚悟いたしませ。鬼粘邪神を見事成就し、侠の魂を見せてみよと、この『筆頭と呼ばれた男の木刀』が紅葉の心に囁きかけまするゆえ。いざ、参る!」
言うが早いか奇襲の指弾が嵐を襲う。
「な、これは!」
「筆頭殿、紙に体が吸い寄せられましょう。魔物ハンターと呼ばれたこの紅葉、人ごときの体節を知らぬとお思いになられまするか」
微笑を浮かべて脇を見遣った先には紙が広げて敷いてある。何かの暗示に掛かったかのようにそこへ吸い寄せられる嵐。だが彼も筆頭を張るだけの侠。敢闘精神で振り切り逆へ飛ぶ。そこを狙い済ましたかのように嵐の足元で今度は炎が吹き上がった。
「何、馬鹿な!」
「熱地武威手本意(あっちむいてほい)‥‥にございまする。熱いのでお気を付けくださいませね」
そこに生まれた隙を逃すほど塾友達は甘くない。
「これぞ秘奥義・辰迅志武霞和(たつじんしぶかわ)!」
背後から迫るのは雷山の声だ。正座の状態で器用に高速移動するその技は、毎朝の猛稽古と新婚さんの毎夜の営み(何)で鍛えに鍛えた足腰によって初めて可能となる。既に雷山・凪里組は嵐に追いついていた。
凪里が懐から何かを取り出す。
「大阪において、戦士に科せられた必須の儀式がある」
ここ大阪では浪速の神域とされる如何遁墓裏(どうとんぼり)で戦勝祈願をする慣わしが残っている。その時に行われる儀式が身頭護理(みずごり)と呼ばれるものだ。この如何遁墓裏に流れる御神水には屁怒賂(へどろ)と呼ばれる染料が含まれている。これを全身に塗ることで勝利を祈願するのだ。
「鬼粘邪神においては筆頭の全身に墨を塗ることを抜きには儀式を全うすることはできない。
突然の攻撃に避けきれず嵐が全身を黒く染める。そこへ。
「苛ぁ〜護目、苛護目‥‥」
雷山の重低音が木霊する。すり足でじわじわと迫り、両者の間合いに緊張が走る。嵐がその圧力を気合で撥ね退けたその時。
「凪里殿、今だ!」
「否っ否っ否誉涸(ヒヨコ)ちゃん、阿否流が牙亜牙亜♪」
その一瞬の躍動をありとあらゆる角度から人拓に収めんと雷山の張り手が襲う!
「させない、蛇是亥に舞瀬射だ!!」
それは複数を相手取った際に真価を発揮する奥義。あえなく二人は地へ転がった。とは言え嵐のダメージは大きい。肩を大きく上下させながらほうほうの体でその場を後にする。
後には倒れた二人が残されたが。どこからか現れた陰山黒子(eb0568)が、負傷した二人を引き摺って退場させていった。
***襲愕虜皇の死嗚裏***
■ゴミのポイ捨ては禁止 → ゴミじゃないって‥‥
何とか凌いだ嵐だがこれ以上は魔力が持たない。ついで屁怒賂には多様な病原菌が含まれており、強烈な瘴気と共に彼を苛む。疲労も相まって嵐はいつしか寝入っていた。
「行くぜ!寝込みを襲っちゃうゾ?ウキウキ大作戦!!」
そこへ現れたのは伊珪と久方。疲れた所を襲って仕留めてしまおうという魂胆だ。まるごとやなぎを着込んだ久方が布団を引っぺした。そこへ伊珪が墨をぶちまける。いや、違う。これは。
「毅業院の指導の元で採ってきた漆だぜ。‥‥壱号生筆頭、感謝するよーに」
これなら嵐も身動きが取れずに反撃もままならない。
「ってことで、真也!覚悟しやがれ!」
びしぃ!
「と、その前に」
(「歳ちゃん感激ー!で巻き添えだけは勘弁だぜー。久方ならやりかねねーからな」)
鍵縄を帯に仕込んで保険もばっちり。
「一蓮托生で俺も飛ばされるのはいーやーだー」
「申し訳ないでござるよ伊珪殿。さっきは不覚でござったな‥‥、深く反省するでござる」
ざ、わーるど。時は止まった。
余りの寒さに二人の時が凍てつく。
「そして時は動き出す」
立ち上がったのは嵐だ。伊珪と久方は動けない。彼ら二人をそっと黒衣が連れ去った。
(「そして負傷者は、応急手当と称して包帯で拘束。筆頭決定戦に参加させない」)
不意に黒衣がニヤリと笑う。
「卑怯? 違う! これも漢を磨く為の試練だっ!!」
「まだいたか! だが俺は引かん!」
迫る黒衣。迎え撃つ嵐。黒衣が手にしたバケツの墨をぶちまける。
「!」
その一瞬だ。嵐の脳裏にある疑念が過ぎる。本物の陰山であれば絶対に言葉を発しはしない。ということは――。
「‥その声は‥風羽か!」
それと同時に黒衣が腰の後ろに手を組んだ。そのまましゃがみ込むと、背後にはピッタリ寄り添って黒衣姿の真が控えている。真が陰山を足場にして跳躍すると、陰山の額からペラリと捲りが。
『あっしを踏み台にしたーー!?』
バン!
「これぞ、自鋭刀黒子仇憑苦(じぇっとくろこあたっく)!!」
中空で四肢を伸ばす事で真がムササビのように紙を広げる。その大きさはゆうに一畳分。
「死罠愚菩提仇憑苦(だいびんぐぼでぃあたっく)!!」
もはや避けようもないその攻撃。観念するかのように嵐が目を閉じた。
(「紙とはすなわち神仏に通じる」)
ならばその紙を破砕するなどあってはならないことだが、僧たる嵐は仏の加護により、紙を破砕する事が可能なのだ。剋目し、嵐が真っ直ぐに拳を突き上げる。
「紙を破砕するべき『覇悪守屠・経囲羽阿(ばあすと・ぺいぱあ)』だ。之を超えれば、とうとう神皇様を‥‥」
「な、何ィィィィ!」
それは紙を突き破り、落下の勢いを増して真の顎を打ち砕いた。
(「‥‥そうか、この紙は神皇様にも通じていたのか。それとも、あえて紙に立ち向かう試練‥‥次なる敵は紙を操るのか、それとも‥‥)
「これが今回の結果だ。だが、この国の為に、これからも力を合わせて行こうじゃないか」
遂に真を打ち倒し、嵐は肺からいっぱいに大きく息を吐き出した。
と、その後ろから。
ベチィ!
陰山が手にした紙で押し倒した。紙を広げると鮮やかな人拓が。
『不意打ち? 卑怯? あなた方、忘れていませんか?』
***襲愕虜皇の死嗚裏***
■お家に帰るまでが襲愕虜皇です → 京都編へ続く
モハメド・オンドル、死亡確認
嵐真也、筆頭維持?
→TO BE CONTINUED...