轟!義侠塾!! 〜聞禍災〜

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月07日〜12月12日

リプレイ公開日:2004年12月15日

●オープニング

 「壱号生ども! 覚悟はできたか!?」
 苛烈を極めた前矢災より数日、義侠塾壱号生は第二の試練『聞禍災』の日を迎えていた。壱号生担当の教官・鬼マゲが校庭に持ってきたのは十間もあろうかという長い鎖であった。
「何なんだ、この妙な鎖は‥‥?」
「なんだか猛烈に悪い予感がしてきたぜ‥‥」
 鎖には等間隔に枷がついていて、そこかしこに赤黒いのは血の錆だ。鬼マゲの指示で壱号生がそれぞれに足に枷をすると、最後に鎖の両端を教官が金具で結びとめ、巨大な輪が出来上がった。
「これから始まるは義侠塾伝統の腑殴苦團雛(ふぉーくだんす)じゃあ!」
 不意に塾舎からガヤガヤとざわめきが聞こえ、手にてに凶器を持った浜旗団の面々が現れる。
「貴様らひよっこの壱号坊へこれから先輩方より有難いご指導がある。地獄のしごきじゃ! 覚悟せいよ!」
 浜旗団が輪になって壱号生を取り囲む。巨大な大団旗を手にした皿木がその輪に割って入ると、中心に旗を突き立てた。
「前矢災では出し抜かれたが、今度はそうは行かぬぞ。――惨面拳」
「「「は! ここに!」」」
「な、手前ェ惨面拳、毘逸訃辣愚での借りをここで返そうって気かよ!」
「勘違いしてもらっては困る。我ら惨面拳はあくまでも皿木殿の侠気に惚れて付き従った新参者。これより我らは壱号生に編入されることとなった」
 言うと、三人はそれぞれに懐から鍵を取り出した。壱号生が怪訝な顔をする中、鬼マゲが声を張り上げる。
「貴様らもういいか!? この鬼マゲが特別に講釈してやるからよぉーく聞いとけよ!」
 壱号生が受けるのは弐号生からの武術教練。先輩の有難いご指導である、拳を避けることは許されない。それぞれ一撃を食らうごとに、義侠塾旗を中心として時計回りに相手を次の先輩と交代し、組み手を行う。
「これを鎖の最後尾の者の指導が終わるまで続けるんじゃぁ!」
「馬鹿野郎! 最後尾って、鎖を繋げちまったら前も後ろもねーねじゃねーか!」
「フン、話しは最後まで聞かんか! そのために鍵があるんじゃ!」
 惨面拳の取り出した鍵はそれぞれ一人分の枷を外すことが出来る。壱号生を代表して自由を得た三人の闘士は塾舎内に設えられた喪犠転(もぎてん)と呼ばれる闘技場に赴き、そこで同じく弐号生の代表と死合い、見事勝利をおさめれば鎖の連結を外す鍵を手に入れることができる。その鍵により輪を解くことで鎖に最後尾ができ、晴れて腑殴苦團雛を終えることが出来るのである。
「そういう訳だ。貴様らの侠気が試されるわけじゃあ!」
 誰を代表として選ぶかは壱号生の自由。だが弐号生との死闘を恐れて同胞を見捨て脱走する者も少なくないという。
「鬼マゲ教官」
「なんじゃあ皿木!」
「今日は己も弐号生を代表して喪犠転に赴きたく。押忍」
「だが既に弐号生代表は決まっとるではないか。第一、枷を外す鍵は三つしか‥‥」
 それに皿木は五本の指を揃えた奇妙な拳を構えて答えた。
「へへっ。皿木の野郎も出る気でいやがるようだが、かえって好都合だぜ。あの馬鹿でかい得物がなければただの力自慢の木偶の坊よ! 見ろ、まともに拳も握れねーでやがる」
「フン。まだケツの青い壱号坊が囀りよるか」
 壱号生の一人に狙いを定めると、皿木がその拳を枷に向けて放つ。一撃の下に突き砕かれた枷は粉微塵になって散った。
「押忍、教官殿。これで一名晴れて自由の身となり、問題は解決かと」
「‥‥‥ええい、もう勝手にせい。どーなってもわしは知らんぞ!」
 鬼マゲの言葉に押忍と一言返すと、皿木は踵を返し塾舎へと消えた。
「‥‥しかい、まさかこんなところであんな技にお目にかかれるとはな」
 その背を見送り、壱号生の一人が呟いた。
「知っているのか!」
「ああ。あの技は間違いなく華国拳法奥義の一つ、突身(つきみ)。数ある華国拳法の中でも秘拳中の秘拳とされている、とうに死に絶えたとされる幻の拳法だ」
 古代、華国拳法黎明期に拳の一つとして生まれた突身は、連ねた五指を槍に見立て敵の身体を打撃、破壊せしめるという絶技である。だが時の華国拳法界はこの拳を邪拳と見なし、この突身を極めんとした者達は「亜流門を歩む者」を意味する亜流徒(あると)または歩人と呼ばれ異端とされ迫害された。このような歴史から死に絶えたかに見えた突身だが、後の世にこの拳の形から着想を得たある高名な武術家が、そこから親指を離すことで破壊力を損なわずに拳の安定性を高めることに成功し、近代武術の一潮流として時を経て継承されることとなる。これが空手でいうところの貫手であるとされる。
 余談であるが亜流徒という言葉が華国拳法伝来の際に転じて違流者(いるもの)となったのが、一説には現代におけるイロモノの語源であると言われている。
「幻の邪拳、突身か。相手に取って不足はないな」
「おうよ。我ら壱号生、次も手早く片付けて連戦連勝と行こうぜっ!」





<個別戦闘ルール>

 義侠塾シナリオにて個別戦闘が行われる場合は以下のようなルールをとります。
 まず、個別戦闘ルールが取られる場合は「解説」にて『個別枠数』を明記します。サポート参加を除くPCは、それを参照してそれぞれの枠番毎に出場する塾生(サポート参加を除く)を決定し、プレイングに明記して提出して下さい。

例:
 1.惨面拳・鯖重過
 2.惨面拳・鯖刻狂
 3.惨面拳・依頼予定頁
 4.弐号生・皿木

 この提出したものがリプレイで反映されます。もしPC間で意見が割れた場合は多数決により決定を出しますが、出場者については参加者間で意見の調整をしてからプレイング提出するようにして下さい。事情により相談に参加できない場合はその旨をプレイングに明記して下さい。

*無回答・白紙プレイングについてはカウントしません。
*サポートPCは参加できません。

●今回の参加者

 ea0270 風羽 真(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0452 伊珪 小弥太(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0561 嵐 真也(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3681 冬呼国 銀雪(33歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6402 雷山 晃司朗(30歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea7036 伊達 拳(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「毎回ずげえ事を用意してくれるぜ‥‥。待ってろ! 俺は必ず勝ってくるぜ!」
 その伊達拳(ea7036)に並ぶのは風羽真(ea0270)。
「‥‥フッ、武神祭で暴れ足りなかった憂さ、喪犠転で晴らすとするか」
 鉢金には義侠の二文字だ。彼らが闘うのは弐号生・三面犬の待つ犬苦房と呼ばれる闘技場。
「何でも三位一体の連携技を得意とするらしいが‥‥手強そうだな」
 木製の門は血がこびり付き赤黒く腐食している。そして所々にある焼け焦げた跡は一体‥‥?
「壱号生、嵐真也(ea0561)、推して参る。覚悟して貰おうか先輩殿」
 嵐が扉を開け、三人は死地へ飛び込んだ。

「‥ここが、これより拙者が通う学び舎でござるか‥‥」
 深々と塾舎に頭を垂れるその青年の名は久方歳三(ea6381)。侠を磨き宿敵に対抗する力を得る為に彼はこの門を叩いていた。
 そこへ。
「貴様――ッ! 何をやっとるか、もう聞禍災は始まっとるぞ!」
「な、な、何でごさるか突然」
「さっさと並ばんか――ッ!
 あれよという間に足を鎖に繋がれた久方の前には何とも凶悪そうな顔をした弐号生が得物を構えて舌なめずりをしている。
「覚悟はエェな壱号坊?」
「なななな何で御座るかこれはー―ぁ!」
 訳の分からぬまま殴り飛ばされた彼の悲鳴を合図に遂に腑殴苦團雛は幕を開けた。
「今回も趣向を凝らした教練のようだな。命と魂の限りを尽くし、見事成し遂げて真の侠への道をまた一歩進めたいものだ」
 その巨躯でどっしりと構えて既に覚悟を決めているのは雷山晃司朗(ea6402)。その彼に同じく、また一人強い覚悟を胸に挑む者がいた。
(「武神祭の敗戦を糧に、今度こそ最後まで、立つ」)
 先の大武会で敗戦を喫した菊川響(ea0639)はある思いを胸にこの教練に望んでいた。
(「忘れていた、俺は俺の名だけを背負っている訳ではないこと」)
「もう一度、仲間を信じて‥‥戦い抜く!」
「うむ。戦友の勝利を信じ、ひたすらに弐号生の先輩方のご指導を受け続けよう」
 その侠気に触れて雷山が力強く頷き返す。
「しかし」
 ふと嵐らの代わりに鎖に繋がれた壱号生の惨面拳らが顔を起こした。
「我ら惨面拳は伝説の弐号生・三面犬先輩に準えて結ばれたもの。地獄の番犬の異名を取る三面犬先輩は、華国拳法秘奥義・猛獰牽(もうどうけん)の使い手だと聞くが‥‥」

「‥む‥‥視界が。真闇の闘技場か」
 強い獣臭漂う房内は一条の光も差さぬ真闇。嵐が両脇の仲間へ目をやるが暗闇に覆い隠されて姿は見えない。
「恐らくこの中で一番弱いのは、俺だろうな。だが、俺とて義侠塾生。引くわけにはいかんのだ」
 グルルルルルる‥‥
 どこからか、くぐもったうめき声が三つ重なって聞こえてくる。それに応えて嵐が霞刀を抜き放った。剣光が煌めき、その刻。
「!」
 何かが嵐を襲い、咄嗟に身をかわすと牙で引き裂かれたような傷が袈裟に跡を残す。
「あ、あの技は!」
「知っているのか風羽!」
「間違いない、形意拳の流れを汲む奥義の一つ、猛獰牽だ。それを極めた者は犬になりきる事で一切の視覚に拠らず嗅覚によって敵の位置を悟ることが出来るという」
 伝わってくる気配はまさに犬そのもの。唸り声も犬。臭いも野犬。放つ殺気は野生の猛犬!
 グルルルルルルるる‥‥
 ゥゥゥゥウ‥‥
 ァオーォォン!
「いや、というかこれはホントに犬なのでは――」
 
 さて再び校庭。
(「褌は未だ手に入らず‥‥今回も何かで代用するしかない」)
 集合前に何やら狩猟セットをごそごそとしていた冬呼国銀雪(ea3681)だが、遂に股間へ荒縄を巻きつけるという着想によって問題の解決を見ていた。そこに至るまでの紆余曲折と苦悩を思えば、心中を察するに余りある。
 ‥‥。
 ‥‥‥。
(「‥‥ちくちくして集中できない‥‥」)
「さあて壱号坊、気合を注入してやるわ!」
「‥あふぅ‥‥!」
 何だか微妙な叫び声を上げた銀雪は、股間を駆け抜けるその荒々しくも背徳的な肌触りによって視線はどこか遠くへ向かってしまっていて、大変痛々しい。いえ、殴られたのがって意味デスヨ?
「よし次! 今度のえらく小さい奴じゃのう。どれ鉄拳を―――ゥグぁッ!」
 弐号生が台詞を言い終わらぬ内にその顎を狙って凪里麟太朗(ea2406)が小回りの効いた掌底で突き上げた。『殺られる前に殺れ』、その教官の教えが染み付いた身体が無意識に繰り出した先手必勝の攻撃だ。
「貴様――ッ!」
「“拳を避けるべからず”の決まり事には反していないであります先輩!」
 小さな背丈を反らし、一回り以上も大きな弐号生へも凪里は怯みはしない。堀田左之介(ea5973)もまた正面の相手に爆虎掌を叩き込んだ。
「‥‥ふーん、ちょうどいいぜ。いや、なぁに組み手が出来るんだもんな?」
 一人を殴り倒し、堀田が拳を鳴らす。
「攻撃を避けるなんてヤワな事は言わねぇよ、謹んでその拳を受けようじゃねぇか。‥‥これで正々堂々と先輩方とやりあえるってね」
 顔を起こし、黒く引きつった笑顔で堀田が笑う。仮にも義侠塾生たるもの、やられっぱなしでいよう筈もない。
「うむ。私とてただの案山子になるつもりは毛頭ない」
 ぶつかり稽古と思えばまさにこれは彼の土俵。嵐山も反撃の構えを見せる。
 その頃犬苦房はというと。
(「暗闇か‥‥ここはやはり‥音を頼りに戦うしかあるまい‥‥」)
 伊達らもまさに死闘を繰り広げていた。
(「気合で相手の動きを感じ取る! ‥‥俺にはそれしかないぜ!」)
「‥く、どこから襲って来るか分からないか‥‥ならばこれだ!」
 真が取ったのは二刀の構え。 
「挑転自護魔(ちょうでんじこま)!」
 かつて源儀径が配下、牟慶が主君を守るために編み出したとされるこの技は、二刀を大きく左右に構えて高速回転することにより己以外の全てを切り刻むという絶技である。この時牟慶が余りにも回転した為、足が地面にめり込んでしまい立ったままで絶命した事は有名である。今まさに、周囲の全てを薙ぎ払わんと真が回転する!
「「うぎゃあー」」
 お約束通り味方も巻き添えになったりして。
「畜生‥‥そこかっ! オオオォォォォぉぉ!!」
 雄叫びを上げてそこへ伊達が反撃し、犬苦房の戦いは乱戦の泥沼の様相を呈し始める。
「火炎が、も、燃えるー!」
「青が緑が赤がー」
「け、怪流部露守ー?」

 そうして開始より暫くが過ぎた。相撲の要領で得意のブチカマシや張り手で応戦する雷山をはじめ、壱号生も負けてはいないが、疲労は徐々に重く圧し掛かる。
「武神祭において義侠塾生にあるまじき敗退を喫した私には、永遠に続くかのようなこの死闘に身を投じることこそが相応しい」
 不意に、これまで気丈にも一歩足りと引かずに戦っていた凪里の頬をぼろぼろと泪が伝った。
「な、何じゃあ貴様!」
「私の不甲斐なさで、義侠塾の名を汚してしまうとは痛恨の不覚。これでは今まで私に敗した侠達に申し訳が立たない。これではこの場にいる浜旗団を始め前矢祭で我らに敗れた先輩方が弱者であると本当に認めたようなもの‥‥!」
「なんじゃと貴様ぁ‥」
 さりげなく問題発言だったのは何も先輩へばかりでなく、同輩へもそれは禁句であったりする。
「‥‥そりゃあ俺も死合に出場したかったさ、けど仕事になっちまったら仕方ねぇし?」
 仕事の関係で武神祭への出場を断念した堀田も鬱憤がたまっていたらしく、何やらぶつぶつと呟く堀田の拳にも力が篭る。
「どうしてくれんだコラァ!?」
 やけくそ気味に放った拳は弐号生の顎にめり込んだ。
「壱号坊が調子にのりやがってッ!」
 仲間をやられて激昂した別の弐号生が脇から殴りかかる。打ち抜きの隙を狙っての後頭部への危険な打撃。不意に弓なりの音が響き、一条の矢が弐号生の鼻先を掠めて牽制した。
「先輩、ここは戦場であります。流れ矢の一つや二つ覚悟して頂かなければ」
 振り返った先には菊川の姿。武神祭での傷が再び開いているが、その苦痛など微塵も表には見せず涼しげに笑い、再び矢を番える
「我等壱号生の勝利のため、この矢すべて撃ち尽くすまで倒れても何度でも立ち上がる!!!」
「塾友を信じられるなぞ、義侠道不覚悟でござるよ‥‥」
 いつの間に順応したのか久方も壱号生に混じってしっかり歯を食いしばって扱きに耐えている。
(「これぞ義侠塾、まこと、侠の本懐でござるよ」)
「おぅ新入り。ワシが気合を注入してやるからせいぜい有難く頂戴せいよ!」
「歳ちゃん感激ー!」
 先輩の豪腕に殴り倒されて何だか妙に嬉しそうな笑顔で吹っ飛ぶ久方。
「ば、ばか‥‥」
 思わず漏れた仲間達の警告も遅く、鎖で繋がれた壱号生はコントのオチのように仲良くもつれ合って盛大にずっこけた。

 塾舎の屋根に上って壱号生代表を待つ皿木は、苛立っていた。
「壱号坊の代表もまだ姿を見せぬと言うことは、よもや己に怖れをなして――」
「待たせたな皿木!」
 そこへようやく現れた伊珪小弥太(ea0452)が颯爽と立ちはだかる。
「フン。この己も舐められたものだな」
 皿木が五指を重ねて突身の拳を作る。伊珪が目深に被った笠をずらして校庭を窺うと仲間たちは流石に疲労の色が濃い。これ以上待たせる訳にはいかない。
「ここでアレを出すことになるとは‥‥行くぜ!」
 伊珪が天を指すと、一息に笠と旅装束を取り払った。その下に現れたのは、煌びやかローブと舞踏会の仮面、腰を彩るのはレースの褌。無論、八の字髭の落書きも忘れていない。
「――暗黒流奥義・魔畏武痲威鵡(まいむまいむ)!!」
 魔畏武痲威鵡は暗黒流暗殺術の一つなんだ! 理解不能な姿で踊りながら近づいて、油断を誘った不意打ちで仕留める技なんだ! 攻撃だけでなく防御も兼ね備えたこの奥義を極めた者はその格好のせいで殆どいないんだって!(少学舘『ユウキお姉さんのなぜなに教室』)
「ってなんで俺の説明だけお子様向けっ?」
 壮絶なガッカリ感漂う闘技に今回も敵味方唖然。
「って目を逸らすな皿木〜っ!」
 皿木だけでなく校庭の仲間達も伊珪の井出達に思わず腰砕け。これまで必死で堪えて来た菊川も一瞬の気の緩みで思わず膝を突いた。
「くっこれしきの傷で‥‥教官殿?」
 そこへ鬼髷が水を浴びせた。
「壱号坊が、まだ倒れるには早いぞ!」
「‥‥死の安らぎすらやってこない地獄の教練、てわけか。上等だ、最後まで踊ってやる!」
「その意気だな。壱号生堀田左之介の根性、見せてやろうじゃねぇの」
 その時であった。
「あ、あれは‥‥!」
 雷山を差して鬼髷が叫んだ。無双の構えを取った雷山は弐号生の拳を正面から受け切っている。
「何と、あれはまさしく雄斗己立地(おとこだち)」
 かつて、旅の義侠塾生が一夜の宿を借りた家が山賊に襲われ、一宿一飯の恩を返すために(いろいろと危ないので省略)死して尚倒れず一粒種を守り通したと言う。その侠気へ畏敬の念を込め、その覚悟の仁王立ちを義侠塾生は雄斗己立地と呼んだ。
「護るべきもの。それは我ら壱号生の熱き絆。日ノ本の未来と、それを受け継ぐ幼き子らの現在だ!」

「俺は倒れない‥‥盟友が待っているんだ‥絶対に倒れないぜ‥俺の進む男々道(だんだんどう)には盟友は命よりも大事な存在だからなぁ‥」
 護るべきもののために。その熱い侠気は彼ら犬苦房の三人にも伝わっていた。
「どんなに好きにやられようとも挫けない。負けなければ、即ち俺の勝ちに繋がる。それが俺の戦い方だ」
 仲間達の怪我を癒しながらも嵐も抜け目なく反撃の機を窺う。
(「分かってるぜ三面犬! 挑転自護魔に死角はない、ならば手前ェは必ずや上からの攻撃にその野性の本能で活路を嗅ぎ付けるはず!」)
 グルルる‥
 ァオーォォォォぉン!
「‥フッ‥予定通り、狙い打ちで頂いたァッ!!」
 真が水平に伸ばして回しいた両手を斜めに傾けた。重心のずれを利用して敵目掛けて跳躍する変形技‥‥その名も『挑転自主彬(ちょうでんじすぴん)』!! 更に呼応するように伊達も最後の攻撃に出る。
「どんなピンチも気合で乗り切る! 行くぜ! 流止歩抵投・反魔(るしふぁーず・はんまー)」

   (暗くて見えないけどすんごい応酬が繰り広げられつつ割愛)

「ふう。弐号生三面犬先輩、恐るべき雄だったな」
 嵐が手にした鍵を懐へ仕舞う。ところで犬苦房を出た彼らの手荷物からは何故か保存食の干し肉が数切れなくなっていたりする。
「次は伊珪の奴だな!」
「‥‥小弥太。手前ェの秘策、とくと拝ませてもらうぜ?」


 唐突に瓦の上を伊珪が奇妙な足運びで回り始めた。
「笑ってられるのも今のうちだぜ皿木」
 魔ー畏武‥痲ー威鵡‥‥ 魔ー畏武‥痲ー威鵡‥‥
「な、何ィ!?」
 その足捌きは皿木を幻惑する! 間合いを詰めた伊珪が忍ばせていたハリセンで奇襲に出た。
「小賢しいわ!」
 すかさず皿木の突身が反撃する。だが魔畏武は攻防一体の奥義! 波が寄せ返すように身を引いてそれを交わしたかと思うと、不意に伊珪はその爪先を反した。
「壱号生伊珪小弥太の心意気、確りそのドタマに刻み込んでおけやあ!」
 伊珪が放ったのは軌道を変えて隙を突く変則の蹴り! 勢いよく足場の瓦を蹴り飛ばし、足を滑らせた伊珪は凄まじい勢いで落下した! 何かちょっと危ない角度で落っこちる伊珪。駆け寄った鬼髷が脈を取る。
「死亡確認!」
「い、伊珪――ッ!」
 
 *義侠塾の死亡確認は見た感じで大雑把に決めちゃうから間違ってることも多いんだって! とっても豪快なんだネ!(声:ユウキお姉さん)

「くう‥‥」
 ボロボロと落涙して伏した銀雪が地面を叩く。
「‥‥立てっ!‥‥頼むから立ってくれっ!!」
 気絶してるので立てません。
「戦友の死は確かに哀しいことだが、戦場でいつまでも啼いている訳にはいかんな」
 拳を固く握り締めながら嵐が犬苦房で勝ち取った鍵で鎖の戒めを解いた。
「ほう。ウヌらがあの三面犬を下すとはな。だが、この己を倒すまでは真の勝利とは云えんぞ?」
 嘯く皿木。伊珪を失い、壱号生も黙ってはいない。
「伊珪の弔い合戦だ!」
「まだまだァッ! 我等が義侠魂、熱く燃え滾ってるぜェッ!!」
 互いの誇りを賭けて、校庭では壮絶なる聞禍災の鵜血吾外(うちあげ)が始まった。


「塾長、壱号生どもが無事に聞禍災を終了しました! 皿木との死闘において壱号生・伊珪が死亡。他重傷者多数を出しております」
「うむ。大儀であった」
 塾長室。遂に三災尽死は大詰めを迎えようとしている。
「いよいよ次なるは戴逝災(たいいくさい)。全ては『奴』の思惑通りに進んでおる訳か。惨号生筆頭・毅業院岳‥‥皿木らに壱号生の力が加われば奴の支配を崩すことも或いは」
 惨号生筆頭・毅業院岳とは? そして更なる試練・戴逝災とは!?
「わしが塾長の雄田島である!」