轟!義侠塾!! 〜戴逝災〜

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月29日〜01月03日

リプレイ公開日:2005年01月02日

●オープニング

「いよいよ戴逝災じゃぁ!」
 前矢災・聞禍災と二つの試練を潜り抜けてきた義侠塾生たちは、遂にこの日を迎えていた。弐号生以下数十名が連れてこられたのは、塾舎を遠く眺める険しい山中。鬼髷は塾生たちへ向けて声を張り上げる。
「今回貴様らを待ち受ける教練は、地獄の仁人参伽駈(ににんさんきゃく)じゃあっ!」
 それは、たすきで互いに左右一本ずつの足を結びつけた状態で山を駆け上り、山頂にある巨木の天辺に星印を敵方から奪い取る教練。見上げた山は険しく、所々覗いた岩肌は上られるのを拒むかのようである。
「貴様ら、覚悟はええかっ! これは今までのお遊びとは違う、これより先は真の地獄が待ち受けとる! 今回貴様らが相手をするのは惨号生筆頭‥‥毅業院・岳じゃあっ!!」
「押忍、教官殿。我らを前にそれは愚問かと」
 これまで苦しい教練を耐え抜いてきた塾生たち、既に覚悟は出来ている。と、そこへ塾長が姿を現した。
「皿木よ‥‥これまで辛い役回り、ご苦労であった。話さねばなるまいか、義侠塾2.26事件の真相を」

 かつて義侠塾は某藩の私塾として開校された。だが数年前のあの日、三災尽死のさなか、奇しくもこの戴逝災において義侠塾は大敗を喫した。その折に壱号生として在籍していた藩の要人の子息が死亡。塾は取り潰しとなり、関係者も全て追われる身となった。以来各地に散って雌伏した塾生を呼び戻して再起を謀る為、塾長はこの地で新たに義侠塾を開いたのであった。毅業院岳はその当時、塾生を代表する義侠塾総代を務めていた人物だ。
「義侠塾総代――毅業院・岳。奴こそが、義侠塾2・26事件の折に壱号生を全滅、そして弐号・惨号生軍を壊滅せしめた張本人なんじゃあ――!」
 毅業院・岳――彼こそが開塾以来この義侠塾を影から支配してきたといわれる闇の実力者。その実力は一説にはあの雄田島塾長とも伯仲するとさえ言われている。
「何より恐ろしいのは奴の奥義である!」
 極限まで気合を高めて跳躍して高空から気合の塊を放つその技は、得物を狙う鷹が如く死を射る、即ち『鷹射死』と呼ばれる。だが超人的体技を必要とするこの奥義を使いこなすのは非常に難しく、常人では幾ら放とうとも外れるばかりでまず当てることは叶わないとされる。それ故に長き華国拳法の歴史においてもこの技の使い手は絶無、いやこの先も永無と言われている。
「フッ。相手に取って不足はない。野郎はどこだ?」
「分からぬか、奴の気迫が。既に見えておる。刮目せい!」

 毅業院・岳
 義侠塾塾舎を見下ろして雄々しく聳え立つ巨魁の惨号生筆頭。華国拳法の達人にして不動の大巨人。推定体重数百トン、標高300m。雄々しき山のような‥‥‥山。ていうか山。

「さすがは総代‥‥器が違うか」
「っていうかお前‥‥これは無理しなくて突っ込んでいいと思うぞ?」
「というより、あれと塾長がタメ張るとこに突っ込んだ方がいいのか?」
 と、ここで小さく地鳴りが。
「毅業院め‥‥早くも先手を打ってきおったか。あれなるは鷹射死」
 一斉に身構える塾生たち。地響きのようなものが近づいて来て、そして木々を薙ぎ倒す音と土煙――。
「って、落石じゃねーか!!」
「何と、あれは正しく岩そのもの! 毅業院め、ここまで厚い氣を練りよるか!」
 毅業院岳は落石が多く危険なので土地の者は決して近寄らないという。特に冬にここへ入るのは遭難の危険が非常に高く自殺行為である。

 真相
 なんか数年前に冬山にみんなで登って多数遭難したらしい。

「わしが塾長の雄田島である!」

●今回の参加者

 ea0270 風羽 真(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0452 伊珪 小弥太(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0561 嵐 真也(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3681 冬呼国 銀雪(33歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6402 雷山 晃司朗(30歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea8968 堀田 小鉄(26歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9915 天現寺 礼(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

伊達 拳(ea7036

●リプレイ本文

「この地にかつての先輩方の英霊が眠るという訳だな」
 折からの雨は雪に変わり、戴逝災の幕開けを前に毅業院岳は雪化粧に覆われていた。
「毅業院先輩にしてもいずれ越えて行かねばならない存在! 新しい年の幕開けとなりますが一つ宜しく御指導願います! そして小弥太殿、貴殿の勇姿を忘れはしない、そこで見ていてくれっ」
 聞禍災にその身を散らした塾友へ菊川響(ea0639)が勝利を誓う。その叫びも吹き荒ぶ強風に小さく掠れるこの冬山は冷たき刃を剥き出しにして彼らを待ち受けている。
「今回の試練は例えるならばそう、まるで冬山を制する様でござるが‥‥」
 久方歳三(ea6381)が頂を睨むように仰ぎ見る。凪里麟太朗(ea2406)もその小さな体を気合で震わせた。
「だが、我等は巨木の地上の星を目指すのみ!」
 そこは極寒の世界。義侠塾生は死出の旅路へと赴く。見送られることもーなくー。


「遂に戴逝災‥‥正に最後の闘いに相応しい苦行だな」
 命を捨てて尚生きる覚悟で雷山晃司朗(ea6402)は気を引き締める。一蓮托生の絆を結ぶ天現寺礼(ea9915)も雷山の意気込みを肌で感じて心構えを新たにした。
「この試練‥‥互いの片足を封じられては鷹射死の的となる。だが斯様な状況においても我が百二十形意拳が遅れをとることはない」
「天現寺殿、何やら秘策がおありの様子だな」
 華国拳法の十二形意拳を超える日本独自の拳法――百二十形意拳の完成を目指して入塾した天現寺、その多彩すぎる技はちょっと引くくらいマニアックな動物の動きをも型に取り入れている。
「どっぺるげんがーなる魔物を模した奥義、その名も怒津減流拳! 雷山殿の動きを完全に真似ることで一分の乱れもなく呼吸を合わせることが出来よう!」
 雷山が右足を踏み出し、同時に天現寺も雷山の左足と結んだ右足を踏み出す。もつれ合って転がった二人は巨大な雪玉となって眼下の木々を粉砕した。
「なんと強大な敵。それとも、これは俺の恐れか‥‥恐れが幻でも見せていると言うのか」
 雷山達を肩越しに振り返り、嵐真也(ea0561)は再び山頂を見上げる。立ちはだかる毅業院先輩の雄姿は険しくも雄々しい山の様でもある。
「この闘気‥‥そうだな、言うなればまるで雪山のようだ」
「こう見えても雪国育ちだから冬山には強いよ?」
 ペアを組んだ冬呼国銀雪(ea3681)は猟師、言わばここは彼の庭である。
「山は不案内だ。ここは冬呼国に任せるべきだろうな」
「うん。遭難しない様に、目印にこうやってお粥を落として行くんだ」
 べちゃべちゃ‥‥
「道は任せてね。‥‥雪だるま作りも結構上手いし」
 雪上に広がった粥は白くて見た目よく分からないが、何となく湯気が立っているのだけはうっすらと見える。
「雪国育ちの俺が言うんだ‥‥間違い無い」
「む‥何か嫌な予感が過ぎったがそれはそれとして流石は銀雪。頼りになるな」
 二人はがっしりと肩を組んだ。
「「壱、弐、壱、弐」」
 息を合わせて掛け声を上げ、嵐達も歩を進める。その二人の脇を猛スピードで追い抜く組があった。
「悪歩路道羅里猪(おふろーどらりー)! 行くぞ伊達! どんな悪路も我らの行く手阻むことは出来ねェぜ!」
 燃える侠こと伊達と組んで傾斜を駆け上がるのは風羽真(ea0270)。補佐に徹した伊達の助けを借りた真は切り立った尾根沿いの道を選んで大胆にショートカットを試みる。雪山に慣れた伊達が上手く真を誘導して尾根にあっても危険な雪屁を的確に避け、その指示を信じて真は脇目も振らずに疾走する。
「惨号生筆頭、毅業院岳‥‥相手にとって不足は無ェッ! 小弥太の弔い合戦、見事勝利してやるぜッ!!」
 熱き気合を風に乗せ、風羽組が一気にトップに躍り出た。
「行くぜ、奥義・三足怒裏太(さんそくどりふと)!」
 その背は凪里ら他の塾生の前で瞬く間に遠くなった。その凪里は堀田小鉄(ea8968)と組んでの参加だ。年の割には平均的な背丈の小鉄だが塾生の面々と比べればやはり見劣りする。
「でも機敏な動きは任せて下さい! 皆さん大人組は歩幅も大きいしパワーもありますけど僕らはその差を補うべく確実な動きを心がけますー!」
 そうして山野に慣れた小鉄がリードして最年少組が着実に距離を伸ばす一方で、天現寺達は漸く仲間達に追いついていた。
「‥‥むぅ、思わぬ誤算! なれば『くれいじぇる』を模した苦霊拳で全身の力を抜いて雷山に一切の動きを委ねてしまえば!」
 ずるずるずるずるぐしゃ‥
(「‥‥。天現寺殿の負担を抑えることで、ここぞという勝負時に最大の力を発揮して貰うこともできよう。相互扶助の精神も日本男児には必要不可欠だ」)
 たれ天現寺と化した彼を支えながら雷山もまた幼少時に培った山での経験を活かして力強く前進する。ふとその脚が止まった。轟音と共に雪煙を撒き散らして向かってくる巨岩‥‥もとい氣の塊は正しく!
「えーと‥落石‥‥もとい鷹射死でしたね! よけましょう、確りと!」
 恐るべき破壊力を持つとはいえ、単調な直線状の軌道は読みやすい。
「小鉄くん! ここは琥魅卦栖達埠(こみけすたっふ)だ!」
 壱藩乳浄曉裂(いっぱんぎょうれつ)や漢津波などの大軍に少人数で対峙する為に考案されたその戦術は、死闘によって培われた動体視力でもって敵の狙いを見極めることにより毎年また最終日に有明の天気が悪かろうがもう何というか大活躍。時速7万5千人で敵を捌くのだ!
「今だ、右へ飛ぶんだ!」
「はい凪里くん!」
 凪里の小さな体を小鉄が抱え、軌道を見切って横飛びにかわす。だが毅業院の破壊力は想像を遥かに上回った! というか具体的には流石の凪里でも抱えるとそれなりに重かった! 避けきれず、壱号生は毅業院の唯の一撃によって散り散りに吹き飛ばされた!

「はっ! ‥‥ここは!」
 気がつくと凪里は屋根の下だった。シューシューと音を立てて湯沸かしからは湯気が漏れ、囲炉裏では火が爆ぜて香ばしい音を立てている。隣には小鉄の姿もある。
「良かった、気がついたか。ここは俺達が作ったかまくら、もう安全だ」
 凪里の目を見ると正面に座っていた菊川が微笑んだ。疾うに日も暮れ野営を張っていた菊川らに助け出され二人は介抱されていたのだ。
「塾友の為に道を築く! 我が身、既に不退転でござる!!」
 山頂へアタックするための中継基地として機能させる為、外ではまだ久方が補強と増設に精を出している。
「まあお餅でも」
 菊川持参の道具で焼いた餅を勧められて凪里がそれを頬張った。
「ところで、嵐くんや雷山くんたちは」
「分からない。俺達が駆けつけた時にはもう‥‥無事だといいんだが」
 その頃、仲間達を見失った嵐達は孤軍奮闘していた。
「流石は惨号生筆頭と言うべきか。まさか鷹射死の使い手が本当にいるとは思わなんだな」
 再びの地鳴り。嵐が大きく腰を落とした構えを取った。
「頭上から放たれるのなら、こちらも上空へと飛翔すれば良い訳だな、うん」
 これぞ秘奥義・風羅李覇射(ふらい・はい)! 嵐が銀雪と顔を見合わせる。一人の力だけでは満足な跳躍は到底得られない。だが!
「二人の呼吸を合わせれば跳躍力も二倍と言う訳だ。問題無い」
 刹那、二人とも思い切り利き足で踏み切った!
「恐れなど乗り越える。飛び越えてみせる。それが俺の義侠心だ!」
 当然こけます。
「くっ、しまった!」
 猛烈な雪煙が上がり、彼らを飲み込まんとする勢いで巨岩が二人を襲う。その時だった。
「あ、あの六尺棒は‥‥まさか!」
 雪煙の中に現れたその人影は、正眼に得物を構え立ち塞がった。轟音の中に叫び声が木霊する。
「‥‥暗黒流奥義・坊多悪死(ぼうたおし)!」
 坊主が多けりゃ悪が死ぬ。女と坊主は余らない。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いが地獄の沙汰も金次第。雪飛沫が飛び、そこに現れた背中は!
「生きていたのか! 小弥太!?」
 間髪入れず嵐達を今度は石礫が襲う! 煙が晴れたその後には、粉微塵に砕け散った瓦礫だけがその場に残されていた。
「今のはまさか‥‥だが小弥太は死んだはず」
「ああ、これは飢えと寒さ故の幻覚だね。雪国育ちの俺が言うんだ‥‥間違いない」
 やけにきっぱりと断言して彼は嵐を振り返った。
「極限状態では幻覚を見やすいものだけど、雪山での気の緩みは死に直結する。今は目の前のことを考えるんだ。あの連続攻撃ではいつ雪崩が起きてもおかしくはない」
 いつになく真面目な様子に嵐が思わず銀雪を見直しかけたのだが束の間。
「雪崩は周辺の音で事前に察知するしかないかな。‥でも腹の音が邪魔でよく聴こえないや‥」
「ひょっとして俺はペアを間違ったのでは?」
「ああ‥肉‥‥早く肉を‥‥!」
 そして嵐達は雪崩に飲み込まれて消えた。遂に毅業院は猛攻を開始したのだ。菊川のかまくらも鷹射死の脅威に晒されていた。
「えーい、鷹射死だと? せっかくに和んでるのに壊されてたまるかっ!」
 何か本末転倒な気もするが、断固死守の構えを見せる菊川。
「毅業院殿、その技、無手にてしかと迎え撃つでござるよ。‥‥6本、止めるには6本の指で十分で御座る」
 そこへ久方が仲間を庇う様にかまくらの前へ進み出た。
「拙者の右手が光って唸る!塾友護れと轟き響く!! しかと見るでござる、奥義・射射忍虞――」
 久方が片手をかざして構えを取る。
「って久方殿、一本足りてない――!」
「‥でござるから右手が5本で‥‥(検算)」
 迫る巨岩。お約束の絶叫と共に久方が脱落した。
「歳ちゃん、感激〜っ!!」
「――小鉄君、行くぞ!」
「はい凪里くん!」
 凪里を小鉄が抱えて走り出した。これぞ正しく寄生豆! 賛銃人惨獣逸伽駈(さんじゅうにんさんじゅういっきゃく)において伸長差を補う為に編み出された妙技である!
「元服前の若者特権競技である賛銃人惨獣逸伽駈で慣らしたこの私にはとって仁人参伽駈など造作もないこと!」
 これにより引きずられることで生じる地面との摩擦を減らし、相手への負担を抑えることができるのだ。
「しかし、仁人参伽駈は、『腐女子』なる妖怪を招く危険を伴うと聞く。奴らは屈強の義侠塾生ですら割賦倫愚(かっぷりんぐ)という邪教儀式の供物にしてしまうだろう。嵐くん達が心配だ‥‥」

「裸で暖めあわなきゃね」
 思わず後退りした嵐。詰め寄る銀雪。
「ほら俺、末端冷え性だし。雪国育ちの俺が言うんだ‥‥間違いない!」
 暗転。
「待て、近寄るな銀雪‥」
「やだなぁ。男相手に変な気なんて起こす訳ないじゃない」
「や、やめ‥‥噛むな‥ってそんなとこ‥‥‥‥これは俺のキャラじゃないー!」
 嵐が本当に恐れを飛び越えたりできたかは謎だが、同じ頃山頂では横滑りなどの奥義を駆使しつつ一番乗りを果たした真と毅業院との死闘が最高潮を迎えていた。巨木に登られては流石の毅業院も鷹射死を放つことはできない。しかし木登りが不得手な二人も苦戦を強いられている。
「だが、こんな事で義侠魂が終わる訳じゃねぇ! 一歩一歩確実に天辺を目指す! そう、俺達は星を掴むんだッ!!」
「ちみっこ組でも馬鹿にしたモンじゃないですよ? 星印狙いますー!」
 そこへ追いついた小鉄達が並んだ。決着は目前に見えた。だが。
「ところで毅業院先輩、実は案外動物好きだったりしませんか?」
 吹き荒ぶ風の音に混じって聞こえたのは低い唸り声。
「ひょっとしてクマさんなんかも飼ってらっしゃる?」
 菊川が見たのは暗闇に爛々と光る無数の眼。巨木を囲んで月明かりに現れたのは無数の熊!
「‥と、歳ちゃん‥‥感激‥」
「久方殿ー!」
 脱落した久方や嵐ペアが熊の口に咥えられたりとかもしてるが、ともかくも獣達は巨木ごと薙ぎ倒さんと一斉に突進した!
「むう。このままでは全滅は必至」
「こんな時に伊珪親分がいたら‥‥親分なんで死んじゃったんですかー」
 その時だった。
「へっ、俺を呼んだかい?」
 月光を背に浴びて木の天辺に立つその姿は。
「「「「「「「「「「生きていたのか!小弥太ッ!!」」」」」」」」」
「罵琉覇裸(ヴァルハラ)に逝った筈の伊珪くんが目の前に‥‥幻か? いや、あれは黄泉からの迎え! 我等は多分、激戦で意識を失いかけている。正気に戻れっ!」
「って、俺は死んでねーーー!!」
 包帯グルグル姿の伊珪小弥太(ea0452)。彼は塾長の密命を受け、単身で入山していたのだ!
「必ず帰って来てくれると信じていたぞ」
 何やら冒頭の演出をきれいさっぱり忘れて侠涙を滲ませる菊川。伊珪は不敵に微笑んだ。
「地獄の悪鬼も恐れてケンマツ音頭を踊りだすという壱号生の伊珪小弥太とは俺のことよ、とうっ!」
 片手に星印を掴むと伊珪は勢い飛び降りた。でも着地したのは熊の中です。
「い、伊珪――ッ!」
 絶体絶命。だが正にその瞬間。
「おお、伊珪殿‥‥不撓不屈の精神で甦られたか!」
 林から飛び出したのは雷山ペア!
「義侠の心を貫けば必ずや成功すると、私は信ずる‥‥!」
 寸分の狂いもなく機を合わせて放たれた翔び蹴りは天現寺の怒津減流拳の技により初めて可能となるものだ。それは山をも揺るがし、地を割る破壊力!
「「行陀武流雷打亜鬼通駆(だぶるらいだあきっく)」」
 その一撃は巨木を薙ぎ倒して地を割り、巻き起こった雪崩は一瞬にして獣達を押し流した。凄まじい地響きが毅業院岳を揺るがした。
「この地響きは‥‥『流石壱号生、何という強さだろう、俺では到底敵わない』と毅業院先輩が仰ってるでありますー!」
 小鉄が高らかに、というか勝手に毅業院の言葉を皆に伝える。遂に壱号生は勝利したのだ!
「‥穀業院先輩‥その姿の如く、巨大な山だった‥‥だが、俺達はあんたとの戦いを忘れねぇよ‥見ていてくれ先輩!義侠塾はこれから俺達が背負って行く!! あんたはこれからも、そこで俺達を見守っていてくれ!!!」
 それに応える様に毅業院岳へ朝日が昇った。姿勢を正して壱号生が整列する。
「‥穀業院先輩‥ごっつぁんでしたッ!!」
 壱号生は毅業院先輩を踏破した! 初日の出に新年の幸と更なる躍進を願い壱号生はこの勝利に湧いた。
「でも家に帰るまでが戴逝災です。最後まで気を抜くことのない様に」
「さあ、塾歌を唱和しつつ、戴逝災‥‥見事に最後まで成し遂げようぞ」


 義侠塾塾歌

  日本男児の生き様は 勇あり 義あり 情けあり
      色恋金子(きんす)に背を向けて 
  進めや義侠(おとこ)の本道を
      嗚呼 我ら義侠塾 日ノ本支える礎(いし)とならん


 そうして日が昇る頃には寒冷前線の接近に伴い毅業院岳周辺の気象状況は急変して空は分厚い黒雲に覆われ、奇しくもこの日今冬一番の寒さを弾きだした毅業院岳は夜明け過ぎに記録的な大雪に見舞われて豪雪に埋もれた。
 ――義侠塾壱号生‥‥闘死(凍死)!