●リプレイ本文
「やっと祝言の儀か‥‥私が女心に疎いせいで、ここまで長かったな」
褌一丁の雷山晃司朗(ea6402)は、伊達壱号生のエールを背に毅業院岳へ臨む。
『この黒子、雷山殿一世一代の血痕式に、裏方、雑用、謹んで引き受けさせて頂きやす』
その横には粛々と陰山黒子(eb0568)、めくりには‥‥
ルール説明
・毅業院先輩の山頂までの道程に塾生が並んで新郎を見守る。
・婚姻に異議があるの者は『ちょぉっと待ったぁ!』の掛け声で乱入、新郎と決闘する。
・素手ゴロのタイマン勝負。相撲ルールということで転倒したら負け(片膝ならOK)
・無事山頂まで辿りつき、花嫁に「お願いします」で手を取って貰えればカップル成立。
「熱き友情を交わした塾友と体で語り合わなければ、婚姻は認められない。私の相撲道の全てでぶつからねばなるまい」
「晃司朗殿、ちょっと待ったぁ!」
山道の入り口に立ちはだかるは第一の刺客、菊川響(ea0639)だ。
「俺はまだまだ冬が長そうだなぁ‥いやいやいや、今は己を鍛える時。決して羨ましいとか八つ当たりとかでは‥‥!」
でん!
『ラウンド1 ファイッ!』
「晃司朗殿、全力で行くぞ!」
太鼓を合図に菊川から先手を打って突っかけた。だが。
「何! 猫騙し!?」
一瞬の機を捉えて張り手を掻い潜ると、菊川はがっぷりと四つに組む。
「戦友の門出、全力でぶつかって見送るのが筋ってもんだ」
その身には薄く闘気が立ち上る。義侠塾随一の弓の使い手である彼が、今回のガチンコ勝負のために特訓をつんだオーラエリベイションだ。菊川の体は巨漢の雷山からすれば軽いが、込められた思いは見かけよりもずっと重たい。しっかりと受け止め、雷山は全力で応える。尻餅をついた菊川は爽やかな笑顔だ。
「晃司朗殿。侠なら立って逝け♪‥だ。貴殿は決して倒れるな‥‥」
ででん!
『勝者、雷山! 決まり手――小手投げ』
陰山が雷山の腕を掲げ、めくりを進める。
『そして次なる対戦相手は――』
と同時に黒子装束を取り払う。黒子頭巾に褌一丁の井出達、風にはためくめくりには『ちょぉっと待ったぁ!』の文字が。意外にせくしぃな筋肉ばでぃを晒して無言で立ち塞がる。
二人がぶつかり合う。雷山のぶちかましを陰山が受け流し、勢いを利用して投げ飛ばした。辛うじて雷山も両足で踏ん張るが、岩肌に擦って膝頭から赤く血が滲む。
「男女の交わりは血の交わりでもある‥‥血痕式とは言いえて妙」
陰山が頷いた。覚悟を新たに、再びのぶつかり合い。持てる力の全てを尽くして今度こそ雷山が勝負を決めた。雷山は再び頂を目指す。寒風吹きすさぶその先に見えるのは小柄な影。
「今回は塾史上最も過酷とされた冬の狙拿侘(そなた)――馬車にひかれる、記憶喪失になる等に見舞われた伝説の血痕式に勝る激戦となるかもしれない」
凪里麟太朗(ea2406)は愛馬黒皇と共に、激戦の予感を胸にその時を待つ。やがて雷山を見止めると凪里は駆け出した。
「ちょぉっと待ったぁ! 不肖ながら花嫁の父に代わり、日ノ本特有の婚姻通過儀式『親父の卓袱台返し』を務める!」
黒皇が後ろ蹴りで卓袱台を蹴飛ばした。が、何故か卓袱台は凪里の後頭部に命中し、凪里は前のめりに突っ伏した。
「こ、黒皇!!」
鼻息荒く黒皇が息巻く。雄闘死大魔を飛ばした毅業院先輩が闘気(ていうか硫黄)の余韻を残していることを懸念した凪里は、愛馬の黒皇で事前に安全を確かめていたのだ。怒るのもまあ無理もないかも。
ででん!
『勝者、雷山! 決まり手――つき手』
凪里を乗り越えて雷山は進む。その背へ向けて凪里が声を張り上げた。
「雷山君! 大いに“義侠塾の中心で愛を叫ぶ”のだ!」
と、思案顔で凪里。
「しかし愛を叫ぶか‥戴逝災以上に、妖怪『腐女子』を招き、邪教儀式・割賦倫愚の贄にされる危険が高いが‥‥」
そう、再びあの戴逝災の悪夢が繰り返されようとしていた。
「やおい‥‥ずっと『ヤバい・男の・息遣い』かと思ってたよ」
その先に待つのは冬呼国銀雪(ea3681)。自分で言っておいてちょっと照れ笑いを浮かべている。
「勝ったら負けた人を貰う事ができるんだっけ? じゃあ、俺が真也を倒さなきゃ‥‥でも、今回は晃司朗のお祝いだから我慢しとこう。今は」
『R4 雷山×冬呼国、ファイッ!』
かくして不穏な四回戦。だが‥‥。
「ごっちゃんで〜す」
銀雪が繰り出したのは拳ではなく用意していた精のつく肉入り粥だ。
「道のりは長いんだからさ、ここで腹ごしらえしなよ‥」
「冬呼国殿。あえて私を通してくれるというのか」
銀雪が頷き、言われるままに道を開けた。
「いいよ、通って。この先もがんばってね」
『勝者雷山! 決まり手――流され受け』
ででん!
「美味いよ、肉」
(「――だって腐りかけだから」)
『と見せかけて、決まり手――鬼畜攻め!』
「腐りかけの肉が効いてくるのは最終戦あたりかな? 腹痛はポーションでも治せないからツラい試練だよね」
そうとは知らず雷山は全部平らげたようだ。
「ゴメン、腕力じゃ絶対勝てないんだもん‥‥」
知らぬ間に腹に爆弾を抱えることとなった雷山。だがまだ勝負は中盤に差し掛かった所だ。
「ちょっと待つでござる!」
五合目で待ち構えていたのは久方歳三(ea6381)だ。
「お二人の婚儀には異存はないでござるが」
いつになく真面目な面持ちで久方。
「二人結ばれる事により、義侠道と相撲道に陰りが生じないか――しかと見極めさせて貰うでござるよ!」
『R5、雷山×久方、ファイッ!』
太鼓の合図で果敢にも久方が真正面からぶちかましを決める。が、そこへ張り手一発、久方がお約束の台詞を。
「歳ちゃんかんげ‥‥」
‥‥言おうとするが、突いてからのはたき込み、更に無理やり引き起こして河津がけ。膝を付いても負けではないのが仇となり久方を連続技の嵐が襲う。
「歳ちゃんかん‥‥」
「まだまだァ!」
今度は引き起こし様に内無双、おまけにつり落し。最後には久方は何かをやり遂げた侠の顔でその場に転がった。
「と、歳ちゃん感激〜!」
何か半泣きだったとか。
『勝者雷山、決まり手――ヘタレ受け』
「ちょと待ったあ!」
今度は堀田小鉄(ea8968)が行く手を阻む。
「雷山さん、多くの塾生の前で見事勝ち抜いて義侠を見せて下さい! 僕も――本気でいかせて貰います。そう簡単に“つーしょっと”にはさせませんよ」
幼さの残るいつもの口調も今はない。那須の激戦のさなか、響き渡った大衝音に小鉄は勇気付けられた。塾友達のみならず、雷山の無事を祈る花嫁の思いが篭っていたからこそ、あれだけ心強く思えたのだ。その感謝の気持ちを今ここに! 小鉄は全霊を持って雷山を迎え撃つ!!
「って、ああああっ!? 力士に対して『待った』をしてしまいましたー!」
ででん!
『勝者、雷山、決まり手――年下攻めと見せかけて実は襲い受け』
こうして小鉄の不戦敗で雷山は一気に7合目まで到達する。
「ちょーっと待ちたまえ! この薔薇雄を倒さぬ限り、君は上には進めない‥分かっているね?」
待ち受けるのは虎杖薔薇雄(ea3865)だ。
「ふっ、血痕式‥‥それは素晴らしい儀式。愛する者がその愛を誓うために戦う‥‥なんと美しいことか! この薔薇雄が、この美の限りを尽くして結婚式を彩ってあげようではないか!」
薔薇雄がポーズを決めると、その足が不思議なステップを刻み始めた。
「先に進みたくば私と汚夜女散婆(およめさんば)で勝負したまえ」
汚誉女散婆とは、その昔ある女が結婚を認めて貰うために、たとえ穢れようと夜通し踊り続け、そのまま老婆となるまで踊り止めず遂にその散り際に見事認めて貰ったという所からきているらしい。
「汚夜女散婆とは稀なる趣向‥‥私の有利に運べるとばかりもいかぬか」
「最後に立っていた方が真なる美の体現者だ! さぁ、勝負だ!」
山頂ではラティール・エラティス(ea6463)が雷山の到着を心待ちにしていた。
「ああ‥‥ついに晃ちゃんと結ばれる日がやってきたのですね」
戴逝災の折に倒された巨木は昨晩の内に菊川ら塾友達によって取り払われ、山頂には会場が設えられている。ラティは塾長や他の塾生から儀式についてや妻としての心構えを教わり後は新郎の到着を待つばかりだ。
「幼い頃から夢にまで見たこの時‥‥初恋は実らないと言いますけど、私は幸運にもそのジンクスを乗り越えられたようです」
淡く頬へ朱を差しながらラティは幸せを噛み締める。生まれ故郷の太陽神と、日ノ本の八百万の神々に感謝を。この場を与えてくれた塾長や塾生の皆に感謝を。
(「そして、私の想いを受け止めてくれた晃ちゃんに――感謝を!」)
血痕式の成就はいよいよ目前だ。汚誉女散婆の果てに立っていたのは雷山だった。息を切らした薔薇雄は膝を付くとそのまま崩れ落ちた。
「さあ行きたまえ! 真の美を極めるために! そして倒れ行く私も美しい!」
何かイロイロあってお腹もすっきりした雷山だが壮絶な汚誉女散婆で体中泥だらけだ。その疲弊振りは想像以上だ。
「流石は義侠塾と言うところか。祝事一つとっても、一筋縄ではいかんな」
待ち受けていたのは嵐真也(ea0561)。
「此度は血痕式、真にめでたいな。先ずはお祝い申し上げる。だが雷山、君の望みを叶える為にもこの試練、見事に突破してもらおうか」
汚誉女散婆の影響か、雷山の太い足は今にもくずおれんばかりに震えている。
「その傷ついた体で更に進もうと言うのか。たとい、ここで引こうとも誰にも文句は言えまい。死んでしまっては元も子もない」
「嵐殿、お心遣い感謝する。だが信頼する友だからこそ、真剣に立ち会おう」
だが疲労から彼の動きに切れはない、嵐の拳は容易に雷山の胸を打った。刹那、その拳が黒い輝きに包まれる。それがやがて雷山を覆うと、立ち所に雷山の傷が塞がった。
「少しでも退く気であったなら性根を叩き直していた所だが、立ち向かう者には手を貸すのが黒の仏教の教え。ささやかながらこれはその餞という訳だな」
「嵐殿、感謝の言葉もない」
小さく唇の端に微笑を漏らすと、嵐は雷山の背を叩いて彼を見送った。
(「‥‥いや、似合わないってのは分かっているともさ‥‥」)
「饒舌になるのも、たまには必要なのさ‥‥」
頂上はすぐ鼻の先だ。
「‥‥人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて何とやらとか云うが‥まぁ、これも義侠塾らしくていいやな」
風羽真(ea0270)が手刀を作り水平に上げた。それは挑転自護魔の構え。
「‥フッ‥黙って通してやりたいトコだが、これも侠を磨く為の試練‥‥てぇより単にお前さんと手合わせしたかったってのもあるが‥‥ちょぉっと待ってもらうぜ、晃司朗ォ!!」
技の機動性を活かして一撃離脱を繰り返し、手数の多さで容易には組み付かせない。雷山は防戦一方に追いやられた。が、頃合を見ると真は回転を止めた。襟元から肩を出して諸肌脱ぐと、上体を沈めて相撲の構えを取る。
ででん!
ぶつかりあった二人はがっぷりと四つに組み合った。
「風羽殿、その侠気しかと受け取った」
ならば後はもう持てる相撲の動きを出し切り、勝つだけだ。雷山が真の着物の帯を掴んだ。
「おおおぉぉお!!」
それは渾身の上手投げ。後に立っていたのは雷山だ。
「‥‥へっ‥これから日ノ本だけじゃなく、嫁さんも背負う事になるんだ‥‥どっちも落っことすんじゃねぇぜ?」
「晃ちゃん!」
花嫁の元へ雷山は頂まで駆け登った。山頂には陰山の肩を借りながら、破れた塾生達も集まっている。たちはだかった凪里が氷の微笑を雷山へ向ける。
「同期生の全てを倒したとしても、安心するのは早い。総代自らが雪の中に隠した、純白の衣装を身に包んだ花嫁を見付けられるかな?」
1番‥白無垢の花嫁
2番‥毅業院先輩の飼ってる熊さん
3番‥餓餌出淫愚怒麗酢を着た塾長
「お願いします!」
勿論ラティへ雷山は胸を張ってと手を差し出した。だが。
「ちょっと待ったあ!!」
どこからか響き渡る声。振り返ると樹上に伊珪小弥太(ea0452)の姿だ。
「とうっ!」
飛び降りた伊珪。身に纏う美しいローブからはレースの褌が覗き、華麗を通り越して頭の中身が春めいた感じで季節を先取りだ。
魔ー畏武‥‥痲ー威鵡‥‥ 魔ー畏武‥‥痲ー威鵡‥‥
ひとしきり踊るとぴたりと足を止め、そして。
「――お願いします!」
雷山に並んで伊珪が右手を差し出した。ラティが伊珪へ手を伸ばすが。
「ごめんなさい」
向きを変え、雷山の掌を両手で握り締めた。
「チクショー、どぉせ俺は道化だよー!」
ぶわわっと涙を溢れさせて泣きダッシュで伊珪が去る。
(「‥‥これも「お約束」って事で」)
それが華を添えた所で、雷山はラティを強く抱き寄せた。花吹雪玉が割れ、伊達壱号生の音頭でおめでとうのエールが紙吹雪と共に二人の門出を祝福する。遂に二人は夫婦となった。
疲労宴にて。
「‥‥やれやれ、何時か刹那と所帯持つ事になったら、今度は俺がこれをやる事になるのか‥‥んじゃ、そん時の為に今まで以上に鍛えるとすっか」
無礼講での宴が繰り広げられ、苦笑交じりに真もその輪に加わった。
「けどさー‥‥嫁さんかぁ」
戻ってきた伊珪も衣装はそのままで、二人を横目に少し羨ましげな顔。
「押忍! 塾長さんは、お嫁さん欲しくないんでありますですかー?」
「うむ。わしとてまだ侠の道を極めるには遠い。だが夫婦となるのもまた一つの道。いずれの道を行くにも、精進あるのみである!」
「誰が言ったか。結婚は人生の墓場。義侠ならば、戦い続けねばならんと言う事か」
嵐に小突かれて雷山は照れ臭そうな表情だ。
「夫として妻を守り、やがて生まれるであろう子を正しく育てねばな。子作り? いや‥‥まあ‥‥それは当分先だろうな」
「えっと、子作りってえっと、あの、その‥‥」
赤面したラティが足元へ視線を彷徨わせる。
「ふっ‥‥結ばれし二人に末永き幸あれ。そしてこの薔薇雄に永遠の美を!」
ふと凪里が口を開いた。
「すっかり忘れていたが毅業院先輩は花粉症らしく、毎年、春先になると滂沱の涙を見せるという。しかも、今は血痕式による純愛に刺激された感涙も加わり、量が倍増に‥‥」
不意に地響き、山頂は軽い揺れに見舞われる。陰山がめくりを取り出した。
『さて、時間も差し迫っていることでやすし、これにて義侠塾外伝、閉幕でやす』
そうしてめくりの最後には「我が妻へ。今日は早く帰るから」‥‥既婚者だったようだ。気を取り直して。
ででん!
その太鼓の音が最後の一押しとなり、山頂の雪は毅業院先輩の感涙となって塾生達を纏めて押し流し、感動の嵐の中に包み込んだ。
義侠塾一同‥‥闘(凍)死!