《松竹料理対決!》 春は桜−前編−

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月15日〜03月20日

リプレイ公開日:2005年03月24日

●オープニング

 江戸の下町に店を構える大衆居酒屋・竹之屋。小さな店ながらこれまで町人を客層として地道に商売を続けてきた。年の初めには町内の催しへ出店もし、冒険者達の協力も得て成功を収めた。今、乗りに乗っている竹之屋は、これから遂に一世一代の大勝負に臨む。
 大手冒険者酒場・松之屋との直接対決! 竹之屋の主人は冒険者ギルドへ企画・交渉を依頼した。冒険者の助けを得た竹之屋は松之屋の看板娘である小梅ちゃんと交渉し、遂に了承へと漕ぎ着ける。勝負は来月、四月の花見会場。それぞれお題を元に一品の料理を出品し、その売れ行きで勝敗を決するというものだ。
「押さえるべきポイントは4つ。珍しい事、手軽な事、汚れない事、後始末が簡単な事、これが大事だね」
 中立の冒険者を通した両店の協議により、お題は『花見料理』となった。外でも手軽に楽しめて、尚且つ、ありきたりでないもの。そう、最高の花見料理を!
「弱小店なんかには負けないよ。究極の花見料理を作るからね☆」
 松之屋は早速腕のいい板前を募って試作品の製作に取り掛かった。大手の意地に掛けて、ぽっと出の大衆店に遅れを取るわけにはいかない。
「やっさん、竹之屋も負けてられませんよ!」
「ったりめぇよ! 向こうが究極ってんなら、こっちにも考えがある」
 もちろん竹之屋だって負けてはいられない。
「竹之屋の味は庶民の味ってな! 新しモノ好きのクセに好みにゃあ五月蝿い江戸の庶民を相手に商売してきたんだ。庶民の好みについちゃ一日の長があるってんだ」
 向こうが究極の料理なら、竹之屋は庶民の味の高みを目指すだけだ。 
「そう、嗜好の花見料理を!」
 勝負の日までおよそ一月を切った。究極vs嗜好――それぞれの威信を賭け、今、熱戦の幕が開ける!!

●今回の参加者

 ea2900 河島 兼次(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5148 駒沢 兵馬(56歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6923 クリアラ・アルティメイア(30歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea7692 朱 雲慧(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8432 香月 八雲(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9861 山岡 忠臣(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0240 月 陽姫(26歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0943 ミリフィヲ・ヰリァーヱス(28歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb1505 海腹 雌山(66歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 松之屋では腕利きの料理人達が雇われ、早速メニュー開発が始まっていた。その中の一人、河島兼次(ea2900)は町道場で師範を務めているという変り種だ。
「力及ばずながら俺も松之屋側につこうと思ってな。とはいえ料理に関しては素人。果たして役に立てるかどうか」
 茶道に通じている河島はその腕前を買われて今回のスタッフに迎えられていた。その彼が何やら粉だらけになって作っているのは‥‥
「このお菓子、あんころ餅アルか?」
 月陽姫(eb0240)がそれを掌に乗せ、河島に問いかけた。
「うむ。だがただの餅ではない、私の創作菓子だ。お茶請けなら作ってみたことももあるのでな。そこから考えてみた」
 お茶請けには抹茶の渋みと調和した甘味が求められる。意外性を求めた河島は逆転の発想で甘い菓子の中へ渋味のあるものを包んだのだが巧く行かず、今度は甘みの組み合わせの意外さを追求してみたのだ。
「丁度門下生の親から野苺を頂いてな。渋味とは違うが、季節のものとして入れてはどうかと思ったのだ」
 いちごを小豆餡に包み、更にそれを餅で包んだという訳だ。お茶請けは味は勿論、見栄えの雅さも求められる。後は見よう見まねで細工をして見栄えにも美しい苺あんころ餅の出来上がりだ。陽姫が一口頬張ると、餡と餅の重厚な甘みの後に、苺の鮮烈な甘酸っぱさが口の中へ広がる。
「アイヤー、初めて食べる味アル!」
「俺が思いつくのはこれぐらいだな。まあ、素人考えだから参考までに聞いてもらえるとありがたい」
「あたしも試作品を作ってみたアル」
 陽姫が持ってきたそれは竹皮に包まている。河島が開くと、香ばしい匂いを立てて出てきたのは春巻き。だがその皮は柔らかな乳白色をしていて、薄っすらと具材が透けている。
「米粉の薄焼きアル」
 日本人には馴染みの薄いが、それで具材を巻いて奉書型に畳んであるのだ。
「こっちが華国の辛味噌ダレ、もう一方が和風の醤油甘ダレある」
 細く咲いた茹で鶏、一緒に覗くのは白髪葱だ。落ち着いた色みの中で一際鮮やかに映えるのは、黄の花を咲かせた緑の若菜だ。
「この鮮やかな緑の色は‥‥」
「菜の花アル」
 にっこり陽姫が笑って、台所の隅に詰まれた黄色い菜の花の束を指した。
「なるほど、油菜の花と茎を!」
 油菜は主として照明油に使われるために栽培されており、食用にするのは珍しい。
「ふむ、今回は月殿の案をベースにして向上をはかるか」
 厨房へ駒沢兵馬(ea5148)も足を踏み入れた。今回の品目には、数を裁けるのは大前提として最低限の手間と予算の範囲内でという条件が付く。米粉の皮と菜の花の組み合わせは意外性の面では申し分ない。しかも身近な材料なので費用も最低限に抑えられる。
「わしらがおらんと何も出来んような複雑怪奇なものでは意味がない。また客本位を忘れて技術や勝負にこだわりすぎても本道を外れるゆえ」
 陽姫のそれを手にとって試食する。その舌でじっくりと吟味すると、駒沢は渋面で首を振った。
「皮にも拘りたい。雑穀入り、或いは荒挽きや細挽きなども試して見る必要があるじゃろうのう」
 言うと米粉を手に取り、陽姫を凌ぐ技の冴えで焼き上げていく。彼女の案を元に、試作品の更なる改良がが始まった。

 同じ頃。
「とりあえず造ってみたんだけど、味のほうはうまくいったかな」
 竹之屋ではミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)が渾身の料理を完成させていた。
「ミリフィヲはん、何なんや、これ。こっちのは黒パンやろ? せやけどこの肉の塊は‥‥」
 朱雲慧(ea7692)が厨房に顔を出すと、そこには長い金串に突き刺さった肉の塊。それをフィヲがぐるぐると回しながら満遍なく炙っている。
「ドネルケバブっていってね」
 包丁を取り出し、フィヲは慣れた手つきで肉を削ぎ落とした。二つに切ってポケット状にしたパンへたっぷりの野菜と一緒に挟み、これまたたっぷりのソースをかけて手渡す。肉の香ばしさとワインベースのソースの匂いに誘われて、朱が言われるままに大きく一口、頬張った。
「羊肉は特製ソースに漬け込んで熟成させたから味に深みが出てるでしょ。こっちのパンはピタパンって言って、酒粕酵母を使ってるんだよ〜。はい、香月さんには醤油と日本酒で造った特製和風ソース掛けね♪」
 あっという間に平らげた朱を見てフィヲは笑顔を覗かせる。香月八雲(ea8432)も一口食べるとたちまち顔を綻ばせた。
「これならいけそうですね!」
「せやな。これで値段はなんぼなんや?」
 そこへやって来たお千ちゃんがそろばんを片手にはじき出すと‥‥
「出ました。しめて一品2Gです」
 肉を漬け込むのに使ったオリーブオイルとワイン、ピタパンの材料などは江戸では手に入りづらいのでどうしても費用が嵩んでしまうようだ。
「この分だと他にも対決用のお料理を考えておかないといけませんね!」
 と、そこまで言って八雲はもう一度言い直した。
「いえ! そういう考えより、花見のお客様に美味しく食べて頂けるような物を考えましょう!」
 勝ち負けの前に、何より客に楽しんで貰えることを考えなくては道を外れてしまう。
「孫子もこう仰いました! 『料理は9割9分の愛情と1分の努力で出来ている』と!」
「やっぱりドネルケバブは難しいかな〜。本場では羊肉だけど、こっちじゃ手に入らないなら牛とか他の肉でも良いんだけどね」
「まずは皆で色々と試してみましょう! 諺で言う『娘三人寄ればかしまし文殊の知恵』ですね!」
 お千とフィヲの手を繋いで八雲が笑う。顔を真っ赤にして俯くお千ちゃん。フィヲも釣られて照れ笑い。ふと苦笑を浮かべる朱の顔を見て、八雲は微笑んだ。
「もちろん、朱さんも一緒にですよ!」
 最近は細々とした手伝いや時には厨房に入ることも多い朱。最近は料理も少しは様になってきている。4人は揃って試作品の製作に取り掛かった。
「よっしゃ、大江戸の大衆居酒屋の底力を見せたるでッ!」

 一方で料理対決の宣伝も着々と進められている。
「対決の為の下準備その1って感じだな。ここで頼れる所を見せて、八雲ちゃんやお千ちゃんへイメージアップっつーかクリアラちゃんとお近づきっつーかミリフィヲちゃんと‥‥」
 今日も一人で楽しそうなのは山岡忠臣(ea9861)。昼間から妄想の世界に浸って何やら幸せそうだ。
「はわー、私がどうかしましたかー?」
 そんな忠臣の様子をクリアラ・アルティメイア(ea6923)がじっと窺っている。それに気づいた忠臣は慌てて取り繕うと。
「とにかく、俺達の手で花見を成功させような、クリアラちゃん」
 クリアラの手を取って両手で包んだ。ふと目を伏せたかと思うと、ニヤリと一言。
「ふっ‥‥遊び人の血が騒ぐぜ」
 一方のクリアラは意味が分かってるのかどうか知らないが、手を握り返すとにこりと微笑む。
「そういや、クリアラちゃんはなんで宣伝の手伝いをする気になったんだ?」
「はわー。それはですねー」
 松之屋との交渉で、花見当日は会場の隅っこで布教所を出す約束を取り付けている。クリアラがフリップを取り出した。

   1:宣伝効果で会場へ客が訪れる。
   2:見物客、間違えて布教所の列に並ぶ。
   3:多種多様な方法でしつこく勧誘。
   4:頑張ったので報われる。
   5:信者ゲット。

「はわー。たくさん人を呼んで、対決を盛り上げて、布教をするのですー。頑張るのですー」
 という訳で二人は協力して宣伝の下準備に取り掛かっることになった。忠臣が持ってきたのは手頃な大きさの板が二枚。即席の看板を作ると紐で体に結わえ、歩く広告塔の出来上がりだ。
「こういうのはやりすぎ位が丁度良いんだ。んじゃ、いっちょ宣伝してくっか!」
 江戸の冒険者で松之屋を知らない冒険者はモグリだ。ネームバリューの利用価値は大きい。竹之屋も地域の庶民に根付いている。おきよの住む長屋は顔見知りも多いし、その点クリアラは地道な布教活動のお陰で顔も広い。二つに焦点を絞ることにした。ギルドや長屋にビラを貼って回り、楽器をテキトーに吹き鳴らして人目を引きながら噂を広める。
「聞いたか? 究極vs嗜好の料理対決だってよ」
「来月の花見会場で松之屋が長屋の居酒屋と対決するらしい」
「何でも腕自慢の料理人が技を競い合うらしいぜ」
「週刊タイなんとかってのが宣伝してたような」
「そうそう、山岡と栗‥何とかって二人組みが‥‥」
 ギルドや長屋街ではさっそく噂が流れ始めていた。通りを練り歩きながら忠臣は威勢良く声を張り上げる。
「遂にこの江戸で一番の料理屋が決まるぜ! 興味のある奴は花見に来やがれ!」

 再び松之屋。厨房では河島がお茶を振る舞い、試行錯誤の末に完成した試作品の試食会が始まろうとしている。駒沢の主導の下、皮の味と薄さに拘り尽くした一品だ。
「じゃが、果たしてこの雌山の舌に適うかどうか」
 現れたのは海腹雌山(eb1505)。最年長の貫禄を放ちながら三人を押しのけると、海腹は試作品へ手をつけた。暫し味わうと、表情が俄かに険しくなる。
「女将を呼べ!」
「は、はいアルー」
「なんだこのバリバリの皮はァ! 米粉のぷりぷりとした食感が台無しではないか!」
 膳を引っくり返すと凄まじい剣幕で海腹が吼える。
「皮を焼いて旨味を引き出したのは良い。じゃが具材を巻く前に十分に水気を含ませねば瑞々しい持ち味を引き出ぬではないかァ!」
 パン、と海腹が手を叩くと、松之屋の店員が皆の前へ別の皿を持って来た。
「陽姫殿の案を元にわしも試作品を作ってみた。菜の花の代わりに季節の筍をあしらっておる」
 皮が水気を含んだことで食感もぷりっとして、仄かに甘みも帯びている。上質な葛餅のように淡く透き通って見栄えにも美しい。
「アイヤー、確かにこっちの方が美味しいアル!」
「おお、確かにこれは。この食感には冷や飯と炊き立ての飯程の差がありますな」
「左様じゃな、海腹殿。何よりこの料理の良さは、季節ごとに中身を変えることにより、甘みも塩味(えんみ)も出せるということ」
 ならば、陽姫の案に皮は海腹の案を丸ごと取り入れ、菜の花と筍と二種の具材を用意して、選ぶ楽しみを味わうような趣向を凝らすこともできる。陽姫ひとまずほっと胸を撫で下ろし、笑顔を覗かせる。
「商売敵で意地もあっても、花見は楽しく行きたいアルな」
「贅沢を言うなら筍は先端の柔らかい所を主に使ってゆきたいのう」
 と腕組みしながら海腹。
「出来ればその日の朝に取れた、土から顔を出していない若い物が良い。鶏はネックを使えれば最高じゃな。あの食感は忘れられん。葱は根深葱がよい。寒い時期の締まったものはそれだけで賞味する価値があるものよ」
 何か言いたいことだけ言い尽くすと海腹は顎に手を当て考え込んだ。
「じゃがこの条件をそろえると少々高くつきそうじゃ。予算は倍では済まんかもなぁ。まぁ言う分はただじゃ。わしの懐は痛まん。‥‥ところで兼次殿のが苺餅じゃが」
 不意に話を降られて河島はびくりと身を震わせた。
「お茶請けには丁度良さそうじゃのう。子供や年寄りにはあの料理は少し重いやもしれんからな。こちらで満足して貰えればのう」
 思わぬ評価を得て、河島は安堵の表情を覗かせた。
「花見の料理となると、腹を満たすというより、酒の肴にでもなるものがよいかと思いましてな。団子や饅頭もいいかと頭を悩ませたのですが‥‥そういえば華国では饅頭に肉や野菜を入れると聞いたことが」
 駒沢も出来上がった生春巻きを楽しみながら笑顔を覗かせた。
「さて、目指すものが同じならば相手方が創るものは或いは似たようなものか。あとは天運じゃな。好みや天候しだいじゃろうて」


「鳥そぼろ肉まん、完成です!」
 竹之屋が工夫したのは中身の完成度だ。蒸篭の蓋を取ると、広がった笹の葉の香りが食欲をそそる。蒸しあがった試作品第一号を葉で包んで八雲が取り出した。それを二つに割ると、ふわっと柔らかに湯気が上がる。中身は刻み葱たっぷりの鳥のひき肉だ。
「さあ、試食です!」
 お千とフィヲ、左右を彷徨った後で正面の朱の顔で止まった。少し照れながら、八雲は朱へ肉まんを差し出した。その時だ。
「お、竹之屋も完成か。どんな塩梅か俺が味見してやるぜ」
 ひょいと横から摘んで、現れた忠臣が口へ放り込んだ。ちょうど長屋の通りで宣伝を終えて様子を見にやって来た所のようだ。
「この香ばしい風味はゴマを使ってると見た。美味しさの中に俺への愛情を感じるぜ」
「はい! 皮にすりゴマを練りこんでみました!」
 答えた八雲は笑顔だが、僅かだけ曇りが覗く。
「香月はんも味見してや」
 そんな彼女へ朱が肉まんを差し出した。受け取った八雲がかぶりつくと。
「熱っ‥」
「やっさん自慢の出汁に鳥の脚を一緒に煮込んだんや」
 その煮凍を細かく格子状に切って餡に混ぜておいたのだ。蒸した時に溶け出して旨みたっぷりの汁が染みた饅頭になる訳だ。
「おやっさん、これどうでしょう?!」
「良し、これなら文句はねえ! この勝負、貰ったぜ!!」
 お千ちゃんが算盤を弾くと、概算で一個当たり銅貨5枚の値段で収まりそうだ。
「ところで八雲ちゃん。こないだは有耶無耶になっちまったからな。今度はちゃんと報酬にデートの約束を頼むぜ」
「朱さん‥‥」
 眉尻を下げた表情で八雲は朱へ視線を送る。朱の視線が八雲とやっさんとの間で彷徨う。朱が口を開いた。
「ええんちゃう? 香月はんが望むんなら偶には羽根伸ばすんも。竹之屋の用心棒のわいの口出すことやないもんな。せや、わいは得意先回って来な」
 朱の返事は心なしかいつもより少しだけ素っ気無い。
「安さも命や、仕入れ先に安う卸して貰えるよに考証してくるんや。どっちみち材料運びや力仕事は当然わいの仕事やもんな」
「つー訳だ。やっぱ仕事には正当な報酬が無きゃな?」
「は、はい。それじゃあ、お花見が終わった時にでもご一緒しましょう」
 朱は試食会もそこそこに挨拶回りの準備を始めた。それを横目に答えた八雲もいつもより歯切れが悪い。
「ほな、わいはもう行くな。嗜好言うからこそ、素材の一つひとつから拘らんとな。何事でも細かい下積みが大事なんや」
 慌しく朱は店を後にした。その背を見送りながら、八雲は何だか寂しそうな表情。
(「最初は朱さんに食べてみて貰えたら嬉しかったです。何だか残念ですね」)
 ふと心配そうなフィヲの視線に気づいて、八雲は笑顔を見せた。
「本番が近付くと無性に緊張して来ますね! こういう時は無心が一番です! 諺で言う‥‥」
 そこまで言って、少しの逡巡。小さく俯くと、顔を上げた時にはいつもの元気な顔だ。
「‥‥『案ずるより生むが易し』です!」
 いよいよ決戦は来月。軍配が上がるのは、果たして――。