●リプレイ本文
「ふふふっ‥‥さぁやってきたっすよ! 今回も清君のプロデュースっすね!」
清の依頼を前に今日も郊外の河原で特訓開始だ。小道具(eb0569)も朝から張り切っている。陰山黒子(eb0568)を初めとして今回もあの集団が駆けつけていた。
『任侠・裏方組! 引き続きお手伝いさせて頂きやすッ』
「まぁ何時までも冴えないままでも困るっす、今回もバッチサポートするっすよ。野郎ども、カチコミじゃー!!」
と拳を突き上げた任侠裏方組。どっから集まったんだって感じでわらわらと河原に姿を現した。しかも何か数増えてるし。
「アンタが松本? ボクの事は香佑花(こうか)、子供だからって甘く見ないでほしい」
効果係の戸来朱香佑花(eb0579)がジロリと睨む。清が思わず肩を竦めた。
「クククッ今回はどんな面白い事があるかな‥‥」
聞こえてくる爆笑はショウ・メイ(eb0738)だ。
「清ちゃん今回も頑張ろうね」
という訳でまずは復習から。
『以前あっしがやらせた筋トレと走りこみ、続けてやすか?』
陰山の問いかけへ、清が気まずそうに目を逸らす。
「ちゃんと前回の言いつけを清君が守っていたかどうか、こっちもプロなんで調べればすぐ分かるっすよ? もしサボっていようものなら‥‥うふふ」
『日々のたゆまぬ積み重ねが、結局は大成への近道なんでやす。冒険者というもの、すべからく身体が資本でやす。続けてるならそろそろ少し回数を増やしやしょう』
「いや、それが‥‥だってあんな苦しいの毎日続けてたら体壊しちまうっすよ?」
「清君、ちゃんとやってなかったんすか‥‥?」
じと目で窺う小、清がコクリと頷いた。
「ってワケなんで回数は少なめで‥‥」
『サボってやがったンなら今日から倍付けじゃぁ〜‥!!』
ゴゴゴゴゴ‥‥
(早送り)
「ぜーはー‥ぜーはー‥‥」
『基礎トレで身体もあったまったところで今回の特訓でやす』
既に死にそうな感じだがそれはさておき。陰山が今回の特訓の説明に入った。
『清殿はズバリ戦い方の基本がなってないでやす。なので今回は基本的な格闘術、回避術をその身体に叩き込みやす。文字通り』
と同時に、清の背中を大きな掌が吹き飛ばした。
「元気してたかー清?」
サウティ・マウンド(eb0576)が、派手にすっ転んだ清を見下ろしながら豪快に笑う。
「だがその前にまずは剣術の復習だぜ! 実用的な戦い方と魅せる戦い方ってのを覚えてるかどうかな!」
剣を振るうサウティ、清も剣を抜く。その時。
「‥ぅぐっ‥!」
「なんだ、忘れたのか? 戦いは臨機応変だぞ!」
サウティの剣が清の腕を打ち据えた。隙を見せたら即攻撃とばかりにサウティは油断なく構えを取る。
「そこら辺をビシっと思い出させてやるぜ!」
そこへ今度は。
「わ、うひゃっ‥‥!」
「そんな大げさに避けちゃ駄目‥‥」
突如どこからか石礫が清を掠めて飛んだ。
「飛び道具に対する回避能力の向上を図るから、格好よく避けてよ」
投げたのは香佑花だ。尻餅をついた清を冷たく見下ろして事も無げにいう。
『格闘術はあっしと組み手をしてもらいやす。真剣で‥‥その刀で掛かってきてかまいやせん。その代わりあっしも本気と描いてマジにいきやす』
「ほらほら背中がお留守だぜ!」
同時進行で陰山が組み手を始め、サウティも無防備な背中へ容赦なく峰打ちを浴びせる。当然その間にも香佑花の石礫が飛んでいる。
「余裕の表情を見せつつ『当たらなければ、どうという事は無いんだっぜ!』と言って、上半身だけで紙一重でかわすの」
凄い無茶を言ってる気もするが、そんなことはお構いなしに地獄の特訓は続く。
「格好だけよくても実力が伴わないんじゃ、女の子はついてきてはくえれねぇからな!」
その間もサウティが剣撃を叩き込み、必死で逃げ回る清。今度は鼻先を掠めて手裏剣が飛んでいった。
「う、うわあああぁ‥‥!」
「‥チッ‥‥」
思わず舌打ちが洩れてたりするが、香佑花が放った手裏剣が地面に突き刺さった。
「‥‥格好悪い避け方をしたら、厳しくいくから‥」
清の顔からサっと血の気が引いていく。トドメに今度は陰山が組み付き、清を抱え上げると地面に叩きつけた。
『清殿、この地獄の特訓の中で格闘の何たるかを掴むんでやす』
再び構えを取る陰山。手裏剣の狙いを済ませる香佑花。赤い目を光らせて剣を振りかぶるサウティ。
(「‥‥闘っちゃダメだ。俺には向いてない。逃げないと殺される‥!」)
戦いの中で何かを掴んだ清。ズタボロになりながらも器用に逃げ回りなんとか一命を取り留める。だが清に休んでいる暇などない。大曽根浅葱(ea5164)の講義が入れ替わりに始まった。
「あたしからは女性に対する接し方を教えて差し上げようと思います」
清を正座させると浅葱が優しく手ほどきする。
「まずは身だしなみでしょうね。常に清潔にしておくこと‥‥不潔で臭い方は当然持てません。偶には汗を掻いて働く殿方が好きという方もいらっしゃいますが、あたしは綺麗な方がいいです」
というかそれ以前の問題として血達磨な清。
「続いて、話し方‥‥」
そこはサックリ無視して浅葱は話を進めた。
「下手に緊張して何を言っているのか分からないことがありますので、常に冷静になれるよう頑張りましょう‥‥話の内容は好きになさって構いませんが、下ネタは余りお勧めしません。場を読めないような内容を話し出すのも止めた方がいいでしょう」
「ていうか手当てを頼んます‥‥お願いします‥」
「あまったれんなぁぁぁぁ!!」
ビタァァァァン!!
そこへキーパット・ターイム(eb0804)の張り手が炸裂した。
「会話上手は聞き上手です。今回も美しい日本語講座です」
倒れた清を見下ろしながらキーパットがさっそく前回のおさらいに入る。
「3分間以内に自分の伝えたい事を、相手に伝える事が好印象を相手に与える‥‥って事なんですが。覚えているかしら? 長すぎず手短に、かつ的確に伝えたいことを口にする。復習も兼ねてちょっとやってみて下さい」
「勘弁して下さい‥‥」
言えた。
「マツモトさんは今回の依頼を、どの様に乗り切ろうとしているのかしらねぇ‥‥」
声音に何かピリピリしたものを孕ませながらキーパットがじろりと睨む。
「次こそはちゃんと言って見ましょう。はいどうぞ」
「だからもう勘弁して下さ――」
「間違ったり、覚えていなかったら勿論‥‥」
ブンブンとビンタの素振りをするキーパット。熱血指導ビンタを浴びながら清は既にへろへろである。そこへ。
「お前が清か。俺は南天輝(ea2557)だ、よろしくな。」
清の体たらくを見るなり小さく笑いが洩れていたりするがそこは置いといて。
「清はもてたいんだな、面白い奴だ俺からのアドバイスは意外性だな」
冒険者と言うと荒事専門というイメージで見られがちだが中には遊芸に長じた者もいる。
「それにな、優れたものはもはや容姿などは関係なく人は寄ってくるものなんだ。俺だって心を開いてもらうのに楽器を操る事が多いからな。教えてやろうか?」
「は、はい! お願いします!!」
何だか初めてまともなアドバイスを聞いた気がいて清が目を輝かせた。
「だがまずは簡易の罠の知識を与えるか、いいかまずもてるために他の冒険者達に凄い奴だと思わせるんだ」
「‥え‥‥?‥あ、はい」
そうしてなぜか輝による実践的戦場工作の講義が始まった。戦場工作のスペシャリストである輝。警報系や誘導系など様々な罠についての知識を清へ叩き込む。清も頭から煙が出そうになりながらも必死で話を聞く。
「どうだ? 頭に入ったか?」
「はい! それじゃ楽器の弾き方を――」
「――よし。それじゃ次はその解除法だな」
その後それぞれの罠についてその解除方などなどのレクチャーをみっちりやると輝はそのまま帰っていった。結局、楽器演奏は教えてもらえずじまいで散々な清。
「で、最後に女性に対する‥‥触り方なのですが‥‥」
浅葱がその手を取って胸元へと導いた。
「力ずくで引っ張ったり抱いたりするのは‥‥止めて下さいね‥‥そう‥‥優しく‥‥優しく‥‥」
力ずくで押し倒したというより気絶して倒れこんでるようが気がしなくもないが特訓は続く。
「清‥‥いいか、あまりがっつくな。女性ってのは押しすぎても引きすぎても逃げちまう。バランスが大事なんだ。心に余裕を持っていけよ?」
大道具(eb0591)がその横からアドバイスをかけるが当の清は白目を向いていた。
「まぁ、何にせよ‥‥自分本位で動かないようにすることですね☆ 後は‥‥頑張って下さい☆」
そうして日暮れと共に特訓は終了し、明くる朝。
「さしあたってやるべきことは全部たたき込んだっす。後は出発の前に、特訓がちゃんと身についてるか最終チェックっすよ」
出立を前に小が最後の仕上げに当たる。
「清君のことだから忘れてそうっすね、もう一度言っておくっす。モテモテは一日にしてならず! はい復唱!」
「‥え‥‥はい‥あ‥」
「そんな当たり前のことを忘れて、何がモテモテっすか。分かったらレッツ復習っす! はい、モテモテは一日にしてならず!」
「モテモテは一日にしてならず!」
とまあなんか朝っぱらからテンションの高い清達。一頻り繰り返して気分も乗った所でいよいよ出立だ。
「ちょいと待ちや。その格好でいくつもりなんか?」
いざギルドへと向かおうとした清を衣装(eb0577)が呼び止めた。
「もう一度服装チェックでもしたろかねぇ‥‥」
「そういえば忘れてたっすね。今回からは衣装にソッチ系統は任せるっす」
「――ほな早速」
任侠裏方組の衣装係である衣が入念にチェックを入れる。
「そんないかにも冒険者でござい〜みたいな格好やなくてやなぁ‥‥。こう‥もっと派手な格好をするとかして余裕を見せつけるんや」
冴えない清の格好に衣も浮かぬ表情だ。
「何やったら、俺がとびっきりの化粧を教えたってもえぇんやけど‥‥」
「じゃあお願いします!」
「ほなそこ座り」
用意しておいた衣装の中から豪華なマントを引っ張ってきて羽織らせた。
「喋りもまぁまぁやし、後はまぁ‥‥紅ひいたらそこそこはイケるとは思うんやけどな」
そういうと化粧道具から紅を取り出した。
「モテモテ冒険者になりたいんやったら、常に身嗜みには気をつけんとアカン」
「はい、肝に銘じときます!」
「普通の冒険者と違て、ただ強けりゃええ言うワケやあらへんからな」
「やっぱカッコよくないとだめっすよね!」
「そもそも冒険者は一日にして成らずっちゅうてな‥‥」
メイクを施しながら清へ冒険者としての心構えを説いて聞かせる。清も熱心に耳を傾け、衣がその間にも器用に隈取風の個性的かつ攻撃的なメイクを施していく。これなら仲間の冒険者達の視線も釘付けだろう。
「あ」
「‥‥あってなんですか?」
ふと衣が声を漏らした。怪訝な表情の清。衣の額を汗が伝う。話しながらでちょっと手が滑ったのか、仕上げの紅が口元をそれて思い切り頬へ走っている。元からアグレッシブで大胆なメイクが更に得点力を高めてしまった。これなら街の視線を強引に鷲掴みしてしまえそうだ。
「な、何でもあらへん」
衣がささっと化粧道具を畳むと強引に清を送り出す。
「ま、頑張れや。お前にやる気があるんやったらナンボでも力貸したるわ」
「後は、清君が依頼で生かしきれるかっすね‥‥自分は草葉の陰から応援してるっす」
そして当日。
「俺が噂の松本清じゃん、全部俺に任せても問題ないじゃん!」
ギルドへ現れた清の顔面は謎の隈取に覆われ、なぜか唇の片方の端だけが切れ上がったように紅が尾を引いている。見るからにタダ者ではない。
「なんだこの凄みは‥さぞや名のある冒険者に違いない」
「しかもなぜこんなに血だらけなの‥‥? それにあの全身の生傷‥‥」
今回は仲間に女性冒険者の姿もあるようだ。朝から上げてきたテンションと攻撃重視のメイクで突っ走って仲間の冒険者を率いる清。一行は早速日暮れと共に商家へ侵入した。
「用心棒が運良く誰もいない! 家人もいないぞ!」
「今のうちに潜入するわよ」
「ちょっと待つじゃん?」
屋敷へ入ろうとする仲間を清が呼び止めた。よく見ると戸板の隙間から向こう側に綱が渡してあるのが見える。
「あれは‥‥?」
「あれは警報の罠じゃぜ。触れば鳴子が鳴る筈じゃん?」
感心する仲間の前で清が手早く罠を解除し、一行は屋敷へ忍び込んだ。だが。
「であえであえ、賊か侵入したぞ〜」
あっさり敵に発見される一行。と同時になぜか爆笑が響く。
「来たな賊ども! 闇に紛れて悪事を働こうとも、このショウ・メイが照らし出すってね〜!」
突如、清の姿を灯りが照らし出した。
「やるねぇ、簡易とはいえ俺の罠を解除する奴がいるとはな」
用心棒として潜入していた輝も一行の前に立ちはだかる。そして戦いが始まった。仲間と共に数合切り結び、その間仲間が切られるお約束も外さない。
「サウティー!」
「後は頼んだぜ‥‥!」
ガクリ。
「何するだー! 許せん!」
「次はお前の番だぞ冒険者。この剣で切り裂いてやる」
だがその切っ先を前にしても清に動揺はない。今こそ回避術の成果を発揮する時だ!
「当たらなければ、どうという事は無いんだっぜ!」
教わった決め台詞を言い放ち、清は踵を返すと一目散に逃げ出した。冒険者も総崩れとなって散り散りに逃げだした。
「こっちにも仲間がいるぞ!」
更に用心棒達も動き出して屋敷中は大混乱。結局潜入依頼ははこの派手な大立ち回りによって見事に失敗。だがこの騒ぎが発端となってお上の介入があり、結果として商家の賄賂は明るみに出たのだった。
「一時はどうなることじゃんと思ったけど、解決してよかっただぜ」
最後に清は仲間達を振り返った。
「また依頼で一緒になったらよろしくじゃん?」
パパパパッパパー!
松本清はレベルが上がった!
回避能力がちょっぴり上がった!
名声が心なしか上がった気がした!
言葉遣いがややおかしくなった!
そして松本清は、何か大切なものを失った!
闘い終わってこちらは冒険者ギルド。
「それじゃこれ、約束の謝礼だ」
あの女冒険者と一緒にいるのは大だ。
「悪いんだけど。あの人じゃ、ちょっと‥‥何だかその、怖いし」
申し訳なさそうに頭を下げると、謝礼を受け取って女は帰っていった。大が溜息をつく。
「女性が近くに居れば、清のやる気もUPするだろうと思ったんだがなぁ‥‥はりきりすぎても問題だが」
あわよくば何か進展でもと女冒険者に同行を持ちかけた大。これも大道具係たる者の勤めらしい。
「俺は陰ながら応援してるぜ、清‥‥」
こうして清の二度目の冒険は幕を閉じた。だがモテモテの道は一日にして成らず。次回『江戸むらさき殺人事件 〜初めての吉原で巻き込まれた芸者・紫やっこ殺人事件‥‥犯人は松本!? 濡れ衣を晴らせ』に乞うご期待(続く)。