志道に心指す 第三話/九「逸刀嶺断」
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■シリーズシナリオ
担当:小沢田コミアキ
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 76 C
参加人数:10人
サポート参加人数:7人
冒険期間:01月11日〜01月16日
リプレイ公開日:2006年01月25日
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●オープニング
中世世界において最強の兵器が何かご存知だろうか。投石器? 破城槌? 戦車? 答えは全てノーだ。その答えとは、城である。
石造りの堅牢な城壁と数々の防御施設によって生み出される防御力。大部隊の駐屯を可能とする基地能力。そしてそれを支える大量の物資の保有を可能にする兵站能力。この城という兵器は、それまで存在していた砦と呼ばれる前哨基地とは一線を画する能力を有している。それは単なる防御施設という括りには収まりきらない。中世世界においては巨大なる兵器であった。
これから冒険者達が攻める金山城は、その中世最強の兵器である城の中でも、東国随一の堅牢さを誇る山城。百五十年の昔に建てたられた城ながら、その築城技術水準は神聖暦一千年の現代のものと比しても高水準に達している。事実、この稀代の名城金山城はジ・アースの歴史においても一度たりとも陥落したことはない。太田に伝わる伝説では、150年の昔には逆賊・平将門がこの地に逃げ延び、2万の朝廷軍が攻めるが金山城において退けたとも言われている。先の義貞の乱では新田軍によって義貞の手に奪い返されたが、それも城攻めによる落城ではなく領主の降伏によるものであった。
そして今この城を守るは、新田軍中でも随一の荒武者、四天王筆頭の篠塚伊賀守。そして外様ながら夏の反乱以降に頭角を現した武将、華西虎山。新田勢で考えられ得る中で最悪の布陣。この至強へ挑むは至弱の軍。多摩の薬売りから身を立てた奇跡の冒険者・松本清と、彼に率いられた農民や侠客を始めとする民草達――。
華西にやられた道志郎の腕の傷は酷く深く、その後の手当てでも完全な回復は見られなかった。道志郎の右腕は肘から先が痺れたままで、連合での治療の成果も辛うじて指先を動かせるようになったまで。医者の診断では、もう剣を握ることは生涯ないであろうということであった。
半月の投獄と過酷な水路の移動で一時は低下していた道志郎の体力も新しい年が明ける頃には漸く回復し、道志郎は連合の許可を取って一時江戸へと戻っていた。
「こうして江戸に戻ってくるのも一月ぶりにか」
腕の怪我について知らされたせいか、足取りは重い。だが道志郎にはやらねばならぬことがある。控えた金山攻めのための兵を江戸で募らねばならない。既に仲間達が江戸での工作には着手している。道志郎の声望がどれだけの効果を見込めるかは不明だが、連合との約定に従ってできるだけの誠意を見せねばならない。その後に武具を調達して江戸へ輸送するのが今回江戸へ戻った道志郎の目的だ。
今回の金山攻めは連合との同盟という建前を抜きに、道志郎にとっても重要な意味を持つ。上野で暗躍する九尾の手下の動きを掴み、彼等の目論見を暴かねばならぬ。その一端は、同じく華西の手によって投獄されたいた隠という忍びによって道志郎とその仲間の下へともたらされている。
隠は上州で暗躍する金狐教という教団の調査のために上野へ潜入していた。その教団が近く東国で大規模な一揆を企てる恐れがあるとの情報を掴んでいたのだ。金狐教が新田家と手を組んでいると睨んで情報を探った隠は、そこで偶然にもある陰謀の一端を知ってしまう。この地にちらつく九尾の影と、彼等の手によって進められようとしていた大妖復活計画。
「‥それは華西の腹心の妖華堂らが密かに進めていた計画だ。奴の正体は妖狐。その配下も皆化け狐だ」
それを知った時には既に隠の足元まで妖狐の影は忍び寄っていた。その事実を仲間の下へ伝える手段を絶たれ、遂には妖狐の手に落ちて金山城で囚われの身となっていたのだという。
「奴らの狙いが何なのかは分からぬが、何かの資料を基に京や江戸、それから富士近辺の地脈の流れを調べているようだった。城内にある妖華堂の室にその古文書があるはずだ。奴らは確か、宮下の文書と呼んでいた」
隠はそれを盗み見たが旧い文字で書かれたために読めなかったという。妖狐が口にしていたのを盗み聞いて断片を知りえたが、彼等の狙いまでは読み取れなかったということだ。
ともかくも隠の情報で隠されていた真実の一つが浮かび上がった。悪謀を暴く最短の方法は、金山を攻め落とし、宮下の文書を入手すること。道志郎はその足でギルドへ向かう。
「また皆に力を貸して欲しい。敵は華西虎山――」
獄中で聞いたその名は、山を意味する華国の言葉。
「――虎人、シャン。華国武術に通じ、虎の奥義を修めた強敵だ」
十二形意拳の虎の奥義である爆虎掌は、素手による発頸の技。素手の攻撃でありながら盾や鎧の上から直接人体へ損傷を与える威力を持つ。それを虎の膂力とあの鋭い爪で放たれたら‥‥?
「敵は強敵、だが覚悟の上だ。守りの薄い西城より突破を図り、速攻の奇襲攻撃でシャンを討つ。これは間違いなく金山攻めの勝敗を分かつ作戦。その重要な任を俺たちに与えてくれた連合の信にも報いたい。皆、共に戦おう」
――金山城。
(「しかし、センが不在の時に道志郎の身柄を奪われるとはな」)
華西――シャンは苛立っていた。義弟である妖狐センは道志郎の捕縛後すぐに『計画』の為に京へと旅立った。向こうで不測の事態があり、上野への帰還も遅れている。民草が冒険者と手を結んで金山を窺っている今、その不在はシャンの懸念の一つであった。
九尾の尖兵として新田軍中で力をつけつつあるシャンにとっては、義貞からの金山城守護の任を果たすこともせねばならない。
「しかし俺にとっては弟を殺った連中を狩ることが至上の目的」
道志郎とその仲間が連合に接近している以上、いずれ再び見えることがあるだろう。
(「薄汚い鼠ども。早く姿を現せ‥‥俺は‥ここにいるぞ‥‥!」)
●リプレイ本文
兵を挙げた連合は金山の関を破り、大手口より侵攻を開始した。神聖暦一千一年、睦月十三日昼のことである。実城、そして西城の門を巡って熾烈な攻防が始まった。そんな中、刺客達は金山の北に雌伏する。
軽装に身を包んだカイ・ローン(ea3054)を始め、ここに集った多くは狐の一族とは因縁のある中。
「華西を倒せば九尾の企みを潰せるな」
これから一行の狙う華西はその九尾の息のかかった妖怪。これも長きに渡る冒険者と狐との戦いの一幕だ。冒険者達は山野を登り、実城を窺わんとしている。凄腕の猟師でもある陸潤信(ea1170)が先導して一行は急峻な山野を何とか登り、北城から実城へと続く道の傍まで既に近づいていた。
「今の敵兵力じゃあ大規模な物見はないだろうし、あまり危険がないだろう」
「せやな、ここからなら新田の人たちからもウチらは見えんと思うで」
カイが物見の櫓を窺うとグラス・ライン(ea2480)がニコリと笑う。遠物見のグラスが目測を図りぎりぎりまで城へと近づく。後は門を破って華西の元まで。迅速にこれを討ち、戦の流れを奪い取る。そうして静かに時を待つこと数刻。遂に仲間のマリス・エストレリータ(ea7246)からの念話で陸堂明士郎(eb0712)へその報せがもたらされた。
(「来ましたぞ。連合の猛攻で大手と絡め手で激しい戦が始まりましたからな。行くならいまですな」)
一呼吸。
二呼吸。
同時に仲間達が武器を取って立ち上がる。陸とイリス・ファングオール(ea4889)、そして李焔麗(ea0889)によって仲間達に魔法と闘気の加護が施され、遂に冒険者達は行動を開始した。
「さて、決戦です。敵は強大ですが、私は私の、我らは我らのすべき役目を全力を持って果たすのみ。必ず、勝って帰りましょう‥‥!」
一丸となって一行は城門へと駆け出した。実城の兵力は大手口の守備に割かれている。情報通り守りは手薄だ。マリスの情報では、事前に城内へ潜入した忍びの音無藤丸(ea7755)が内部から開門を試みたが果たせずに終わっているらしい。まずは対応が整う前にこの門を破る。
「て、敵襲だーー!!」
叫び声を上げた門衛をカイが木刀の突きで沈め、すぐさま門に到達した陸が向こう側の閂を狙って爆虎掌を試みる。
「やったか!?」
「いいえ、思ったより厚みがあります、向こうまでは届いていませんね」
ぐずぐずしてはいられない。本丸付近で華西の兵として動いている不破斬(eb1568)がマリスの念話に呼びかけた。
(「マリス殿、門の左手の三間ほどをくり貫けとグラス殿に伝えてくれ。そこからなら内部へ一気に侵入できる」)
(「分かりましたぞ。すぐに陸堂さんに報せませんとな」)
マリスの連絡で一行はすぐに動いた。カイが持っていた経典を取り出す。
「グラス!」
「うん!」
地の精霊力を借りてグラスが石壁へと穴を穿つ。そこから冒険者達は城内へと雪崩れ込んだ。佐竹康利(ea6142)が先頭を走りながら雑兵をなぎ倒す。
「どいとけェ! 命を無駄にすんじゃねえ!!」
康利の剛剣が兵士の頭部を薙ぎ払った。木刀といえど佐竹の膂力で脳天をやられたら命を落としてもおかしくはない。敵兵も迂闊には近寄れない。
不意に風を切る音。焔麗が警告を発する。
「イリスさん!」
飛来した矢撃をイリスが咄嗟に張った結界が弾いた。本丸の上階に射手の姿。兵は更に矢を番えるが、次の瞬間には呻き声を洩らして階下へと転落した。潜入した藤丸の仕事だ。
(「私にできるのはここまです道志郎様。華西のことを頼みました。我々は隠様と宮下文書の件を片付けてまいります」)
この援護で敵の反撃は一瞬だけ流れを止めた。
「今だ、行くぞ皆!」
懸念していた忍びの妨害もなく、一行は道志郎を中心に守りを噛めながら迅速に本丸へと突き進む。斬が巧く内部で立ち回ったおかげか本丸の守備兵の動きも鈍い。
(「斬、やってくれたようだな。礼は働きできちんと返すぞ。見ていてくれ!」)
奇襲の報せは本丸の華西の元へももたらされた。
「華西様、敵の奇襲です! 少数ながらも敵兵が本丸へ侵入しました!」
「よい。兵を退け、どのみちお前達では相手になるまい。この俺が直々に相手をしよう」
(「俺を直に殺りに来たか‥‥願ってもない」)
得物を取ると華西は立ち上がった。
「敵を中へおびき寄せ、出入り口を兵で固めろ。城内で俺が迎え撃つ、戦いが始まれば精鋭を送り込んで挟み討つ」
「はっ!」
華西の兵は本丸の外へと退出した。道志郎達への追っ手も止まり、焔麗がその気配を敏感に察知する。
「迎撃の気配がありませんね」
「斬の報告だと華西がいるのはこの奥だ」
外にいるマリスも念話で一行へコンタクトを取る。
(「では試しにムーンアローでも放ってみますかな」
虎人を指定したそれは吸い込まれるように奥の部屋へと消えた。
そこは畳張りの広間。その奥に武装した華西が待ち受けている。
「来たな道志郎。余計な連中は除いておいた。舞台は整えておいたぞ」
「虎人シャン。日ノ本を脅かす狐の陰謀を見過ごすわけにはいかない、立ちはだかるのならば乗り越えさえてもらう」
その道志郎の前へ佐竹が進み出て木刀を握った。
「悪いが急ぐぜ! あんたの相手は俺達がやらせてもらうぜ!」
言うが早いか重い剣撃を放つ。抜刀した華西が受け流した。瞬時に二人は間合いを取る。その間に陸堂が左に、陸が右に回りこんだ。佐竹が時間を稼ぐ間に陸が気を練り、その身に薄く気炎が立ち上る。その拳を陸が叩き込んだ。
「甘いわ!」
脇を締め左腕で的確に防御。続けて陸が連打を叩き込む。鍛え磨き上げた拳技の全てを連撃に乗せ、狙うは虎の奥義、爆虎掌。陸が必殺の気合を放つ。
「!」
華西は刀を薙いで佐竹らを牽制すると陸へ左拳での爆虎掌を合わせた。強烈な気のぶつかり合いで空気が震える。二人の体は衝撃によって互いに後方へ流された。陸の腕をずきずきと鈍い痛みが襲う。
(「この身で喰らって分かりました。やはり虎の放つ爆虎掌は危険。出させる隙を与えず戦わねば」)
獣化しておらずともその威力は陸にも引けを取らない。華西は痺れ左拳を握り締めて苦々しげに口にする。
「やるな、貴様も俺と同じ武道家だったか。油断したが次はない」
華西は強大な敵。だが、陸に恐れはない。体の奥から湧き上がる闘気が燃える。必ず、誰一人と欠けず生きて帰る――。
「陸、無茶はすんな! 連携で倒すぞ!!」
「分かりました」
そうして戦いが始まって程なくして。広間に華西配下の精鋭兵が姿を現した。その数、およそ十。だが、させじとカイがたちはだかる。
「彼らの邪魔はさせない。お前たちの相手は俺だ」
木刀を手に取ると油断なく構えを見せる。
「得物がいつもと異なるが、棒術をして使えば何とかなるか。青き守護者カイ・ローン、参る」
「いくで、道志郎さんたち下がって!」
グラスの放ったアイスブリザードが敵集団へ襲い掛かる。敵兵は左右に散ってかわすが、右側には道志郎が既に回りこんでいる。
「華西を倒すまでの辛抱だ、ここは何があっても凌ぐ!」
左手の刀で敵兵へ斬りかかる。数が多い上にそこそも腕も立つので厄介だが、右腕の利かぬ彼の代わりに焔麗が片腕となって助け、隙を与えない。
(「とにかく、生きていてもらわねば話になりませんからね。今後の事を考えてもそうですが、何より友としても」)
道志郎の両脇は焔麗と共にイリスも守る。
(「‥‥この前みたいな事もあるし、本当は安全な所に居て欲しいですけど」)
江戸を発つ前に道志郎と交わした約束。絶対というその言葉がイリスを支える。
「道志郎さん、今ですよ」
イリスのコアギュレイトが敵兵の動きを縛り、そこを道志郎が突き倒した。焔麗もステップで翻弄し、つかず離れずの距離で敵兵を引き受ける。左側の敵はカイが一手に引き受け、後方では結界を張ったグラスがホーリーで援護射撃を飛ばす。
その足止めに守られ、華西と冒険者との戦いは時期に決着の時を迎えようとしている。
華西の刀は佐竹が捌き、防御に徹する。陸も牽制を交えながら敵の大技を封じ込める。その中で陸堂はただじっと機を窺っていた。
(「奴の技は一度喰らっている。なればこそ受けは無用。受け狙いのカウンターが隙を作った」)
強い悔恨の念。それを乗り越えて陸堂が出した答えは一つ。
(「例え一撃を喰らおうとも斬激の勢いを持って刺し違えるのみ!」)
佐竹と陸の二人を相手取って華西にも若干疲れが見える。遂に陸堂が斬り込んだ。守りを捨てた一撃。切っ先は華西の肩口を深く切り裂いた。
「先に地獄で待っていろ‥‥直ぐに九尾も送ってやる‥!」
「それが望みか。だが、先に行くのは俺のほうではなさそうだ」
お返しに華西が見舞った剣撃は陸堂の腹を裂いていた。陸堂がたまらず膝を付く。その頸を撥ねんと華西が刀を振り下ろした。
その刹那。
どこからか飛んだ手裏剣がシャンの手に突き刺さり、男は刀を取り落とした。間髪置かずその腕を今度は天井から放たれた鎖分銅が絡め取る。
「くそ、忍びの者か!!」
外された天井の板から忍び装束の男が覗く。肩を震わせて華西が鎖を引いた。だがその手応えはまるでない。忍びは逆に力に逆らわずに華西の鎖を引く勢いを利用して懐へ飛び込んだ。飛び込み様に忍びが頭巾へ手を掛ける。そこに現れた顔は風守嵐。
(「お前の敗因は道志郎を生かしていた事‥‥集合離散を繰り返す冒険者を繋ぐ縁を持った者を残した事だ」)
頭巾を嵐が投げつけた。それが一瞬だけ華西の視界を遮り、そこへ決定的な隙を作る。陸がほぼ同時に動いていた。
「おおおおおぉぉォォぉ!!」
身を翻して駆け出した陸が壁を蹴って反転し、強烈な飛び蹴りを繰り出す。刀を取ろうとした華西を佐竹の木刀が据え打つ。たまらず華西は両手を交差して防御を試みるが、その眼前を下から剣光が駆け抜けた。
「‥この一撃は道志郎の分だ‥」
陸堂の声と共に血飛沫が舞い、華西の右肘から先が畳へ転る。直後、陸の飛び蹴りが華西をなぎ倒した。
畳に手をつき、華西が
「貴様ら‥‥よくもこの俺の‥」
その口許から牙が覗き、肩の筋肉が隆起する。虎がその本性を現さんとしたそのとき。
「虎だ! 華西は妖怪に取って代わられていたのは本当だったのだ!」
新たに駆けつけた数名の兵がそこへ踏み込んだ。それは斬の策略。篠塚へ進言し、伝令として彼の配下を一人本丸へ配すことに斬は成功していた。
「いかん、篠塚様へご報告せねば」
今や形成は華西の不利。亡くした右腕を押さえながら華西が冒険者へ咆える。
「これで終わったとは思わぬことだ。貴様らが我らの阻みとなるならば、時期に見えることもあるだろう。その時まで決着は預けておく」
華西、いやシャンは身を翻した。
間髪置かず、佐竹があらん限りの大声量で城中へと叫んだ。
「敵将華西虎山、退けたり!!」
その報せは彼我の士気を逆転させる。これを機に戦いは流れを変え、遂に戦いは連合の勝利となり金山城は落ちた。
全てが終わった頃、榊原信也も本丸へ姿を見せた。満身創痍。信也も人知れず敵の忍軍を相手取って戦っていた。見止めた焔麗がふと微笑みかける。
「お互い、苦労しますね」
「‥まあな。だが、このくらいなら、どうってことはない。気にするな」
かつんと拳をあわせ、二人は微笑み合った。信也は仲間の忍びの下へと急ぎ、焔麗も道志郎の元へと。
「さて。戦は終わりましたが、由良はまだ油断ならない人物。まだ問題は残りそうですね。もっとも、連合との約束は果たしたので後は彼等の問題ではありますが」
その夜、金山では遅くまで宴が行われた。
道志郎も仲間達と共にそれに加わっている。
「あの、道志郎さん」
イリスが差し出したのは賽。
「お守り代わりです♪ 前あげたのは捕まった時に無くしちゃったと思うし、重くないし、邪魔にはならないと思うので‥‥」
次第に尻すぼみの声になりながらイリスが上目遣いに道志郎を見る。
「どうしても迷った時とか、転がして決めると良いかも?」
「ありがとう。それじゃ迷った時にでも使わせてもらうが、だが――今日は使わずとも道は決まっている」
賽を懐へしまうと道志郎
「さあ、帰ろう。江戸に」
「はい♪」