竹之屋敏腕繁盛記♪ 弥生の献立

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月03日〜04月13日

リプレイ公開日:2006年04月11日

●オープニング

 江戸の下町に軒を構える小さな居酒屋、竹之屋。その2号店が軒を構えるのは険者街の人形町。庶民の味をモットーに昼はお食事処、夜は居酒屋として街の人々に親しまれている。慌しい一年が過ぎて、春の訪れとともに竹之屋にも新しい出会いが舞い込んだ。暖簾をくぐると今日もそこには笑顔が絶えない。
 さて、そんな竹之屋で今日起こります事件とは‥‥。


 本町南、竹之屋一号店。
「おう、やっさんいるか?」
 馴染み顔が暖簾をくぐると、店主のやっさんが顔を出した。
「おう、ドラ息子。こっちにや久しぶりだな。悪いがお千ちゃんはいねーよぅ?」
「いや、今日は礼を言いに来たのさ」
 先日、竹之屋はギルドの要請に応えて寛永寺での炊き出しに参加していた。
「協力ありがとな。でもま、これも未来のお千ちゃんの旦那の為に一肌脱いだと思って」
「おいおい、店内でのナンパは厳禁だぜ。ウチの子に手ぇ出したらタダじゃおかねーかんな」
「おー怖いこわい。大丈夫だって、しょっちゅうアピールしてんだけど全然成果ないかんなー」
 自分でいっておきながらガックリと肩を落とす。やっさんが苦笑いしていると。
「って、俺はめげねーぜ! 今日はもひとつ相談があってやって来たのさ。俺は‥‥竹之屋女性陣の制服導入を提案するッ!」

 さて。二号店。
 今日は開店前に店員たちが厨房に集まって何やら会議をしている。
「場所は人形町の神社を借りれそうやで。話が決まりそうなら後で頭下げにいかなな」
「それからイベントの企画も必要ですね! 今年は本町の神社ではないですし、一から全部私たちの手で作っていかないとですね!」
「そうすると後は料理アルネ。春らしくて、それも外で食べやすいものを考えるアル」
「そのことだが、この機会に献立の見直しを図ってはどうか。今までは和食中心だったが、江戸の町に異人の姿も増えた。より多くの人に訪れてもらうには変革が必要だろう」
「ま、まだ時間もあるしじっくり考えてこうじゃないの。っと、お客さんだ」
「はーい」
 お千がお盆片手に店先へ出る。
「いらっしゃいませ。三名様ですね、奥の席へご案内しますね」
「お、早速次のお客さんだ。いらっしゃい。また来てくれて嬉しいよ。注文は何にする?」
 春の陽気に誘われて今日もちらほらと馴染みの顔。
 桜の見頃を前に、竹之屋の忙しい一日が始まる。

●今回の参加者

 ea2605 シュテファーニ・ベルンシュタイン(19歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea7692 朱 雲慧(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8432 香月 八雲(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9861 山岡 忠臣(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0240 月 陽姫(26歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0985 ギーヴ・リュース(39歳・♂・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1484 鷹見沢 桐(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1505 海腹 雌山(66歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2357 サラン・ヘリオドール(33歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●春は観櫻
 花見会を来月に控え竹之屋は慌しい。香月八雲(ea8432)は朝一番から店へ出て張り切っている。
「早起きして支度するとはかどりますね! 諺で言う『春はあけぼの、三文の特』ですよ!」
 二号店にとっては初めての花見会。町内の神社に挨拶も済ませ、準備は着々と進みつつある。町内筋に配る花見会のちらしは鷹見沢桐(eb1484)による手書きだ。すぅと息を吸い込むと、桐は筆を躍らせた。勢いのある字で、そこには大きく桜花絢爛の四文字。
 いよいよ春本番。竹之屋の軒先にも桜の花が飾られ、街に春の彩りを添えている。その香に誘われてギーヴ・リュース(eb0985)が暖簾を潜った。
「お邪魔させて頂こう。今回も楽しませて頂くことにしようか」
「あら、奇遇ね。一足先に楽しませて貰ってるわ」
 店にはもうサラン・ヘリオドール(eb2357)の姿がある。その隣には山岡忠臣(ea9861)が座り、先まで何やら談笑していた様子だ。
「竹之屋さんの去年のお花見の話を聞かせて貰ってた所よ。ギーヴさんも一緒にいかが?」
「しかしサランちゃんみてーな美人と食事が出来るなんて、俺ってば果報者だぜ」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞じゃねぇ‥‥愛だぜ!」
「それは嬉しいけど、お料理きたみたいよ」
 サランがにこりと微笑みながら忠臣の隣へ視線を向けると、お盆片手にお千が立っている。
「‥‥いや違うんだお千ちゃん! 俺はいつだってお千ちゃん一筋だぜ!?」
「店内でのナンパは禁止ですよ?」
 ぴしゃりというお千に忠臣はたじたじ。その様を見てサランがクスリと笑う。
「それと、これから呉服屋との打ち合わせに行って来なさいって店長が。皆忙しいみたいだから私が代わりにいくことになったので、お願いしますね」
 厨房では朱雲慧(ea7692)が花見料理の試作品作りに打ち込んでいる。
「ジャパンは不思議と獣肉を使うた料理が少ないさかいな、これなら物珍しさからウケもええやろ」
「話にならんな。ただ物珍しい品を出すだけなら田舎料理屋と変わらんではないか。江戸に店を出すならば生半には通じぬぞ」
 今日は昨年の花見会で腕を競い合った海腹雌山(eb1505)がふらりと店を訪れている。朱が花見に向けて洋風肉団子を試作中と聞き、捨て置けぬのは料理人の性。
「西洋では漬け汁が料理の味を支配する。特にフォン――だし汁が取れねば話にならない」
 海の向こうでは獣肉の調理法が発達している。仔牛の骨や牛スジを使ったものなど様々な技法が考案されている。
「ブーケガルニにミルポアも押さえておきたいな。ローリエ、それからタイムも欲しい」
「せやかて海腹のおっさん、元値が高なってまうで。オッサンは技に頼りすぎや。ワイはもっと庶民の心を大切にしていきたいんや」
「しかし技法の追及なくして完成は断じてないぞ?」
 二人して熱心に意見を戦わせている。月陽姫(eb0240)が苦笑交じりに呟いた。
「異国もの方向で話が進んでるアルね。仲がよくて羨ましいアルな」
「はぁあ!? 冗談きっついで月はん」
「‥‥全くだ」
 憮然とする二人が可笑しくて陽姫は笑みをこぼす。
「造り酒屋から麹を分けて貰ってきたアル。これで麺包を作るアルよ。母親が西洋人アルからな。ちょっとだけ作り方は聞いてるアル。後は竈あるな。男手が必要あるから、手伝って欲しいアル」

●春風異郷
 そして昼下がり。今日は珍しく客足も少なく、店内にはゆったりとした時間が流れている。ふらりと立ち寄ったシュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)の竪琴がのどかな春の曲を奏で、店内はゆるりとしたムード。
「うららかな午後ですわ」
 シュテファーニは即興でアレンジを入れたりしながら、時折手を止めてはフレーズを書き留めている。次の花見で使える春らしい曲を作っている所だ。店の奥でも八雲が机に向かって頭を捻っている。町内花見会の催しでペットコンテストをやることになり、そのしおり作りに追われている所だ。

時折音楽が途切れるのは、シュテファーニが五色の筆を取り出して詩を書き留めているからだ。
「あっ、このフレーズはなかなか春めいた趣がありますわね」
 出来立てのフレーズを口ずさみながら琴を爪弾く。不意にそこへもう一つ琴の音が重なった。微笑を浮かべたギーヴが竪琴を手に取っている。
「春の息吹を感じさせる曲をこの店の為に奏でさせて頂こう」
 シュテファーニの曲へギーヴの旋律が呼応し、緩やかにメロディを形作っていく。シュテファーニにもいつしか笑顔が浮かぶ。八雲も筆を止めて顔を上げた。サランがアクレット・ベルで拍子を取り、演奏にシャンと涼しげな音が重なる。竹之屋を穏やかな音楽が包み込み、店内はまどろんだ空気。
 と、不意にそれを破る足音。
 暖簾を潜ったのはクリステル・シャルダン(eb3862)だ。両手には大きなバスケットを重そうに抱えている。
「ピクニックに行くつもりでお弁当を作ったのですけれど、作りすぎてしまいましたの。よろしければ皆さんで食べていただけませんかしら?」
 クリステルがバスケットを広げると西洋の焼き菓子が香ばしい匂いを漂わせる。
「こっちではなかなか材料が手に入らなくて難儀しましたわ。マフィンに挟む具もたくさん用意しましたので、お好みでお召し上がり下さいませ」
「たくさん作って来たんですね! ええと‥‥マフィンにスコーン、西洋のおやつですね!!」
「切り込みのところに具を挟み込むんですの。作り方も簡単ですし、持ち帰りもできますわ。挟む具を変えれば色々な味が楽しめますし」
 そこへ陽姫に続いて厨房から朱と海腹ができたての料理を運んでやってくる。
「試作品を作ったとこなんや。ちょうどええわ。クリステルはんのとも食べ比べて感想きかしてや」


 弥生の献立〜花見セット試作品

  洋風肉団子
   微塵切りにした旬の筍や椎茸、白葱、生姜を、美味しさそのままにひき肉に閉じ込めて焼き上げた団子。
   照り焼きで和風に味付けしたら、醤油ダレに大根おろしを乗せて召し上がれ。

  麺包さんどうぃっち:
   酒造りの麹で作った生地を炭火でふっくら焼き上げて麺包(パン)にしました。
   薄く切った麺包に、お好みで肉や魚や野菜をはさんでどうぞ。

「生地には苦労したアル」
 生地作りは時間も掛かるし中々の力仕事だ。中でも酒造り用の麹を利用して酵母を作ったのは陽姫のアイディアである。摩り下ろした山芋やリンゴに、砂糖、塩、炊いたご飯など、材料がなくても工夫次第でやりようはある。朱や海腹と知恵を絞って何とか完成に漕ぎ着けた品だ。
「まだ試作品ではあるがな。バターなどの乳製品がなくては始まらぬし、小麦粉も出来ればうどん粉は使いたくは無い。‥‥だが試作としてはまずまずじゃろう」
「焼き方は、江戸に来る途中で見た長崎のカステラのを真似してみたんや」
 二人がこしらえた竈はまずまずの出来。陽姫が焼き立てのパンを薄くスライスしていく。
「お客さんに好きなものを選んでもらえるようにしたいアルね」
 机には小皿に盛った具材の数々。八雲と桐がそれを皆へ取り分けていく。シフールのお嬢さんには小さく切ったパンを。頬張ったシュテファーニが笑顔を覗かせる。
「香ばしくてサクサクしてますわ」
 さんどうぃっちは、異国の客にも楽しんで貰える献立を目指しての第一歩。具材は桐が張り切ってたくさん揃え、桜のジャムなど手の込んだものも並ぶ。中には納豆や佃煮などジャパンならではの具を用意しているが、お味の程は。
「む。これはまた随分と珍妙な味になったしまったようだ」
 おでこをむずむずさせながら桐が顔を顰めた。サランがクスリと微笑んだ。ふと、そこへ朱がデザートの皿を差し出した。
「試食に協力して貰った礼や。ウチで出しとる桜餅や。一人一個ずつやさかいな、仲良う分けてや」
 ギーヴやクリステル、居合わせた客や、桐たち従業員の皆に。そして最後に八雲へも一皿。
「えへへ‥」
 思わずまんまる笑顔を覗かせる八雲。どんどん上達していく朱の料理を味わうのが最近の密かな楽しみなのだ。試作品セットはなかなかの好評で八雲もなぜだか鼻が高い。サランもサンドイッチを口にしながら、海の向こうの懐かしい味を思い出している。
「竹之屋さんのお料理は、親しみやすい所が良いのね」
 春は出会いの季節。異国で向かえた春の訪れだが、こうして料理を通して世界が広がっていくようで、何だか気持ちがわくわくしてくる。
「二重の意味で異郷に出会えることになるなんて、嬉しい趣向ね」
「ふむ。俺の郷土、ローマの料理も負けずと美味だ。向こうでは鶏肉をだな――」
「でもこの桜餅も捨て難い美味しさですわ」
「クリステル殿、その桜葉は塩漬けしたものだ。餅を挟んだまま一緒に食べれるように――」
 桜葉を器用に剥がそうとする異国の客人たち。横から桐が説明しようとすると、突然。
「それやっ!!」
 肉団子とサンドイッチを見比べていた朱が大声をあげた。面食らった皆をよそに、朱は厨房へ駆け込んだ。
「これはイケるで! ごっついアイディアが閃いたんや、月はん、手伝ってや!」
「はいアル店長。任せてアル」

●桜の誘い
「お千ちゃん、あのくらいのプレゼントなんて大したことじゃねーってよー」
「そ、そんな。理由もないのに貰えません‥‥!」
 通りから賑やかな声。呉服屋へ衣装を取りに行っていた忠臣とお千が帰ってきたようだ。
「お疲れ様ですよ!! それより、どうしたんですか、二人して?」
「聞いてくれよ八雲ちゃん。お千ちゃんによぉ、洋服を贈ろうと思ったら俺からの贈り物は受け取れねーって言うんだぜ。俺様悲しくてしょーがねーぜ」
「そ、そそそんなこといってませんよ‥! 私はただ、その、理由もなく男の人から――」
「それより、服の仕立ての方は首尾よく運んだのか?」
 桐が訪ねると忠臣が歯をキラリと輝かせた。
「勿論だぜ。これで竹之屋の制服導入も秒読みってこった」
(「これでお千ちゃんや八雲ちゃんや桐ちゃんや陽姫ちゃんやみんなの可愛い格好が毎日‥‥くっくっくっ」)
 桐が横目で睨むと忠臣が胸を張って開き直る。
「立ち直りがはえーのが俺様の長所だかんな!」
「まったく、調子がいい」
 言いながらも、桐も持参した服を取り出してみせる。お千とお揃いの竹の絵が入った着物だ。
「その‥‥前から可愛らしいと思っていた」
 と、俯きながらはにかみ笑い。
 衣装コンペの話を聞いたギーヴが艶やかな笑みを浮かべた。
「それは俺には酷な話だな。俺には美女の一人を選ぶ罪深い事は出来ぬのでな」
「皆さんお綺麗な方達ばかりですもの。きっとお似合いになりますわ」
 各国の民族衣装や、イベント時には仮装めいたものも面白そうだ。
「アジアンワンピースや華国風の衣装なんかも動き易くて素敵ですわ」
「厨師としては動きやすければこだわらないアルけど、西洋の仲居さんの格好をしてみたいアルかな」
「メイドさんのことかしら」
 と、サラン。
「竹之屋さんは、親しみのある町角のお食事処だから、やっぱり馴染みのある和服が良いと思うわ。竹の意匠をあしらったものなんかどうかしら」
 シュテファーニの曲が流れる中、皆でわいわいと意見を出し合いながら午後の時間は過ぎていく。桜の香に誘われて桐が思わず欠伸をする。
「ふわ‥‥こうも良い陽気だと、どうにも眠くてかなわんな」
「桐ちゃんはお疲れ様でしたよ! たくさんビラ作りして疲れたでしょうから休憩でも取って下さい! 私は得意先にビラを晴らせて貰えないか回ってきますね!!」
「せっかくだし私も手伝うわ」
 八雲はサランと慌しく店を後にする。その仕事振りには本当に頭が下がる思いだ。自分だけ休んではいられないと、桐ももう一仕事とばかりに腕まくりをする。ふとギーヴが目を細めた。
「忙しそうだな。この活気もまた、この店の魅力と言えるかも知れないな」
 そういうと勘定を置いてギーヴは席を立った。
「また寄らせて頂こう。次はいよいよ花見会か。今年の春は久方ぶりに堪能出来そうだ‥‥世界で最愛の人にもいい土産話が出来そうだな」
 もうじき、夜営業前の一時閉店の時刻。海腹もそっと店を後にする。
(「江戸の料理界にも新しい風が芽生えつつあるな。さて、竹之屋がその試金石となれるか否か。その腕前とくと見届けさせて貰うぞ、小僧?」)
 厨房ではまだ朱と陽姫が試作品作りに励んでいる。ふと手を止め、陽姫は厨房から顔を出して春の空を仰ぐ。竈からたった湯気がもくもくと高くのぼっていった。小さな体でめいいっぱいに伸びをする。
「本番は来月アル」
 陽姫にとっては竹之屋に来て初めての大舞台。それも、昨年は凌ぎを削った朱と共にその腕を披露する。いよいよ桜の季節本番。果たして、花見会の行方は如何に――?