【金山迷動】 悪鬼は骨に集れり  誑

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 97 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月20日〜08月30日

リプレイ公開日:2006年08月29日

●オープニング

 金山の街で、ひとときの時間を過ごし鳴りを潜める。
 悪鬼達はひそかにこの街へと入り込んでいる。目立たぬようにひっそりと時を過ごす者。生活の場を築いて土地に溶け込む者。金山へ別に仕事を持つ者。それぞれだ
「金山の過ごし具合はどうだ? なかなか活気があっていい町だろう」
 江戸で騒がせたヤクザどものほとぼりが冷めるまでの辛抱。
 これは暫しの休暇だ。
「だが何やら良くない噂を耳にしてな。街で辻斬りが無茶しやがったって話だが、まさお前らの仕業じゃあねえだろうな?」
 太田の街では先ごろ起きた黒夜叉の事件で持ちきりになっている。治安問題で神経質になっている城も、本腰を入れて捜査に乗り出すという噂だ。金山の政治には多くの冒険者もかかわっている。そうなれば、いずれ犯人は挙がることだろう。
「ま、この街でどうするもお前らの好きにしな。例の黒夜叉の殺しも、お前らが帰った後でまた起きたって話だしな。ま、真相がどうかは俺の知ったこっちゃねえけどな」
 ただし、と依頼人は続けた。
 この街で悪事を働いて仮にお縄となったとしてもまさか口を割るような間抜けがこの中にいるとは思えないが、それでも経歴に傷がつけばこの先の仕事も何かとやりづらくなる。
 ほとぼりを冷ますことを考えれば、今はただ怪しまれるだけでも避けたいくらいだ。
「そんときゃ、お前たちのことは遠慮なく切っちまうぜ。わざわざ汚れた駒を使わなくても、俺には他にも持ち駒はあるもんでね」

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E:太田宿自警団、発足

 太田宿自警団の詰め所は、街の中央部近くに位置する。現在の団員は20名強。街の若者とチンピラ崩れが半々の割合だ。城の執政である由良具滋の指導で創設されたが、今月から彼の手を離れて町人たちで独自の運営を行うことに決まっている。
 さて、そんな自警団が目下抱えている事件は‥‥


《黒夜叉事件》
 自警団の仲間が太田宿内で惨殺される事件が起きた。犠牲者は3人。黒夜叉を名乗る犯人によって二人の首は高札場に晒され、一人は遺骸を辱められた。目下、事件解決には城の検察所が乗り出している。これから本格的な捜査が始められるだろう。
 そんな中、遂に第四の事件が起きる。自警団に活動資金を寄付していた街の商人が、やはり惨殺体で見つかったのだ。商人の首はやはり『天誅!黒夜叉』の血文字と共に高札場に晒された。残された遺体には喉や腹の急所へ打撲を負った跡が見られたという‥‥。

《家出人捜索》
 金山と駅伝で繋がった鬼哭という宿場町から、一人の娘がこの金山へ紛れ込んだ。
 娘の名は「ミキ」。気の触れたハーフエルフの娘だ。開通したばかりの駅馬車へ紛れ込み、この金山へたどり着いたらしいが、その後の行方が分からない。
 娘は鬼哭宿の支配者である的屋の、先代親分の隠し子。と同時に、街の重鎮である重一という老人が家族同然に育てている娘でもある。鬼哭との関係を悪化させぬよう、速やかに保護してほしい。


 この他にも、山向こうのキヨシ村へ入植を開始した華国人とのトラブルも頭痛の種だ。華人達が城から許されて独自の自警団を作り出したことで、太田宿の住人達は緊張を高めている。悪い流れに発展せねばいいが‥‥。

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F:悪鬼は骨に集れり

 太巖組による野盗討伐は大失敗に終わった。
 若い衆や渡世人など多くの犠牲者を出し、もはや組に余力はない。多大なる犠牲を払っておきながら、敵の動向や本拠すらもつかめず、太巖組は多大な損害を被ることとなった。
「もうちっと策を練ってからいくべきだったようだな」
「動向もつかめねえんじゃ、行き当たりばったりになるのもしゃあねえよ」
「どちらにしろやつらの本拠を見つけねえと、叩くにも叩けねえ」
 他の侠客筋の手前、やられたまま引き下がるわけにはいかない。だが、攻めようにも無策で動けば徒に被害を増やすだけだ。
「一回だ。準備が済みゃあ次に組で総出で奴らを潰す。それでもどうにもならなけりゃあ、そん時ゃ潔くこのヤマからは手ぇ引くぜ」
 この噂は風に乗って太田中へと流れることとなった。
「太巖の奴ら、随分手酷くやられたんだって?」
「こいつぁ、このまま奴らにつくかどうかは風向き次第ってとこだな」
 力を弱め始めた太巖組の動向へ、界隈のほかの一家も敏感に反応を見せた。
 事に寄れば、これを機に太田の勢力図は大幅に書き換えられるかもしれない。
 これまで武力や財力で何度となく清を支えてきた太巖組だが、肝心の見返りはほとんど得られていない。太巖組がこの後盛り返すのか、それとも城へ殉じて姿を消すか。或いは清を見限るのか。
 その如何はこの数日間にかかっているのだ。

●今回の参加者

 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea5388 彼岸 ころり(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0641 鳴神 破邪斗(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1119 林 潤花(30歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1160 白 九龍(34歳・♂・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb1513 鷲落 大光(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5421 猪神 乱雪(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ブレイン・レオフォード(ea9508)/ シュシュラム(eb5083

●リプレイ本文

「今回は人探しからっす。ミキちゃんっすか‥‥白髪の赤い髪の少女を探してほしいっす」
 太田自警団では団長の小道具が団員へ指示を与えていた。
「耳は自分と同じくらいの長さっすから、自警団の皆はその辺りも参考にしてほしいっす」
 黒夜叉騒動で一時入団者が途絶えたが、義侠塾からも菊川響ら助っ人が駆けつけたこともあり、活動に深刻な影響はまだない。
「教練の場を提供いただいたこの街にも塾生として何か報いたいし、たとえ猫の手でも何かの助けにはなるはずだ。ぜん、はくしゅう、お前たちも手伝ってくれるよな?」
 愛猫を連れ、山向こうの金井宿へと消えていった。
 既に太田の街中では冒険者達が動いている。白九龍(eb1160)もそんな一人だ。
「またか? 世話の焼ける娘だ‥‥」
 かつて鬼哭に身を隠していた時、白はミキの保護者である重一の世話になった。万一のことがあれば老に会わす顔がない。
「‥‥まったく、世話の焼ける‥」
 鬼哭に縁のある冒険者らにとってミキの安否は人事ではない。
 風斬乱(ea7394)も心安い白髪の少女を思い浮かべて苦笑を漏らした。
(「誘拐の後に迷子とは誰かを髣髴させる。外見はそっくりだったが何も中身まで似なくてもいいだろう」)
「義理はないが阿呆が五月蝿いゆえね」
 渡世人を中心に自警団で人望を集めつつある乱は、これから仲間の団員を連れて街中の捜索に向かう所だ。
「阿呆が行きそうな場所といったら‥‥」
 甘いものにつられるか、物珍しい所か、或いは賑やかな場所。乱が苦笑を深くする。
 そこへ竹之屋から香月八雲が顔を出した。
「ちょうど良かった。迷子の似顔絵を描いたので店でも配ってもらえぬかな? ひょっとすると腹を空かせて竹之屋に顔を見せるかも知れないからね」
「‥‥分かりました! ミキさんを見かけたら、お預かりしておきますね!」
 乱の描いた人相書きは自警団の手で太田・金井両宿へ配られ、多くの者の目に留まることとなった。マリス・メア・シュタイン(eb0888)もやはりそうした人相書きを目にしていた。
「‥‥迷子の女の子、自分と同じハーフエルフの‥‥」
 ひょんなことから殺伐とした裏社会に片足を突っ込んでからこっち、すっかり迷い道に入り込んで抜け出せなくなってしまった。そんな自らの境遇を迷子の少女に重ねてた見たのだろうか。自分に言い聞かせるように小さく頷くと、マリスも捜索の輪へと加わった。
「それに、やっぱり心配だし‥‥放っておけないよね」
 ことが駅伝絡みの鬼哭とのことだけに、城も冒険者を雇って捜索に乗り出している。これだけの人数が動けばきっと見つけ出せるだろう。義侠塾生の寺亜も、ミキを知る人物を愛馬・魁に乗せて太田を走り回っている。
「魁に乗り、力を合わせた拙者は通常の3倍の速いでござるぞ! ミィナ殿、鬼哭の街と比べて間取りや建物など似たものがあるでござるか? 似た風景を探して彷徨ってるかもでござるし、鬼哭の家に似た建物があれば入ったりしてるかもでござる」

 太田の街がミキ探しに慌しくしている裏では、野盗討伐の手筈が着々と進んでいた。
「いいか野郎ども、ヤクザ者舐めたらどんな目に遭うか、思い知らせてやれよ。それから、不信な連中が影で動いてやがるようだ。お前らもくれぐれも気をつけとけ」
 前の晩、太巖組へ不信な接触があった。
 清の使いを名乗る男が野盗討伐に関しての情報を組へと届けた。だが新田攻めの頃から清や由良とも懇意にしている親分が城に問い合わせた所、そのような事実はないとのこと。太巖組へ草鞋を脱いだ渡世人の猪神乱雪(eb5421)へもやはり不信な人物から接触があり、太巖組は緊張を高めている。
 城との接触の気配を悟ったのか、男は結局行方を眩ませた。実害はないが、何とも気味の悪い話だ。
「‥‥この僕を謀ろうとは、舐められたものだね」
 乱雪は討伐に当たり組の指揮を獲らせて貰う様親分に掛け合ったが、たかだか下っ端の願い出としては分不相応だ。その代わりに、城からは政治顧問のアルスダルト老の推挙で指揮官として男が一人着任していた。
「自分は剣侠の陸堂明士郎だ。此度領外へ手勢を差し向ける非公式の討伐。城の旗の下で戦える戦ではないが、民草を苦しめる野盗ども侠の道にもとる輩を共に打ち滅ぼそう」
 そうして太巖組の侠客達は金山を発った。
 いまだ敵の根拠地は検討すらもついておらず、向こうが食いつくのを待つしか手はない。根拠地に必要なのは水と食料。水源の近くで、街道からそう離れていない箇所を選んで行軍は続けられた。
 そうして街道を彷徨うこと3日。
 林潤花(eb1119)の要請で密かに一行の後を追跡していた鳴神破邪斗(eb0641)が、街道の先へ砂塵を捉えた。
「‥絡まった『金山』と言う名の糸車‥‥誰が最初に解きほぐすのやら。まぁ‥俺はその過程を愉しめさえすれば、それで構わんがな」
 鳴神の身を隠す林を横切って現れたのは二十人程の集団。
 乱雪が先頭に立って切っ先を向ける。
「この前は随分と世話になったね、今日はその礼に来たんだ」
 すぐさま陸堂の指示で侠客達が隊伍を組んだ。だが武装した野盗達に怯む様子は見られない。親玉の男が馬上で太刀を抜いて子分へ号令する。
「たかがヤクザ者だ。奴らに本物の戦ってやつを教えてやりな!」
 武装では明らかに向こうが上。負けじと陸堂が檄を飛ばす。
「浮き足立つな! たかが落ち武者崩れ、作戦通り動けば倒せぬ相手ではない!」
 言いながら袈裟懸けに一人を斬って捨てると、そのまま敵の真っ只中へと斬り込んでいく。少人数の戦では一人の武勇を梃子に流れが決まることもある。陸堂の戦いぶりに味方も俄然奮い立ち、事前の指示通りに侠客達は野盗へと挑んだ。この間とは違う、優秀な指揮官さえいれば雑兵に決して押し負けはしない。
 その戦闘の最中、乱雪は敵の親玉を相手と見定めて挑んでいた。
「この間の借りは返させて貰おうかな。僕に勝てれば逃がしてやろう」
「痩せ浪人ごときが舐めた口を‥‥いきがるなよ若造!」
 視線がぶつかり合う。
 乱雪が口許を捲った。
「――キミに僕の太刀筋が見切れるかな?」
 居合一閃。乗馬の前足を剣光が掠め、馬が大きく嘶いて、どうと倒れこんだ。親玉の体が激しく地面に叩きつけられる。親分が起き上がろうとした時には、乱雪の刀が振り下ろされていた。男の首が転がり、乱雪が刀の地を払って鞘へ収める。
 もはや勝敗は決した。獅子奮迅の戦いぶりを見せた陸堂が一人で7人もの野盗を屠り、生き残った野盗の数騎が身を翻して走り去っていく。緒戦は勝利に終わったのだ。数人の重傷者を出したものの、死者はなし。陸堂に至っては全くの無傷であった。

 その頃、太田ではロックハート・トキワ(ea2389)らが仲間の自警団員と昼食を共にしていた。
「噂じゃ討伐隊は野盗の一団を敗走させたようだな」
 だが野盗根絶には、根拠地を叩くまでは安心できない。
「城はまだ根城を掴んでいないんだろ? いずれ野盗退治には自警団も参加しそうだ」
 自警団には侠客や裏家業の連中も多く混じっている。情報も早いが、その分、上野に根付いた反骨の気風も強い。トキワがぼやくと、仲間達からも不平の声がちらほらとあがる。
「‥‥この間は侠客連中が派手にやられてただろう?‥‥俺達が一人も死なないって保証は無いんだよな。もっと準備を、せめて規模位は調べるって事をしないのか‥‥」
 トキワは深く溜息を吐いた。
「俺達は上の奴等の私兵でも、死兵でもないのにな」
 そこへ巡回を終えて聰暁竜(eb2413)が響ら仲間達と共に戻ってきた。
「見回りご苦労」
「特に何も異常はなしだ」
 黒夜叉事件以降、聰が強く行動の重要性を説き、隊員は常に3,4人で組んで街中を巡回することにしている。隊の安全を考えてのこともあるが、思惑は他にもある。彼岸ころり(ea5388)達や連中も裏で何をしているか知れない。事が起こった時に、自分達までとばっちりをうけるのだけは御免だ。
「――必要なものを取りに寄っただけだ」
 簡潔に受け答えると、聰はミキの人相書きを手にまたすぐ仲間と通りへと引き返した。
 屈強な聰らが隊伍を組んで歩くと、それだけで中々に目立つ。黒夜叉事件の後ということで街の者もどこか怯えた様子だったが、彼ら自警団がこうして街を見回っていることが町人達へ少なからず安心感を与えることにもなっているようだ。
 その隊列の後ろに続きながら、響は懐から握り飯を取り出した。隣の金井宿の様子を見に行った時に竹之屋で貰ってきた賄飯だ。
「迷子だとお腹を空かしてるかもしれないし、ミキちゃんを見つけられたら食べさせて上げなきゃな」
 華僑も協力を申し出て、人相書は金山中の華人の元へも配られた。
 マリスもまだ街で捜索を続けている。
「う〜ん‥‥気の触れた娘ってことで探そうにも、この金山だけで7千人以上も人がいるんじゃなあ‥」
 得意の魔法を駆使して情報を探して回ったが、いかんせん手持ちのスクロールでは人探しには向きそうにもない。唯一役に立ちそうなテレバシーのスクロールも、肝心のミキが見つからないのではどうしようもなく、焦りばかりが募る。
 乱も方々探したが空振り続きだ。迷子になってもう五日近くもたつ。もしやミキの身に何か‥‥。乱の目が鋭い光を宿す。
「太田の市場にも、金井の華人居住地にもいないか」
 賑やかな場所も、食べ物のある場所も巡った。となると後は‥‥。

 さて、場面を街道に戻そう。
 陸堂率いる討伐隊はあれから結局他の野盗の一団と遭遇することもなく、帰途へつくこととなった。
しかし、彼らに代わって野盗の足取りを追う怪しげな男達がいた。彼らを率いるのは鷲落大光(eb1513)。
「金山との駅伝が開通したのはいいが野盗共が目障りだ。邪魔者は消す」
 男達は、鬼哭宿の侠客達。鷲落が用心棒を勤める的屋から呼び寄せた子分達だ。太巖組の後を追い、敗走した野盗から彼らの根拠地を洗い出そうというのだ。
「各自散開して野盗どもを追え、ただし一人では行動するな。今回は追跡のみだ、攻撃はするなよ」
 しかし、ただの侠客達に斥候の真似事など無理な相談だ。程なくして野盗の足取りも見失い、周辺を散策したが結局根拠地を割り出すことは出来なかった。
「‥‥仕方あるまい。これ以上は益がない、引き返すぞ」
 鷲落の脳内で算盤が金勘定を弾き出す。これ以上の遠征は費用が掛かりすぎる。的屋は目的を果たせぬまま鬼哭へと戻っていった。
 金山の北東。渡良瀬川流域に野盗の根城は存在した。
 鳴神は柴犬の乱牙に臭いを辿らせ、敗残兵を追跡してそこへ辿り付いていた。
「‥奴ら、こんな所に根を張っていたか‥」
 街道を離れた川縁の廃村。そこが野盗の根城だ。河を背にし、背の低い河草の茂みと、そして林とに面している。夜陰に紛れて鳴神は潜入を図った。
 林の中には簡単な警報装置や罠が仕掛けられていたがそれも想定内。忍びである鳴神にとっては子供だましの代物だ。難なく掻い潜ると、見張りをやり過ごして根城へと近づく。村の中には商人達から巻き上げたのだろう金や品物が蔵に納められ、食料や武器も豊富にある。何より驚いたのはその数。ここに今いるだけで四十を越す数の野盗が集まっている。
「‥‥これは討伐といっても一筋縄ではいかぬだろうな‥」
 手早く周辺を地図に書き記すと、鳴神はすぐにそこを後にした。後は仲間の氷雨雹刃(ea7901)へ地図を渡す手筈だ。

「ぅぁーー‥‥」
 キヨシ城へ寂しげな呟きが洩れる。ミキは一人ぼっちで、太田と金井を隔てる八王子の山中へいた。その少女を、乱が見つけ出すのにさして時間はかからなかった。
「‥‥人騒がせで寂しがりで‥本当に誰に似たのだか」
 宿場に気を取られていたが、金山で今一番物珍しい場所といったらこのキヨシ城だ。乱が安堵の溜息をついた時だ。
「その娘、返してもらうぞ!」
 鋭い声に振り返ると、そこには白の姿。一瞬身構えるが、互いに見知った顔だと気づくと二人は警戒を解いた。
「さぁ、鬼哭へ帰ろう、重一老も心配している」
 ミキは、鬼哭でも鎮守の森を一人彷徨うことがあった。見慣れた林の風景に近いものを感じて迷い込んだのだろうか。白が手を引くが、ミキはぐずっていうことを聞かない。
「ぁぁぅー」
 白が乱と顔を見合わせた時だ。ミキのお腹の虫が鳴った。乱がミキを負ぶさると、二人は少女を連れて麓へと駆けた。
 麓の金井宿では竹之屋に村人達が集いつつある。
「―――今日も見回り、疲れたろう。たまには一杯呑らないか」
 それに混じって、任務を終えた聰も仲間を連れて江戸では馴染みだった竹之屋を訪ねていた。
「俺の奢りだ」
 聰の周りにはいつの間にか他の隊の仲間も集って賑わっている。響もそれに加わりながら竹之屋の暖簾を潜った。
「上野は故郷の味に近そうだし、少しお邪魔させて貰おうかな」
 まだ正式には開店を見ていない竹之屋だが、キヨシ村の憩いの場として夜は皆が食べ物を持ち寄って集まっている。常連である山岡忠臣も、店員のお千ちゃん目当てで足繁く通っていた。
「お千ちゃーん。俺様お千ちゃんの為に頑張ってるぜー。ご褒美にデート行こうぜデート」
「‥‥うーん‥どうしようかな‥」
「連れないこといわないでくれよぅお千ちゃん。そうだ、一緒に近所の神社にでも出張って、これから上手く行くように願掛けしようぜ」
 金策に走り回った忠臣は余程疲れたのか、机に突っ伏している。お千が料理を差し出して、お盆片手にニコリと微笑んだ。
「お店が無事に開店できたら、少しは時間が取れるかも知れませんね」
「ま、マジかよお千ちゃん! 約束だかんな!」
 そんな二人の後ろでは、奥の卓で村娘の真砂がなにやら文に目を通している。暫く前に村へ越してきた彼女だが、今は太田宿で代書人の仕事をしているようだ。
 まだ営業も始まっていないというのになぜだか店内は賑わいを見せ、鷹見沢桐がお盆片手に慌しくしている。今日は近所の猟師の好意で鹿肉が手に入り、厨房では竹之屋自慢の料理人達が腕を振るっている。
 そこへ、白と乱がミキを連れてやって来た。
「ぅぅー」
 ミキはお腹を空かせて目を回した様子だ。月陽姫が膝を屈めて笑いかけた。ミキはそんな陽姫の唇に指を引っ掛けて引っ張った。陽姫が笑顔のままでぎゅっと抱きしめる。
 八雲とミリフィヲ・ヰリァーヱスが厨房から顔を覗かせた。
「ご飯の用意ができましたよ! 心細い時は、暖かくて美味しい料理が一番なのです!」
「美味しいものを食べればみんな笑顔、それが一番いいよね♪」
 ミキは少し弱っていたため、乱の提案で暫くキヨシ村の寄合所で預かることとなった。白はミキの髪を優しく撫ぜると、そのまま賑わいを避けるようにして店を後にしていった。
 竹之屋の賑わいの中、お腹を満たしたミキは幸せそうな寝息を立てている。その髪には、白の挿した大輪の簪が咲いていた。